英雄譚(脚本)
〇地下室
ジルコン「────誰だ?」
テルル「やだなァ、オレに決まってんじゃん♫ こんなへんぴなとこに来る好事家はさ」
ジルコン「無表情のくせに、感情の分かりやすいやつだな、おまえは・・・・・・」
テルル「ったくよォ、なんでこんな狭くて暗い場所に住んでるわけ? オレたちは政府からチョーやべえ豪邸をもらってんじゃん!!」
ジルコン「あれは近隣住民の避難所として管理してもらっている」
テルル「なにーッ!! だったらオレにくれよ!!」
ジルコン「それに・・・・・・ 住民たちは私の姿を恐れている」
テルル「あー、そゆことね そういやおまえはくだらないことを気にするやつだったな」
ジルコン「私は人間と共存したい 誰からも怖がられない存在として」
テルル「で、その結果おまえは太陽の届かない地下室で自主的に謹慎してるわけだ」
テルル「いいか? オレたちは人間を救ってやったんだぜ おまえを恐れるやつが筋違いなのさ」
ジルコン「だが、私たちは異形そのものだ 人間社会に馴染むには時間がかかる」
ジルコン「幸いにも、私たちは定められた命を持ち合わせてはいない── 不死の怪物だ」
ジルコン「ゆっくりでいいんだ ゆっくりと受け入れてくれれば・・・」
テルル「無理だね 人間は救ってやったことも忘れ、オレたちを恐れるだろうよ」
テルル「人間の命は消費期限つきさ 世代交代すれば恩も掻き消える」
テルル「・・・ま、そんなことどうだっていいや オレは人間にキョーミなんてねーし」
テルル「おまえも気に病むなよ 地上で好き勝手に振る舞おうぜ」
ジルコン「そういうわけには・・・」
テルル「あ、そういえば聞いたか? あいつらの話・・・」
〇森の中
ニオブ「・・・・・・・・・・・・」
ルテニア「よオ! 今日は良い日じゃねえか なあ、兄弟」
ルテニア「人間が滅ぶにゃ、うってつけの日だ」
ニオブ「やはり、やらねばならぬのか」
ルテニア「今更なに言ってんだ? 人間に恨みがねえのかよ、てめえは」
ニオブ「あるさ だが、滅ぶには惜しい文明だと思ってな」
ルテニア「文明? 俺たちの世界の水準とは比べ物にならねえほどの低さだろうが」
ニオブ「人間の文化は独特だ 歴史もわれらの郷里より深く根ざしている」
ルテニア「じゃ、奪っちまえばいいじゃねえか もともと俺たちのものってことにするんだ」
ニオブ「それはあまりにも敬意を欠くぞ」
ルテニア「敬意? やつらにもあれば、俺も考えたかもな」
ルテニア「人間は世界を救った俺たちを認めようとはしない 土地と建物、税金とやらの一部、それらを渡した」
ルテニア「最も気に食わないのは、なあ、わかるだろ? やつらは人間として俺たちを扱うと法を定めた」
ルテニア「なのにどうだ? 実際の市民感情は変わらない 排斥と差別・・・ あの青い目! 黒い目!」
ルテニア「俺たちが来たから襲われただとか、政府の陰謀とかなんとか言って、俺たちを直視しないのさ」
ニオブ「だからといって・・・ すべての人間がそうではない」
ルテニア「なるほどな じゃあこうしよう そいつらは残す それ以外は皆殺しだ」
ニオブ「それは選民思想だ 愚かな思考をひけらかすな」
ルテニア「・・・・・・てめえ 賛同したんじゃねえのかよ」
ニオブ「やめろ! おまえに従おう」
ルテニア「いい子だよ、おまえは 口答えしなければもっといい子だ」
ニオブ「・・・やはり殺すしかないのか?」
〇SHIBUYA109
ルテニア「あーあー ハロォー人間諸君?」
なあ、あれって・・・
英雄じゃん
なんでこんなところに?
おとなしく引きこもってろよ・・・
ルテニア「・・・お返事どうもありがとう これから皆様には地獄を見てもらいます」
〇地下室
ジルコン「・・・やつらがそんなことを?」
テルル「ああそうだよ 楽しそうだし混ざろっかなー♪」
ジルコン「悪趣味なことを言うな」
テルル「あーはいはい おまえの前で言う事じゃなかったな」
テルル「で、どうすんだよ?」
ジルコン「無論止めに行く」
テルル「オレは手伝わねーぞ これから地中海でバカンスの予定なんだ」
ジルコン「期待していないさ」
テルル「わかってるとは思うが、あの馬面におまえの能力は効かねーぞ」
テルル「そのゴツゴツした身体で接近戦を仕掛けるんだな」
ジルコン「忠告痛み入るよ」
〇SHIBUYA109
ルテニア「・・・こんなもの効くはずがないだろう」
うわあああああ!!!!!
ルテニア「フン・・・ ごみを残していきやがって」
ジルコン「・・・・・・久しぶりだな」
ルテニア「よお・・・てめえか 相変わらず嫌な顔だ」
ジルコン「今すぐ虐殺をやめろ さもないと・・・」
ルテニア「どうする? 俺はてめえらよりもずっと強いぞ」
ジルコン「「圧縮」と「分解」・・・ その能力を駆使し、かつておまえは侵略者たちを駆逐したな」
ルテニア「人間は「ブラックホール」と名付けたらしいな くだらん・・・」
ジルコン「これ以上暴れれば軍隊が来る 早く手を引け」
ルテニア「俺の心配じゃなくて、軍隊側の心配をしてるんだろ? 俺なら地球程度、簡単に制圧できる」
ジルコン「退け」
ルテニア「断る」
ルテニア(先ほど「分解」し損ねた腕が・・・ 腐りはじめている)
ルテニア(能力を使っているな・・・)
ジルコン「この空間は既に「腐敗」している・・・ おまえもただでは済まないぞ」
ルテニア「その前に貴様の身体が四方に裂けるぞ」
ジルコン「わかっている・・・ だが、おまえの身体も無事では済まない」
ジルコン「おまえの装甲は腐蝕によって溶け、人間の兵器が通じるようになる」
ジルコン「後は、時間さえかければどうとでもなる」
ルテニア「うまくいけばいいがな?」
ジルコン「ガハッ・・・・・・」
ルテニア「よお、やるじゃねえか 信じてたぜ・・・」
ルテニア「なに!? てめえなにしやがる!!」
ルテニア「俺に刃を向ける気か?」
ニオブ「人間に用ができた 学ぶことも増えた」
ルテニア「なに言ってやがる?」
ニオブ「知っているか? 人間の世界では、馬は乗り物だ つまり下にいるべきはどうもおまえらしい」
ニオブ「どう思う?」
ルテニア「俺を激昂させたいのなら・・・ ふさわしい言葉遣いだ」
ニオブ「ありがとう 面白い人間にあったのでな」
〇学校の屋上
愛子「・・・・・・」
愛子「このフェンスを登れば・・・・・・」
ニオブ「なにをしている?」
愛子「きゃっ! だ、誰・・・どこから・・・?」
ニオブ「この世界を救った者だ そしてここには跳躍してきた」
愛子「あ・・・ ご親切にどうも・・・」
愛子「な、なにか用ですか?」
ニオブ「珍しい風貌の人間が見えたから来た」
愛子「はあ・・・珍しい? あ、制服だから、ですかね・・・」
ニオブ「興味がなくなってきた 帰る」
愛子「あ、ちょ、ちょっと待ってください!」
ニオブ「なんだ?」
愛子「英雄の・・・ニオブ様ですよね?」
ニオブ「誰のことだ?」
愛子「え、ご本人では・・・」
ニオブ「そうか、私か」
愛子(なんか、思ったよりとぼけた人だな・・・ 人ではないか・・・)
愛子(・・・人じゃないなら何なんだろう)
愛子「あの・・・ニオブ様はどこからいらしたのですか?」
ニオブ「知らん 名前に興味はない 言うとすれば遠い星だ」
愛子「え・・・ では、なぜこの地球に来たのですか?」
ニオブ「命令されたからだ 侵略者から地球を守れと」
愛子「へえ・・・ なんだかウルトラマンみたいですね」
ニオブ「ウル・・・なんだ、それは 説明してみろ」
愛子「あ、じゃあスマホで調べます」
ニオブ「スマ・・・ 説明してみろ」
愛子(飛び降りようと思ってたのに、なんでこんなことに・・・?)
愛子(・・・ま、いっか)
ニオブ「なんだ、笑うほど面白いことが書いてあるのか? 早く見せろ」
〇SHIBUYA109
ニオブ「馬・・・ ウルトラマンを知ってるか? あれはすごい人間だぞ」
ルテニア「てめえも始末してやる!」
ルテニア「!? なんだ、身体が・・・ 崩れるっ・・・」
ジルコン「ニオブが話している間、おまえの腐蝕に集中させてもらったよ」
ニオブ「ニオブって誰だ?」
ルテニア「てめえら・・・くたばりやがれ」
ニオブ「私は悩んでいる おまえを殺すかどうかを」
ルテニア「ふざけたことを抜かすな! 俺がてめえらごときに・・・」
ジルコン「無理に動くな 二度と歩けなくなるぞ」
ルテニア「クソったれがぁ・・・」
ジルコン「腐っても、おまえは英雄であり共に戦った仲間だ 殺したくはない」
ニオブ「では、後は人間に任せよう 人間は意外とすごいからな」
ジルコン「・・・そうか 私も信頼してみることにしよう」
ルテニア「あいつら・・・ 本当に置いていきやがった」
ルテニア「人間を殺した俺は、既に人間の敵だ 俺はおそらく殺される・・・」
ルテニア「あいつらは人間の本性を何一つ理解しちゃいねえ・・・」
ルテニア「なあ、そうだろうブリキ野郎!」
テルル「あ、気づいてた? おひさー」
ルテニア「てめえも俺にお灸をすえに来たのか?」
テルル「いいや 確実に消しに来たのさ」
テルル「・・・悲鳴を出す暇もなかったか ちょっと可哀想だったかな」
テルル「さて、と 新しい家の準備をしてやらないとな」
〇学校の屋上
愛子「・・・・・・」
愛子「今日も来てくれましたね」
ニオブ「もちろんだ 早くウルトラマンの話をしてくれ」
愛子「それなんですけど・・・ やっぱり映像を見たほうがいいと思うので、わたしの家に来ませんか?」
ニオブ「映像とは何だ 説明してみろ」
愛子「はいはい・・・」
〇二階建てアパート
テルル「・・・なんでこんなところに? 候補は色々渡したでしょ」
ジルコン「近所付き合いというものをしたくてな」
テルル「ははは・・・ やっぱ変わってるねえ」
ジルコン「おまえも十分変わりものだ」
テルル「ま、仲良くやろうぜ 永遠のマイフレンド!」
ジルコン「私は人間の友人をつくるがな」
テルル「えーーーっ!!! 浮気者ーーー!!!」
〇黒背景
英雄は3体になった。
人間と交流し、地域に好かれるもの。
少女との会話を楽しむもの。
行方知れずのもの。
行方知れずの英雄は、馬の姿を象った英雄を殺した。
それが露見したとき、彼らの関係性は変わる。
英雄殺しを探すもの。
少女の願いを叶えようとするもの。
人間を洗脳するもの。
やがて敵対する3体はそれぞれの守るもののために戦う。
最後に立っていたものは誰か?
データはどこにも残っていない。
すべての記録は、腐り落ちてしまっていたからだ。
金属も、人間でさえも・・・・・・
怪人も一律ではなく性格も気性も人間という生物への解釈も十人十色だということが簡潔に表現されていてすんなり理解できました。怪人をいろんな存在に置き換えてみると人間社会の長所短所が見えてきますね。
怪人達が人間を救ったというのに、公約違反のような状況に置かれていることが、本末転倒で気の毒きわまりないです。この状況、なんだか世界の現状に似ているようで、考えるとこありました。
色々と考えさせられました。
確かに人間って異種の生物が何者かわからないと警戒して近づこうとしませんよね。それが助けてくれた恩人であっても…。
中々人間性が垣間見える良い作品だなあと感じました。人間性ではないか…怪人性…?