4.彷徨える星(脚本)
〇豪華な部屋
岳尾 貴美子「ここに写ってるのは あなたと、このマンション」
岳尾 貴美子「間違いないわね」
アンナ「はい・・・・・・」
岳尾 貴美子「あなたの隣にいるのは」
アンナ「岳尾 雄さん あなたのご主人ですね」
アンナ「貴美子さん あなたとお話したかった」
アンナ「私の痛悔を聞いてください どうか、お願いします」
岳尾 貴美子(『痛悔』 正教会における懺悔ってことね)
岳尾 貴美子「私は司祭でも聖職者でもないの 悪いけど、あなたの言い訳なんか」
アンナ「あなたは 雄さんを誤解してるんです!」
〇豪華な社長室
アンナ「私は天然ガスを扱う ロシア企業の社員です」
アンナ「つい最近 日本に派遣されました」
岳尾 貴美子「・・・・・・こんな時期に?」
アンナ「確かに今の日露関係は 最悪といえるでしょう」
アンナ「こんなときに取引しようだなんて 物好きもいいところ」
アンナ「しかし裏を返せば ライバルが少ないともいえます」
アンナ「私の勤務先も、そんな考えでした」
アンナ「そして同じく 共同事業に乗り出したのが大曲商事です」
岳尾 貴美子「雄さんの勤め先!」
アンナ「はい 交渉の責任者は、ロシア企業側が私の父」
アンナ「大曲商事側が 北 部長でした」
アンナ「会議の席で 私は雄さんと出会いました」
アンナ「一目惚れ、でした」
アンナ「もちろん 結婚されてるとは聞いてました」
アンナ「自分にはもったいないくらい素敵な奥様 そう仰っていました」
岳尾 貴美子「お世辞はいいわ」
アンナ「本当なんです それでも、雄さんが好きでした」
アンナ「口には出さなくとも 父には、分かっていたようです」
アンナ「一方、交渉は 完全に行き詰まっていました」
アンナ「条件の折り合いがつかず 積み重ねるのは時間ばかり」
アンナ「すると父は 恐ろしい提案を行ったのです」
アンナの父「ある注文に応じてくれるなら 譲歩も考えようではないか」
北 部長「なんでしょう」
アンナの父「娘をだね そこにいる、岳尾くんの嫁にしてほしい」
北 部長「えっ!? それはまた、意外な」
アンナの父「問題はないだろう」
アンナの父「国民は国家に、社員は会社に 忠誠を捧げるものだ」
北 部長「ええ、そりゃあもう」
岳尾 雄「待ってください 私は既婚者でして」
アンナの父「おお、それは残念だ 姦淫は神の怒りに触れる」
アンナの父「だから、こうしよう 君は今から離婚して、アンナと再婚する」
アンナの父「そして丸一日、新婚を楽しんで もとの妻と再婚したまえ」
北 部長「素晴らしい考えです」
岳尾 雄「そ、それは」
アンナの父「わからないかね 私は君を家族として迎えようというのだよ」
アンナの父「たとえそれが 一時的な関係だったとしても、だ」
アンナの父「家族であれば、助け合おう 冬の日に、同じ暖炉で暖まるように」
アンナの父「しかし家族でなければ 薪一本も恵んでやるいわれはない!」
アンナの父「交渉に費やした時間、金 そして男としての名誉」
アンナの父「すべて捨てる覚悟はあるか?」
アンナの父「今の妻と今のような暮らしを 続けたいだろう?」
北 部長「私も、同じ意見だ いや、これは社としての総意、だ」
岳尾 雄「私は」
岳尾 雄「わたし、は・・・・・・」
〇豪華な部屋
アンナ「それから」
岳尾 貴美子「聞きたくない! もう、聞きたくない!」
岳尾 貴美子「雄さんの様子が、おかしかったのは こういうことだったのね」
岳尾 貴美子(そして偶然、このマンションの前で 探偵に写真を撮られた)
岳尾 貴美子(・・・・・・偶然?)
アンナ「貴美子さん。私は罪を犯しました どうか裁いてください!」
アンナ「怒ってください! 殴ってください! 殺しても構いません!」
アンナ「父の力を使って 卑劣な行いをしてしまいました」
岳尾 貴美子「アンナさん」
岳尾 貴美子「私はあなたを叱らない 手をあげたりもしない」
岳尾 貴美子「殺すなんて、もってのほか」
アンナ「え?」
岳尾 貴美子「だって許す気なんて まったくありませんから」
岳尾 貴美子「謝罪を受け入れても あなたの重荷が降りるだけ」
岳尾 貴美子「私はそんな お人好しじゃない」
岳尾 貴美子「一生、 罪の重さを背負って生きなさい」
岳尾 貴美子「朝起きるたびに誰かと会うたびに 眠りにつくたびに」
岳尾 貴美子「岳尾 雄という人間のこと 思い出しなさい」
〇マンションのエントランス
岳尾 貴美子「『痛悔』か」
岳尾 貴美子(アンナさん あなたは幸せだわ)
岳尾 貴美子(愚痴を聞いてくれる 神様がいるんですもの)
〇豪華なリビングダイニング
岳尾 貴美子「もうこんな時間? 雄さん、遅いわね」
岳尾 貴美子「うるさいな・・・・・・」
岳尾 貴美子(探偵?)
岳尾 貴美子「もしもし」
調 達也「どうも、調です 夜分遅くにすいません」
岳尾 貴美子「あなたに 聞きたいことがあるの」
調 達也「ご主人はお元気ですか」
岳尾 貴美子「元気よ まだ帰ってきてないけど」
調 達也「でしょうね」
岳尾 貴美子「あなた、 それはどういう」
調 達也「少しドライブしませんか ご主人もお待ちですから」
〇おしゃれなキッチン(物無し)
岳尾 貴美子「調・・・・・・」
岳尾 貴美子「私、 あなたを殺すかもしれないわ」
誘われています、ストーリーに。自然に、丁寧に、流暢に。気づいたら、ミクロの異世界で、ミニチュア模型の街を歩いている感じです。すごいです。例えが変だったかなぁ。おすすめの本も、図書館で探してみます。