#8:お菓子作りって楽しい!(脚本)
〇玄関の外
8月11日、夕方。
海を満喫して帰りの車に乗ったら、いつの間にか家の前に着いていた。
西野 咲也(にしの さくや)「浅井君、爆睡してたね」
浅井 貢(あさい みつぐ)「はい、久々に泳いだら意外と疲れて」
西野 咲也(にしの さくや)「海は日射しに当たるだけで疲れるからね。 そうだ、お家の方にご挨拶してもいい?」
浅井 貢(あさい みつぐ)「それは気にしないで・・・ いいんですけど・・・」
ピンポーン♪
貢の母「はい?」
西野 咲也(にしの さくや)「こんばんは。 洋菓子の「フルール」・店長の西野と申します」
西野 咲也(にしの さくや)「息子さんをお送りのついでにご挨拶にと・・・」
貢の母「・・・」
貢の母(あの店の店長? こいつが貢をかどわかして 貢の人生メチャメチャにしてるの?)
貢の母「貢?そんなに焼けてどこ行ってきたの?」
浅井 貢(あさい みつぐ)「海 行くって言ったじゃん」
西野 咲也(にしの さくや)「息子さん、毎日朝早くから働いて下さって、非常に助かっております」
西野 咲也(にしの さくや)「手土産もなしに無作法ですが、 お礼だけでもと─」
貢の母「・・・フンッ」
貢の母(無作法どころの話じゃないわよ!)
西野 咲也(にしの さくや)「では、お忙しい所、失礼致しまし―」
バタンッ
〇一階の廊下
浅井 貢(あさい みつぐ)「ちょっと母さん?店長に失礼でしょ!?」
貢の母「店長?あんな若い人がまともに経営者やれるのかしら? そもそも貢、ママもパパもアルバイト許可してないからね」
貢の母「お遊びはもうやめて。 今勉強しなかったら、 あなたでもT大落ちるわよ?」
浅井 貢(あさい みつぐ)「「お遊び」?馬鹿にしないでよね」
浅井 貢(あさい みつぐ)「勉強なら今まさに、店長に色々教えてもらってしてるとこなんだよ」
浅井 貢(あさい みつぐ)「お店というとこにはどんな仕事があるか、 お客さんにはどう対応するかとか、 新しい事学んでるんだよ!」
貢の母「それのどこが今のあなたの役に―」
浅井 貢(あさい みつぐ)「そもそも、初対面の人にあんな失礼な対応する母さんこそ、 まともに経営者してるわけ?」
貢の母「なっ―!?」
浅井 貢(あさい みつぐ)「サロンって、お客様をおもてなしする場所だよね? 母さんに、人をもてなす気持ちがあるとは全く思えないんだけど?」
貢の母「何てこというの貢!! これも全部、あの店長のせいよ──! 次会ったら責任とらせるわ・・・」
貢の母「うちの子の人生も人格も めちゃくちゃにした責任をね!!」
〇広い厨房
翌朝―
西野 柊也(にしの しゅうや)「兄貴! 在庫チェックと倉庫整理終わったぜ!」
浅井 貢(あさい みつぐ)「店長、掃除と品出しも―」
西野 咲也(にしの さくや)「もしもし、はい、家賃の件ですか? 先月はご迷惑をおかけしました」
西野 咲也(にしの さくや)「今月は期日通りお支払いできますので・・・ はい、引き続きお願いします」
浅井 貢(あさい みつぐ)「店長、お金の電話― 色々、大変なのかな・・・」
西野 咲也(にしの さくや)「ごめん、お待たせ! 今日から、お菓子作りの補助を教えるよ。 掃除とかカウンター周り、慣れてきたみたいだし」
西野 咲也(にしの さくや)「難しいこともあるけどもっと楽しいはず!」
西野 咲也(にしの さくや)「お菓子作りはね、 素材の化学変化や状態変化の組み合わせなんだ」
浅井 貢(あさい みつぐ)「おお~、カッコいい! 膨らんだり固まったりとかですか?」
西野 咲也(にしの さくや)「さすが浅井君!」
西野 柊也(にしの しゅうや)「駄目だ、そのワードで既についていけねえ─」
西野 咲也(にしの さくや)「柊也、大丈夫。まずは見てもらおう!」
西野 咲也(にしの さくや)「そうだ、ちょうどプリンのカラメルソース作らなきゃいけなかったから、 やってみよう!」
西野 柊也(にしの しゅうや)「え、あのプリンの茶色いとこか?」
西野 咲也(にしの さくや)「そうだよ。 じゃあ、グラニュー糖取って。 計量カップの100㏄分を、この鍋に」
西野 咲也(にしの さくや)「じゃ浅井君、 計量カップで水100㏄計って、入れて」
浅井 貢(あさい みつぐ)「はいっ・・・どうぞ!」
西野 咲也(にしの さくや)「これを強火にかけていくよ」
フツフツ、グツグツグツ・・・
西野 柊也(にしの しゅうや)「おお、透明から黄色っぽくなってきた!」
西野 咲也(にしの さくや)「そう。これを固めるとべっこう飴」
西野 咲也(にしの さくや)「砂糖は100℃を越えると変化して、 カラメル化っていう現象が起こるんだ。 香ばしい匂いがして、茶色く色づくよ」
浅井 貢(あさい みつぐ)「うわ、どんどん色が!」
西野 咲也(にしの さくや)「おっと、いい色だね。 今、165~180℃くらいで、カラメルソースになったよ」
西野 咲也(にしの さくや)「ここに水を入れて、硬さを調整して・・・ できあがり!」
西野 柊也(にしの しゅうや)「おお、砂糖水がとろとろに! いい匂いだ~!」
浅井 貢(あさい みつぐ)「科学の実験の時と違って、 楽しそうじゃない?」
西野 柊也(にしの しゅうや)「うっせえ浅井! 兄貴、こういう事してたのか~!」
西野 咲也(にしの さくや)「ただの砂糖水が、加熱だけでこうなった。昔の私、これにすごく感動したんだよね!」
西野 咲也(にしの さくや)「当時の店長に教わったことから条件を変えると、違う結果になった。 失敗もあったよ」
西野 咲也(にしの さくや)「焦がして硬いカラメルにしちゃったり、かき混ぜて砂糖が結晶になっちゃったりね」
西野 咲也(にしの さくや)「だけどそれも全部面白くて、 もっと学びたいって思ったんだよね―」
西野 柊也(にしの しゅうや)「兄貴は細かいこと好きだからな─」
浅井 貢(あさい みつぐ)「試行錯誤して美味しくなったら、 きっとすごく嬉しいですね!」
西野 咲也(にしの さくや)「そう、そしてそれがお客さんに届いて 、美味しいって言ってもらえたら、 疲れなんて消えちゃう」
咲兄、今はすっごく笑顔だけど―
「私は何して生きてるんだろう、
何のために生きてるんだろって思うんだ、
生きる意味っていうか―」
「周りの人どころか、
自分すら信じられなくて・・・」
海での寂しそうな顔は何だったんだろう。
咲兄は今、
お店と柊也との生活を一人で支えている。
高校生の僕には
想像もつかないことだらけだけど―
役に立ちたい!恩返ししたいよ!
だって、
ずっと僕の心の支えになってくれて、
こんなにも優しくしてくれるんだから
──!
西野 柊也(にしの しゅうや)「なあ兄貴・・・ これ、味見してもいい・・・か?」
浅井 貢(あさい みつぐ)「駄目だよ、 これからプリン作るのに使うんだから!」
西野 咲也(にしの さくや)「また作ればいいよ。 味見して実験結果を確かめるのも、 すごく大事なことだからね!」
西野 柊也(にしの しゅうや)「そういや、冷蔵庫にバニラアイスあるな。 かけたら絶対うまいぜ!」
浅井 貢(あさい みつぐ)「柊也、そういうとこだけ目ざといね・・・」
西野 咲也(にしの さくや)「ナイスアイディア! じゃあ、一息入れよう!」
西野 柊也(にしの しゅうや)「よっしゃああ!」
浅井 貢(あさい みつぐ)(仕事で来てるはずなのに、 そうやって優しくしてもらえるから―)
浅井 貢(あさい みつぐ)(ずっとそばに居たくなっちゃう)
浅井 貢(あさい みつぐ)「役に立たなきゃいけないのに、 甘えちゃうんだよね──」
西野 柊也(にしの しゅうや)「ほら浅井、お前の分!」
西野 咲也(にしの さくや)「さ、溶ける前に食べよう!」
浅井 貢(あさい みつぐ)「はい!頂きま~す!」