エピソード22 カートと風華(脚本)
〇要塞の廊下
7年前────
グリス大臣「あのモステア学院を首位で卒業されるとは、さぞかしお出来になるのでしょうな」
若き日のカート「・・・は、それほどでも」
グリス大臣「さあ、着きましたぞ。 ここが面接会場です」
〇貴族の応接間
中央のソファに、まだ年端もいかない少女が座っていた。
若き日のカート(え・・・?)
若き日のカート(あの子・・・彼女に似ている・・・)
若き日のカート(まさか・・・)
グリス大臣「さて、面接を・・・。 いや、試験をしたいと思います。 この少女と一緒に遊んでやってください」
若き日のカート「・・・は?」
グリス大臣「説明は以上です。 では」
若き日のカート「・・・・・・・・・・・・」
若き日のカート(この子に、訊いてみようか・・・?)
幼き日の風華「ねえ、こうしていても退屈だから、 何か遊びましょう?」
若き日のカート「え、何かって・・・?」
幼き日の風華「かくれんぼがいいわ。あなたがオニね。 30秒経ったら部屋から出てきて、 私を探して」
若き日のカート「え、あの・・・」
若き日のカート(まあ、後で訊いてみるか・・・)
若き日のカート「30秒だったな・・・そろそろだろう」
〇要塞の廊下
若き日のカート「さて、あの子はどこだ・・・?」
若き日のカート「すみません」
カートは、城の者に少女のことを訊ねた。
女官「ああ、姫様かい? こっちには来てないね。あんたも大変だねぇ。よりによって、 姫様とかくれんぼなんて」
若き日のカート「・・・姫?」
若き日のカート(やはり、あの子は・・・)
城のあちこちを歩き回り、王女のことを訊ねてみたが、誰一人王女の姿を見ていないという。
若き日のカート「この部屋は・・・ 一般人立入禁止か・・・」
まさか意地悪く立入禁止区域に隠れているなんてことは、などと考えながら歩いていると、先程の部屋の前まで戻ってきた。
若き日のカート(一周したか・・・ 疲れたな、少し休もう・・・)
〇貴族の応接間
グリス大臣「少女はどうしました?」
若き日のカート「あ、すみません・・・。 かくれんぼをすると言って外に出たの ですが、まだ見つかっておらず・・・」
グリス大臣「ふむ、困りましたな。 もうすぐ正午ですし、あまり試験に 時間をかけるのも・・・」
グリス大臣「正午までに見つからなければ、 試験は終了としましょう」
若き日のカート「え・・・」
若き日のカート(せっかくの就職試験なのに、 かくれんぼなどで不合格には なりたくないな・・・)
グリス大臣「時間になったら、また来ます」
若き日のカート「・・・・・・・・・・・・」
若き日のカート(もう時間はあとわずか。その間に王女を 探す事は不可能に近い)
若き日のカート(それならば逆に、王女を探す事が できなくても試験に合格する方法を 考えなければ────)
そんな都合のいい方法があるだろうか?
しかし、何か考えなければ。部屋の中で、
時計の針の音だけが響く。
若き日のカート「・・・今の音は?」
幼き日の風華「ちょ、ちょっと!」
幼き日の風華「今のはナシよ! だって、あなた探すのが 遅すぎるんですもの!」
幼き日の風華「お、お昼時だし、 しょうがないじゃない・・・」
若き日のカート「ぷっ・・・くくっ・・・」
若き日のカート「あははははははははっ!!」
音の正体は、王女の腹の虫の音だった。
カートは、思わず笑ってしまった。
見つかった安堵感よりも、王女がうつむいて真っ赤になっている姿が愛らしく、微笑ましかったのだ
幼き日の風華「わ、笑わないで!」
幼き日の風華「もう・・・。城の者以外であなたが 初めてだわ。私の失態を笑うなんて」
若き日のカート(しまった。まだ幼い少女だと 思って油断した!)
若き日のカート(彼女はこの国の王女じゃないか!)
若き日のカート(それを笑ってしまうなど・・・! これでは試験は失敗だ・・・!)
その時、正午の鐘が鳴り響いた。
グリス大臣「おや、風華様。お戻りでしたか」
幼き日の風華「もう少しのところで見つかってしまったの」
若き日のカート(風華・・・ やはり、彼女は風麗の・・・?)
グリス大臣「左様でございますか」
グリス大臣「では、試験は終了でございます。 お疲れ様でした」
グリス大臣「結果はご自宅に 送らせていただきますので・・・」
若き日のカート「はい、ありがとうございました。 失礼します・・・」
幼き日の風華「ねえ、あなた。これからご予定は?」
若き日のカート「・・・は? いえ、家に帰るだけですが・・・」
幼き日の風華「お昼をご一緒したいわ」
幼き日の風華「今日はお父様は隣国へ行っていて、 ひとりじゃつまらないと思っていたの」
グリス大臣「ふっ、風華様!? いくら優秀な者とは いえ、国民と共に食事など・・・!」
幼き日の風華「あら、いいじゃない。試験とはいえ、 すでに一緒に遊んだ仲なんですもの」
グリス大臣「いや、しかしですな!」
若き日のカート(この慌てぶり・・・)
若き日のカート(このような事を言い出したのは、今回が 初めてなのかもしれないな・・・)
若き日のカート「王女殿下」
若き日のカート「申し訳ありませんが、自分だけ特別扱い というわけには参りません」
若き日のカート「食事は、万一私が合格し、」
若き日のカート「王女殿下にお近づきになれる立場で ありましたら、ご一緒しましょう」
グリス大臣「そう! そうですとも! こういう事は、 きちんと順番を踏まえて・・・!」
幼き日の風華「合格よ」
「・・・は?」
幼き日の風華「私を見つけたんだもの、合格よ」
幼き日の風華「それに、あなたがそう言うなら、 専属の家庭教師になってください」
幼き日の風華「それならいいでしょう?」
グリス大臣「風華様! 何を勝手に!」
幼き日の風華「あら。試験はこれで終わりでしょう?」
幼き日の風華「私が今まで見た人の中では、 この人が一番だと思ったわ」
幼き日の風華「大臣はそう思わなかったの?」
グリス大臣「そ、それはそうですが、しかし、 専属の家庭教師はいきなりすぎです!」
幼き日の風華「私、この人に教えてもらえるなら、 お作法も歴史も全部がんばります」
幼き日の風華「・・・ね、いいでしょう、大臣?」
グリス大臣「わ、わかりました・・・」
グリス大臣「風華様がどうしてもと おっしゃるのでしたら・・・」
グリス大臣「そなた、名をなんと申したかな?」
若き日のカート「は。カートです。 カート=フォルツァルと申します」
幼き日の風華「カート、ね。 これからよろしくお願いします」
若き日のカート「は。こちらこそ、身に余る光栄です。 姫様」
幼き日の風華「んーー。ちょっと固いわね」
若き日のカート「と、言いますと?」
幼き日の風華「“風華”でいいわ。 あなたの方がずっとお兄さんだし」
幼き日の風華「本当の兄妹のように 接してくれたらうれしいわ」
グリス大臣「ふっ、風華様!! さすがの私でも怒りますぞ!!」
若き日のカート「申し訳ございません、姫様」
若き日のカート「いきなりそのような事を言われましても、 対応しかねます」
若き日のカート「もう少し お時間をいただけないでしょうか?」
幼き日の風華「しょうがないわねぇ・・・。まあ、 いつかは呼んでくれるということよね?」
幼き日の風華「期待して待っているわ、カート」
小さな風華はにっこりと笑い、ドレスの
裾を持ってお辞儀をした。
〇城壁
モステア城
風華(明日は、 ついにカートのところへ行く・・・)
風華(ずっと考えてた・・・ 私は、カートを斬れるのか・・・)
風華(それに、カートを封印してしまえば、 セ=シルの子孫は・・・)
風華(考えても考えても、 答えは出ない・・・)
影利「モステアの夜って、冷えるわね」
風華「影利・・・」
影利は、黙って風華の隣に立った。風華も、黙って夜空を眺めていた。
影利「ねえ、風華ってさ」
影利「もしかして、カートの事・・・」
風華「うん・・・。どうしてわかったの? それも、占い?」
影利「バカにしないでよねー。勝手に人の心を 覗くような占いはしないわ」
影利「ま、女のカンってやつかな」
風華「こんなことになるなら、気持ちを伝えて おけば良かったかなって、思ってるの」
風華「後悔はしたくなかったな・・・って」
風華「まあ、今更遅いかもしれないけど」
影利「いいんじゃない、言っちゃえば?」
風華「え・・・?」
影利「言うだけなら、まだ遅くないわよ。 明日はカートのところへ行くんだから」
風華「・・・・・・」
風華(きっと、 言ったところでどうにもならない・・・)
『今考えていても、答えは出ないだろ』
ふと、
紅蓮が言っていた言葉を思い出した。
風華(そうだ・・・明日カートに会えば、 答えが出るかもしれない・・・)
風華「ありがとう、影利。 ちょっと気が楽になったわ」
影利「良かった。悩み事があるなら、 いつでもお姉さんに相談しなさい♪」
影利「1人で抱え込んじゃダメよ」
影利「魔術の封印は、私たち全員の使命 なんだから・・・ね」
影利「じゃあ、おやすみ・・・」
風華「おやすみなさい・・・」
風華「影利・・・ありがとう・・・」
あぁー風華の想いがどうなっていくのか気になります・・・カートを斬らなければいけないけれど、好きなんですよね・・・あぁああーーーーこんな状況にあったら、もう本当に辛いですよね・・・風華ー!!(´;ω;`)
美しい思い出……(お腹の音は置いといてw)
カートがめちゃくちゃ礼儀正しくて、あー真面目すぎるゆえの現状なんだろうな、と思いました。
可愛い過去と切ない現在!!
ハッピーエンドになりますように!!