特異地蔵譚

わらやま

募集 オーデュボン地蔵 対策課(脚本)

特異地蔵譚

わらやま

今すぐ読む

特異地蔵譚
この作品をTapNovel形式で読もう!
この作品をTapNovel形式で読もう!

今すぐ読む

〇小型船の上
不動 明夫「本当にこの現代に地図にない有人島なんてあるの?」
識者「うーむ、たしかに考えにくいが、等々力という人間が言うには小木島という島がこの沖合にあるらしい」
識者「一種の鎖国状態にあるとか・・・」
不動 明夫「なんかファンタジーな島だね・・・」
識者(お前の存在も大概なんだが・・・)
不動 明夫「てか、この辺天気悪すぎない!?さっきまでピーカンだったのに!!」
識者「うーん、雨雲レーダーには特に映ってないんだがおかしいなぁ・・・!?」
不動 明夫「ちょっと!!オジサン!! ちゃんと操縦しっかりしてよ!!」
不動 明夫「な、なに!?今の音!?」
識者「まずいぞ!!岩にぶつかったみたいだ!!」
不動 明夫「エンジンが!?」
識者「ま、まずいっ!!伏せろっ!!」

〇黒
識者「・・・・・・」
  オイ!!
  オイ!!アンタッ!!
識者「ん・・・!?」

〇海辺
日野「オイッ!!」
識者「はっ!!」
日野「よかった。生きてたよ」
識者「こ、ここは・・・!?」
日野「ここは小木島で、俺は通りすがりの日野ってもんだ。オッサンが倒れてたから介抱してたんだよ」
日野「あんた誰だ!?外から来たのか!?」
識者「外・・・!? 私は・・・!?」
識者「私は・・・誰だ!?」
識者「お、思い出せない・・・」
日野「なんだぁ!!記憶喪失ってやつかぁ!?」
日野「名前とかわからねぇのかよ・・・!?」
識者「名前・・・分からない・・・」
日野「まじかよ・・・」
日野「でもアンタびしょ濡れだから多分外部から来たんだよ。島の人間なら服を着たままびしょ濡れになることなんて考えにくいからな」
識者「そう・・・なのか・・・」
日野「うーん」
日野「まぁ、とりあえずこれも何かの縁だ・・・ とりあえずうちのアパートに来いよ」
識者「いいんですか!? 申し訳ないです・・・」
日野「そこで服も着替えな・・・えっと・・・」
日野「そうか名前わからないんだよなぁ・・・ なんて呼べばいいんだ・・・!?」
日野「うーん、あんた賢そうだからとりあえず『識者』って呼ぶことにするよ」
識者「はは、そうですか!? まぁ、なんでもいいです。ありがとうございます」

〇アパートの台所
日野「悪いな、そんな服しかなくて」
識者「はは、いえ、お構いなく。 こうしていると本当に『識者』になったみたいですね」
日野「なんか覚えている事はないのか!?」
識者「それが名前や職業とかはさっぱりで・・・ ただ、日野さんが言うように私はこの島の人間ではない事は間違いないと思います」
識者「何か目的があってこの島に来た・・・そんな気がするんてす・・・」
日野「この島は・・・基本的に外部との繋がりは絶っているんだ」
日野「あんたはおそらく等々力のオッサンにここの話を聞いて来たんだろうな」
識者「おぼろげながら、そんな気がします」
識者「何かこの島に変わったものはありますか!?」
日野「変わったものといっても、俺にとってはここでの暮らしが日常だからなぁ」
日野「うーん・・・もしかしてあれかなぁ!?」
日野「この島には『画家の地蔵』がいる」
識者「はい?」
日野「画家の地蔵だ。名をヒューゴーと言う。人のように話し、いつも絵を描いている」
日野「そして、あいつが描いた鳥の絵は描き終えると本物の鳥になるんだ」
識者「そ、そんな奇妙な地蔵がいるわけないだろ!?」
識者「ツッ・・・!!」
日野「どうした!?」
識者「いえ、今何か思い出せそうだったんですが・・・」
日野「そっちの地蔵は絵を描いたり話したりしないのか!?」
識者「地蔵が・・・話すわけないだろっ!!」
識者「グッ・・・」
日野「もしかしたら識者が来た理由はヒューゴーなのかもしれないな」
識者「たしかに何か頭に響くような気がします」
日野「わかった。案内しよう」

〇田舎道
日野「・・・で、基本自給自足でみんな暮らしてんだ。市場もあるんだぜ」
日野「それに蕎麦やうどんも自分達で作って食べてるしな。食には困らないんだ」
識者「なるほど・・・」
日野「ところで、来たばっかの識者に聞くのも違う気はするんだが」
日野「言い伝えではこの島には”欠けているもの”ってのがあるらしいんだ」
日野「何か気づかないか?」
識者「欠けているもの・・・ですか・・・?」
識者「私には”記憶”が欠けていますが、そういうことではないですよね?」
日野「それは違うなぁ・・・」
識者「うーん・・・分からないですね・・・」
日野「そうか・・・。まぁ、何か気づいたら教えてくれよな」
日野「ほら!!着いたぜ!!あれがヒューゴーだ」

〇田舎道
ヒューゴー「おや、日野さんですか!?」
識者「ほ、本当に地蔵が喋っているぞ!!」
日野「だからそう言ってたじゃないか」
日野「ようヒューゴー、絵は描けているかい!?」
ヒューゴー「ええ、今日もたくさん描いています。そちらの方は?」
日野「識者ってんだ」
ヒューゴー「へぇー、識者さん、変わったお名前ですね」
識者「いや名前ではないんですが」
識者「ヒューゴー?さん、あなたは画家の地蔵なんですか・・・!?」
ヒューゴー「ええ、そうです。 私はここで鳥の絵を描いているんです」
ヒューゴー「リョコウバトという鳥です。今描き終わりました。ほら、こんな鳥です」
識者「本当に描いた絵が具現化した・・・」
識者「リョコウバト・・・たしか昔乱獲にあって絶滅したとかいう・・・」
日野(そういう記憶はあるんだな)
日野「毎回、描かれた鳥はどこかにいっちまうんだ」
識者「ここでずっとリョコウバトを描いているのですか!?」
ヒューゴー「ええ、私はリョコウバトが好きなんです」
ヒューゴー「人間の都合で絶滅してしまった儚さも含めて」
識者「人間は・・・勝手ですな」
日野「識者は記憶を無くしてしまってるんだ。でも、ヒューゴーに用事があったみたいでよ」
ヒューゴー「私に用事ですか・・・?」
識者「うーん、それが思い出せなくて・・・」
  おじさん!!

〇田舎道
不動 明夫「やっと見つけたよ」
識者「君は・・・誰だ!?」
不動 明夫「誰って・・・」
不動 明夫「なにふざけてんの!?格好も何故か白衣になってるし・・・」
ヒューゴー「あなたは・・・」
不動 明夫「あ!!いるじゃん!!もう見つけてたの!?」
ヒューゴー「あなたも・・・地蔵ですね」
識者「ヒューゴーさん、何を言っているんですか!? この子が地蔵だなんて!?」
不動 明夫「おじさんが何言ってんの!? なんか調子狂うなぁ」
ヒューゴー「識者さんは記憶を失っているみたいです」
不動 明夫「・・・名前知ってんじゃん」
識者「よくは分からないが、私は君とこの島に来たのかい!?」
不動 明夫「そうだよ!!特異地蔵の確認の任務!!」
識者「特異地蔵・・・!?任務・・・!?」
識者「うっ、頭が・・・」
不動 明夫「おじさんがその調子だと困るよ!!僕には地蔵の処遇決定の権限無いんだから!!」
不動 明夫「それにいつまでも記憶喪失だったら・・・」
不動 明夫「本土に戻って大好きなラーメンも食べられないよ」
識者「思い出したぞ・・・」
識者「私の名前は『識者』だ!!」
ヒューゴー「さっきからそう言ってましたけど・・・」
不動 明夫「なんで地蔵じゃなくてラーメンの方で思い出すんだよ」
識者「不動すまなかったな」
識者「さて、ヒューゴーさん」
識者「我々は人に仇なす特異地蔵は破壊せねばならない」
識者「見たところ、あなたはここで絵を描いているだけのようだね」
ヒューゴー「ええ、そうですよ」
識者「としたいところですが・・・」
識者「ヒューゴーさん・・・残念ながら・・・この島にあなたは迷惑をかけてしまっている」
ヒューゴー「そんなまさか!!」
不動 明夫「え、おじさん・・・僕まだ分かんないだけど・・・」
識者「不動、この島の上空を覆う暗雲を、眼をこらしてよく見てみろ」
不動 明夫「う、うん・・・」
不動明王地蔵「オ、オイッ!!ありゃあ・・・」

〇雲の上
不動明王地蔵「雲じゃねぇ!!大量の鳥だ!!」

〇田舎道
不動明王地蔵「な、なんであんな大量の鳥が・・・!?」
識者「リョコウバトだ」
識者「今は絶滅したリョコウバトだが、昔は空を覆い尽くすレベルで存在していた」
識者「ヒューゴーさん、あなたの描いたリョコウバトは具現化して以降、ずっと空に留まっているんだ」
識者「おそらく創造主であるあなたから一定以上の距離離れられないのだろう」
識者「何十年もかけて、暗雲としか認識出来ない大群を形成したんだな」
ヒューゴー「まさか・・・そんな・・・」
不動明王地蔵「特異地蔵ってのは自分の能力限界を把握出来ない場合もあるからな・・・」
識者「ヒューゴーさん・・・念のため聞きます」
識者「リョコウバトを描く事を辞められますか?」
ヒューゴー「・・・」
ヒューゴー「無理ですね、どうやらリョコウバトの絵を描くことが一種の使命になっているようです」
ヒューゴー「今もその事実を聞いてなお、手がリョコウバトを描こうとしています」
識者「そうですか、ではやむを得ない・・・」
識者「不動・・・頼む」
不動明王地蔵「・・・わかったよ」
不動明王地蔵「すまねぇな」
ヒューゴー「いえ、やむをえません。それに・・・」
ヒューゴー「私のせいでリョコウバトがどこにも行けない目にあっていたなんて悲しいです」
ヒューゴー「あの子達を解放してあげてください」
不動明王地蔵「ああ」
不動明王地蔵「オラァァ」

〇田舎道
日野「お、俺が産まれた時からあった暗雲が消えた!!」
日野「まさか、ヒューゴーの力のせいだったとは」
識者「日野さん、すまない」
日野「・・・いや、いいよ。ヒューゴーも人に迷惑をかけてまで、絵は描きたくなかったと思うしな」
日野「そして、今ならわかる・・・ この島に欠けていたもの・・・」
識者「ああ、私も記憶が戻った今、はっきりとわかる」
不動明王地蔵「よくわからねぇけど、そんなの分かりきった事だろ」
「この島に欠けていたものは・・・」
「ラーメンだな!  俺だな!  太陽だな!」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・」
識者「まぁ、答えは各々の心の中にあるということで・・・」
不動明王地蔵「多分なんか明確な答えがあるんだろうけどな」
日野「俺たちでは気づけない何かが・・・」

次のエピソード:募集 番外編 恋のお守り地蔵

コメント

  • 無茶振り作品を形に成し得てくださって、ありがとうございました🙇‍♀️
    お爺さんファンとして、お爺さんが居ないのは少し物足りなかったですが、わらやま先生のファンとして、題材をストーリー化してもらえただけでも本望です!

    そして、やはり"かかし"の存在と"地蔵"の存在と"リョコウバト"と"欠けた物"、上手く絡めて頂いて、頼んだ甲斐がありました!
    本当にありがとうございました🙇‍♀️

ページTOPへ