冬山の覇者

神社巡り

エピソード1(脚本)

冬山の覇者

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〇雪洞
  私は狼・・・この地の覇者だ・・・
  この地では誰もが私の力にを恐れ慄きひれ伏している・・・
雅夫「あっ・・・わんこだぁ~」
狼「ウゥ・・・(この男の子は何を言ってるんだ?)」
雅夫「かわいぃ~・・・(ナデナデ・・・)」
狼「(こいつは何故わたしを撫でているのだ・・・怖くは無いのか・・・?)」
狼「(しかもこの少年こんな山奥にどうやって来たのだ・・・?)」
雅夫「(ナデナデ・・・ナデナデ・・・)」
狼「ウゥゥ・・・(おい!やめろ・・・)」
雅夫「(ナデナデ・・・ナデナデ・・・)」
  いつの間にか私はこの少年に腹を見せていた・・・
???「雅夫!?」
雅夫「あっ・・・お爺ちゃん・・・」
狼「(あ、あれは・・・伝説のマタギ権蔵ではないか・・・?)」
権蔵「そ、それは!?」
雅夫「お爺ちゃん、わんこだよ・・・わんこ見つけたの・・・」
権蔵「わ、わんこって・・・それは・・・」
雅夫「かわいいでしょ?エヘヘ・・・」
権蔵「か、可愛いなぁ・・・(知らなかった事にしよう・・・懐いてるみたいだし・・・)」
雅夫「ぼく・・・このわんこ飼っちゃ駄目ぇ・・・?」
権蔵「そ、それはお爺ちゃんに言われてもなぁ~(絶対にダメだ!食い殺されちまう・・・)」
雅夫「お父さんとお母さんは僕が説得するから良いでしょ・・・?」
権蔵「お父さんとお母さんが良いと言ったらなぁ・・・(二人には真実を話そう・・・)」

〇雪山の山荘
雅夫「ただいま~ わんこ拾ってきたの・・・買っちゃダメぇ?」
お母さん「おかえりなさい・・・わんこ? 何処で見つけたの・・・?」
お母さん「そ、それって・・・わんこ?(狼じゃぁ・・・!?)」
雅夫「良いでしょ?可愛いんだよ・・・」
狼「グルルルル・・・」
お母さん「そ、そうね・・・お父さんが良いって言ったらね・・・(主人に何とかして貰いましょう・・・)」
???「雅夫・・・」
雅夫「あっ、お父さん・・・!!」
父「どうしたんだい?」
雅夫「あのね・・・わんこ見つけたの・・・飼って良い?」
狼「グルルルル・・・」
父「(狼じゃん・・・!!)」
父「雅夫・・・それはなぁ・・・」
雅夫「とっても可愛いんだよ・・・(ナデナデ・・・ナデナデ・・・)」
父「うわぁー・・・(狼撫でてる・・・)」
父「(しかも狼なんか困ってるし・・・お父さんに説得して貰おう・・・)」
父「お父さん!お父さん!」
権蔵「何じゃ?」
父「雅夫が狼、連れてきて飼いたいって言ってんですけどぉ・・・」
権蔵「ああ・・・わしも困ってるんじゃ・・・わんこだと言って聴かんし・・・」
父「そんな・・・お父さんが止めてくれなきゃダメじゃないすかぁー」
権蔵「何を言ってるんじゃ!!子供を嗜めるのは親の務めだろうが~!!」
父「雅夫に何とか諦めて貰う良い手はありませんか?」
権蔵「雅夫に狼が怖いって事を見せつけるしかないのぅ・・・」
父「何か思い浮かんだんですか?」
権蔵「お前が狼を怒らして襲われたら良いよ・・・」
父「私がやられちゃうじゃないですか!?」
権蔵「いざとなったら、わしが助けちゃるわぃ!!」

〇怪しいロッジ
  私は狼・・・何故か少年に連れられてこの山小屋にやってきた・・・
狼「(しかし・・・この男さっきから何をしているのだ・・・?)」
父「ヘイヘイヘーイ・・・掛かって来いよ・・・相手してやんよ・・・ヘイヘイヘーイ」
  男は威嚇してるつもりなのか・・・私の前でぴょんぴょん飛び跳ねてクネクネ腰を振っている・・・
  滑稽なその姿はとても哀れだった・・・余りにも惨めな姿は涙すら誘うものがあった・・・
狼「グルルルル・・・(なんて可哀そうなやつなんだ・・・)」
父「うわぁ・・・ 怒った・・・?怒った・・・?」
雅夫「パパ・・・変なダンスをしてどうしたの・・・?」
父「変なダンスって・・・」
父「そ、そうさ・・・パパはこのわんこに歓迎の踊りを見せていたのさ・・・」
雅夫「あっ・・・そうなんだね・・・歓迎してくれているんだね・・・」
父「おお!歓迎の宴というやつさ・・・」
雅夫「パパ・・・僕、わんこに名前つけたんだよ・・・チャチャリンっていうの・・・」
父「(なんだその可愛らしい名前・・・)」
狼「(チャチャリンって・・・)」
雅夫「チャチャリン・・・おいでぇ・・・」
  どうやら私はチャチャリンになってしまったらしい・・・

〇雪山
雅夫「アハハハハ・・・さぁ・・・おいでぇ・・・」
  いつの間にか私はこの少年の言いなりだった・・・
雅夫「チャチャリン・・・取っておいでぇ・・・エィ!!」
  こ、これは・・・!?
  私に投げたボールを取って来いということか・・・!?
  この地の覇者の私にどういうつもりだ・・・?誰もがひれ伏し恐れ慄く私だぞ・・・!!
  そこら辺の熊だって私を見たら逃げていく・・・私はこの地の頂点に立つ存在なのだ!!
  しかし・・・何故か私はボールを取って少年に渡した・・・
雅夫「ワハハハ・・・偉い、偉い・・・(ナデナデ・・・ナデナデ・・・)」
狼「グルルルル・・・(ち、ちきしょう・・・)」
権蔵「まったく・・・雅夫を怖がらせておらんじゃないか・・・」
父「私だってやるだけの事はやったんですよ・・・」
権蔵「ぴょんぴょん跳ねてクネクネしてたのが?」
父「あれは挑発です・・・」
父「後はどうしたら・・・!?」
権蔵「お前さんの奥さんにも協力してもらうか・・・?」
父「妻には危険な事はさせたくありません!」
権蔵「雅夫だって危険だぞ・・・なに・・・いざとなったらわしがこの銃で仕留めるわぃ・・・」

〇怪しいロッジ
お母さん「キェーー------------ッ!!」
父「そりゃーー------------!!」
  今度は2人で奇妙な踊りを踊っていた・・・あの少年が見たら悲しむだろうに・・・
  きっと「お母さんなんか嫌いだ!!お父さんなんて僕にはいない!!」と言うに違いない・・・
  そんな悲惨な修羅場を作り上げてまで何を目的としてるのか私にはわからなかった・・・
  そんな2人の様子を「きっと良い事があるさ・・・」と悲しげに見つめる事しか私にはできない・・・
  いつの間にか涙が頬を伝っていた・・・
お母さん「ねえねえ・・・まったくダメじゃない・・・」
お母さん「何か恥ずかしくなってきたわ・・・」
父「雅夫の為だ・・・頑張るんだ!!」
お母さん「キ、キェ―ーーーーーーーーーーーッ!!」
父「そりゃー------------っ!!」
雅夫「二人して何してるの!?」
お母さん「こ、これはね・・・」
父「チャチャリンに2人の特技を披露してたんだよ・・・」
雅夫「特技を見せてたの? お父さんとお母さんもチャチャリンと仲良くしたいんだね・・・」
お母さん「そ、そうよ・・・」
父「そ、そうだとも・・・」

〇雪山の山荘
権蔵「上手くいかないのう・・・」
父「どうしたものですかね・・・」
権蔵「奴は野生の動物じゃ・・・同じ動物なら本性を見せるかの・・・?」
父「それは良いかも!? 私たちも危険じゃないし・・・」
権蔵「いっちょ試して見るか・・・」
権蔵「よし!! こいつを使おう・・・」
イエティ「・・・・・・・・・」
父「うぉーー-------------!! お父さん・・・それは・・・!?」
権蔵「わしが飼ってるイエティじゃ・・・」
父「イエティ飼ってるって・・・!!」
権蔵「奴はどうせ獲物を狩って食事をしてたのじゃろう・・・これを見たら腹を空かせた奴は直ぐに本性を出すじゃろうて・・・」
父「それより・・・イエティって・・・!?」
イエティ「ムホ・・・・・・・・・」
権蔵「奴の目の前にこのイエティを放ってみるぞい・・・」
父「イエティよりは狼の方がまだ可愛いんじゃ・・・?」

〇怪しいロッジ
イエティ「ムホホ・・・」
狼「(ん・・・?なんだ・・・?)」
イエティ「ムホムホ・・・」
狼「グルルルル・・・(わっ!!何だこいつ!?)」
イエティ「ムムム・・・」
狼「グルル・・・(気味の悪い奴だ・・・!!)」
雅夫「チャチャリン・・・」
雅夫「わっ!!モンスターだぁ!!」
イエティ「ムホムホ・・・」
雅夫「うわぁー助けてー!!」
狼「ワォーン!!(少年のピンチだ!!助けなければ!!)」
イエティ「ムホホホ・・・」
狼「グルル!!(待てー!!)」
権蔵「わー!!何てこった!! イエティがやられちまう・・・」

〇雪山
権蔵「ま、待て・・・落ち着いてくれ・・・イエティはわしのペットなんじゃ・・・」
イエティ「ムホムホ・・・」
狼「グルルルルル・・・」
雅夫「チャチャリン・・・待って~」
雅夫「もう止めてあげて・・・そのモンスターお爺ちゃんのペットなんだって・・・」
権蔵「モンスターじゃないぞ・・・イエティだ・・・わしの可愛いペットじゃ・・・」
雅夫「チャチャリン・・・僕を助けてくれてありがとう・・・でも、もう大丈夫だからね・・・」
雅夫「(ナデナデ・・・ナデナデ・・・)」
  何てお人好しなんだ・・・自分が襲われそうになったというのに・・・まったくしようがない・・・

〇雪山の山荘
父「結局、ダメでしたね・・・」
父「イエティが雅夫を襲ったみたいになってるし・・・狼が雅夫を助けたみたいになってるし・・・」
権蔵「何もせんかったお前が偉そうに言うな!! もう少しでイエティがやられそうだったんじゃぞ!!」
父「でも、狼はあきれて山に帰ったみたいで万々歳じゃないすか!!」
権蔵「しかしのぉ~・・・悲しむじゃろうな・・・雅夫・・・」
雅夫「チャチャリン~どぉこ~?チャチャリン~」
雅夫「どこに行ったのぉ~?チャチャリン~・・・」
雅夫「チャチャリン・・・?」

〇雪洞
  私は狼・・・この地の覇者だ・・・
  この地では誰もが私の力にを恐れ慄きひれ伏している・・・
  今日は何故だか珍しい体験をした・・・人間というものは大変興味深い・・・
  少年との出会いは荒れ果てた私の心に温かいものを感じさせてくれた・・・
  また逢いに行ってみよう・・・あの少年に・・・
  END

コメント

  • 最初は困惑していたオオカミがみるみるうちにチャチャリンになっていく展開が可愛すぎて。両親のバカ踊りに涙するオオカミが面白すぎて。これからも「真の強者たるもの、ときには愚かな人間の相手をすべし」と、堂々と腹を見せてナデナデされてほしいですね。

  • 好奇心旺盛な子供でも狼は怖がりそうですが、勇気があるというか、とても肝の据わった子ですね笑
    それよりもイエティを飼ってる方がツッコみたくなりますが!

  • 子供は固定観念が大人ほどでないから、自分の感覚で近づきたい相手かどうか判断するところが、ある意味うらやましく思えます。心と心のつながりがとても素敵に描かれたお話でした。

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