第九話(天と地と)(脚本)
〇エレベーターの中
子供は風の子「こんにちは、風の子です」
子供は風の子「前回は、美井さんの娘さんのお話でした」
子供は風の子「娘さんは、現在も詐欺罪で裁判中」
子供は風の子「どうして、そうなったのか・・・」
子供は風の子「人生のターニングポイントは」
子供は風の子「会えない人に恋をしたから・・・」
子供は風の子「会えない人に、会いたい一心で」
子供は風の子「会えるためには、詐欺の片棒でも」
子供は風の子「なんでも担いでやる! って・・・」
子供は風の子「罪を犯しても会いたいって」
子供は風の子「どんな気持ちなんだろう?」
子供は風の子「会えない人を好きになった、その時」
子供は風の子「別の道があれば、別の運命が待っていたかも」
子供は風の子「はっちゃんの、そんなヒントを、美井さんは」
子供は風の子「繰り返し心の中で、反芻します」
子供は風の子「頑じぃにも伝え、やり直しに思いを馳せます」
子供は風の子「『雨垂れ石を穿つ』の如し」
子供は風の子「護摩行(ごまぎょう)決行の、知らせが届き」
子供は風の子「乾坤一擲(けんこんいってき)」
子供は風の子「美井さんは、『やり直し』成就のため」
子供は風の子「お寺に馳せ参じます」
〇祭祀場
美井(びい)さん「頑ちゃん、お待たせ。すまないね・・・」
美井(びい)さん「・・・これは、これは」
美井(びい)さん「お寺にこんな部屋が・・・」
頑じぃ「護摩堂です」
頑じぃ「私も、この度の事で、和尚さんに相談して」
頑じぃ「初めて入りました」
頑じぃ「それからは、見よう見まねで」
頑じぃ「なんとか納得できる程には、なりました」
美井(びい)さん「そう、すまなかったね」
美井(びい)さん「それにしても、立派な、お不動さんや」
頑じぃ「ほんとに、動き出しそうです」
頑じぃ「昔のお不動さんは、右目が上を向いて」
頑じぃ「遠く天を見つめ、左目は下を向いて」
頑じぃ「地を、我々を、見てくださいます」
頑じぃ「憤怒で激しく叱り、導く時もあれば」
頑じぃ「涙して静かに、寄り添う時もある」
美井(びい)さん「そうか、意外とツンデレの神さんやなぁ」
頑じぃ「じゃあ、始めましょうか」
美井(びい)さん「宜しくお願いします」
頑じぃ「まず、この木の板に、願いを書きます」
美井(びい)さん「はい」
美井(びい)さん「『優しい人に会えますように』」
美井(びい)さん「『会ってから、人を好きになりますように』」
美井(びい)さん「『法を守って、他人様に迷惑をかけません ように』」
頑じぃ「それを、火に焚(く)べて、念じます」
美井(びい)さん「はい」
頑じぃ「何枚書いても構いません、自分のペースで」
美井(びい)さん「はい、宜しくお願いします」
頑じぃが火を起こすと、煙が充満する
唱えられる念仏
炎、熱、煙、繰り返される念仏
やがて、美井さんは、意識が朦朧となり
娘の小さい頃を思い出す
美井(びい)さん「あっ・・・詩衣(しい)ちゃん!」
〇不気味
美井(びい)さん「・・・詩衣(しい)ちゃん?」
詩衣(しい)ちゃん「・・・」
詩衣(しい)ちゃん「別々のお家になるの?」
詩衣(しい)ちゃん「三人一緒じゃダメなの?」
美井(びい)さん「・・・詩衣ちゃん」
詩衣(しい)ちゃん「・・・どうして?」
詩衣(しい)ちゃん「詩衣ちゃんが悪い子だから?」
詩衣(しい)ちゃん「詩衣ちゃんだけ、他所のお家でもいいよ」
美井(びい)さん「・・・あ、あの時や」
詩衣(しい)ちゃん「詩衣ちゃんが生まれる前」
詩衣(しい)ちゃん「パパとママは、仲良しで、ラブラブで」
詩衣(しい)ちゃん「ずっと一緒にいたいから」
詩衣(しい)ちゃん「結婚したんでしょ・・・」
美井(びい)さん「あ、あ、詩衣ちゃん・・・」
詩衣(しい)ちゃん「離ればなれは、イヤ」
詩衣(しい)ちゃん「一緒にいたいよー」
美井(びい)さん「ごめんな、詩衣ちゃん、ごめん」
詩衣(しい)ちゃん「私、大きくなったら、絶対」
詩衣(しい)ちゃん「一緒に暮らせるようにする!」
あれから5年
詩衣ちゃん(5年後)「結局、覚えてるのは、パパとママが」
詩衣ちゃん(5年後)「別れた原因は、私で」
詩衣ちゃん(5年後)「いつも、私のことで喧嘩になって」
詩衣ちゃん(5年後)「私が何かを言うと、何かをすると」
詩衣ちゃん(5年後)「喧嘩になった・・・」
詩衣ちゃん(5年後)「・・・もう、いっそ玄武岩になりたい」
詩衣ちゃん(5年後)「パパとママのマグマが噴き出したあと」
詩衣ちゃん(5年後)「ほっぽらかしで、冷たくなった」
詩衣ちゃん(5年後)「玄武岩に、私は、なりたい」
〇壁
詩衣ちゃん(10年後)「まだ会ったことないけど」
詩衣ちゃん(10年後)「優しい言葉をかけてくれる」
詩衣ちゃん(10年後)「一緒にいようねって、毎日囁いてくれる」
詩衣ちゃん(10年後)「そのままでいいよって、 誰も不幸にしないよって・・・」
詩衣ちゃん(10年後)「これをうまく運べたら、会おうねって・・・」
詩衣ちゃん(10年後)「あぁ、早く会いたいなぁ」
頑じぃ「ここです!」
「念じて!!」
「強く! 深く!!」
美井(びい)さん「は、はいっ!」
美井(びい)さん「『優しい人に会えますように』」
「『会ってから、人を好きになりますように』」
「『法を守って、他人様に迷惑をかけません ように』」
〇雷
詩衣ちゃん(10年後)「きゃぁぁぁぁぁぁぁぁ」
詩衣ちゃん(10年後)「・・・」
詩衣ちゃん(10年後)「・・・・・・」
詩衣ちゃん(10年後)「あ、あ、すみません・・・」
わずか数メートルに落雷する確率は
0.0001パーセント・・・かも
〇桜並木
詩衣ちゃん(10年後)「あー」
詩衣ちゃん(10年後)「幸せ❤️」
詩衣ちゃん(10年後)「うふふふふふ」
詩衣ちゃん(10年後)「身体中から空気が漏れるように」
詩衣ちゃん(10年後)「笑いという笑いが、漏れ出して止まらない!」
詩衣ちゃん(10年後)「会える!」
詩衣ちゃん(10年後)「VIVA 会える!」
詩衣ちゃん(10年後)「VIVA 一緒!」
詩衣ちゃん(10年後)「VIVA エブリデイ はぐ!」
詩衣ちゃん(10年後)「ぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁん」
詩衣ちゃん(10年後)「♪ 清く、正しく、美しく」
〇祭祀場
頑じぃ「美井さん、成功です」
美井(びい)さん「ホントに?」
頑じぃ「入れ替わってるー・・・です、一部」
美井(びい)さん「・・・一部?」
頑じぃ「おそらく、お相手のみが」
美井(びい)さん「まさに、ピンポイントチェンジ!」
美井(びい)さん「ありがとう、頑ちゃん、ありがとう」
〇エレベーターの中
子供は風の子「こんにちは、風の子です」
子供は風の子「『一念岩をも通す』」
子供は風の子「頑じぃの念力で、美井さんの願いどおり」
子供は風の子「詩衣ちゃんは、新たな彼氏と出会いました」
子供は風の子「落雷で気を失っているところを」
子供は風の子「助けられたのが、ご縁でした」
子供は風の子「意識を取り戻すまで、そばにいて」
子供は風の子「心配してくれて、そのあと」
子供は風の子「退院も、付き添ってくれたそうです」
子供は風の子「OH! フェミニスト! ジェントルマン!」
子供は風の子「よかったね、詩衣ちゃん」
子供は風の子「よかったね、美井さん!」
〇らせん階段
詩衣ちゃん(10年後)「とっても、優しかった」
詩衣ちゃん(10年後)「私が風邪をひいて、起き上がれない時」
詩衣ちゃん(10年後)「わざわざ、出張先から飛行機で戻ったりね」
詩衣ちゃん(10年後)「でも、しばらくして、違和感が・・・」
詩衣ちゃん(10年後)「それが現実になっちゃって・・・」
詩衣ちゃん(10年後)「あの人の誕生日間近に、デパートへ」
詩衣ちゃん(10年後)「プレゼントを買いに行った時」
詩衣ちゃん(10年後)「家族団欒してる、あの人を見た」
詩衣ちゃん(10年後)「よくある話なんでしょうけど」
詩衣ちゃん(10年後)「まさか、自分がそうなるなんてね」
詩衣ちゃん(10年後)「その話をしたら、ぷっつり連絡が途絶えた」
詩衣ちゃん(10年後)「私が倒れたら、お見舞いに来るかもって」
詩衣ちゃん(10年後)「自分自身のわら人気を作って、自ら五寸釘で」
詩衣ちゃん(10年後)「え? 古い? 今時は何なの?」
詩衣ちゃん(10年後)「だけど、偶然なのか、具合が悪くなって」
詩衣ちゃん(10年後)「咳は酷いわ、高熱だわ、頭も体も痛いわ」
詩衣ちゃん(10年後)「飲まず食わず、でも不思議なもんで」
詩衣ちゃん(10年後)「モヨオスのね、這うようにトイレに行った」
詩衣ちゃん(10年後)「重なる時には重なるもんで」
詩衣ちゃん(10年後)「なんだか煙たいなと思ったら」
詩衣ちゃん(10年後)「火事だ、火事ダァって、かすかに聞こえて」
詩衣ちゃん(10年後)「危機一髪、レスキュー隊員に運ばれた」
詩衣ちゃん(10年後)「・・・あの人じゃなかった」
詩衣ちゃん(10年後)「もちろん、何度も電話したのよ」
詩衣ちゃん(10年後)「そうこうしてる内に」
詩衣ちゃん(10年後)「お腹に張りを感じて」
詩衣ちゃん(10年後)「赤ちゃんの泣き声が聞こえるの」
詩衣ちゃん(10年後)「お腹に手を当てて、さすろうとしたら」
詩衣ちゃん(10年後)「指が表面をすり抜けるの」
詩衣ちゃん(10年後)「えっ? と思ってお腹を見ると」
詩衣ちゃん(10年後)「羊水が溜まって、池みたいに」
詩衣ちゃん(10年後)「そんなことがあるのかしらって」
詩衣ちゃん(10年後)「顔をつけて中を覗いてみたの」
詩衣ちゃん(10年後)「濃い紺色? 深い緑というか」
詩衣ちゃん(10年後)「何も見えず、何の音もしない」
詩衣ちゃん(10年後)「もっと深く、もっと深く・・・」
顔をお腹につけたまま
戻らない詩衣ちゃん
慌てて駆けつける、美井さん
戻れ! 戻ってこい!
叫ぶ、美井さん
叫び続ける美井さん
〇祭祀場
ブハァーっ!
大きく息を吐き出して
美井さんは、汗だくで目をさます
煙の中、大きな炎が燃え盛っている
詩衣ちゃん! 詩衣ちゃん! 詩衣ちゃん!
何度も叫ぶ
ダメだ、帰っておいで、詩衣ちゃん!
食べ物も、飲み物もあるよ
うざくない程度に、側にいるよ
一人じゃないよ
お前の苦しみを無くしてやりたいんだ!
それさえ、できればいい
美井(びい)さん「どうしてだ!?」
美井(びい)さん「ちゃんと会えて、ちゃんと話をして」
美井(びい)さん「ちゃんと好きになったじゃないか!」
美井(びい)さん「なんで、こうなるんだ!」
何も言えず、硬直する頑じぃ
美井(びい)さん「苦しかったね、詩衣ちゃん」
美井(びい)さん「パパは何もできないのかなぁ・・・」
黒い人影が・・・
はっちゃん「大丈夫! 私がついてるんだから!」
そんな人間模様を前にして
不動明王は、右目を天に向け
激しく乞い願い、左目を地に向け
『やり直す』と厳しく叱咤する
〇エレベーターの中
子供は風の子「こんにちは、風の子です」
子供は風の子「今回はちょっと忙しくて、3度目です」
子供は風の子「人生のやり直しって」
子供は風の子「必ずしも、うまくいくとは限らない」
子供は風の子「そんなこと、分かってても、やり直す」
子供は風の子「美井さん、大丈夫!」
子供は風の子「だって、はっちゃんが、ついてるんだから!」
子供は風の子「あっ、そうだ」
子供は風の子「次回予告」
子供は風の子「『大団円』」
子供は風の子「見てね、きっとだよ!」
両親が離れ離れになったトラウマから過剰に愛を求めてしまう詩衣ちゃん、男運の悪さも相まって、やり直しても不幸な未来が待っている。一体どうすれば。やはり、男との出会いが直接的な原因ではなく、本当のターニングポイントは幼少期……