鎖女の話をするな

鳥谷綾斗🎩🦉(たまに風花ユク❄️)

第8話/広まってしまえ、鎖女(脚本)

鎖女の話をするな

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〇学校の駐輪場
柏木「師匠、突然のお電話失礼します。 鎖女に関する報告の返信を拝読しました」
柏木「・・・まさか、鎖女の話のモデルとなった人物が実在していたなんて」
柏木「・・・なんの罪もない女性が、あんな惨たらしい殺害方法で命を奪われただなんて・・・」
柏木「事件が起こった昭和××年当時、報道が事件そのものを隠したのも頷けます」
柏木「人間のやることじゃない・・・」
柏木「・・・ええ、そうですね」
柏木「人間のやったこと・・・ですね」
柏木「事件の報道そのものは控えられても、一部のカストリ雑誌が記事にしたそうで」
柏木「・・・いつの時代も、マスゴミというのはいるものですね」
柏木「その記事が元で、『鎖女の話』が人々の間で流れた」
柏木「『悲惨な死』とは、それだけで人の興味を引きますから・・・」
柏木「なんとか完全に浄化して差し上げたいです、俺は」
柏木「生者のためにも、──死者のためにも」
柏木「それで考えたのですが」
柏木「鎖女が浄化されても戻ってくるのは、ひょっとして──」
ユウナ「柏木先輩っ!」
柏木「君は、莉々子の友達の・・・」
ユウナ「助けてください!」
ユウナ「莉々子が大変なんですっ!」

〇教室
莉々子「──それでね」
莉々子「この話をした人の前に、鎖女は現れるの」
クラスメイト「ふーん、怖ぇー」
クラスメイト「お、推しのガチャ引けた」
莉々子「(スマホから目も離さずに・・・完全聞き流してんじゃん)」
莉々子((まあいっか。『話す』ことが重要なんだもんね))
クラスメイト「もういいか? 鎖の女の話、終わった?」
莉々子「うん。ありがとう」
莉々子「これ、約束のお礼の500円」
クラスメイト「アザース」
莉々子「・・・ふう」
莉々子((これで7人目か))
莉々子((あと3人は話したい。  人数が多いほど、鎖女も早く来るはず))
莉々子((残りのおこづかい、いくら残ってるかな))
柏木「莉々子!」
莉々子「!? かっ・・・」
莉々子「かしわぎ・・・せんぱい」
莉々子((我ながら、ゼッタイ頭おかしい))
莉々子((先輩、すごく怒ってるのに))
莉々子((嬉しくてたまらないよ・・・!!))
  やばい、泣きそう。
柏木「どういうつもりだ」
柏木「鎖女の話を広めているだなんて!!」
莉々子「・・・・・・ッ!!」
ユウナ「莉々子・・・」
莉々子((ああ、ユウナが教えたのか))
莉々子((あたしのことなんてほっとけばいいのに、お節介だなあ))
莉々子((・・・あ、違うや))
莉々子((ユウナは優しいんだ。  ──あたしと違って))
柏木「金まで払ってクラスメイトに聞かせるだなんて」
柏木「どんな目に遭うか理解しているはずだろう、 何を考えているんだ!」
莉々子「・・・っ!!」
莉々子((・・・だって))
莉々子((だってだって、だって!!))
莉々子((こうでもしないと、先輩は!!))
莉々子「先輩が悪いんです!!」
ユウナ「莉々子! 待って!」

〇階段の踊り場
  空き教室だらけの4階まで全力疾走した。
莉々子「はあ、はあ・・・」
莉々子「う・・・」
莉々子「う、ううっ・・・」
莉々子「先輩のばかやろう・・・っ!!」
莉々子((なんで鎖女の話を広めるかって?))
莉々子((決まってんじゃん))
莉々子「鎖女の話をしたら、 エミリじゃなくてあたしの前に現れて、」
莉々子「また先輩と一緒にいられる・・・」
  ぽた、ぽた
  涙が床に落ちる。

〇階段の踊り場
莉々子「ひどいよ、先輩・・・」
莉々子((あたしが生きる景色に色を与えておいて))
莉々子((急に放り出すなんて))
  もう嫌だ。まっくらだ。
  またあたしは、無色彩で無着色で乾ききった世界に戻ってしまった。
莉々子「先輩ぃ・・・!!」
莉々子「・・・」
莉々子「もう、どうにでもなれ・・・だ」

〇SNSの画面
  鎖女の話を知っていますか。
  全身に鎖を巻いて、ボロボロの服を着た女です。
  この話をすれば、数日以内に、あなたの前に鎖女が現れます。

〇階段の踊り場
莉々子((あたしのアカウントだけじゃ足りない))
莉々子((フォロワー、芸能人や有名人、企業や公式アカに、片っ端から))
莉々子「(コピペコピペコピペコピペコピペコピペコピペコピペコピペコピペコピペコピペコピペコピペコピペコピペ)」
莉々子「・・・広まれ」
莉々子「広まってしまえ、鎖女──」
エミリ「──莉々子」

〇階段の踊り場
莉々子「エミリ!?」
莉々子「・・・何の用?」
エミリ「単刀直入に言うわ」
エミリ「『あの女の話』を広めるのはやめて!」
莉々子「!?」
エミリ「・・・あなただってもうあの化け物に遭遇したくないでしょ?」
莉々子((鎖女とは会いたくないよ。先輩と一緒にいたいだけ))
エミリ「・・・私、少し調べたの。 幽霊とか、怪異とか、そういうモノを」
エミリ「怪異ってね、 話をするだけ、頭で考えるだけで、 引き寄せる効果があるのよ」
エミリ「怪異を知る人が増えれば増えるほど、力を持つわ」
エミリ「一番の対処法は『忘れること』。 風化させれば、どんな恐ろしい怪異だって、存在できなくなる」
エミリ「もう忘れましょうよ・・・あの女のことも」
エミリ「柏木先輩のことも・・・」
莉々子((エミリも・・・分かってるんだ))
莉々子((──でも))
莉々子「・・・どれほど恐ろしい、命に関わることでも」
莉々子「『何も無い』よりはマシなんだよ!」
莉々子「エミリはいいよ。 美人だし、成績もいいし、クラスでも一目置かれている!」
莉々子「だからあたしの気持ちなんて分からない!」
莉々子「あたしみたいな・・・」
莉々子「いてもいなくてもいい、軽い存在・・・」
莉々子「耐えられないくらい、自分の存在が軽いって自覚している人間の気持ちは・・・」
  路傍の石ころでは在りたくない。
  せめて好きな人の前くらいでは、
  あたしだって、唯一の存在になりたい
莉々子「(SNSの通知・・・え!?)」
莉々子「鎖女のツイート、すごいバズってる・・・」
エミリ「バカじゃないの! なんでそんなことしたのよ!」
エミリ「もう知らない!!」
莉々子「・・・」
ユウナ「莉々子! やっと見つけた!!」
莉々子「ユウナ・・・!」
ユウナ「ねえ、戻ろう? 莉々子の気持ちは分かったから」
ユウナ「お願いだから、もうやめてよぉ・・・!!」
  ユウナがあたしの腕をつかんだ、
  その時

〇階段の踊り場
  ・・・ジャラッ・・・
  ・・・ジャラッ、ジャラッ・・・
  来    た
×××「・・・ハァ──・・・」
×××「・・・や め ろ・・・」
  鎖   女

次のエピソード:第9話/ラストバトル

コメント

  • 莉々子ちゃんの悲痛な思い、胸に刺さりますね。すごく共感してしまいました。鎖女の正体と真相も明らかになり始めましたが、ラストの登場シーンはゾクリとしました……

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