エピソード2 妖精の国(脚本)
〇城の客室
アザミ「ねぇ、お母さん・・・」
アザミの母親「なぁに?」
アザミ「妖精って、怖くないよね?」
アザミの母親「どうしたの、急に?」
アザミ「今日ね、セージと妖精の話をしてたんだけど・・・」
アザミ「妖精は、人を攫ったり、命を奪ったりするって言ってたの」
アザミ「・・・そんなこと、ないよね?」
アザミの母親「あら、あんなに妖精のことを好きだって言っていたのに、怖くなっちゃった?」
アザミ「違うよっ!怖くないもんっ!」
アザミ「でも・・・攫われちゃったらどうしよう・・・」
アザミの父親「アザミが攫われちゃうのかっ!?」
アザミ「お父さんっ!」
アザミの父親「アザミ〜、攫われないでくれ〜!」
アザミ「お父さん!もしもの話よっ!」
アザミの父親「もしもの話かっ!」
アザミ「そうよっ!」
アザミ「もしも、私が攫われたら・・・」
アザミ「どうする?」
アザミの父親「そのときはもちろん──」
アザミの父親「父さんが助けに行くさ!」
アザミ「えー、お父さん弱いから妖精に負けちゃうよ?」
アザミの母親「フフッ、そうね」
アザミの父親「母さんまで!!」
アザミの母親「でも、大丈夫よ」
アザミの母親「確かに、お父さんは弱いけど」
アザミの母親「アザミへの愛は、誰にも負けないわ」
アザミの母親「お母さんだって、そう」
アザミの母親「アザミはね、みんなから愛されているのよ」
アザミの母親「だから、もしもアザミが妖精に攫われたとしても」
アザミの母親「私たちみんなで、あなたを助けに行くわ」
アザミ「お父さん・・・お母さん・・・」
アザミの母親「それに・・・」
アザミの母親「きっとセージくんも、来てくれると思うわ」
アザミ「何でセージがくるのよ!?」
アザミの父親「セージくんが、どうしたんだっ!?」
アザミの母親「フフッ」
アザミの母親「もう遅いから、寝ましょうか」
アザミ「お母さんっ!!」
〇貴族の部屋
アザミ「・・・」
アザミ「お母さんっ!!」
気が付いたら私は、知らない部屋のベッドの上で寝ていた
アザミ(夢・・・か)
アザミ(でも・・・)
アザミ(みんなが殺されたのは・・・)
アザミ(夢じゃないのね・・・)
私は、純白のドレスに付着した真っ赤な血を見て──
現実を受け入れた
ビオラ「お目覚めになられましたか」
アザミ「・・・あなたは誰?」
ビオラ「私は、ビオラと申します」
アザミ「ここは・・・どこなの?」
ビオラ「ここは、妖精の国でございます」
アザミ「妖精の国・・・」
アザミ「妖精の王が現れて・・・」
アザミ「セージが殺されて・・・」
アザミ「みんなも燃やされて・・・」
アザミ「もう、訳が分からないっ!!」
ビオラ「どうぞ」
アザミ「これは?」
ビオラ「ハーブティーでございます」
ビオラ「これを飲んで、少し落ち着かれてはいかがでしょうか?」
アザミ「・・・」
アザミ「ゴクッ・・・」
アザミ「温かい・・・」
ビオラ「落ち着かれましたら、お召し物をお取り替えください」
ビオラ「部屋の外でお待ちしております」
〇モヤモヤ
アザミ(セージは、殺された)
アザミ(それにみんなも・・・)
アザミ(そして、私は攫われて、妖精の国に来た)
アザミ(・・・どれもこれも全部、あの男のせい)
アザミ(絶対に許さない!!)
アザミ(私から、全てを奪った妖精王に──)
アザミ(復讐してやる!!)
〇貴族の部屋
ビオラ「とてもお似合いでございます、アザミ様」
アザミ「・・・ありがとう」
ビオラ「リンゴでございます。お召し上がりになりますか?」
アザミ「・・・ええ。いただくわ」
ビオラは果物ナイフを取り出し、リンゴを剥き始めた
ビオラ「どうぞ」
アザミ「ありがとう」
アザミ「・・・そう言えばここは、妖精の国って言っていたわよね?」
ビオラ「はい」
アザミ「・・・ということは、あなたも妖精なの?」
ビオラ「はい。妖精でございます」
アザミ「見た目は・・・人間と変わらないわね」
ビオラ「はい。そのようですね。違いと言えば、魔法が使えることぐらいでしょうか?」
アザミ「魔法が使えるの?」
アザミ「見てみたい!」
ビオラ「では、簡単な魔法を少し」
アザミ「すごい!何もないところから花びらが!」
アザミ(そうか・・・)
アザミ(セージの身体を貫いたのも、妖精王の魔法だったってわけね)
アザミ「とりあえず、妖精がいることは分かったわ」
アザミ「その妖精の国に、何故私は、連れてこられたの?」
ビオラ「はい。ダリア様は、アザミ様をお妃にするとおっしゃっておりました」
アザミ「妃?人間の私を?」
ビオラ「はい。ダリア様は、美しいものが大好きでいらっしゃいますので」
アザミ(私なんかより、妖精のこの子の方がずっと綺麗じゃない・・・)
私は、心の中でそう思ったが口には出さなかった
アザミ(でも、私を妃にしたいってことは・・・)
アザミ(少なくとも、私を殺すつもりはないってことよね)
アザミ(それなら、きっと、復讐するチャンスはあるはずだわ!!)
アザミ「ねぇ、ビオラさん?」
ビオラ「ビオラとお呼びください」
アザミ「ねぇ、ビオラ。部屋の外を案内してくれないかしら?」
アザミ「妖精の国を、見てみたいの」
ビオラ「かしこまりました。ご案内します」
アザミ「残りのリンゴを食べてから行くから」
アザミ「先に、部屋の外に出ておいてくれる?」
ビオラ「かしこまりました」
アザミ(・・・)
私は、部屋のドアが閉まったことを確認し──
テーブルの上にある果物ナイフを、ドレスの中に隠した
〇華やかな裏庭
ビオラ「いかがでしょうか?」
アザミ「そうね・・・」
アザミ「妖精の国というから、もっと幻想的な風景を想像していたけれど」
アザミ「案外、人間の世界と変わらないのね」
ビオラ「それは、人間たちが妖精の国を真似ているからです」
アザミ「そうなの?」
ビオラ「はい。人間たちは、妖精の国から自然を奪い──」
ビオラ「宝石や宝物を奪い──」
ビオラ「知識や技術を奪い──」
ビオラ「発展していったのです」
アザミ「・・・妖精は、人間を嫌っているの?」
ビオラ「はい。ほとんどの妖精がそうです」
ビオラ「ダリア様を除いて」
アザミ「嘘!あの男は、人間を嫌っているはずよ!」
ビオラ「いいえ。ダリア様は、人間に興味を持っておられます」
ビオラ「ですから、たびたび人間の国を訪れているのです」
アザミ「だったら・・・何でセージやみんなを殺したって言うの!?」
ビオラ「それは単に──」
ビオラ「アザミ様をお連れするのに、その人間たちが邪魔だったからでしょう」
アザミ「そんな・・・!!」
アザミ(そんな理由で・・・みんな殺されたって言うの!?)
アザミ(許せない!!)
アザミ「妖精王は、どこにいるの?」
ビオラ「この時間であれば、庭園にいらっしゃるかと思います」
ビオラ「お会いになられますか?」
アザミ「ええ。連れて行ってちょうだい」
アザミ「私を、妖精王の目の前に!」
ビオラ「・・・かしこまりました」
〇華やかな広場
ビオラ「ダリア様、アザミ様をお連れしました」
ダリア「やぁ、アザミ。目が覚めたか」
ダリア「昨日は、余と話している最中に気を失ってしまったからね」
ダリア「疲れていたのかな」
ダリア「どうだい?今の気分は?」
アザミ「あんたを・・・」
アザミ「殺してやりたい気分よ!!」
私は、隠し持っていた果物ナイフを、妖精王に突き出した
アザミ(くっ・・・魔法で防がれた!)
ダリア「ハハッ、ずいぶんと積極的じゃないか」
ダリア「何か気に入らないことでも、あったかい?」
アザミ「あんたが・・・!!」
アザミ「あんたが奪ったからでしょう!?」
アザミ「私の大切なもの、全てを!!」
ダリア「大切なもの?」
ダリア「ああ、あの人間たちのことか」
ダリア「いいじゃないか、いなくなっても」
ダリア「あの人間たち以上に」
ダリア「余がお前を愛してやるから──」
私は、妖精王の頬を思いっきり引っ叩いた
アザミ「あの人たち以上に・・・」
アザミ「ですって!?」
アザミ「軽々しく、そんなこと言わないで!!」
アザミ「私の家族が、どれだけ私を愛していたか!!」
アザミ「セージが、どれだけ私を愛していたか!!」
アザミ「そんなことも分からないくせに!!」
アザミ「あの人たち以上に私を愛するだなんて、言わないでっ!!」
私は、悔しくて──
でも、泣くことしかできなくて──
たまらずに、その場から逃げ去った
〇華やかな広場
ビオラ「大丈夫ですか、ダリア様?」
ダリア「頬を・・・」
ダリア「ぶたれた・・・」
ビオラ「アザミ様を殺しますか?」
ダリア「・・・いや、いい」
ダリア「少し、考えさせてくれ」
ダリア「君は、アザミの側についてあげてくれ」
ビオラ「かしこまりました」
〇華やかな裏庭
アザミ(最悪!!最悪!!最悪──!!)
アザミ(あの男の目の前まで行ったのに!!)
アザミ(殺せなかった!!)
アザミ(みんなの仇を討てなかった!!)
アザミ(お父さん・・・)
アザミ(お母さん・・・)
アザミ(セージ・・・)
アザミ(みんな、私を助けに来てよぉ・・・)
ビオラ「アザミ様、ここにいらっしゃいましたか」
アザミ「ビオラ!」
アザミ「私を・・・どうする気?」
ビオラ「どうもいたしません」
ビオラ「お部屋にお連れするだけです」
アザミ「嘘・・・私は妖精王を殺そうとしたのよ?」
ビオラ「その妖精王様が、アザミ様のお側につくようにおっしゃられましたので」
アザミ(・・・どういうつもり?)
アザミ(私の殺意なんて、あの男にとっては何の意味もないの?)
アザミ(・・・いいえ、しっかりしなさい、アザミ!!)
アザミ(みんなの仇を打てるのは、私しかいないのよ!!)
アザミ(果物ナイフで刺そうとしたら、魔法で防がれたけれど──)
アザミ(防いだってことは、攻撃自体は有効なはず!!)
アザミ(妖精と言っても、魔法が使えるだけの、人間に似た生き物よ)
アザミ(殺し方はいくらでもあるはず!)
アザミ(妖精王が私を放っておくというのなら、私にとってもチャンス!!)
アザミ(まずは、あの男に近づいて)
アザミ(妃にでもなれば、きっと隙も見せるはず)
アザミ(みんな見ていて)
アザミ(どんな手を使ってでも必ず──)
アザミ(私が、妖精王を殺すから!!)
妖精と人間は見た目が同じ、でもその心の作りというか感情のあり方が少し違う気がしますね。主を殺されかけたのにビオラには一点の悔しさもない。自分の果物ナイフを奪われたという自責の念もない。果たして妖精王、彼の愛するという感情や態度は人のそれと似ているものなのか、違うかも興味深いです。
ナイフを魔法で防がれたことで、ダリアに攻撃は通じるはずだと分析出来るアザミさん、冷静で強いです…。ダリアが抱いている愛に偽りはないのでしょうが、アザミにとっては復讐の対象でしかないですよね…。