2.思いがけず惹かれる(脚本)
〇カウンター席
実際に会ってみると、yomoくんは想像していたよりずっとビジュアルの整った青年だった。
鈴音「はじめまして。mikuです」
眞幌「ども、yomoです」
黒のジーンズにグレーのパーカーは、彼の細い体型によく似合っていた。
髪は綺麗に色の抜けたグレーで、両眼はうっすら青みがかっている。
眞幌「とりあえず座る?」
鈴音「あ、うん」
目の前に座った彼の顔をチラリと盗み見る。
鈴音(若く見えるけど、何歳なんだろう・・・・・・)
全体に落ち着いたオーラを感じる人だ。
今まで出会ったどの男性とも違う空気。
眞幌「・・・・・・」
鈴音「・・・・・・」
鈴音(か、会話がない!)
鈴音「な、なんか、実際に会うと会話ってすぐに見つからないもんだね!」
そう言うと、彼はクスクスと笑った。
眞幌「mikuさんって結構な世間知らず?」
急に幼い子供みたいな笑顔になるから、少し驚く。
鈴音「どうだろう。yomoくんより歳は上っぽいけどね」
眞幌「あー・・・・・・その呼び名、さ」
彼は一瞬どうしようか迷ったような表情をした後、私を見る
眞幌「yomoっていうのは猫の“よもぎ”って名前から取ってるんだ」
鈴音「猫ちゃん?」
眞幌「ん。俺の本当の名前は“まほろ“。難しい方の真って字に札幌の幌」
鈴音「そっか、眞幌くんか」
眞幌「そ、だからこれからは本名で呼んでよ」
鈴音「うん。わかった」
(信頼されたってことでいいのかな)
実の名を明かされただけでなんだか妙に嬉しい。
同じ流れで、私も自分の本名を明かした。
眞幌「すずね?」
鈴音「そう。mikuは姉の名前なんだ」
眞幌「へえ、漢字は?」
鈴音「リンリン鳴る鈴に、音楽の音だよ」
眞幌「鈴に音・・・・・・鈴音ちゃん、かぁ」
眞幌「いいね」
弾けそうな笑顔を前に、体内の血が一気に沸騰しそうな感覚になる。
(こんなふうに自分の名前を丁寧に口にしてくれた人はいなかったな)
些細なことだけれど、じわりと嬉しさが胸に広がった。
(出会いに慣れた擦れた人なのかと思ったけど、そうでもないのかな)
眞幌が案外優しげな微笑みを見せるから、期待が高まってしまう。
(仲よくなれそう)
鈴音「眞幌くんが普通の人で良かった」
眞幌「普通?」
眞幌「普通ってどういう人間のこと言ってるの?」
彼の瞳が鋭くなったのがわかって、ドキッとなる。
鈴音「えっと・・・・・・なんか変な人だったらちょっと困ったかもしれないし」
眞幌「変? 禿げたオヤジだったら、逃げて帰ったってこと?」
鈴音「そういうわけじゃないけど・・・・・・」
自分の考えや言葉が薄っぺらな気がして、妙な焦りを感じる。
軽く言葉を口にしたとたん、彼の興味が冷めてしまいそうで怖い。
眞幌「で、鈴音ちゃん。俺とこの後の時間どうしたい?」
鈴音「え? どう・・・・・・って」
- このエピソードを読むには
会員登録/ログインが必要です! - 会員登録する(無料)