第十二話 まだブリーフ派だった頃(脚本)
〇大学病院
第十二話 まだブリーフ派だった頃
〇病院の待合室
母「レントゲン検査も異常なし・・・」
母「・・・よかった」
朝日ケンイチ「だから大げさなんだよ~」
朝日ケンイチ「車に驚いてコケてそのまま寝ちゃった だけなのに。救急車まで呼ばれてさ」
母「アンタが信号無視したんでしょ!? ブレーキ間に合わなかったら 死んでたかもしれないのよ!?」
担任教員「お母さんの言う通りだぞ、朝日」
朝日ケンイチ「ご、ごめんなさい・・・」
母「わざわざ病院まで来て頂いて 申しわけありません・・・」
担任教員「お気になさらず。 もともと学校を終えたら 病院に寄る予定がありましたから」
担任教員「朝日君のお母さん 彼を少しお借りしてよろしいですか?」
母「はい、 私はドライバーの方に電話してきますので」
母「教育的指導を骨の髄まで 叩き込んでやってください」
朝日ケンイチ「ええー?」
担任教員「じゃ、行こうか朝日」
〇病院の廊下
小枝ゆき「あ!ケンイチ君!」
朝日ケンイチ「ゆ、ゆきちゃん!?」
小枝ゆき「大丈夫? 車にはねられたって聞いたけど」
朝日ケンイチ「いや・・・車には当たってなくて ただ転んだだけで」
小枝ゆき「そっか・・・よかった」
朝日ケンイチ「ゆきちゃんはどうして病院に? どこか悪いの?」
小枝ゆき「どうしてって」
小枝ゆき「ケンイチ君が心配で来たに 決まってるでしょ!?」
朝日ケンイチ「えっ!?」
朝日ケンイチ「ご、ごめんなさい・・・」
担任教員「そこは謝るんじゃなくてお礼だろ普通」
朝日ケンイチ「あ・・・ありがとう」
小枝ゆき「どういたしまして」
担任教員「小枝もいるなら丁度いい。 せっかく来たんだから 紹介したい子がいるんだ」
「・・・?」
〇病室のベッド
担任教員「太田君、入っていいかな?」
太田ダイコウ「どうぞ」
担任教員「やぁ、具合はどうかな?」
太田ダイコウ「今日は調子がいいです」
太田ダイコウ「そちらの二人は・・・?」
担任教員「朝日ケンイチ君、 小枝ゆきさん。 二人とも私の受け持ちクラスの子だ」
担任教員「この子は太田ダイコウ君 実はもう一人のクラスメートだ」
小枝ゆき「クラスメート?」
担任教員「太田君はウチのクラスに編入したんだが 病状が思わしくなくて 登校は叶わなかったんだ」
朝日ケンイチ(オータ・・・ダイコウ・・・)
〇城壁
プレイヤー狩り「引っ込んでなよォ 君がリアルでやり合えばどうなるか・・・ わかるよねェ?ダイコウ君?」
〇病室のベッド
担任教員「入院生活は退屈だろう? 同い年の話し相手をと思ってね」
朝日ケンイチ「オータ・・・?」
太田ダイコウ「ケンイチ・・・ ゆき・・・雪・・・スノー?」
「・・・!!」
担任教員「ん・・・?」
担任教員「先生がいたら話しづらいかな? 私は朝日のお母さんと話してくるから あとは若い者に任せて、と」
朝日ケンイチ「オータ!? オータなのか!? グンマァのオータ!?」
太田ダイコウ「パンイチのケンイチ!?」
小枝ゆき「すっごい偶然・・・!」
朝日ケンイチ「いやでもグンマァのオータと 全然雰囲気違うよな!?」
太田ダイコウ「いやあれは・・・ アバターになりきるっていうか ・・・違う自分になりたくて」
朝日ケンイチ(しゃべりがカタコトじゃない!)
朝日ケンイチ(アメフトの雑誌がたくさんある・・・)
朝日ケンイチ(体を張って攻撃を受けると喜ぶから マゾかと思ったけど・・・ こういうのに憧れてたのか)
朝日ケンイチ(なのに登校もできない体なんて・・・)
朝日ケンイチ(オータのこと何も知らなかった)
朝日ケンイチ(学校は嫌だとか引きこもりたいとか 俺は身勝手なことばかり・・・)
朝日ケンイチ「はっ!?しまった! 俺の正体がゆきちゃんにバレる・・・!」
太田ダイコウ「言っちゃいけなかった!? ごめん!」
小枝ゆき「とっくに気づいてるよ パンイチで学校来るし」
朝日ケンイチ「うぅ・・・っ!」
太田ダイコウ「パンイチで学校に!?」
朝日ケンイチ「ゲームのクセでついうっかり・・・」
太田ダイコウ「そっか・・・ それで学校に行きたくなかったんだね」
太田ダイコウ「ごめん ずっとケンイチに謝りたかったんだ」
朝日ケンイチ「オータが俺に?」
太田ダイコウ「そんな生き方は先細りするだけだなんて 偉そうなこと言って、 一方的に解散して・・・」
太田ダイコウ「あれはケンイチのことじゃなくて 僕のことなんだ。 病室に閉じこもって、友達もいなくて」
太田ダイコウ「みんなは外の世界で毎日成長してるのに 僕の時間は病室でずっと止まったまま」
太田ダイコウ「そんな自分が情けなかった。 ケンイチにつらく当たったのは 八つ当たりだったんだ・・・ごめん」
朝日ケンイチ「違う! オータは悪くない! 俺のほうこそごめん!」
朝日ケンイチ「知らなかったんだ・・・ オータが今までどんな気持ちで 一緒に戦ってくれてたのか」
朝日ケンイチ「オータはこういう奴だって勝手に 決めてつけてひどいことを・・・」
朝日ケンイチ「先細りする生き方・・・ オータの言う通りだった。 俺がぼっちなのは、俺自身のせいなんだ」
朝日ケンイチ「俺は・・・ なるべく人と関わらないように、 目立たないようにしてきた」
太田ダイコウ「どうして?」
朝日ケンイチ「・・・怖かったんだ」
太田ダイコウ「怖い・・・?」
朝日ケンイチ「幼い頃はこんなんじゃなかった。 周りの人と普通に話せた時期もあった。 でも・・・きっとあのときから」
朝日ケンイチ「あれは―― 俺がまだブリーフ派だった頃」
〇病院の待合室
母「ウチの子、学校ではどんな様子ですか?」
担任教員「それが・・・ なかなかクラスになじむのが 難しいようでして」
母「でしょうね 前のクラスでもそうでしたから」
担任教員「前に何かあったのですか? その・・・イジメですとか」
母「校外のことなんですけど」
母「あれはケンイチがまだブリーフ派だった頃」
〇古いアパートの部屋
母「あの子、昔からテレビゲームが得意で、 私を負かして天狗になってたんですけど」
〇ゲームセンター
母「もう私相手じゃ物足りないからって 街のゲームセンターに行ったんです」
母「そこで大人をボコボコに負かしたみたいで」
母「あの子が生意気なこと言ったのか、 相手を怒らせて路地裏に連れ込まれて」
〇入り組んだ路地裏
中年男「オラァッ! 俺の親父のブリーフを頭にかぶりやがれ!」
ケンイチ「うわっ、ばっちぃ!」
中年男「ははは! こいつ親父のブリーフかぶってやんの! やーいやーい親父のブリーフ!」
〇病室のベッド
太田ダイコウ「そんなことが・・・」
朝日ケンイチ「あの日を境にトランクス派になった」
朝日ケンイチ「人と関わるのが怖くなった・・・ 一人でいれば、誰とも関わらなければ 怖いことにはならないからって・・・」
朝日ケンイチ「ごめん・・・俺はこんな奴なんだ」
朝日ケンイチ「いくらトランクスに履きかえても、 あの日に時が止まってしまった・・・ ずっと一人で・・・ずっとブリーフのまま」
太田ダイコウ「ケンイチくん・・・」
小枝ゆき「さっきから何言ってるの!?」
「!?」
朝日ケンイチ「いや・・・ブリーフのくだりは女の子には わからないかもしれないけど」
小枝ゆき「そうじゃなくて! ケンイチ君もオータ君も!」
小枝ゆき「友達がいないだとか ぼっちだとか 一人だとか!」
小枝ゆき「私達とっくに友達でしょ!?」
「・・・・・・っ!」
「トモ・・・ダチ・・・?」
小枝ゆき「なんでカタコトなの!?」
小枝ゆき「怒鳴ったら喉渇いちゃった。 ジュース買ってくる」
太田ダイコウ「冷蔵庫にジュースもアイスもあるよ。 前に懸賞で当たって食べきれなくて」
小枝ゆき「このアイス! 超好きなやつ!」
太田ダイコウ「好きなだけどうぞ」
小枝ゆき「みんなで食べようよ」
小枝ゆき「アイスは冷たいからカロリーゼロなんだよ」
太田ダイコウ「どうぞ召し上がれ」
小枝ゆき「いただきまーす」
朝日ケンイチ「い、いただきます」
太田ダイコウ「ゲームの中でもみんなで食べたね。 スノーが仕留めた猪肉とケンイチが獲ったワニ肉。ニュクスが山の幸を採ってきてさ」
小枝ゆき「あのときはシン君もいっしょだったね」
太田ダイコウ「ニュクスのこと?」
小枝ゆき「うん シン君もクラスメートだよ」
小枝ゆき「ただ・・・」
〇教室
十七夜月シン「君達と仲間になった覚えはない」
〇病室のベッド
太田ダイコウ「彼がそんなことを?」
小枝ゆき「うん・・・」
朝日ケンイチ「あれは本心じゃないと思う」
小枝ゆき「えっ?」
〇森の中の沼
ニュクス「僕に勝つんじゃなかったのか?」
ニュクス「・・・・・・」
ニュクス「――【治癒】」
〇病室のベッド
朝日ケンイチ「はっきりとは覚えてないけど 俺はたぶんシンに助けられた」
朝日ケンイチ「シンは・・・迷ってるんだと思う」
朝日ケンイチ「学校での態度はひどかったけど シンはシン自身に言い聞かせてた気がする」
朝日ケンイチ「本心は別にあって そこから目をそらすために」
朝日ケンイチ「俺もそういうとこあるから わかるんだ」
〇森の中の沼
ケンイチ(そもそもソロプレイでGFを始めたんだ。 グンマァなんておかしな集団、 入りたくなかったんだ)
〇病室のベッド
朝日ケンイチ「シンがこのまま結果を出してしまったら この先ずっと同じ考えに 取り憑かれるかもしれない」
小枝ゆき「教室でシン君に怒ってくれたとき 私は嬉しかったよ」
朝日ケンイチ「ゆきちゃん・・・」
小枝ゆき「ケンイチ君がみんなをつないでくれた。 私達みんなケンイチ君がいなきゃ バラバラのままだから」
太田ダイコウ「僕は・・・三人だけじゃなく シン君も食卓にいるほうが楽しいと思う」
朝日ケンイチ「オータ・・・」
朝日ケンイチ「お願いだオータ! もう一度、俺をグンマァに加えてほしい。 俺と一緒に戦ってほしい!!」
太田ダイコウ「ケンイチ君・・・!」
太田ダイコウ「僕もケンイチ君の仲間に── 友達として一緒に戦いたい」
小枝ゆき「私も!仲間外れは嫌だよ?」
朝日ケンイチ「俺達で先にダンジョンクリアして シンの目を覚ましてやろう!」
小枝ゆき「でも私達のレベルじゃ最下層には・・・」
太田ダイコウ「三天は明日クリアしてしまう」
朝日ケンイチ「何か突破口があれば・・・」
男子A「方法ならあるぞ」
「!?」
男子A「連合が遠征隊を募ってる。 打倒三天だとさ」
太田ダイコウ「き、君もクラスメート・・・?」
男子A「お、おう」
男子A「さっきのケンイチの話聞いて思ったんだ。 シンがああなったの・・・ 俺らのせいかもしれねぇ」
朝日ケンイチ「え・・・?」
男子A「スポーツチームで一緒だったんだけど シンの練習量についてけなくてさ」
男子A「みんなであいつを化け物呼ばわりして チームを抜けたんだ」
男子A「あいつは全国制覇を目指してて・・・ もっとマシな仲間となら優勝できるのに って思ったのかも」
朝日ケンイチ「それで集めたのが「三天」・・・?」
男子A「俺が知るかよ」
朝日ケンイチ「シンの時間はそこで止まってるのかも」
男子A「俺らは一階層どまりだけど、 おまえらなら遠征隊に参加できるんじゃ ねーの?知らねーけど」
「・・・・・・」
太田ダイコウ「ホントだ、連合の掲示板に出てる。 明日の午前十時にゲート前集合だって」
朝日ケンイチ「俺達も参加しよう!」
小枝ゆき「明日は祝日だから学校ないもんね」
朝日ケンイチ「あ!でも俺には一時間ルールが・・・」
太田ダイコウ「ゲートを使っても 一時間でクリアは無謀だよ」
小枝ゆき「何とか許してもらえないの?」
朝日ケンイチ「無理だよ・・・」
朝日ケンイチ「母さん、一時間ルールをなくしたかったら 学校の友達を家に連れてこいだなんて 絶対不可能な無理難題を・・・」
小枝ゆき「簡単だよ!」
朝日ケンイチ「へっ?」
小枝ゆき「私が明日ケンイチ君の家に 行けばいいんだよ」
朝日ケンイチ「・・・・・・っ!?」
私もAくん、バグってると思っていたら、演出だったんですね!
スゴイのと、爆笑死しました。
ブリーフ問題、切実!
ケンイチ、トランクス履いてたのか(笑)
今はボクサーパンツ多くて、完全なトランクス探すの大変なんですよね〜(あっ、私はオンナです)
次回のタイトル、もう読むの必至!
そりゃパンイチで学校来たらバレるよ…
現実とアバターのギャップ…いいですね
あとあいつはなぜ親父のブリーフを持ち歩いているんだ(戦慄)
ちらちら出てくるAくんが、バグかと思ったら本当にいた!