パンイチ冒険者ケンイチ

紅月桜

第十一話 本当は、ずっと(脚本)

パンイチ冒険者ケンイチ

紅月桜

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〇森の中の沼
プロゲーマーA「五階層って薄気味悪ぃよなぁ」
プロゲーマーB「出現モンスターは俺らの敵じゃねぇけどな」
プロゲーマーB「【火炎】と【剣技】のコンボ、 【火炎斬り】!」
プロゲーマーB「一丁あがり!」
プロゲーマーA「ニュクスもバカだよなぁ、 攻略日をわざわざ報せるなんて。 一足先にクリアするだけだっての」
プロゲーマーB「自惚れてんだろ 自分以外にゃ攻略できないって」
プロゲーマーA「アホ過ぎね? 三天の戦力でいけるなら 俺らでもいけるっての!」
ヒカリン「――【暗闇】」

〇黒背景
プロゲーマーB「ランタンの油が切れたか?」
プロゲーマーA「おかしいな、二十時間は保つはずなのに」
ヒカリン「――【泥沼】」

〇黒背景
プロゲーマーA「うおっ!? ぬかるみめっちゃ深いぞ!?」
プロゲーマーB「やべぇ、どんどん沈む!」
ヒカリン「――【混乱】」
プロゲーマーA「お、おい! 何とかしろ!」
プロゲーマーB「どうすんの!? ねぇこれどうすんの!?」
プロゲーマーA「魔法!おまえの魔法! なんかあんだろ!」
プロゲーマーB「おまえがやれよ! 早く早く早く!」
ヒカリン「――【恐怖】」

〇手
プロゲーマーA「ひぃいいいっ! 嫌だ!やめて!助けて!」
プロゲーマーB「うわああああああ! お母さぁあああん!」
ヒカリン「――【腐蝕】」
プロゲーマーA「ああああああ!? 痛い!痛いぃいいい!」
プロゲーマーB「ぎゃああああああああ!?」

〇森の中の沼
ヒカリン「ごちそうさーん」
ヒカリン「五階層で頻発していた 謎のアバターロスト事件! 犯人はヒカリンでした~☆」
ヒカリン(ワイのチャンネルの視聴者は 一階層どまりの弱者ばかり)
ヒカリン(思いあがった強者が無様に果てる、 そのザマが弱者の心を慰めてくれる。 ワイは弱いもんの味方やからな)
ヒカリン「撮りためといた五階層泥沼シリーズは 明日一挙配信していきたいと思います! ほな対あり~☆」

〇古いアパートの部屋
  第十一話 本当は、ずっと
母「ケンイチ!今何時だと思ってるの!? 一日一時間って約束でしょ!? 早く寝なさい!ねぇ聞いてる!?」
母「もう!コンセントぶち抜くからね!」
母(全然聞こえてないみたい・・・ フルダイブゲームってこうなの?)
母(強制終了したら脳に悪影響とかある・・・? 最近のゲームは何が何だかさっぱり・・・)

〇森の中の沼
ケンイチ「はぁっ、はぁっ・・・!」
  今何か聞こえた?
  耳に泥がつまって
  【聞き耳】が働かない・・・
  今はとにかく走らなきゃ!
  トロールに追いつかれる!
  くそっ、レベル一のときは倒せたのに!
  剣とナイフはトロールの腹肉に食い込んで
  抜けなくなるし
  投石紐は紐ごと投げちゃったし
ケンイチ「はぁっ、はぁっ・・・!」
  逃げなきゃ・・・捕まったら・・・
  また昔みたいに・・・

〇入り組んだ路地裏

〇森の中の沼
ケンイチ「うわっ!?」
ケンイチ「うぅ・・・」
  自分のマントを踏んでコケたのか
  トロールは追いかけてこない
  ・・・諦めた?
  どうする?
  上層へ戻る?
  下層を目指す?
  いや・・・そもそも今どこにいるんだ?
  わからない・・・
  歩こう・・・とにかく進まなきゃ
  行けども行けども沼地ばかり・・・
  ここ、さっき通った?
  同じところをグルグル回ってる?
  似たような景色ばかりでそう見えるだけ?
  わからない・・・
  口の中、まだ泥でジャリジャリする・・・
  みんなで食べた猪肉とワニ肉は
  おいしかったなぁ・・・
  温泉も気持ちよかったなぁ・・・
  こんなところ早く抜け出したい・・・
ケンイチ「!!」
  灯りが見える!
  きっと他の冒険者のたいまつだ!
  道を教えてもらおう!
  知らない人だから気まずいけど・・・
  背に腹は代えられない
ケンイチ「あのー」
ケンイチ「あのー!」
ケンイチ「すみませーん!」
  聞こえないのかな?
  もっと近づけば・・・

〇森の中の沼
  沼!?深っ!?
  なんで!?
  だってたいまつはすぐ先に・・・

〇森の中の沼
  違う・・・たいまつじゃない
  底なし沼に誘い込む鬼火だ・・・
  危なかった・・・
  とにかくここから離れよう・・・

〇森の中の沼
  高い木に登ればまわりの様子がわかるかも
  この木がよさそうだな
ケンイチ「!?」
  この木、モンスターかよ!?
ケンイチ「はぁっ、はぁっ・・・!」
  ここまで逃げれば大丈夫か・・・
  !!
  人が倒れてる!
  行き倒れ!?
  ど、どうしよう・・・
  回復魔法なんて使えないけど・・・
  支えれば歩けるかな
  もしこの人が道を知ってれば
  地上へ戻れるかもしれないし
ケンイチ「あの、大丈夫ですか?」
  ゾンビ!?

〇黒背景
ケンイチ「はぁっ、はぁっ!」
  逃げ切れた・・・
  けど装備の薄いところを噛まれた
  まさか俺もゾンビになる?
  ゾンビ化はなくても
  毒がまわったらまずい
  地上へ戻って治療しなきゃ
  早く帰ろう
  四階層のゲートへ
  襲われときたいまつを落とした・・・
  火口箱もなくした。
  何も見えない・・・
  とにかく・・・歩かなきゃ
  体が重い・・・頭がフラフラする
  熱があるみたいだ
  毒に蝕まれてる・・・
  早く・・・早く地上へ
  長い・・・いつまで歩けばいいんだ
  いつまで?
  このままずっと?
  まっ暗な中を・・・
  何の道しるべもなくて
  休める場所もなくて
  何も見えなくて
  ずっと・・・
  このままずっと・・・
ケンイチ「・・・一人で」
  ・・・・・・
ケンイチ「・・・寂しい」
  ――どうして
  寂しいなんて、そんなこと
  ずっと一人だったのに
  ずっと一人で平気だったはずなのに
  教室の隅で聞き耳を立てて、
  誰ともしゃべらず、誰とも関わらないで、
  一人きりで過ごしてきたのに
  寂しくなんか、なかったはずなのに
  どうして・・・
  どうして俺は・・・
  いつからこんなに弱くなった?
  いつから・・・

〇児童養護施設

〇黒背景
  みんなと過ごすのが楽しくて、幸せ過ぎて
  これからも一緒に生きていけるかもって
  勘違いしてしまったんだ
  あんなの
  ほんの一瞬だけの
  限られた奇跡なのに
  俺は・・・
  俺は弱くなった?
  違う・・・
  気づかないように目をそらしてただけで
  本当は・・・
  本当は、ずっと寂しかったんだ
  ・・・・・・
ケンイチ「はぁっ、はぁっ・・・!」
  だれか・・・
  だれかいないの・・・?
  だれか、
  だれか見つけて
  俺を・・・
  ──ぼくを
  ・・・・・・
ケンイチ「オータ・・・」
ケンイチ「ゆきちゃん・・・」
ケンイチ「・・・・・・」
ケンイチ「──シン」

〇森の中の沼
ニュクス「・・・・・・」
ニュクス「ゾンビかと思ったら 本当に行き倒れとはな」
ニュクス「・・・・・・」
ニュクス「僕に勝つんじゃなかったのか?」
ニュクス「・・・・・・」
ニュクス「――【治癒】」

〇城門の下(ログスポットあり)
ケンイチ「うぅ・・・」
  ここは・・・?
  地上・・・どうして?
  傷が治ってる・・・
  ・・・助けられた?
  ログアウト・・・しなきゃ

〇古いアパートの部屋
母「ケンイチ!!」
ケンイチ「え・・・朝・・・?」
母「徹夜でゲームして学校休むなんて 許さないから! 早く学校行きなさい!」

〇市街地の交差点
  ね、眠い・・・
男子A「おっ、ケンイチじゃん!」
男子A「昨日は見直したぜ シンに宣戦布告なんてよ!」
男子A「シンのやつ昔からああなんだよなぁ 女子にはモテるけど男子には人気ないぜ?」
男子A「学級委員なんてやってるけど 取り巻きはいても友達はいねぇし」
男子A「俺ぁケンイチのことは買ってんだぜ? パンイチで登校したとき思ったよ、 こいつぁ本物の漢だってな!」
男子A「おい、聞いてんのか?」
男子A「・・・すげぇ、歩きながら寝てやがる」
男子A「お、おい、赤信号だぞ」
男子A「やばっ!?」

〇赤(ダーク)
男子A「誰か・・・誰か救急車を!」
通行人「もしもし! 事故です! 子供が車に・・・!」

次のエピソード:第十二話 まだブリーフ派だった頃

コメント

  • ケンイチの一人称視点で話が進むのが新鮮でした
    今ケンイチはどんな表情をしているんだろう、と想像が働くし、それと自分もモンスターに追われているようなドキドキ感もありました!
    それにしても季節は秋で肌ざみーでさーねー(前回パンイチで読むってコメントしなきゃよかった)

  • えっ、えっ、えー!まさかの展開です!1人でいる時に自省する描写が心にグッときました🥺
    ケンイチが車にはねられるなんて…はっ!🫢まさか!病院でアレな展開ですね!次回を楽しみにしています!

  • ここにきてまさかのシリアス展開──あれ?シリア……あれ?次回タイトル???
    グンマァが恋しい。続きも楽しみです😁

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