エピソード0(脚本)
〇入り組んだ路地裏
ヒメ「私を殺してくれ、ジン」
彼女は凶悪な怪人のペットでした。
彼女はわかっていたのです。
人間がか弱い猫を愛でるように
怪人は、自身よりも遥かに弱い人間を愛でているのだと
人間は、いつでもひねり潰せる下等な存在に過ぎないのだと
一言で現すなら「こいつヤバい」と思っていました。
ヒメ「・・・・・・っ」
彼女はずっと、待ち望んでいたのです──
〇研究所の中枢
およそ1ヶ月前──
ジン「ヘイ、タマ! 録音を開始して」
タマ「〈録音を開始します〉」
ジン「調査記録、〇月✖日」
ジン「地球の調査に来てから1ヶ月以上が経過した」
ジン「最近では、連続失踪事件のニュースが人間の界隈を騒がせている」
ジン「なんでもデリバリーの配達員ばかりが 行方不明になっているらしい」
ジン「過去に起きた人間たちがいう凶悪事件の記録も見たが」
ジン「どれも可愛いものに思えた」
ジン「僕ら種族の間の些末な日常と変わらないような──」
ケント「ねえ、ジン!!」
ケント「あのさぁ、デリバリーアプリにログインできなくて──」
ジン「い、今、録音してたんだけど・・・」
ケント「あ~ゴメンゴメン」
ジン「で・・・なんでログインできないの??」
ケント「何もしてない」
ケント「毎回デリバリーしてくれた配達員ごと頂いてただけで──」
ジン「どうりでゴミが臓物臭いと思ったよ!」
ジン「もー!なんでそうなるかな」
ジン「配達員の代わりなんていくらでもいそうなのに・・・」
ジン「えっと・・・仕切り直しで・・・」
ジン「目付け役の(はずの)ケントは相変わらずだよ」
ジン「んー、後は・・・何話そうとしてたんだっけ?」
ケント「なあなあ、ジン」
ケント「あのペット、いつ食べるんだよ?」
ケント「まあまあ痩せてるし、もっと太らせてから──」
ジン「ケ~ント~~~~!!!!」
ジン「あの子は食べないって言ってるだろ!!!!」
ケント「ヘイ、タマ!」
ケント「『人間 おいしい食べ方』で情報まとめて」
タマ「〈【カニバリズム】人肉食。食人行為〉」
タマ「〈極限の飢餓状態、異常嗜好による行為のほか、呪術的な行為にも用いられ──〉」
ジン「おい!!邪魔しないでくれよ!」
ジン「・・・ケントも、人間のことを家畜程度にしか思ってないみたいだけど」
ジン「人間のいろいろな情報を集めていく内に」
ジン「ますます面白くて愛しい存在だと思うようになった」
ジン「50人兄弟の中で、僕が選ばれたのは 最初は不満だったけど」
ジン「今は半分くらい違うかな」
〇研究所の中
ジン「ヒメ~♪」
ヒメ「!?」
ジン「兄さんにもヒメを飼うこと その内打診しなきゃいけないから」
ジン「タマに記録を取らせるよ」
ヒメ「・・・・・・」
ジン「この子はヒメだよ」
ジン「ヒメはおとなしくていい子だから」
ジン「兄さんも気に入ると思うよ」
ジン「僕は人間の味、あんまり好きじゃないし」
ジン「サンプルとしても必要だろ?」
ヒメ「・・・・・・」
ジン「え〜っと・・・」
ジン「ヒメのあれ、なんだっけ?」
ジン「一言で言い現すと──」
タマ「〈【小学生】小学校に在学する児童〉」
ジン「それだ!!」
ヒメ(私は・・・高校生だ!!!!)
ジン「ん? ・・・ヒメ、何か言った?」
ジン「あれ?ヒメ?」
ジン「・・・ヒメはなかなかシャイで、もっと仲良くなるには時間がかかりそうだ」
〇宇宙船の部屋
私の名前はヒメ
フルネームは灰中 飛芽(はいなか ひめ)
学校にも家庭にも居場所を見出せなかった、どこにでもいる女子高生だった
なんやかんやで家出をした私は
なんやかんや訳あって、凶悪な怪人のペットとして日々を暮らしている
ぺットにしては、人権が保障され過ぎているこの環境に最初は戸惑ったが──
引きこもり気質の私にとっては、最高の環境とも言える
陰険クソババアの管理下に引き戻されるくらいなら、私はずっとこのままでいい
私は怪人のペットとして、天寿を全うする覚悟を決めた・・・!
〇研究施設の廊下(曲がり角)
ジン「ヒメー!」
ジン「お願いだから、出てきなよ」
ヒメ「嫌だ!!!!」
ケント「行きたくないなら、別にいいじゃん」
ケント「ストレスかけるのはよくないだろ?」
ジン「う~ん・・・」
ケント「ストレスかけると、肉がまずくなるらしいし」
ジン「・・・ケントさん?」
〇宇宙船の部屋
ヒメ(このままでは、まずい・・・)
ヒメ(うかつに外なんか出歩いたら、家に連れ戻されるかもしれないのに──)
ヒメ「散歩なんか、行きたくない!」
〇研究施設の廊下(曲がり角)
ケント「ちびヒメは、頑固だねぇ」
ケント「人間の飼い方の本に、対処法載ってないん?」
タマ「〈【育児書】育児の不安や疑問を解消するための知識がまとめられた本〉」
ケント「そうそう、その本」
ジン「共感を示して、気持ちに寄り添うのが1番なんだけど・・・」
ケント「ふぅん」
ジン「ん?」
タマ「〈──様からのメッセージを読み上げます〉」
〇宇宙船の部屋
ヒメ「ぎゃあああああああ!!」
ケント「はーい、お邪魔ー☆」
ケント「つべこべ言わずに出て来いコラ」
ケント「お前に拒否権があると思うなよ」
ジン「急いで!はやくここから出よう」
〇渋谷駅前
シ゛ン「いっけなーい!!遅刻チコクゥゥゥ!!!!」
ケント「遅えなー、ジン子の奴・・・」
ヒメ「・・・・・・」
シ゛ン「2人共、お待たせー!!」
ケント「おう、ジン子」
ケント「これからどうするよ?」
シ゛ン「そうだねぇ、どこ遊びに行こうか?」
シ゛ン「ヒメは、どこか行きたいところある?」
ヒメ「・・・・・・」
ヒメ(どういう状況だよ・・・!!)
シ゛ン「・・・どうだった?ヒメ」
シ゛ン「高校生っぽく振る舞えてたと思う?」
──説明しよう!
ジンたちは人間の姿に擬態することができるが
センスは人それぞれなのである!
ヒメ(お前のような高校生がいるかっ!!!!)
〇カフェのレジ
ヴィーガン専門飲食店
ケント「ねえ、お姉さん」
ケント「最近ストレスたまってない?」
女性客「え・・・は、はい?!」
女性客(こ、これって・・・もしかしなくても、ナンパ?!)
女性客(ていうか、イケメン!!!!)
女性客(た、たまってないか?だなんて、下ネタに聞こえるじゃないの・・・!)
ケント「お姉さん、本当にヴィーガンなの?」
女性客「いえ、その・・・私はまだ、ヴィーガン歴浅くて──」
ケント「だよねぇ、臭いでわかるもん すごいまずそう」
女性客「な・・・??!!?」
女性客(なに、こいつ!!!!!)
ヒメ「す、すすすすすみません!!!!!!」
ヒメ「失礼しました!!!!」
〇カウンター席
シ゛ン「ケント、ヴィーガンを物色するのはやめなよ!」
シ゛ン「そのためにこの店を選んだのか」
ケント「まあ、いいじゃん。ヒメはご機嫌みたいだけど?」
ヒメ「わ、私は、別に・・・」
シ゛ン「本当だ!」
シ゛ン「たまには街に出るのも楽しいでしょ?」
ヒメ「ま、まぁ・・・うん・・・」
ヒメ「・・・・・・」
ヒメ(こんな風に、制服で遊びに出かけるの はじめてかも)
ヒメ(なんか、リア充っぽい・・・)
ヒメ(目の前にいるのは、凶悪人食い怪人だけれども・・・)
シ゛ン「──じゃあ、今度はヒメの行きたいところに行こうよ」
ヒメ「え・・・」
シ゛ン「どこでも付き合うよ!」
〇ゲームセンター
シ゛ン「ゲームセンターか!」
シ゛ン「こういうところは調査したことなかったな」
ケント「なにこれ?どうやって遊ぶん?」
ヒメ「これは、お金を入れてクレーンを操作して」
ヒメ「お菓子を取り出し口に落とすゲームで──」
シ゛ン「なるほど!これでいっぱいお菓子が落ちるぞ」
ヒメ「ゲーム機を揺らすな!!!!」
ヒメ「それはルール違反だから!」
ケント「ふぅん・・・他に面白いのは──」
ケント「これ、殴って遊ぶのか?」
ヒメ「いや、それはお金を入れてから──」
ヒメ「パンチングマシーンが・・・!?」
ケント「え、壊れた?」
シ゛ン「それ、不良品なんじゃないの?」
ヒメ(ああもう、こいつらは!!!!)
ヒメ「ほら、店員に気づかれる前に離れた方が──」
シ゛ン「・・・あれ?」
シ゛ン「ヒメ!どこに行くの?!」
〇女子トイレ
ヒメ(どうしよう・・・)
ヒメ(思わず逃げたけど、やっぱりバレたかもしれない)
ヒメ(誘惑に負けて、こんなところに来るんじゃなかった)
脇谷「やっぱり・・・!」
脇谷「灰中さんだよね?!」
ヒメ(クラスメイトの・・・脇谷さん)
ヒメ(最悪だ。こんなところで見つかるなんて)
脇谷「今までどこにいたの?!」
脇谷「学校の皆も心配してるよ!」
ヒメ「学校の・・・・・・」
「あんたの家、貧乏なんでしょ?」
「ご飯買うお金もないの?
発育不良で小学生にしか見えないってww」
「荷物持ちのバイトさせてあげる♪」
ヒメ「・・・・・・」
脇谷「灰中さんのお母さんも、必死に探してたよ」
脇谷「今、連絡してあげるから 一緒に帰ろ──」
ヒメ「やめて!!!!」
ヒメ「私は帰らない!!」
脇谷「お、落ち着いて──」
シ゛ン「こらーーーー!!」
シ゛ン「ヒメをいじめるなぁぁぁ!!」
脇谷「キャアアアアアアアア?!!」
ヒメ(ドアが・・・へし折れた?!)
???「なんだ・・・今の悲鳴は??!」
ヒメ「に、逃げよう、ジン!」
〇入り組んだ路地裏
シ゛ン「大丈夫か?ヒメ」
ヒメ「・・・・・・」
シ゛ン「ごめんな、ヒメ」
シ゛ン「実は・・・無理矢理連れ出したのは、理由があるんだ」
ヒメ「・・・・・・」
シ゛ン「兄さんが抜き打ちで僕らのところに来るらしくて」
シ゛ン「ヒメがいることを知ったら、反対するかもしれないと思ったんだ」
ヒメ「・・・・・・」
シ゛ン「ヒメは、元の家に帰りたくない理由があるんだろ?」
シ゛ン「ヒメがタマと話していた内容、タマが記録してたから・・・」
シ゛ン「それで事情は大体知ってるよ」
ヒメ(おいおいおい、待てコラ!!!!!)
ヒメ(所詮ペットにプライバシーはないのかよ!!)
シ゛ン「とにかく、兄さんとのこともなんとかするからさ」
シ゛ン「ヒメは心配することないからな」
ヒメ「・・・・・・」
ヒメ「私はもう、覚悟は決めてる・・・」
シ゛ン「・・・ヒメ?」
ヒメ「こんな世界で生きていたって、苦しいだけだ」
ヒメ「地獄の中で薄いうっすい幸せを見出して」
ヒメ「その日その日をごまかして生きてるだけなんだよ」
ヒメ「私を殺してくれ、ジン」
ヒメ「誰かが私をお前から引き離そうとしたら」
ヒメ「その時は、飼い主のお前が責任を持って始末してくれ」
シ゛ン「・・・・・・」
シ゛ン「んー・・・」
シ゛ン「それは嫌だな」
ヒメ「・・・・・・」
シ゛ン「逆に、僕とヒメを引き離そうとする奴を」
シ゛ン「ぶち殺した方がいいんじゃないのか?」
ヒメ「え゛」
ヒメ「う・・・ん・・・?」
シ゛ン「ヒメは優しいというか、変わってるなぁ」
シ゛ン「僕と一緒にいたいなら、一緒にいればいいだけの話だろ?」
ヒメ「・・・・・・」
シ゛ン「最近、気づいたんだけど・・・」
シ゛ン「楽しそうにしているヒメからは、いい匂いがするんだ」
ヒメ「いい匂い?」
シ゛ン「だからかな・・・」
シ゛ン「ヒメが悲しい思いをしていると、なんだか落ち着かないんだ」
シ゛ン「ヒメのことは俺が守るから」
シ゛ン「安心してそばに居ていいんだよ?」
ヒメ「・・・・・・」
ヒメ(なんで・・・)
ヒメ(なんで、こんな・・・頭のおかしい怪人が)
ヒメ(私が欲しかった言葉をくれるんだろう)
シ゛ン「・・・ヒメ?!」
シ゛ン「どうして泣いて──」
シ゛ン(あれ?泣いてるけど)
シ゛ン(ヒメからはとても幸せそうな匂いがするな)
ヒメ「匂いって・・・犬かよ 変な奴だな・・・」
〇研究所の中枢
ジン「よかったな、ヒメ♪」
ジン「ケントが兄さんを うまく言いくるめてくれて、助かったよ」
ケント「フフン♪」
ケント「ヒメ。これからは公認の非常食として、胸を張っていいぞ」
ヒメ(誰が非常食だよ!!!!)
〇研究所の中
ヒメ「タマ、お前スパイだったんだな」
タマ「〈【スパイ】敵対関係にある団体、国家から、秘密裏に情報を収集する者〉」
ヒメ「ネット動画もろくに探せないポンコツだと思ってたのに・・・」
ヒメ「ジンは人間のことが愛しいとか、訳わからんこと抜かすけど」
ヒメ「私は人間が大嫌いだ」
ヒメ「ジンは、仲間と世界征服がしたいんじゃないのか?」
タマ「〈【人類】人間の総称。霊長目ヒト科に分類される〉」
ヒメ「はぁ・・・」
ヒメ「まあ、ジンと一緒に世界滅亡の手助けをするのも悪くないな」
ヒメ「別にこんな世界 滅んだってどうでもいいし」
ヒメ「あ、今の会話は記録したりするなよ!」
タマ「〈データを削除しました〉」
ヒメとジンの、都合が良すぎると言えなくもない関係性にスパイスのような役割のケントが加わることでちょっとピリッと引き締まっていいですね。タマのすっとぼけた仕事ぶりもいい味出しています。
ペットという概念ではなく、ひとつの大切な人って考えが伝わってきました。
人間も動物のペットを愛するように、仮に人間が飼われることがあったとしても、理解し合える仲だといいですね!
ヒメが非常食候補!になったのも、需要と供給がまさに釣り合って生まれた状況だという設定がとても興味深かったです。捨て身の彼女だからこそ、相手の本質も見え、又怪人の心をつかんだのでしょうね。