〇鍛冶屋
老剣士「私の弟子、ですか・・・」
老剣士「まあ良いでしょう」
鍛冶屋の主人「おお!?」
老剣士「では大将、お代替わりにこの人を私の弟子に取りますよ」
鍛冶屋の主人「ああ！ ありがとう旦那 やったな、お嬢ちゃん！」
魔女「大将、ありがとうね」
老剣士「では弟子よ、これから私の職場に貴女を紹介しに行きますのでついて来なさい」
魔女「はい、師匠 大将またね、ドムにもよろしく」
鍛冶屋の主人「ああ！ 例のモノは予定通り仕上げておくぜ！」

〇黒

〇ヨーロッパの街並み
老剣士「────」
魔女「────」
老剣士「──さて、 ──ここまで来ればもう良いでしょう」
魔女「はい？ 何でしょうか？」
老剣士「歩きながら話しましょう──」
老剣士「貴女が習いたいのは──剣術では無くて、人斬りでしょう？」
魔女「────分かりますか？」
老剣士「まぁ、私もそうですから」
魔女「──へぇ、やっぱり？ 師匠を一目見て、そんな気がしたんだよ」
老剣士「貴女には、私の仕事を通して人斬りの技を伝えましょう」
魔女「師匠の仕事は──」
老剣士「貴女は、私の仕事を知って師事を請うたのでしょう？」
魔女「ええ──」
魔女「探検者──その監督員 荒くれどもの処刑人と聞いてます」
老剣士「人目の無い未開の地では、順法精神が緩むものですからね」
魔女「抵抗のあった場合、強制執行の権限が与えられる・・・」
老剣士「日によっては、そんな事もあります」
魔女「──期待してしまいます」
老剣士「一年に十人も斬れませんよ？」
老剣士「私達で分け合えば３～４人になってしまいます」
魔女「・・・なるほど」
魔女「師匠、隠居しては如何ですか？」
老剣士「なんの、まだまだ若い者より斬れますとも」
「ハハハハハハッ！」

〇ヨーロッパの街並み
老剣士「──大将の前で話せなかった事ですが、弟子入りに関して、一つ条件があります」
魔女「何なりと」
老剣士「私にはどうしても殺せない者が一人居ます 貴女の技が完成したら、殺す手伝いをして下さい」
魔女「へぇ・・・師匠が殺せない者ですか？」
老剣士「あぁ、ところで、この約束は別に守らなくても構いません」
魔女「・・・・・・は？」
老剣士「なので貴女と私の師弟関係は成立しました」
魔女「・・・アタシはヤバい奴に師事してしまう所なのかい？」
老剣士「ヤバくない殺人鬼など居ないでしょう？」
魔女「・・・・・・」
魔女「・・・さもありなん」
老剣士「むべなるかな」

〇怪しげな酒場
　　──１年後──
飲んだくれ「──なあ、支部長？」
探検者ギルド支部長「何だ？フィリップ お代わりか？」
飲んだくれ「そうだな・・・お代わりと、何か面白え話は無ぇかい？」
探検者ギルド支部長「面白い話だぁ？ 漫談家でも無い俺に、そりゃあ無茶な相談だぜ・・・」
飲んだくれ「まあな・・・ところでよ、最近この近所じゃあ、バカな事をする探検者がめっきり減っちまいやがっただろう？」
探検者ギルド支部長「良い事じゃあないか おかげ様でクレーム対応が減って、支部長の俺がお前さん給仕も出来るほどに暇が出来た」
飲んだくれ「そういうバカどもを酒の肴にしていた俺からすれば、詰まんなくなったんだよ・・・」
飲んだくれ「どいつもこいつも監督員にビビってよ～ 皆～んなお行儀良くなりやがって」
老剣士「こんにちは、支部長 依頼の報告に来ました」
探検者ギルド支部長「お帰り！ お嬢ちゃんの姿が見えないが、無事かい？」
老剣士「えぇ、鍛冶屋に行ってます 彼女の得物は細かいメンテナンスが要りますからね」
飲んだくれ「よぅ、処刑人！ 今度はどいつをぶっ殺して来たんだ？」
探検者ギルド支部長「オイ!? フィリップ！」
老剣士「今回は人間じゃあ無いですよ」
探検者ギルド支部長「・・・依頼は調査だったハズだが、解決までしたのか？」
老剣士「ええ、弟子に助けられました」
飲んだくれ「ハハッ、人間じゃあ無けりゃ何を殺して来たんだ？」
探検者ギルド支部長「フィリップ、お前、飲み過ぎだろうと──」
老剣士「亜龍です」
「・・・・・・」
飲んだくれ「アン？ 酔っ払った俺の聞き間違いか？」
探検者ギルド支部長「いや・・・それはチョッと・・・」
「・・・・・・」
飲んだくれ「・・・マジ？」
老剣士「ハイ、本当です」
老剣士「おかげで、霧の都市では大騒ぎになりました」
老剣士「あぁ、一応の捕捉ですが私の手柄ではありません」
老剣士「全て手柄は弟子のモノですよ」

〇鍛冶屋
魔女「それじゃあ、よろしく頼むよ」
鍛冶屋の主人「オイオイ、こりゃあ随分と傷んだな？」
鍛冶屋の主人「連節剣とはいえ、一週間でこんなに損耗するとは・・・」