ハニーブレッド

入江恵衣

1話. 甘い蜜(脚本)

ハニーブレッド

入江恵衣

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〇ラブホテル
「んん・・・」

〇ラブホテルの部屋
鏑木芹那「あ・・・」
金原康太「どうした?」
鏑木芹那「甘い匂いがする・・・」
金原康太「ボディソープの匂いとか?」
鏑木芹那「ううん、そんなんじゃなくて・・・」
鏑木芹那「ゆっくりと、トロけていくような」
鏑木芹那「甘い蜜の匂い・・・」
金原康太「はは、なにそれ」
鏑木芹那「康太の香水じゃないの?」
金原康太「俺、香水つけないもん」
鏑木芹那「エッチの時にはいつも香るから、てっきり康太の匂いかと・・・」
金原康太「そんなことよりさ」
金原康太「今日のプレゼンはテンポ良くて最高だったよ」
金原康太「芹那があの場でラフデザインを描き上げてくれたおかげだな」
金原康太「あれで話が一気に進んだよ」
鏑木芹那「あの構成を思いついた康太のおかげでしょ」
金原康太「いや、芹那のおかげだよ」
金原康太「他のデザイナーだったら間違いなく会社へ持ち帰ってたぜ」
金原康太「俺の頭の中を素早く、正確にデザインへ落とし込めるデザイナーは芹那の他にいないよ」
鏑木芹那「康太とはいつも一緒にいるからね。私だからできる芸当よ」
金原康太「だな」
金原康太「仕事がうまくいった後の 芹那とのSEXは最高に気持ちがいいし」
金原康太「相性抜群のビジネスパートナーに巡り合えた俺は幸せ者だね」
鏑木芹那「康太」

〇黄色(ダーク)
  理性から解放された人間は、まさに獣そのものだ
  身震いするほどの甘い痺れに翻弄され
  頭の先から爪の先まで、身体から一切の自我が消え失せる
  野生となった2人を包むのは、深くて暗い欲望の海
  汗ばむ背中にしがみつくのは
  一人で溺れるのが怖いのか、もしくは2人で奈落の底へと沈みたいのか
  それとも
  相手をこの手で沈めたいのか──

〇大企業のオフィスビル

〇オフィスのフロア
鏑木芹那(つみきせりな)「ただいま戻りました」
部長「お疲れ様。AB商事の件、無事に決まったようだな」
鏑木芹那(つみきせりな)「はい。来週には本契約を交わす予定です」
部長「今月に入って新規契約三本目か。金原と鏑木のコンビは負け知らずだな!」
部長「ところで、その金原はどうした?」
鏑木芹那(つみきせりな)「FG電装の村田さんへご挨拶に行くと言っていました」
部長「確か来月から上海へ転勤だったな」
鏑木芹那(つみきせりな)「はい。ご挨拶がてら引継ぎの話もしてくるそうです」
部長「うむ。了解した。これからも金原のフォローを頼んだぞ!」
鏑木芹那(つみきせりな)「はい!」

〇オフィスのフロア
  カチャカチャ
工藤聡「おーい、鏑木」
鏑木芹那(つみきせりな)「はい!」
工藤聡「金原は? あいつどこ行ったの?」
鏑木芹那(つみきせりな)「金原さんはFG電装へ行ってます。今日は直帰じゃないですか?」
工藤聡「わー、マジか」
工藤聡「鏑木サンキュー」
鏑木芹那(つみきせりな)「はーい」
  カチャカチャ
花園チカ「鏑木ー」
鏑木芹那(つみきせりな)「はーい」
花園チカ「金原知らなーい?」
鏑木芹那(つみきせりな)「金原さんはFG電装へ行きました。今日は直帰らしいです」
花園チカ「直帰か。ありがとねー」
  カチャカチャ
「鏑木さん」
鏑木芹那(つみきせりな)「金原さんならFG電装へ行ってからの直帰です!」
夕日奈江(ゆうひなえ)「あ・・・」
夕日奈江(ゆうひなえ)「金原さんのことじゃないの」
鏑木芹那(つみきせりな)「夕日さん!? ごめんなさい!」
夕日奈江(ゆうひなえ)「こちらこそ忙しい時にごめんね。 先日行われた健康診断のことだけど・・・」
鏑木芹那(つみきせりな)(金原さんの彼女の夕日さん・・・)
鏑木芹那(つみきせりな)(いつ見ても綺麗だなー)
鏑木芹那(つみきせりな)(確か有名なお嬢様大学出身なんだっけ)
鏑木芹那(つみきせりな)(こんな素敵な人の彼氏とSEXしてるなんてそのうちバチが当たりそう)
鏑木芹那(つみきせりな)(夕日さん、ホントにごめんなさい!)
夕日奈江(ゆうひなえ)「・・・さん。 ・・・木さんっ」
夕日奈江(ゆうひなえ)「鏑木さんっ」
鏑木芹那(つみきせりな)「は、はい!」
夕日奈江(ゆうひなえ)「どうしたの? ボーッとして」
鏑木芹那(つみきせりな)「ス、スミマセン!」
夕日奈江(ゆうひなえ)「謝らなくていいのよ」
夕日奈江(ゆうひなえ)「あのね、鏑木さんは先日の健康診断を欠席してるでしょう」
鏑木芹那(つみきせりな)「風邪で三日ほど会社をお休みしてました」
夕日奈江(ゆうひなえ)「近いうちに会社指定の病院で受診して欲しいの。いいかしら」
鏑木芹那(つみきせりな)「はい。分かりました」
夕日奈江(ゆうひなえ)「病院の住所は後ほどメールでお送りします。では」
鏑木芹那(つみきせりな)(ふー。バレてないとはいえやっぱり緊張するな)

〇女子トイレ
鏑木芹那(つみきせりな)(うーん、体がだるい)
鏑木芹那(つみきせりな)(今日のエッチはいつもより激しかったもんなぁ)
近藤りん(こんどうりん)「せーりな」
鏑木芹那(つみきせりな)「りんちゃん」
近藤りん(こんどうりん)「ちょっとー。また金原とのタッグで契約取ったんだって?」
鏑木芹那(つみきせりな)「まぁね~」
近藤りん(こんどうりん)「社内でも金原の女房みたいな扱いじゃん」
鏑木芹那(つみきせりな)「やめてよ。 金原はただのビジネスパートナー」
鏑木芹那(つみきせりな)「仕事の相性がすごくいいの」
鏑木芹那(つみきせりな)「一緒に組むようになって表現の幅がぐんと広がったもん」
近藤りん(こんどうりん)「夜の相性もいいしね~」
鏑木芹那(つみきせりな)「ちょ、ちょっと! 誰かに訊かれたらどうするのよ!」
近藤りん(こんどうりん)「大丈夫大丈夫!」
近藤りん(こんどうりん)「仕事もエッチも相性が良いと恋愛対象として見ちゃいそうだけど」
近藤りん(こんどうりん)「金原のこと好きにならないの? あいつ、見た目も悪くないじゃん」
鏑木芹那(つみきせりな)「絶対好きにならない。私はキャリアを積みたいの」
鏑木芹那(つみきせりな)「いずれ独立するから、男なんてそのための踏み台にしか見てないよ」
近藤りん(こんどうりん)「踏み台!」
近藤りん(こんどうりん)「言うねー」
鏑木芹那(つみきせりな)「それにね、あいつめちゃくちゃ我がままなんだから。彼氏にしたら絶対に大変よ」
近藤りん(こんどうりん)「ワガママ?」
鏑木芹那(つみきせりな)「そうだよ。休日でも仕事のメールにはすぐ返信しないと怒るし」
鏑木芹那(つみきせりな)「喫茶店でコーヒーの出てくるタイミングが遅いとすっごく不機嫌になるし」
鏑木芹那(つみきせりな)「それにね、一緒にご飯食べてると必ず「一口頂戴」って言ってくるの!」
鏑木芹那(つみきせりな)「他にもねー」
近藤りん(こんどうりん)「わかったわかった! 2人が仲良しなことは十分わかったから!」
鏑木芹那(つみきせりな)「仲良しじゃない! ビ、ジ、ネ、ス、パートナー!」
近藤りん(こんどうりん)「はいはい。でもさ、それ。首のところ」
鏑木芹那(つみきせりな)「首?」
鏑木芹那(つみきせりな)「あ! キスマーク!?」
近藤りん(こんどうりん)「やってることは高校生だね」
鏑木芹那(つみきせりな)「全然気づかなかった」
近藤りん(こんどうりん)「髪かきあげたらバレるよ。気を付けてね!」
鏑木芹那(つみきせりな)「もー。ほんと子供っぽいんだから・・・」

〇大企業のオフィスビル

〇大会議室
社長「入選。FUKUTAデザイン事務所殿。 貴社は・・・」
  戸塚広告賞に
  あの二人の作品が選ばれるって
  ヤバくね?
  金原のディレクションの
  おかげだな
  凄いのは金原であって
  鏑木のデザインは
  大したことないだろ
  そうそう。
  吉野と組んだ広告なんて
  見れたもんじゃなかったし
  あいつらって絶対ヤッテるよな。
  あーあ、夕日さん可哀想~
  背徳のベッドで構成考えるとか
  エロすぎ~!
  実力はないのに
  上昇志向だけはある女って
  すぐ男と寝るよな
  あーあ、いいなー金原
社長「ーー。金原君。鏑木君。おめでとう!」

〇ビルの屋上
  プシッ
鏑木芹那(つみきせりな)「なんなのよあいつらは!」
鏑木芹那(つみきせりな)「女が活躍するとすぐ「ヤッテル」とか「寝てる」とか、そんな話ばっかり!」
鏑木芹那(つみきせりな)「なんで実力を見てくれないの!?」
鏑木芹那(つみきせりな)「ホント最悪・・・」
鏑木芹那(つみきせりな)「SEXの何が悪いのよ。それで気に入られて仕事を任されて」
鏑木芹那(つみきせりな)「その結果、賞も取れたんじゃない」
鏑木芹那(つみきせりな)「・・・」
鏑木芹那(つみきせりな)「でも、みんなの言う通り」
鏑木芹那(つみきせりな)「康太と組んだから獲れたわけで、凄いのは康太なんだよね・・・」
鏑木芹那(つみきせりな)「・・・」
「こんなところで何してんの?」
鏑木芹那(つみきせりな)「か、金原さん・・・」
金原康太(かねはらこうた)「誰もいないし康太でいいよ」
鏑木芹那(つみきせりな)「うん・・・」
金原康太(かねはらこうた)「もしかしてあいつらの野次に落ち込んでる?」
鏑木芹那(つみきせりな)「あれだけ言われたらそりゃ落ち込むよ」
金原康太(かねはらこうた)「まー、まー。あんな雑音気にすんな」
鏑木芹那(つみきせりな)「康太は他人事だから・・・」
金原康太(かねはらこうた)「違うよ。入社当時、俺もあいつらにいろいろ言われてきたんだよ」
鏑木芹那(つみきせりな)「康太も!?」
金原康太(かねはらこうた)「そうだよ。会社なんてそんなもんだよ」
金原康太(かねはらこうた)「あいつらも戸塚賞狙ってたからな。自分より在籍も経験も短い芹那に嫉妬してるんだろ」
金原康太(かねはらこうた)「実力で負けたんじゃなくて、性別で負けたことにしないとやってられないんだよ」
金原康太(かねはらこうた)「そんな負け犬の言うことなんかほっとけ」
鏑木芹那(つみきせりな)「でも、康太と寝てるのは本当だもん・・・」
金原康太(かねはらこうた)「お前、そんなこと気にしてんの?」
金原康太(かねはらこうた)「SEXと仕事は別もんだろ」
金原康太(かねはらこうた)「俺は芹那が可愛いから抱くんだよ。芹那はそうじゃないの?」
鏑木芹那(つみきせりな)「それは私も同じだけど・・・」
金原康太(かねはらこうた)「じゃあそれでいいじゃん!」
金原康太(かねはらこうた)「俺らは最高のビジネスパートナーなんだからさ!」
鏑木芹那(つみきせりな)「うん・・・」

〇オフィスビル前の道
  以前務めていたデザイン事務所
  入社三年目で大きな案件を任された時、誰も私の実力を評価してくれなかった
  上司の愛人だから実力以上の仕事を回してもらっている
  捏造された話は瞬く間に広がり
  それを鵜呑みにした人たちの陰口が私の耳に届くまで
  そう時間はかからなかった

〇小さい会議室
  最近、私たちに関する噂が社内で広まっているそうだね。
  はい・・・。
  これは内密なんだが、近々大きな案件が入ってくる。
  え! やってみたいです!
  鏑木君に任せてもいい。ただし、
  噂を事実にするのなら、だ。
  え?
  ちょ、ちょっと部長! やめてください!
  あっ!
  何をするんだ! 私は君の上司だぞ!
  ご、ごめんなさい!
  もういい! 今の案件から君は外す!
  そ、そんな!
  お願いです!
  最後まで仕事をさせてください!
  ダメだダメだ!
  君はずっとアシスタントでもしていろ!

〇ビルの屋上
鏑木芹那(つみきせりな)「あの時決めたじゃない。男と寝てでも実績を残すって」
鏑木芹那(つみきせりな)「使えるものは使わないと」
鏑木芹那(つみきせりな)「・・・」
鏑木芹那(つみきせりな)「自信を持つのよ、私」

〇大企業のオフィスビル

〇オフィスのフロア
花園チカ「おはよー。鏑木」
鏑木芹那(つみきせりな)「先輩、おはようございます」
花園チカ「ねぇ、聞いた? 金原結婚するんだって!」
鏑木芹那(つみきせりな)「え! 結婚!?」

次のエピソード:2話. 戸塚広告賞

コメント

  • 芹那さんの上昇志向の強い姿はステキですね!妬みやっかみに足を取られそうですが、真っ直ぐ歩んでもらいたいと願ってしまいます!”

  • 会社の中がやけにリアルで自分が働いていた頃を思い出しゾッとしましたwこれからどうなっていくのか楽しみです!

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