ウンソーとハッカー

ソエイム・チョーク

エピソード8(脚本)

ウンソーとハッカー

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〇シックなリビング
木﨑瑠璃「これを見てください、藤山コインの出納帳です」
  木﨑さんはパソコンの画面を見せてくる
  お金の出入りについての書類のようだ
  毎月凄い額のお金が出たり入ったりしている
木﨑瑠璃「この数字とこの数字が同じなのに、こことここは違います、これがこうなってこう・・・」
遠藤浩一「う、うん?」
木﨑瑠璃「しかも、ここがこうなって、だいたい2パーセントです、これは大変なことですよ」
遠藤浩一「えーっと?」
木﨑瑠璃「運用益が、ほとんど出ていません!」
遠藤浩一「ごめん、僕にもわかるレベルで説明して・・・」
木﨑瑠璃「つまり・・・藤山コインにお金を預けると増える、パンフレットにそう書いてありますよね?」
遠藤浩一「うん」
木﨑瑠璃「あれは嘘だったんです」
遠藤浩一「えっ? 嘘なの? どういうこと?」
木﨑瑠璃「うーん、そうですね・・・」
木﨑瑠璃「例えば七人のおじいさんが1億円を預けたとしましょう、これで7億円が金庫に入るわけです」
遠藤浩一「うん」
木﨑瑠璃「一年が経った時、そのうち六人がお金を引き出します、いくらですか?」
遠藤浩一「15パーセント増えるんだっけ? 一億千五百万円で、それが六人だから・・・六億九千万円?」
木﨑瑠璃「そうです、金庫には一千万円が残ります」
遠藤浩一「ちょっと待ってよ、七人目のおじいさんがお金を引き出す時はどうするの? 一億と五百万円が足りないよ?」
木﨑瑠璃「払えません、破産です!」
遠藤浩一「そんな・・・」
木﨑瑠璃「お金って言うのはどこからともなく沸いてきたりしないんです、有限なんですよ」
遠藤浩一「そりゃそうだけど・・・オフィスの家賃とか、前田たちの給料はどこから出ているの?」
木﨑瑠璃「もちろんお客さんから預かったお金ですよ だから金庫の一千万円も残っていないでしょうね」
遠藤浩一「詐欺じゃないか・・・」
木﨑瑠璃「いいえ、詐欺ではありません」
遠藤浩一「そうなの?」
木﨑瑠璃「まあ、出資法に違反している可能性はありますが・・・」
遠藤浩一「どっちにしろ犯罪だよね?」
木﨑瑠璃「犯罪ですね」
遠藤浩一「どうしてこんな商売が許されてるの? 警察は気づいてないの?」
木﨑瑠璃「表向きは合法なんです、顧客から預かったお金でビットコインを買って値上がりを待つ」
木﨑瑠璃「そして儲かった分から顧客にお金を払う これが藤山コインの仕組みです」
遠藤浩一「うん、パンフレットにはそう書いてあるけど」
木﨑瑠璃「そうやって運用で利益を出していれば、こんなことにはならないはずなんです」
遠藤浩一「どういうこと?」
木﨑瑠璃「二年ぐらい前の所、社長が何かに大量のお金を出して、その後戻していません」
遠藤浩一「まさか、使い込み?」
木﨑瑠璃「たぶん、倍にして返すつもりだった、とか言い訳するタイプですね」
遠藤浩一「ねえ、もし、このデーターが表に出たら、何が起こるの?」
木﨑瑠璃「面白そうだけれど、準備が必要ですね」
遠藤浩一「準備って?」
木﨑瑠璃「まず藤山コインの株を大量に空売りします」

〇雑居ビルの一室
遠藤浩一「ウンソーイーツです!」
加藤「何でやねーん」
遠藤浩一「ハリセンで叩くのはやめてください」
遠藤浩一「それと、あのUSBメモリー、そろそろ返してくれませんか?」
  何だかんだで1ヶ月近く経っているような気がする
前田「USBメモリー? 何の話?」
加藤「ちょっと待ってな、おい、宮本、あれ、どこだっけ・・・」
前田「いつの間に仲良くなったんだか・・・」
藤山「あれ? お前の顔、どこかで・・・」
遠藤浩一「えっ? そうですか?」
藤山「うちのお客さん・・・のお孫さんだったりします?」
遠藤浩一「ど、どうなんでしょうね・・・よくわからないです」
加藤「USBメモリーあったよ、これでいい?」
藤山「ん? なんだそれ?」
遠藤浩一「次の配達があるのでもう帰ります! ご利用ありがとうございました!」
  危なかった、まさか、藤山がいるとは・・・
  いや、よく考えたらいるのは当たり前か、逆に今まで鉢合わせしなかったのが不思議だよ
  ここには、二度と来ない方がいいな、さよなら、藤山コイン!

〇SNSの画面
  月曜日の夜、インターネットのどこかで・・・
トレーダー1「藤山コインがヤバイって本当か?」
トレーダー2「なんで? 儲かってるんじゃないの?」
トレーダー1「この資料、見てくれ、何か騒いでる奴らがいるけど、俺には難しくてわからん」
経済系ブロガー「こんなん見せられても、よくわからんわ とりま保存しとこ」
トレーダー2「本物なの?」
トレーダー1「それすらわからん」
内海「藤山コイン、いい企業だよ、俺は超稼がせてもらってる」
経済系ブロガー「マジですか? いくら稼げました?」
内海「1億は儲けたわ」
経済系ブロガー「へぇ、そうなんだ、それは凄いわ」
トレーダー1「・・・?」
  火曜日の夜
経済系ブロガー「誰か、藤山コインの取引先の出納簿、持ってるやついる?」
トレーダー3「内部資料ってこと? そんなん社員じゃないと無理だろ」
経済系ブロガー「だよなぁ・・・ じゃあ、昨日のは何なんだよ・・・」
内海「偽物じゃないの?」
税務署「昨日のって何? 面白い話?」
経済系ブロガー「リンクはこれな、真偽は責任持てん」
トレーダー3「ガチなら裏帳簿の流出なんだけど・・・」
トレーダー4「もしかして・・・これ役に立つ?」
経済系ブロガー「ひじき銀行の社長インタビュー? あっ、これ藤山コインの話か?」
トレーダー4「藤山コインに金預けようと思って調べてた時に見つけた、ちょっとヤバイ」
内海「偽物だってば」
トレーダー4「年に15はヤバイからな、潰れる前に撤収すれば利益出るんだけど、爆発寸前だったからやめた」
トレーダー1「面白いの見つけたぞ、金持ちの老人を探して契約させるマニュアル」
トレーダー2「何だこれ? 老人の貯金を狙う詐欺師かな?」
トレーダー3「おい、張っていい物と悪い物を考えろよ 他の詐欺師も見てるかもだぞ」
トレーダー1「すまん、これは消しとく」
トレーダー4「世も末だね」
  水曜日の夜
トレーダー1「はい、今日の収穫がこれ」
トレーダー3「投資家のブログ? あー、お金返ってこないの?」
経済系ブロガー「俺が見つけたのと別のブログだな、一人や二人じゃないのか?」
トレーダー2「俺の15パーセントぶんどって逃げ切り計画、始まる前に終わってしまった」
トレーダー4「それは投資じゃなくてギャンブル、やめようね」
企業解説系動画投稿者「お祭りの匂いがする!」
内海「あの資料は全部偽物だ、藤山コインは神企業!」
トレーダー3「また工作員来てる?」
トレーダー2「イエーイ! 一部上場企業の社員さん、チーッス! いつになったら全部上場するんですか?」
企業解説系動画投稿者「一部ってそうじゃないでしょ」
トレーダー2「突っ込むなよ、有名なネタだろ」
企業解説系動画投稿者「しかも藤山コインは二部」
トレーダー2「マ?」
企業解説系動画投稿者「マ」
配達員「藤山コインに配達した時、紙屑投げつけられた、あそこはヤバイ」
トレーダー1「ありえん、サルでも飼ってるのか?」

〇小さい会議室
宮本「あああああぁ! 炎上してる! どこもかしこも燃えてるぅ!」
樽丘「クッソ、どうなってるんだ? 批判記事を出すブログは、全部脅して潰したはずなのに!」
内海「経済系のブロガーに目をつけられたようだな」
加藤「この記事マジ? うちの会社、赤字だったの?」
前田「はい、藤山コインです、えっ? お金の払い戻しですか?」
前田「大変申し訳ありませんが、今はお待ちいただいていまして・・・」
前田「使い込み? いえ、そんなことはありません」
前田「これは通信トランザクションの障害が原因です、取引プロセスの技術的視点を得るために致し方ない状況であり・・・」
宮本「ねえ、もしかして全てを俺のせいにしようとしていない? そういうのやめてよ?」

〇SNSの画面
  木曜日の夜
トレーダー1「藤山コインがラッキーニュースのトップを飾りました、超ラッキー!」
トレーダー2「全然ラッキーじゃない件」
トレーダー3「株価ストップ安じゃん、どうすんの」
トレーダー4「俺はポジってないから困らない」
トレーダー1「あー、空売りしとけばよかった・・・ 今からでも間に合う?」
企業解説系動画投稿者「流出資料がガチならまだ下がるけど、俺なら手は出さん」
トレーダー4「休むも相場」

〇シックなリビング
  そして金曜日の夕方、僕は木﨑さんと一緒に、パソコンの画面を見つめていた
木﨑瑠璃「2日連続でストップ安、終わりですね」
遠藤浩一「どうする?」
木﨑瑠璃「後二十分で取引所が閉まります、続きは来週ですけど、週末の間にどうなるか予想ができませんからね」
遠藤浩一「今いくら儲かってるの?」
木﨑瑠璃「1億円ぐらいですね」
遠藤浩一「それだけ儲かれば、もう十分じゃないかな?」
木﨑瑠璃「それもそうですね、利確しちゃいましょう」
木﨑瑠璃「はい、お疲れさまでした」
遠藤浩一「・・・僕は殆どなにもしてないけどね」

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