〇けもの道
桜花 「暗～い」
優樹「陽はまだ落ちていないのに・・・もう闇の属性が浸食しているのか」
　　今回探る所はこの雰囲気と危険な死霊系の魔物が多く点在しており、訪れる冒険者は皆無だ
優樹「報酬が美味しいのにどうしてこんなに廃れているんだろう」
桜花 「掲示板を見たけど、下のほうに小さく帰還率が１％って書いてあったからかな～」
　　さらっととんでもない発言が飛び出す
優樹「なんか、不自然に放棄が多いと思ってたんだけど・・・」
桜花 「・・・遺留品だろうね」
優樹「なぁ・・・良いお茶が入ったんだ、今日はゆっくり店先で飲まないか？」
桜花 「そうするー♪」
桜花 「・・・じゃなくって！さっきの勢いはどこに行っちゃったの!?」
　　ノリの良いツッコミが入るが、暗さも手伝い怖気づいてしまっている
優樹「噂では統率者まで居るらしいし・・・」
　　統率者とはスキルの名称であり同族を眷属として従える力だ
　　連携して不死属性の骨壁の後ろから放たれる矢雨や魔法が脅威とされる
桜花 「優樹くん、そんなに震えたらくすぐったい・・・んあっ」
　　震える僕と何故か身をよじらせる桜花、先行きは不安だが歩みを止める訳にはいかない
　　今回も何故か一度も魔物に遭遇しない
桜花 「もう、入ってるね」
優樹「そうか、もう中心部に着いたのか」
　　この広い闇の森の中心部がダンジョンとされており
　　真昼でも陽射しが通らぬ程の魔力を帯びた樹木が冒険者達の視界を遮り静寂の中で神経を擦り減らさせる
桜花 「あ、誰か浮いてるよ～」
　　無防備に近づく桜花を呼び止めるが間に合わなかった
　　気付かれてしまった
優樹「不死王リッチー!?」

〇森の中の沼
　　まずい、勝てる相手じゃない！
　　俺が引き付けて桜花を逃がさないと・・・
　　ん？危機的状況は変わらないのに何か引っかかるような違和感がある
桜花 「あれ？スキルを覗いたら噂の統率者だけど、眷属が一体も居ないよ？」
優樹「道中ならまだしも、闇の森の中心部まで居ないのは不自然だな・・・」
　　樹の影から何体か死霊兵が姿を現すが、王に従う気配は無く遠巻きに見ているだけだ
優樹「めっちゃ不機嫌そうに顎動いてるぞ」
桜花 「な、なんでだろうね～・・・」
　　次の瞬間膨大な量の魔法式が瞬く間に組みあがり魔力が一点に集中していく
　　対抗するように魔法式を詠唱し始め、完成度の高い初めて見る魔法式が展開されてゆく
桜花 「信念の民よ、幾千の御霊よ、何者も通さぬ光となれ！」
優樹「・・・!!」
　　放たれた有り得ない物量の漆黒の闇が光の壁の前に消えていく
　　周りの葉が枯れ落ち幹は腐食して、幹や細い樹々は闇に呑まれ音を立てて崩れる
優樹「だいぶ眩しそうにしているね」
桜花 「闇には光で対抗だよ」
優樹「光源は・・・これしか無いか」
　　野営用のかがり火の代用の照明を一番強くする
優樹「よし、光を嫌がって避けてる」
桜花 「あれ？奥に隠れちゃった」
桜花 「・・・えっ!?」
　　魔物の断末魔が次々と響く
優樹「なんだ、何が起きてるんだ!?」
桜花 「魔力の質量が一気に膨れ上がってる・・・」
　　悲鳴の度にその力は強まっていく
　　禍々しく・・・おぞましく・・・
桜花 「全ての魔物の魔力が吸い上げられちゃった・・・」
　　深い深淵から姿を現す

〇薄暗い谷底
優樹「これが王たる所以か・・・！」
桜花 「ドレインかぁ・・・触媒と魔石もらっても良い？」
優樹「あぁ、こんなのが役に立つなら」
　　魔導具を分解し彼女の手にかざすと手の平の内に魔力が吸い上げられていく
優樹「魔石がただの石になるの初めて見たよ」
桜花 「真逆の属性だから吸収効率が良くないけど・・・これで勝てる！」
　　桜花の詠唱と共に襲い掛かる死霊の攻撃をいなす
優樹「ふざけた力だな」
　　空気は鈍色に澱み衣服は腐敗し出して細かい屑になり落ちてゆく
　　姫を守る騎士のように腐食する防具と気怠くなる闇に耐える
桜花 「かの精が想う常春を、君が織り成す真の夢を、舞え歌え宿れ、顕現せよ、陽桜！」
　　真昼かと思うような光量が闇の王を包むと、瞬く間に手足から灰塵と化し頭と胴体のみとなる

〇森の中
桜花 「・・・」
　　不意に歩み寄る彼女、何か意思を疎通している？
優樹「まだ危ないよ！」
桜花 「大丈夫だよ、この子魔界の行き方を知ってるみたいなの」
優樹「本当に!?」
桜花 「あわ、あわわ、意外と力強い・・・♪」
優樹「それでどうやって行くの!?」
桜花 「ぁ、えーと・・・、ちょっと疲れてるからあたしの耳に寄せてもう一回言って欲しいなぁ？」
優樹「早く桜花と一緒にいきたい！」
　　疲れが蓄積したのか、頬を火照らせてどこか恍惚したような笑みを浮かべている
　　これは早々に行き方を吐かせて灰塵に還して桜花もおうちに帰らなければ・・・
桜花 「うんうん、ふんふん、そうなんだぁ～」
桜花 「ずっと魔界に従属していて、斥候と魔界への侵略者を排除する為にこの森に居たんだってぇ」
優樹「それで魔界まで連れて行ってくれそうか？」
桜花 「この子の魔法術で転移の門を出して潜って行くんだって、これからは優樹くんとあたしの言う事聞いてくれるって言ってるよ♪」
桜花 「・・・そうだよね？」
　　少女の背中越しの骸骨の首が縦に激しく動く
優樹「魔物調教師にも成れるんじゃないか？」
桜花 「え？・・・二人の愛の力だよ♪」
　　従属した王と同じ高さから女の子座りで僕を見上げる彼女の笑顔にときめいてしまう
優樹「あ、ありがとう・・・」
桜花 「もっとほめてー♪」
　　文字通り身を投げて跳躍する彼女を受け止め頭を撫でる
　　僕だけじゃ奥底に秘めた想いは成し遂げられない
　　桜花には感謝してもしきれない
優樹「・・・効かない」
　　幻艶でさえも魅了できないとは、怖ろしいまでの魔法抵抗力を内包している証だ
桜花 「ちょっと力抜いて？」
　　王が頷くと魅了した証の紋様が胸元に現れる
優樹「よし、連れて帰ると大変だしもう帰ろうか」
桜花 「仲間になったんだから、一緒が良い！」
優樹「いやいや、魔物使役者の職業恩恵が無い者が街に連れて行ったら大騒ぎだよ」
　　話を理解したのか、それとも雰囲気を察したのか小気味の良い音と共に骸骨から少女へ姿を変える

〇けもの道
優樹「おおう・・・展開が唐突だな」
桜花 「名前どうしよっか～？」
　　霊でありながら愛らしい少女・・・一つ思い付く
優樹「れあ・・・はどうだろう？」
麗愛（不死王リッチー）「気に入った」
桜花 「よろしくねれあちゃん、いざとなったらいつでも収納袋にしまわれる準備しといてね♪」
麗愛（不死王リッチー）「極限まで魔力の流れを抑えてるから大丈夫」
　　どんな準備だよ・・・すっぽり入るように丸まるのか？
　　俺から見ても少女そのものだ、そうそう正体がバレる事は無い
優樹「うーんでも・・・」
桜花 「お腹空いたから帰りごはん行こ？」

〇大衆居酒屋
　　場面は変わりここはギルド近くの定食屋・・・
優樹「確かにバレてる気配は無いな」
桜花 「ここのご飯美味しい～♪」
麗愛（不死王リッチー）「美味」
　　桜の葉を散りばめたおしゃれな鍋を完食する
　　二人は樹の実のデザートを満喫している
桜花 「優樹くん、おかわり！」
麗愛（不死王リッチー）「おかわり！」
優樹「予想外の出費だ・・・」
　　対極の表情がそれぞれわかりやすく食卓越しに映る
優樹「それで、いつ行く？」
桜花 「湖に三人で？」
麗愛（不死王リッチー）「明日行く」
優樹「娯楽のほうじゃないって！」
桜花 「それとも水浴び？」
麗愛（不死王リッチー）「水着」
優樹「二人共それ用の服持ってないだろ、後だ後」
桜花 「え～～つまんな～～い」
麗愛（不死王リッチー）「愛を込めるのが始まらない」
優樹「始まらないよ」
桜花 「後って事は、優樹くんの心に余裕ができたら行ってくれるって事だよね？」
優樹「え、まあいつになるかわからないけどな」
麗愛（不死王リッチー）「明日」
優樹「それは早すぎ」
　　確かに何か楽しみがあったほうが、物事をこなす上でやる気が出るかもしれない
　　わいわい話してる内に夜が更けていく

〇市場
優樹「なんだかんだで楽しかった」
麗愛（不死王リッチー）「また行きたい」
桜花 「あの子に知らせるのが明日だとして、まだ時間に余裕ありそう～・・・」
　　何か言いたげにこちらを見上げる桜花・・・僕は負けない！
　　そこに奇跡じゃなくて運命だもんねと言うべきこの瞬間に剣姫が現れる
守姫「どうしたんだ、こんな夜遅くまで」
優樹「冒険者みたいな荒くれ者なら珍しくもないだろ」
　　桜花が凄い顔をしている、まるで貯蓄が一瞬で無と化したような顔だ
桜花 「ア、アーコレは剣姫サン、ドウシテコンナ場所ニ？」
守姫「今朝が大変だっただろう、治安がまだ安定していないから警備を強化しているんだ」
優樹「そうか、復興で重作業の後なのにご苦労な事だな」
桜花 「今日だけはゆっくり休んでれば良いのに～・・・」
　　頬を膨らます桜花、そうだ早速報告しておいた方が良いな
優樹「早速なんだが、魔界への行き方がわかった」
守姫「随分早いな、派兵については若葉の国の兵士を多く編制させてある」
桜花 「優樹くん、今行き方を教えるのは・・・」
麗愛（不死王リッチー）「おねえ・・・ちゃん」
守姫「お、おい　子守はちゃんとやってくれ、ボクは剣士だ、優しいお姉さんじゃ・・・」
麗愛（不死王リッチー）「お姉ちゃん」
守姫「はうぅ・・・」
　　何か新しい扉を開きかけている剣姫
　　これだけデレてくれれば行き方の件も見逃してくれるのでは・・・？
　　桜花が小声で話かけてくる
桜花 「あたしが開いた門を維持するから・・・麗愛ちゃんの事は黙っておこう？」
優樹「そうだな・・・今のあいつには刺激が強すぎる」
守姫「新しく守るべきものができた、僕も必ず討伐に同行しよう」
　　目の輝き方が違う、これは強力な戦力になるぞ
守姫「ボクに任せてくれ」
麗愛（不死王リッチー）「お姉ちゃん」
　　魔の出身者は全員魅了持ちなのか？
　　うまく利用すれば魔界の戦力も大きく割けるかもしれない

〇城下町
桜花 「は～やっと一日が終わったね♪」
優樹「帰るまでが冒険だぞ」
麗愛（不死王リッチー）「着いた」

〇ボロい家の玄関
　　いくらかの聖銀貨が入金されている
　　店頭にいくつか商品を並べておいて良かった

〇リサイクルショップの中
桜花 「これだけ売上があれば明日も美味しいお店食べに行けるね♪」
麗愛（不死王リッチー）「行ける」
優樹「くっ・・・」
　　少し悲観したが今まで以上に儲ければ良いだけの話だ、特に悩む事でも無い
　　樹の座卓と椅子を囲み温かいお茶をすする
優樹「そろそろ寝ようか」
麗愛（不死王リッチー）「みんなで寝よ」
桜花 「にぎやかで眠れないかもね♪」

〇屋敷の寝室
　　物置の上段にしまわれた予備の毛布と布団を取り出す
　　さて横になるとするか
優樹「・・・・・・」
桜花 「どうしたの？そんな難しい顔して」
麗愛（不死王リッチー）「どーしたの？」
　　休憩室とは言えある程度の広さは確保されてるのに１つの布団に二人共収まっている
優樹「・・・暑くないのか？」
桜花 「周りに水石置いてるから涼しいよ♪」
優樹「いつの間に採石してたのか」
桜花 「ちゃんと寝る時に使おうって見越してたよ～」
麗愛（不死王リッチー）「計画的」
　　二人の間に入り枕に頭を乗せる、明日も忙しいんだ・・・寝る事に集中せねば
　　水石が良い役割を果たして心地良い眠気を誘う
優樹「せっかくだから今日採った樹も置いておこうか」
桜花 「わぁ、良い匂いするね」
麗愛（不死王リッチー）「安眠」
　　匂いと温度の奏でる安眠への誘いがひとりひとり深い眠りへと導く
　　皆眠ったのを確認して僕も夢の中へ旅立つ