トランプコンタクト ―2人の人のドッペルゲンガー―

服を着た猫

2枚目・私の名前は春野 泉美、あなたの名前は・・・②(脚本)

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〇一軒家の玄関扉
春野 泉美「じゃあ、私は誰!?」
春野 泉美「私は泉美《いずみ》じゃないの!?」
春野 泉美「なんで私を知らないの!?」
春野 泉美「私は!」
春野 泉美「私は・・・私・・・わた、し、は」
  叫び続けた泉美は、ふらふらと揺れだし
  糸が切れた人形のように、その場に崩れ落ちた。
春野 泉水「お、おい!」
  泉水はとっさに駆け寄り、間一髪のところで彼女の体を支え、頭が地面にぶつかるのを阻止する。
春野 ハゲハ「この子、自分のことイズミって、それにこの家の次女って・・・」
春野 ハゲハ「どういうこと???」
春野 泉水「分かんねぇ」
春野 泉水「それよりこの子どうするかだよ。 このまま、放っておく訳にもいかない・・・」
春野 ハゲハ「それもそうね。どうするの?」
春野 泉水「とりあえず、家の中へ・・・ ソファーに寝かせよう」
  泉水は彼女の背中と両足に腕を通して抱きかかえる。
  いわゆるお姫様抱っこで持ち上げると、母に靴を脱がすように指示しリビングに向かった。

〇綺麗なダイニング
  そしてリビングに飛び込むとソファーにそっと彼女を寝かせてあげた。
  と、同時に父と弟が騒ぎを聞きつけ駆け寄ってきた。
春野 一郎「さっきの叫び声はなんだ?」
  泉水の父である
  【春野 一郎《はるの いちろう》】は
  ソファーに寝かせられた少女を見て目を丸くした。
春野 一郎「おいおい、誰だ、その子は?」
春野 泉水「分かんねぇ。起きたら聴き取りするつもりだけど・・・」
春野 大樹「ねぇ、このお姉ちゃんが、さっきの叫び声の人?」
  いつの間にか彼女の顔を覗き込んでいたのは弟の【春野 大樹《はるの だいき》】
  父と同じ髪色の小学5年生。
  泉水にとっては生意気な弟である。
春野 泉水「まあな、自分のことをイズミだ、この家の次女だって叫んで、気絶しちまったんだよ」
春野 大樹「え~と?」
春野 大樹「・・・どういうこと?」
  大樹はゆっくりと首を傾げる。
春野 泉水「だから分かんねぇって」
春野 泉水「それをこれから聴き取りしようとしてるんだよ」
春野 大樹「起きないと無理だね。 そもそも聴き取りできるの?」
春野 泉水「・・・分かんねぇ」
  大樹の質問に、苦い顔で答える泉水。
  そんな兄の顔を見て、大樹はソファーに寝かされた彼女の服に視線を移した。
春野 大樹「うーん、この人桜門高校の制服着てるね」
春野 大樹「兄ちゃん、確か兄ちゃんの高校って生徒手帳に学生証明書がくっついてるんだったよね?」
春野 泉水「そうだ!その手があったか!」
春野 泉水「ブレザーの胸ポケットの中に入ってるかも」
  泉水はソファーに寝ている彼女のブレザーの方に手を近づける。
春野 大樹「脱がすの?」
春野 泉水「うっ・・・」
春野 泉水「き、着させたまま探す」
春野 大樹「うわぁ~・・・兄ちゃんのスケベ~」
春野 泉水「やかましい!」
春野 泉水「母さんお願いします。俺は鞄の方を見る」
春野 ハゲハ「ハイハイ♪」
  泉水の母である【春野 アゲハ】は笑顔の上、ノリノリでソファーに横になっている彼女に近づいて行った。
春野 ハゲハ「ウチ男ばっかりだから、女の子のお世話したかったのよね」
春野 泉水「お世話じゃねえし、どっちかっていうと身体検査だし」
春野 ハゲハ「どっちでもいいじゃない」
春野 ハゲハ「大樹この子の上半身持ち上げるから、背中を支えてあげてくれる?」
春野 大樹「うん」
  母アゲハが彼女の上半身を持ち上げると、すかさず大樹が両手で背中を抑えた。
  その間に、母は彼女の腕を持ちブレザーを脱がしていく。
春野 ハゲハ「ふふん~♪」
  鼻歌交じりにブレザーを脱がしていく母を見て泉水は
春野 泉水(楽しそうだしいいか)
  そう考えながら、彼女の鞄を手に取った。
春野 一郎「いいのか?」
春野 泉水「ん?良いんじゃない? 母さん、楽しそうだし任しておいていいと思うよ?」
  父の質問に答えながら、泉水は鞄を開けた。
春野 一郎「いや、鞄の中身を勝手に見るのが、だ」
春野 一郎「プライバシーの問題がある」
春野 泉水「非常時だし、いいだろ?」
春野 一郎「うーん・・・しかしだな」
春野 泉水「文句言われたら俺が後で謝るって」
春野 泉水「それよりも、あの子の顔どっかで見たことあるような気が?」
  イズミと名乗った少女の顔を見ながら、泉水は首をひねる
  が、上半身がワイシャツ一枚の姿で寝かされていることに気づくと慌てて視線を鞄に戻した。
春野 一郎「お前、うぶだな。夏になればみんな半袖ワイシャツだろうに」
春野 泉水「う、うっさいな! 夏服として着てるんじゃなくて、脱がされてるんだから別だろ!!」
  ぶっきらぼうに答える泉水を見ながら、父はため息をついた。
春野 一郎「はぁ~、鞄を探るのは気が引けるが、仕方ないか」
春野 一郎「どうだ、身分が分かりそうなものはあったか?」
春野 泉水「ちょっとまって、これは・・・教科書とノートか」
春野 泉水「ん?この紙の束はなんだ?」
  泉水が発見したのは、ホッチキスで止められた簡単な作りで製本された【天女物語】と書かれた台本だった。
  それを見て泉水は眉間にしわを寄せる。
春野 泉水「なんで、この子がこれを持ってるんだ?」
春野 一郎「泉水?」
春野 泉水「いや、これ今度の学園祭でやる演劇の台本なんだ」
春野 泉水「関係者以外持ってるはずないのに・・・」
春野 一郎「演劇部の関係者ということは・・・」
春野 泉水「本気で言ってる?」
春野 一郎「あるはずがない・・・か」
  父の的外れな発言に、ため息をつきながら泉水は鞄を探り続ける。
春野 泉水「他には・・・何だ、この小さいノート?」
  ピンク色の表紙に白いブックバンドで止められたノート。
  ただのメモ帳にしては少し大きいと感じるそのノートを開いてみると
  そこには彼女の映った小さな写真がたくさん張り付けてあった。
春野 泉水「あー、これプリクラ手帳ってやつか」
春野 泉水「・・・ってこれ!?」
春野 一郎「ん?どうした?」
  驚く泉水に、父も手帳を覗き込む。
春野 泉水「ここに写ってるの、この子と 瑞希《みずき》だぞ!!」
春野 一郎「ん!? 本当だ、ここに仏頂面で写っているのは、お隣さんの家の瑞希ちゃんだ」
春野 泉水「どうなってるんだ!?」
  泉水は右手で頭を掻く。
  瑞希は人嫌いで有名で、一緒に遊んでいることだけでも驚きなのに、プリクラに一緒に写っている女の子が居るなんて
  彼にはとても信じられなかった。
春野 泉水「どういうことだ・・・」
春野 泉水「う~ん、あとで瑞希に聞いてみるか」
  混乱しながら泉水は頭を切り替え、鞄の中身を改めてチェックすることにした。
春野 泉水「他には・・・」
春野 泉水「ピンク色のポーチ・・・」
春野 泉水「化粧品道具か・・・」
春野 泉水「あとは、チョコレート菓子が一箱・・・」
春野 泉水「って、学校に持っていくなよ」
春野 泉水「なんだ、お前は持って行ってないか?」
春野 泉水「持っていってるよ!小腹減った時に丁度いいんだよ!」
  ちょっと不機嫌そうに答える泉水に、父はほほ笑んだ。
春野 一郎「お前はチョコレート大好きだからな」
春野 泉水「バレなきゃいいだろ!?バレなきゃ!!」
春野 一郎「ほどほどにな」
春野 泉水「分かってるよ!」
春野 泉水「それより、鞄の中身は・・・」
春野 泉水「これで全部かぁ~」
  大した収穫はないなと落胆しながら、泉水は身体検査をしている母の方を見た。
春野 泉水「そっちはどう?母さん」
春野 ハゲハ「あったわよ、生徒手帳」
春野 ハゲハ「あとロックが掛かってるから中身は見れないけど携帯も」
春野 ハゲハ「だけどこの携帯、おかしいの・・・」
春野 泉水「おかしい?」
  母の言葉を聞き、携帯を覗き込もうと近づく泉水だったが
  先ほどワイシャツ一枚だった彼女の姿を思い出し、少し慌ててしまう。
  だが、彼女はブレザーを布団のように掛けられ寝ていた。
  その姿を見て泉水はホッと胸を撫で下ろし、改めて母の手元の携帯を見た。
春野 泉水「このスマホのどこが、おかしいんだよ?」
  母の手元に握られているスマホを泉水はじっと見たが、何がおかしいのか分からなかった。
  泉水は母からスマホを受け取ると隅から隅まで見てみる。
  表側だけでなく裏側も見ると、そこには某有名家電メーカーのロゴが描かれており、やはりおかしいとは感じなかった。
  不思議そうな顔をしている泉水に母は驚くことを言った。
春野 ハゲハ「圏外なのよ。これ」
春野 泉水「はあ!?圏外!?」
  画面をじっくり見ると、電波状況が表示されてるはずの場所に圏外の文字が映っていた。
春野 泉水「森の中なら分かるけど、市街だぞ???」
  驚きながら泉水はスマホに表示されている携帯メーカーの名前を探した。
春野 泉水「ウチが家族で契約している所と同じだ」
春野 泉水「この会社の回線が、この場所で圏外とかありえないだろ!?」
春野 ハゲハ「ね、おかしいでしょ?」
春野 ハゲハ「あと学生証明書を見てみたんだけど、こっちもちょっと信じられなくて」
春野 泉水「どれ?」
春野 ハゲハ「ほらこれ」
  母から生徒手帳を受け取り、泉水はそこに添付されている学生証明書を確認してみた。
  すると、やはりそこには彼にとって信じられないことが書かれていた。
春野 泉水「名前は『春野 泉美《はるの いずみ》』・・・」
春野 泉水「学年は・・・」
春野 泉水「桜門高校二年生、これも俺と同じ・・・」
春野 泉水「住所は・・・」
春野 泉水「やっぱりこの家かよ!?」
  にわかには信じられない記述に、驚愕しながら泉水は学生証明書と泉美の顔を見比べた。
春野 泉水「何者なんだ、お前!?」

〇綺麗なダイニング
  その後、泉水はスマホを使い瑞希に電話をかけてみることにした。
  先ほどのプリクラの件を聞くために。
皆倉 瑞希「はぁ!?プリクラ!? 私がそんなもの撮るわけ、ないでしょ?」
春野 泉水「だよな」
  思いっきり不機嫌な声で答えてくる瑞希に、泉水は困惑しながら同意する。
春野 泉水「一応聞くが、俺以外に【イズミ】って名前に心当たりないよな?」
皆倉 瑞希「寝ぼけて言ってんの?あんたみたいな間抜けな名前、他に居たら覚えているわよ!」
春野 泉水「だよな」
春野 泉水「一応聞くけど・・・」
皆倉 瑞希「一応が多い!!」
春野 泉水「ごめん、これで最後だから」
春野 泉水「俺と同じ紫紺の髪で、ポニーテールにしている女の子に心当たりは―――」
皆倉 瑞希「無い!!」
  ブチッ・・・
  ツー、ツー、ツー・・・
  スマホ越しでも激怒しているのが分かる大声で怒鳴られ、泉水は顔をしかめながら電話を切った。
春野 一郎「どうだ?」
春野 泉水「やっぱ駄目だ」
春野 泉水「プリクラなんて撮ったこと無いって」
春野 一郎「そうか」
春野 泉水「ますます訳が分かんねぇ」
  落胆する父に、泉水も大きくため息をついた。
  そんな泉水に弟の大樹が話しかけてきた。
春野 大樹「ねぇ、兄ちゃん、さっきこのお姉ちゃんの顔を見て『どこかで見たことあるような気がする』って言ってたよね?」
春野 泉水「ん?」
春野 泉水「ああ、そういえばそんなこと言ったな。 確かに、どっかであったような気がするんだよなぁ~」
春野 泉水「しかもつい最近」
  大樹の質問に答えながら、泉水はおでこをさすった。
春野 大樹「おでこどうかしたの?」
春野 泉水「ああ、これか?」
春野 泉水「神社で『演劇の公演が、上手くいきますように』って祈願した後、どこかにぶつけたらし―――」
春野 泉水「あ!!」
  突然大きな声を上げる泉水に、驚いた父と母が視線を向けてきた。
春野 泉水「思い出した! 神社で祈ってたら、突然、爆音と一緒に光る玉が現れて・・・」
春野 泉水「そうだよ」
春野 泉水「その玉を見てたら玉の中から手が出てきて掴まれたんだ」
春野 泉水「で、思わずその手を引っ張っちまって、そしたらこの子が光の玉の中から飛び出してきて!!」
春野 泉水「そうだ!そうだ!!」
春野 泉水「それで飛び出してきたこの子とおでこ同士がぶつかって、そのまま気絶しちまったんだ!!!」
春野 大樹「このお姉ちゃんが、光の玉の中から飛び出してきたの!?」
春野 泉水「ああ、正確には引っ張り出しちまった。だけど」
春野 大樹「光の玉から出てきた・・・それに名前が一緒・・・だけど女の人・・・」
  泉水の言葉を聞いた大樹はブツブツとつぶやきながら、その場で考え始めた。
  やがて何かを思いついたようで、唐突に話し始めた。
春野 大樹「ねぇ、似たようなシチュエーションの昔の映画無かった? 未来から来た人間が、光の玉の中から現れる的な」
春野 泉水「ん?」
春野 泉水「ああ、あったな!」
春野 泉水「だいぶ昔の映画だけど、そんなSF映画が・・・」
春野 泉水「なんだよ、この子が未来から来たとでもいうつもりかよ!?」
春野 大樹「うーん、どっちかっていうと、パラレルワールドから来たかな?」
春野 泉水「はあ!?パラレルワールド!?」
  とんでもないことを言い始める大樹に、泉水は驚きの声を上げてしまう。
  だが、驚愕する泉水とは対照的に両親はキョトンとした顔をしていた。
春野 一郎「ぱられるわーるどって何だ?」
春野 一郎「知ってるか母さん」
春野 ハゲハ「いいえ、英語ぽいけど」
  首をかしげる父と母。
  そんな2人に駆け寄り大樹は得意げに話し出した。
春野 大樹「パラレルワールドっていうのはね!」
春野 大樹「ファンタジーの物語とかゲームとでよく使われる表現方法なんだけど」
春野 大樹「異世界とか並行世界とも呼ばれて、この世界とは違うもう一つの世界のことを言うんだよ」
「異世界?平行世界??もう一つの世界???」
  その話を聞いてもさっぱり理解できない母だったが、大樹はさらに得意げに話を続けた。
春野 大樹「うん、この世界というか宇宙かな?」
春野 大樹「この世界の宇宙のほかにも、他にもたくさんの宇宙があって、そういうほかの宇宙の世界のことをパラレルワールドっていうんだ」
春野 大樹「その世界では魔法が存在してたり、ここよりものすごく科学技術の進んだ世界もあるんだよ」
春野 大樹「実はUFOは異世界の乗り物で、異世界からジャンプしてきたパラレルワールド移動マシーンって説もあるんだ!」
「へ、へぇーそうなの?」
  話について行けていない母とは対照に、大樹は目をランランに輝かして熱弁を続ける。
春野 大樹「きっと、兄ちゃんが見たっていう光の玉が異世界との扉になってて、このお姉ちゃんは別の世界から来た。異世界人なんだよ!」
春野 泉水「はぁ~、異世界人ねぇ~」
  興奮気味の大樹とは対照的に、泉水は少し呆れ気味で返事をする。
  そんな泉水の顔に向けて、大樹は人差し指を指さし抗議する。
春野 大樹「じゃあ、兄ちゃんは、この人がどうして光の玉の中から飛び出してきたのか、説明できるの!?」
春野 泉水「そりゃ、光の玉の中に隠れてて、俺を逆に引きずり込もうとしていたとか?」
春野 大樹「何で?」
春野 泉水「光の中に引きずり込んだ俺を捕まえて」
春野 泉水「俺と入れ替わって、この家の人間になりすまして悪事を働こうとしていたとか?」
春野 大樹「兄ちゃん・・・自分で言ってて、無理あると思わない?」
  大樹はあきれ果てたようにジト目で、泉水を見てきた。
春野 大樹「ウチ普通の家だよ」
春野 泉水「ウチはな」
春野 泉水「だけど母さんの実家の水輝家は違う!」
春野 泉水「母さんは本家の水輝家の娘だぞ!あの家に近づくための作戦だとしたら納得いく」
春野 大樹「かなり無理がある推理だと思うよ・・・」
春野 大樹「そもそも、そんな計画だったら光の玉から出てきたのは男の人のはずでしょ?」
春野 大樹「それに髪の毛を染めたり、カツラ被っても、蒼玉の瞳《せいぎょくのひとみ》で見破れるんでしょ?」
春野 泉水「うっ・・・」
春野 泉水「た、確かに」
  泉水は痛い所を突かれて、顔を曇らせる。
春野 大樹「水輝一族の血を引く人には、髪の毛に特徴が現れて、三種類に分かれる」
春野 大樹「一つ目は水輝の血を濃く引く人同士が結婚して、産まれた子供に現れる」
春野 大樹「【藍の髪《あいのかみ》】」
  【藍の髪《あいのかみ》】
春野 大樹「その名の通り、青色をしている髪が特徴で、水輝の本家の人たちは全員この髪の色をしていて、すごい身体能力を持っている」
春野 大樹「超人一族だね」
春野 大樹「二つ目が水輝の血を濃く引く人と一般人が結婚して、産まれた子供に現れる」
春野 大樹「【紫紺の髪《しこんのかみ》】」
  【紫紺の髪《しこんのかみ》】
春野 大樹「紫紺って言うのは藍色の一種である紫色のことで」
春野 大樹「この紫紺の髪を持つ人は、水輝のものすごい身体能力とかを受け継いでいるのが特徴」
春野 大樹「兄ちゃんがこれに当たるね」
春野 泉水「ああ」
春野 大樹「そして、三つ目が、水輝の血を濃く引く人と一般人が結婚して産まれた子供で、水輝の能力をほとんど受け継いでいない人」
春野 大樹「この人の髪は一般人の親や先祖の髪色を受け継ぐんだ」
  【水輝の血を受け継いでいない髪】
春野 大樹「僕がこれに当たる、だから僕の髪はお父さんに似てる」
春野 大樹「そして、水輝族の血を濃く引く人が持っている不思議な能力の一つが」
春野 大樹「【蒼玉の瞳《せいぎょくのひとみ》】」
  【蒼玉の瞳《せいぎょくのひとみ》】
春野 大樹「蒼玉っていうのはサファイアの日本名」
春野 大樹「その名の通り青い眼が特徴で、超人的な動体視力を持っていて水輝の運動能力と合わさって超人的な強さを持ってる」
春野 大樹「その上一族の藍の髪や紫紺の髪の色を見分けることが出来て、たとえ同じ色に染めても、その違いに一発で気づける」
春野 大樹「現代科学でも解明できない不思議な能力」
春野 大樹「兄ちゃんも、その能力を受けついているんでしょ?」
春野 大樹「僕は無いけど」
春野 泉水「まあな、俺のこの青い目も蒼玉の瞳」
春野 泉水「だから、あの子の髪が染めたりしてる、モノじゃなくて水輝の血を引いている者だってことも解ってる」
春野 泉水「だけど無理あるだろう?」
春野 泉水「パラレルワールドから来た、俺と同じ名前・・・読み方が同じ名前で、同じ両親を持つ人間が居るとしたら」
春野 泉水「大樹がさっき言ってたように男だろ?」
春野 泉水「それで俺と鉢合わせて」
春野 泉水「うわっ、なんで俺と同じ顔のやつが!!」
春野 泉水「ってなるんじゃないか?」
  困惑の表情を浮かべながら話す泉水の話を聞き、母は【ポン】と両手を合わせた。
春野 ハゲハ「ああ、ドッペルゲンガーね」
春野 一郎「ああ、同じ顔の人間と出会うって言うあれか!」
春野 一郎「懐かしいな、ドッペルゲンガー!」
春野 一郎「【出会った人間は数日後に死んでしまう】だっけ?」
春野 ハゲハ「そうそう、私自分のドッペルゲンガーに会ったらどうしよう!?って、初めて話を聞いた時は怖かったわ~」
春野 一郎「俺は、ドッペルゲンガー会ってみたかったけどな」
  懐かしい話題で盛り上がる両親を背に、泉水は冷めた声で返す。
春野 泉水「思い出話は後にしてくれ中年S《ちゅうねんズ》」
春野 ハゲハ「はーい」
春野 一郎「泉水!! 親に悪口を言うのは、やめなさい」
春野 泉水「はいはい、ごめんなさい」
  泉水は、これまた背中越しに感情のこもってない返事返すと、大樹に向かって話を戻した。
春野 泉水「とにかく、この子が俺と同じ読み方の名前で」
春野 泉水「たぶん親も・・・住所も同じなのに、女子っておかしいだろ!?」
春野 大樹「それは、このお姉ちゃんが、兄ちゃんが、女の人として生まれた時の姿だからだよ」
  さも当たり前のように言う大樹の言葉に、泉水は一瞬思考が停止してしまう。
春野 泉水「・・・お、俺が何だって!?」
春野 大樹「だから、兄ちゃんが女の人として生まれた時の姿だよ」
春野 泉水「お、俺が」
春野 泉水「女として生まれた時の姿!?」
  泉水は思わず、ソファーに寝ている泉美の顔を見た。
春野 泉水「マジか・・・」
春野 一郎「そうか!泉美って名前どこかで見たことある気がしてたけど、そうだよ」
春野 一郎「母さん、泉水が生まれる前、子供の名前をどうしようって話し合った時」
春野 一郎「女の子だったら、泉の一文字に美の文字を入れようって、話し合ったよな」
春野 ハゲハ「そういえば、そうだったわね!」
春野 ハゲハ「男の子なら『泉水』で、イを強く読んで、いずみ《↗→→》ってアクセントで読んで」
春野 ハゲハ「女の子なら『泉美』で、普通に水が湧く泉と同じ、いずみ《→→→》アクセントにしようって話し合ってたわね」
  昔を思い出し、和気あいあいと話しだす父と母。
  言葉を聞きながら、泉水は彼女の顔をじっと見つめる。
春野 泉水「俺が・・・女子として生まれた時の姿・・・でも、そう考えれば、すべてつじつまが合う」
春野 泉水「・・・のか?」
春野 泉水「でも、そう考えて・・・この顔を見てみると、何となく母さんに似てるかも・・・」
春野 ハゲハ「そお?」
春野 一郎「どれ?」
春野 一郎「うーん、確かにこの丸みを帯びた輪郭、目元、ほほの辺りなんかは、そっくりかもしれないな」
  父は母の顔と、泉美の顔を見比べて言った。
春野 泉水「俺は角ばった輪郭とか、きりっとした眉毛は、どちらかというと、父さん似ってよく言われるけど」
春野 大樹「僕はどっちにも似てるって言われるかな」
  大樹はソファーに寝続ける泉美のそばに歩み寄った。
春野 大樹「僕の考えが正しければ、この人が異世界での僕のお姉ちゃん」
春野 大樹「異世界の僕ってどんな奴なんだろう?それともそもそも居ないのかな?」
  大樹は泉美の寝顔を考え深そうに見つめていた。
  と泉美の瞼がピクっと動いた。
春野 泉美「う、うーん・・・」
春野 泉美「あれ?大樹?」
  目を覚ました泉美は、目の前に居る少年を見て、ごく自然にその名前を言った。
春野 大樹「あ、お姉ちゃんが起きたよ!」
春野 泉美「お姉ちゃん?」
春野 泉美「・・・いつもは姉ちゃんって呼ぶのに?」
  ボーっとした顔で寝ぼけた頭が働かない様子の泉美は、ソファーから起き上がると
  体にかけられたブレザーを着た。
  そして、そのままソファーに座り直して母と父に視線を向ける。
春野 泉美「お母さんに、お父さんもいる」
春野 泉美「あれ?私どうしたんだっけ?」
  あたりをキョロキョロと見渡す泉美
  その目が泉水と合ったとたん、彼女の顔が一気に顔が青ざめていく。
春野 泉美「ヒッ!!」
春野 泉美「あ、あな、あなたは!?」
  ガタガタと歯を鳴らしながら泉美は、震える指で泉水を指さした。
春野 泉水「よ、よう。気分はどうだ?」
春野 泉水「いや、良いわけがないか」
春野 泉美「あ、あなたがここに居るってことは、あれは夢じゃなかったの!?」
春野 泉水「残念ながらな」
春野 泉美「じゃ、じゃあ、ここに居いるお父さんも、大樹も私を知らないの!?」
春野 一郎「・・・残念だけど、君とは初対面だ」
春野 大樹「ぼ、僕も初めまして、になるよ」
春野 大樹「お姉ちゃん大丈夫?顔が真っ青だよ」
春野 泉美「大樹が、わ、私をお姉ちゃんって、わ、悪い夢だ」
春野 泉美「これは悪い夢に決まってる!!」
  泉美は両手で体を抱きしめ、極寒の地に居るようにブルブルと震えだす。
春野 泉水「だ、大丈夫か?」
  泉水が近づこうと、一歩足を踏み出そうとした時。
春野 泉美「来ないで!!」
春野 泉水「っ!」
  必死の形相で叫ばれた泉水はその場で固まってしまった。
  泉美は震える指で再び泉水を指さすと叫んだ。
春野 泉美「あんただ!あんたが現れてから、おかしくなったんだ!」
春野 泉美「全部あんたのせいだ!!」
春野 泉美「あんたさえ現れなければ、私は普通に家に帰って、普通にお母さんにただいまを言って『どこ行ってたの!?』って怒られて」
春野 泉美「その後、お父さんに『遅くなるなら、電話くらい入れなさい』って怒鳴られて」
春野 泉美「大樹に『姉ちゃんダセー』っとか、憎まれ口をたたかれて」
春野 泉美「そんな普通の光景を過ごすはずだったんだ!」
春野 泉美「なのに、お母さんも、お父さんも、大樹も私を知らないって言う!」
春野 泉美「全部!全部!!全部!!!」
春野 泉美「あんたが現れてから、おかしくなったんだ!」
春野 泉美「消えてよ!今すぐ消えてよ!!」
春野 泉美「私に普通を!」
春野 泉美「日常を返してよ!!」
春野 泉美「う、うわぁぁぁぁぁぁぁ・・・」
  膝を抱え、声を上げて泣き出す泉美
  その姿を見て家族全員、何も言えなくなってしまった。

〇綺麗なダイニング
  それから数分後。
  泉美の涙が少し収まったタイミングで、泉水が話しかけた。
春野 泉水「少しは落ち着いたか?」
春野 泉美「ヒック、ヒッ、消えてって、言ったでしょ!」
  涙をこらえながら、泉美は鋭い眼光で泉水をにらみつける。
春野 泉水「話くらい聞いてくれてもいいだろ?」
春野 泉美「あなたと何を話せっていうの!?」
春野 ハゲハ「じゃ、じゃあ私と・・・」
春野 泉美「あなただって一緒よ!」
春野 ハゲハ「ご、ごめんなさい」
  優しく話しかけた母だったが、怯えた小動物のような泉美に睨みつけられ委縮してしまう。
春野 泉水(取り付く島もないな)
  そう考えながら、泉水は敵意をむき出しにする泉美と、なんとか話をしようと根気よく話しかけることにした。
春野 泉水「俺のこと見覚えないか?」
春野 泉美「あるわけないでしょ!?」
春野 泉水「よく思い出してみろよ」
春野 泉美「何を?」
春野 泉水「ほら、神社の境内で、おでこをぶつけた時」
春野 泉美「おでこ?」
春野 泉水「何かにぶつかっただろ?」
春野 泉美「ぶつかった?」
春野 泉美「おでこ?」
  泉美はおでこをさすりながら「おでこ」とつぶやき続ける。
春野 泉美「おでこ・・・おでこ・・・」
春野 泉美「あ!」
春野 泉水「思い出したか?」
春野 泉美「そうだ、私は、月みたいに光る玉に腕を突っ込んじゃって、何かをつかんだんだ!」
春野 泉美「それでそれに引っ張られて、光る玉中に飲み込まれたと思ったら、すぐにすり抜けて」
春野 泉美「あなたが目の前に居て、おでこ同士をぶつけて・・・」
春野 泉水「その衝撃で、たぶん2人とも気絶しちまったんだよ」
春野 泉美「そっか、あの時ぶつかったのは、あなただったんだ」
春野 泉美「でも・・・」
春野 泉美「それが何!!」
  再び睨みつけてくる泉美に、大きく息を吐いてから泉水は続きを話し始めた。
春野 泉水「君の学生証明書を見させてもらったよ」
春野 泉水「驚いた。 名前もだけど、住んでる住所もここだった」
春野 泉美「それはそうよ。ここが私の家・・・」
春野 泉美「だったんだから」
  うつむく泉美を見ながら、泉水は話を続ける。
春野 泉水「あと、瑞希と写ってるプリクラもあった」
春野 泉美「あれを見たの!?」
春野 泉美「瑞希は私の幼馴染で親友よ!変なことするつもりじゃないでしょうね!?」
春野 泉水「しねぇよ。 俺にとっても瑞希は幼馴染で親友だ」
春野 泉水「煙たがれてるけど」
春野 泉美「は?」
春野 泉美「・・・私も・・・瑞希には・・・煙たがれてるけど?」
  要領を得ないという顔で、泉美は確認するようにゆっくりと答えた。
  その顔には、ありありと何が言いたいのだろうと書いてあった。
春野 泉水「そこまで一緒なのかよ」
春野 泉水「まいったな」
  泉水は右手で、ボリボリと頭を掻いた。
春野 泉美「さっきから、何か言いたいの!?」
春野 泉水「・・・単刀直入に言おう」
春野 泉水「君はたぶん異世界から、この世界に飛ばされた人間」
春野 泉水「つまりここは君にとって異世界だ」
春野 泉美「はぁ?」
春野 泉美「私が異世界から飛ばされた人間?」
春野 泉美「・・・ここが異世界?」
  泉美は、まるで実感がないという感じでつぶやいた。
春野 泉水「ああ、あの光の玉が、二つの世界をつなぐ扉だったんだ・・・」
春野 泉水「たぶん」
春野 泉美「二つの世界を・・・つなぐ、扉?」
春野 泉水「君はあの光の玉を突き抜けた訳じゃない」
春野 泉水「あの光の玉を通って、こっちの世界に来たんだ」
春野 泉美「そんな・・・」
  泉美は再び、ブルブルと震えだす。
  そして、壊れた人形のように震える手で指をさしながら、確認するように言った。
春野 泉美「だって、お母さんが居る」
春野 泉美「お父さんも居る」
春野 泉美「大樹も居る」
春野 泉美「でも・・・」
春野 泉美「あなたが居る」
春野 泉水「ああ、俺が居る」
春野 泉水「君の換わりに、俺が居る」
春野 泉水「俺は・・・君が」
春野 泉水「・・・男として、生まれた時の姿だ」
  泉水はゆっくりと、確認するように、そして自分を納得させるように言った。
  それ聞いた泉美の表情は驚きを通り越して無表情になっていた。
  そして、壊れた人形のように言った。
春野 泉美「あなたは・・・」
春野 泉美「私が・・・」
春野 泉美「男として・・・」
春野 泉美「生まれた時の・・・」
春野 泉美「姿?」
春野 泉水「そうだ、そう考えれば納得が出来る」
春野 泉水「俺たちが同じ読み方の名前なのも」
春野 泉水「同じ両親を持つのも」
春野 泉水「兄弟が同じなのも」
春野 泉水「親友が同じなのも」
春野 泉水「な」
春野 泉美「ここは私の世界じゃない?」
春野 泉水「ああ」
春野 泉美「この家は、私の家じゃない?」
春野 泉水「ああ」
  壊れた人形のような泉美の問いに、泉水は伏し目がちに答える。
  そんな壊れた人形のようだった、泉美の目に少しだけ生気が戻る。
春野 泉美「ここに居るのは、私の家族じゃない」
春野 泉水「それは・・・」
  次の瞬間、泉美の目が鋭くなる。
春野 泉美「この世界の瑞希は、私の親友じゃない!」
春野 泉水「落ち着け!」
  ヤケを起こし叫ぶ泉美を見て、泉水は一気に距離を詰めると、その両肩を掴んだ。
春野 泉美「触らないで!」
春野 泉水「落ち着けって言ってるだろう!!」
  泉水の言葉とは裏腹に、泉美の呼吸が乱れていく。
  そして、泉水の顔を泣きそうな顔で見た。
春野 泉美「あなたは・・・私だった」
春野 泉水「深呼吸しろ!」
春野 泉美「私はここに居るべき・・・人間じゃ・・・」
春野 泉美「なか・・・った」
春野 泉水「お、おい!」
  力なく両腕と頭をダランと落とし、泉美は再び糸の切れた人形のように気を失ってしまった。

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