9惣七の夢、縁の夢(脚本)
〇祈祷場
町民「また来たよ、千羽ちゃん この絵、貰っていくよ」
町人「こっちも勘定を頼む この絵を おくれ」
千羽「毎度ありがとうございます」
町民「それにしても 恩暮呂堂って変な名前の割には毎日繁盛してるよね」
千羽「はい、お陰様で」
町人「そりゃそうだよ!なんせ縁の妖怪画はここでしか買えねえんだからよ! こりゃあ 店主もにやけ顔だろぉ?」
千羽「あ・・・ はい」
千羽「あの、いつもありがとうございます! またお待ちしてます」
千羽「・・・はあ」
千羽(惣七 縁さんがいなくなったって言ってから元気がない)
千羽(私は縁さんに会ったことないけど 惣七のあの落ち込み様 心配だわ)
異国の民「では今日はこちらの絵を頂きます」
惣七「毎度あり!」
異国の民「あの、恩暮呂堂さん 時に質問ですが」
異国の民「縁さんの新作はいつ頃出るのでしょうか」
惣七「え?新作・・・は」
惣七「今のところ予定してないんですよ! あはは!」
異国の民「そうですか わかりました ではそろそろ帰ります」
惣七「いつもごひいきに! またお願いします!」
異国の民「ああ、そうだ惣七さん」
惣七「はい?」
異国の民「最近 働きすぎでは? 顔がやつれています」
異国の民「まるで、何かに取り憑かれているようだ」
惣七「・・・!」
異国の民「まあ、恩暮呂堂が開店したばかりだから仕方のないことではあるのでしょうが 休んで下さいね では」
惣七「取り憑かれている、か」
惣七「縁に取り憑かれていた頃の方が元気だったかもな」
〇祈祷場
惣七「はぁ 疲れた」
千羽「大丈夫? 最近全然眠れてないみたい」
惣七「ん?ああ平気だよ」
ヤマブキ「にゃん!」
惣七「はは、山吹、ありがとな」
惣七「二人とも先に休んでてくれ 俺は少し」
惣七「少し 一人になりたい」
〇黒
惣七「店は繁盛、金はある、優秀な職人も、良いお客さんも」
惣七「恵まれている」
惣七「それは確かだ」
惣七「でも何か足りない」
惣七「縁、今日お客さんに新作はないのか? と聞かれたよ」
惣七「お前がいないと恩暮呂堂は無理だ」
惣七「やっていけない」
惣七「こんな妖怪画だけ残して、 急にいなくなってよ」
惣七「ん?」
惣七「これは?」
惣七「見たことない縁の絵だ」
惣七「まだ新作を描こうとしていたのか?」
惣七「なぜいなくなったんだ」
惣七「それにしても本当に凄いな 縁の絵は」
惣七「・・・」
惣七「そう言えば前は好きな絵師の絵をよく模写してたっけ」
惣七「ちょっと模写してみるか」
〇祈祷場
そもそも俺は
縁の絵を模写したことがなかった
惣七「おお!?髪の毛一本一本描いている!?」
それどころか 縁と組んでから一度も絵を描いていない
惣七「ん?こんな感じ・・・か」
惣七「いや違うなぁ もっと細かくないと やり直し」
でも すごく楽しかった
惣七「しかもこの質感、どうやって出してるんだ?」
楽しい・・・?
惣七「ん~ やっぱり違う全然違う もっとよく見ないと」
なんで楽しかったんだっけ?
惣七「~~~ う~~~~~ん これでどうだ!」
惣七「これじゃあ細かすぎるなぁ 凄いよな。遠くから見ると、毛の一本一本、まとまって見えるんだよなぁ」
ああ そうか
惣七「うわ~~~! やっぱりだめだ!」
俺は 縁の絵を見ているのか楽しかったんだ
惣七「模写しようとするとより分かりやすいな やっぱり俺には描けない」
惣七「言葉通り」
惣七「縁の技術は正に「神の領域」なんだ」
そして俺は
惣七「ああ~早くこの凄さを誰かに伝えたいなぁ!」
それを言葉にすることが好きなんだ
惣七「・・・」
惣七「重兵衛さん」
惣七「俺やっと重兵衛さんの言ってること 分かったよ」
惣七「俺、本当に絵師に向いてないんだ」
〇古びた神社
惣七「う〜ん、なんか昨日は久しぶりに楽しかったな〜!」
千羽「惣七!あなたに会いたいって方が」
惣七「え?誰?」
重兵衛「よう惣七!元気だったか?」
お菊「惣ちゃん、凄いねぇ この問屋。恩暮呂堂ってゆうのかい?」
惣七「重兵衛さん!お菊さん! 引っ越したんじゃなかったのか?」
重兵衛「ほとぼり冷めたんでよ、 戻ってきたんでェ!」
惣七「ほとぼり?何の?」
重兵衛「上様からのお達しでな うちで売ってる浮世絵は世の乱れ、 とかで販売禁止になってたんでェ」
惣七「そうだったのか 俺もこれから気を付けないと」
重兵衛「その口ぶりだと、もう絵師は辞めて 問屋一本でいくのか?」
惣七「そう、だな」
惣七「うん 俺、もう絵師にはなれねぇって分かったから」
重兵衛「惣七、忘れたとは言わせねぇよ? お前ェは俺によ」
重兵衛「「大好きな絵で食っていく」と」
重兵衛「こういったわけだ」
重兵衛「あんなに俺に啖呵を切った割にゃ あっさりと諦めるじゃねぇか えェ?」
重兵衛「じゃあ聞かしてくれよ お前ぇの 考えをよ」
惣七「分かった」
惣七「縁がいなくなって もう一度考えてみたんだ」
惣七「俺がなりたかったのは 何だったか」
惣七「今までの俺は親父や爺さんのように絵師になりたいと思っていた」
惣七「絵が好きという気持ちは 絵を描くことでしか表現出来ないと勝手に思っていたからだ」
惣七「でも、俺の絵は誰かの真似事で」
惣七「早く上手い絵を描いて皆を見返したい」
惣七「金を儲けて有名になりたい そんなことばかり考えてた」
惣七「でも縁はどうだ」
絵が描けるならなんでもいいよ
惣七「縁を突き動かしていたのは 金じゃない 名誉じゃない」
惣七「好きという気持ちだ」
惣七「あいつは純粋に ただ純粋に絵を描くことが好きだったんだ」
惣七「俺が・・・ 俺が本当に好きなのは何だ」
心を込めて描くと
宿るのさ、命が
惣七「皆、聞いてくれ! この世の中に、こんなに凄い絵師がいるんだよ!」
どうしても
縁さんの作品を彫ってみたかったんです
どうしても
惣七「こんなに 努力家で自分の気持ちにまっすぐな 凄い彫師がいるんだよ!」
黄昏色を
カザンが読者に見せたいと言った色を
作りたかった
惣七「こんなに 故人の意志を届けようとする 凄い摺師がいるんだよ!」
惣七「俺が」
惣七「俺の言葉で」
惣七「伝えてみせる!」
惣七「こいつらの 技術を!」
惣七「努力を!」
惣七「思いを!」
惣七「覚悟を!」
惣七「葛藤を!苦悩を!全部!」
惣七「俺は 絵が好きだ! 職人たちが 命がけで作品を描いているからだ!」
惣七「そしてこの絵を好きだという人に絵を大事にしてほしい!」
惣七「だから俺は絵を売る!」
惣七「これが俺の 「大好きな絵で食っていく」の答えだ!!」
重兵衛「・・・」
重兵衛「惣七」
重兵衛「成長したな」
重兵衛「お前ェには以前その、」
重兵衛「絵師には向いてねェと言ったが」
重兵衛「そう言いたかったんじゃあねぇ」
重兵衛「お前は 問屋としての才能がある」
重兵衛「こう言いたかったわけだ、 俺は。わかるよなっ?その・・・」
お菊「ちゃんといいなよ」
重兵衛「うっ」
重兵衛「悪かったよ あんなこと言って」
惣七「あはは! すげえ!重兵衛さんが謝った!」
重兵衛「なんだよ! 俺だって謝ることくらいあるっての!」
お菊「ねえ惣ちゃん」
お菊「私達 感心してたのよ」
お菊「問屋は売れる絵師の絵をどれだけ売り出してお金を儲けるか考えないといけないでしょ」
お菊「だからつい、絵師や摺師に彫師、職人達の思いや苦労をおざなりにしてしまうの」
お菊「でもあなたは違う」
お菊「あなたはそれらも含めて作品だと思っている」
お菊「それはあなたが絵が好きで」
お菊「尚かつ 自分には描けないということを知っているから出来ることなのよ」
お菊「その尊敬の気持ちが 職人達にいい仕事をさせるの」
重兵衛「だからきっと良い問屋になる!」
重兵衛「そう思って帰ってきたらよ」
重兵衛「もうすでにやり遂げていた」
重兵衛「お前ェは大したやつだ、惣七」
重兵衛「もっと胸を張れ!」
惣七「・・・」
惣七「〜〜〜〜っ!」
惣七「俺はそんな凄いやつじゃない」
惣七「縁の絵がなかったら恩墓呂堂は出来てなかった」
惣七「縁」
重兵衛「その縁って奴だがなぁ」
重兵衛「何も言わず、居なくなったって お前との絆は変わらねぇだろ」
重兵衛「だからよ、 けろっと戻ってきた時の為に」
重兵衛「恩暮呂堂を続けて 帰る場所を守っていけばいいじゃねぇか」
お菊「浮世絵を好きでい続ければ いづれまたどこかで会えるかもね」
惣七「・・・」
惣七「分かった」
重兵衛「それによ、お前にはとっても器量の良さそうな仕事仲間が他にもいんじゃねェか」
千羽「惣七」
千羽「私、惣七のこと支えたいわ」
千羽「恩暮呂堂が好きだもん」
ヤマブキ「んにゃーお」
惣七「千羽、山吹」
惣七「そうだよな いつか縁に再開できる日まで」
惣七「恩暮呂堂を守っていこう」
惣七「よーし! そうと決まれば早速 策を練ろう!」
惣七「常連さんから 新作はないのか?と聞かれた 新しい絵師を雇うか検討しよう」
惣七「だが、店の雰囲気や顧客さんを失いたくない! だから、うちで売る浮世絵は妖怪画で統一して・・・」
〇黒背景
惣七「縁 待っててくれ」
惣七「お前と次再会する時は」
恩暮呂堂をもっと盛り上げてみせる
自分の道を見つけた惣七「成長物語」ですねえ。
いい話になりました。
キュウリやイモを食べて喜んでいた頃が嘘みたい。
そして最後の幕は?
感動してうるうるしました❗まさかこんな展開になるとは✨詩さんの作品作りへの想いがこめられてて響きます✨
惣七が自分の生きる道をしっかり見定めたのですね!
前向きに。
でもやはり、少しさみしいですね( ´ ` )