怪人カンパニー

みっきん

読切(脚本)

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〇廃ビル
大高 守人(本当にここで合ってんのか? まるで幽霊屋敷やん・・・)
大高 守人「あのー、すみません。 16時から面接の大高と申します」
鍋竹 美桜「お待ちしておりました。 どうぞこちらにお入りください」
大高 守人(うぁ、超俺好みのべっぴんさんやん!)
鍋竹 美桜「失礼ですけど、どうしてウチみたいな会社に・・・」
大高 守人「え? いや、正直なところ、お金が必要なんす・・・。 高収入って書いてあったんで受かればラッキー、と思いまして」
鍋竹 美桜「受かると思いますよ。 でも、いいんですか、本当に?」
大高 守人「ちょ、ちょっとそれ、どういうことですか!?」
鍋竹 美桜「詳しいことは中で。 さぁ、お入りください」

〇組織のアジト
鍋竹 美桜「面接の方、お見えになりました」
大高 守人「失礼します」
イロチシンラクシラウ部長「面構えは悪くないな。 名前は?」
大高 守人「え??」
イロチシンラクシラウ部長「もう一度言う。 お前の名前を教えろ」
大高 守人「あ、あの。 おおたか もりひと・・・です」
鍋竹 美桜「年齢21歳。 城北大学 スポーツ栄養学部を今年3月に中退。 現在は無職。 特技は剣道。趣味はパヂンコ、競艇、麻雀」
鍋竹 美桜「・・・と、履歴書に書いてますが間違いないですか?」
大高 守人「あ、はい。 剣道は一応、県大会ベスト8までいきました」
大高 守人「・・・失礼ですが、どうしてそんな恰好で?」
イロチシンラクシラウ部長「えっと、オオタカとか言ったな。 お前、うちの会社のこと、どこで知った? どこまで知ってる?」
大高 守人「実は、ちょっとヤバめのところからお金借りてまして・・・」
大高 守人「最初はコツコツ返してたんですけど、利息が全然減んなくて」
大高 守人「こうなったら一攫千金しかない、と、ギャンブルで大勝負かけたけど傷が広がるだけ」
大高 守人「そしたら取り立ての人からこのチラシ渡されて」
イロチシンラクシラウ部長「ああ、イズブチローンからの流れか。 じゃあ、詳しくは聞いてないだろうな」
鍋竹 美桜「学歴不問、未経験でも月収100万円。 大抵の人はみんな怪しがって連絡もしてこないんですけどね」
大高 守人「そりゃ、怪しいとは思いましたけど。 とにかく借金返さないといけないんで」
イロチシンラクシラウ部長「見ての通り、俺は人間じゃねえ」
イロチシンラクシラウ部長「俺だけじゃない。うちの社員はみんな『怪人』だ」
鍋竹 美桜「私は違いますけどねー」
大高 守人「にしては日本語、お上手ですね」
イロチシンラクシラウ部長「『ガイジン』じゃねーよ、『カイジン』。 怪しい人だ」
大高 守人「いや、怪しくない訳ないでしょ」
鍋竹 美桜「あのー、面接だってこと分かってます?」
大高 守人「・・・失礼しました。 怪人って、アレですか? 仮面ナントカに出てくる敵の・・・」
大高 守人(やべ、また余計なこと言っちゃった)
イロチシンラクシラウ部長「まぁ、その解釈でだいたい合ってる」
大高 守人「じゃあ、改造手術とか受けてるんです?」
イロチシンラクシラウ部長「改造? 手術? そんな痛いことはしない」
イロチシンラクシラウ部長「なりきるんだ」
大高 守人「・・・なりきる?」
イロチシンラクシラウ部長「自分は怪人だ、人間じゃない、とひたすら思い込む。 それを続けたらお前もこの体が手に入る」
大高 守人「意外と簡単になれるもんなんですね」
イロチシンラクシラウ部長「ただし。 二度と人間に戻れることはないけどな」
大高 守人「そこまでして一体どんな仕事してるんですか?」
イロチシンラクシラウ部長「あー、もしもし。 今、面接中なんだが、急ぎの用か?」
イロチシンラクシラウ部長「・・・。 何だと!!!! 分かった、今から向かう」
鍋竹 美桜「アダキさんですか?」
イロチシンラクシラウ部長「ああ。全く世話が焼ける」
イロチシンラクシラウ部長「ちょうどいい。 お前に教えてやる。 ついてこい」
大高 守人「は? 今からですか?」

〇荒廃した教会
イロチシンラクシラウ部長「着いたぞ」
大高 守人(何だ、ここ)
アダキカデヒツ「部長。 申し訳ありません!」
イロチシンラクシラウ部長「お疲れ。 あーあ、だいぶ派手にやっちまったな」
アダキカデヒツ「こっちは事前打ち合わせ通りだったんですけど、ヒーローさんが結構熱くなっちゃって・・・」
イロチシンラクシラウ部長「これ全部弁償したら赤字だぞ。 得意先、追加出してくれんのか?」
アダキカデヒツ「いえ、当初から予算カツカツって話だったんでこれ以上は・・・」
イロチシンラクシラウ部長「で、ノゲシラさんは?」
アダキカデヒツ「次の現場コーディネーターと電話中です」
イロチシンラクシラウ部長「呼んでこい!」
アダキカデヒツ「はい」
イロチシンラクシラウ部長「ふぅー。 どいつもこいつも使えねぇ」
ノゲシラテタリカ課長「よう。 イロチ、来てくれたのか」
イロチシンラクシラウ部長「ちょっと先輩。 何回同じ失敗繰り返すんですか?」
ノゲシラテタリカ課長「仕方ないだろ。 ヒーローさん、テンション上がってたし、いい環境作るのがウチらの仕事じゃん」
イロチシンラクシラウ部長「はぁ?? クライアント説得すんのがあんたの仕事だろ!!」
イロチシンラクシラウ部長「利益出せなきゃ意味ないんすよ。 ボランティアじゃないんだから!」
イロチシンラクシラウ部長「あんたの適当な仕事で、俺らが汗水たらして稼いだ金がどんどん消えてってんだよ!」
ノゲシラテタリカ課長「イロチ、先輩に対してその言い方はないだろよ」
イロチシンラクシラウ部長「それにイロチって呼ぶの、やめてもらえますか? 立場的には上司と部下なんだし」
ノゲシラテタリカ課長「・・・すまん」
イロチシンラクシラウ部長「で? ヒーローさんとこの事務所とはどんな話になってるんです?」
ノゲシラテタリカ課長「まぁ、今回はアクシデントってことで、ウチに何とかして欲しいと。 その分、次の発注で値引き入れてくれるって」
イロチシンラクシラウ部長「次っていつですか? あそこからの発注、年1くらいじゃないですか。 ダメです。ちゃんと交渉してください!」
ノゲシラテタリカ課長「その言い方、だんだんムスカワ専務に似てきたな」
イロチシンラクシラウ部長「先輩はいつまで経っても理想主義から抜け出せませんね。 もう時代は変わったんです!」
ノゲシラテタリカ課長「お前、社長のやり方を批判してんのか?」
イロチシンラクシラウ部長「今どき人情だけじゃビジネスなんて成り立ちっこないでしょ?」
大高 守人「・・・なんか、カッケーっす」
イロチシンラクシラウ部長「何が、だ?」
大高 守人「最初は怪しい人の集まりだと思ったけど、何かちゃんとしてんなー、って」
ノゲシラテタリカ課長「・・・誰だ、こいつ」
イロチシンラクシラウ部長「ウチの新しい社員です」
大高 守人「えっ? まだ入社するなんて言ってないけど」
イロチシンラクシラウ部長「・・・頼む。 ウチで働いてくれ」

〇大衆居酒屋(物無し)
???「へい、らっしゃい! おっ、部長。今日は接待ですか?」
イロチシンラクシラウ部長「大将、違うよ。 コイツ、ウチの新入社員」
大高 守人「あ、どうも。 大高です」
店長「そうかい。 じゃあ、次会う時は別の姿だな」
イロチシンラクシラウ部長「とりあえず、ビールでいいか?」
大高 守人「はい。 ・・・てか、飲めるんですか?」
店長「イロチ部長は酒豪だぜ。 大高君、覚悟しとけよ」
店長「はい、生中2杯、お待ち!」
イロチシンラクシラウ部長「じゃあ、乾杯だ」
大高 守人「いいんすか? ご馳走になって」
イロチシンラクシラウ部長「入社祝いだ。 遠慮するな」
大高 守人「じゃあ、乾杯・・・」
大高 守人「で、この会社って何するとこなんすか?」
イロチシンラクシラウ部長「まだ理解出来てないのか?」
大高 守人「なんでヒーローと怪人が取引してるのか、普通に考えておかしいですよ」
イロチシンラクシラウ部長「いいか。 ヒーローってのはさ、平和な世の中じゃ必要ないんだよ」
大高 守人「まぁ、そうでしょうね。 普通の事件なら警察レベルですみますし」
イロチシンラクシラウ部長「そう。 ヤツらが存在価値をあげるには警察や自衛隊でも歯が立たない巨大な敵が必要だ」
鍋竹 美桜「そこで私たちがヒーローさん達の希望にあったプランで悪事を仕掛けるの」
大高 守人「あれ、さっきの・・・」
鍋竹 美桜「総務の鍋竹です。 遅くなってすみません」
イロチシンラクシラウ部長「俺が呼んだんだ。 美桜ちゃん、生中でいいか?」
鍋竹 美桜「お願いしまーす。 あと、たこわさも」
大高 守人「ヒーローからお金もらって悪事を働く会社ってこと? それってヤラセみたいなもんじゃん」
イロチシンラクシラウ部長「そう。ヤラセだ。 俺たちは悪いことをしてるフリをしてるだけけ」
鍋竹 美桜「事前に警察や自治体に許可も取ってるし、テレビ局や新聞社もウチが手配してるの」
大高 守人「なんか、ドラマの撮影みたいっすね・・・」
鍋竹 美桜「似たようなもんかな。 襲われる人達もエキストラ会社に派遣してもらって何度もリハーサルしてるから」
イロチシンラクシラウ部長「そうやってヒーロー側は実績を積んで商品価値を高める。 結果、スポンサーがつく」
大高 守人「なんか、アスリートっぽい」
鍋竹 美桜「活躍が派手になればなるほど世界から注目され動画の再生回数も上がるの」
大高 守人「だからさっきみたいに想定外のトラブルも起きるんですね」
イロチシンラクシラウ部長「そこは営業である俺たちがちゃんと現場管理してれば未然に防げる話しだ」
鍋竹 美桜「その件、また社長と専務が揉めてましたよ」

〇組織のアジト
ヤマトヒラオル社長「俺の会社だ! 余計な口出しはするなと言ってるだろ!」
ムスカワヨシス専務「社長がそんな甘っちょろいこと言ってるから温い体質になってるんですよ。 使えない社員はリストラすべきです」
ノゲシラテタリカ課長「・・・申し訳ありません」
ヤマトヒラオル社長「会社はファミリーだ。 もう少し部下に対しての情を持て」
ムスカワヨシス専務「情なんかで動いてたら会社潰れちゃいますって。 ノゲシラにこれ以上何を期待してるんですか」
ヤマトヒラオル社長「コイツは若い頃のワシに似てる。 お客様にも可愛がられてるし、もう少し長い目で・・・」
ムスカワヨシス専務「予算管理も出来ない、スケジュールも守れない。 で、今回は現場トラブル。 利益を生まない社員に用はない」
ノゲシラテタリカ課長「・・・本日をもって退職させて頂きます。 これまでお世話になりました」
ムスカワヨシス専務「・・・」
ヤマトヒラオル社長「昔はこんなんじゃなかったよな・・・」
ムスカワヨシス専務「時代は令和です。 どこも厳しいんです」
ヤマトヒラオル社長「利益率がどうだ、とか数字の話されてもワシは分からん。 給料払える程度に上手くやってくれりゃいいんだよ」
ムスカワヨシス専務「そんな数字が読めない社長の尻拭いをこっちは何年もやってきてるんです!」
ムスカワヨシス専務「社長が経営責任を取るおつもりがないのなら私は辞めさせてもらいます」
イロチシンラクシラウ部長「社長も専務も。 ちょっと落ち着いてください」
ヤマトヒラオル社長「イロチシン、聞いていたのか」
ムスカワヨシス専務「お前も俺と一緒に来い。 二人で新しい会社を立ち上げよう」
イロチシンラクシラウ部長「お断りします。 それに、ノゲシラ先輩も呼び戻してください」
ムスカワヨシス専務「どういうつもりだ?」
イロチシンラクシラウ部長「こいつから説明させます」
大高 守人「新入社員の大高と言います。 少しだけ話を聞いてください」
ムスカワヨシス専務「何? 新入社員? 聞いてないぞ」
イロチシンラクシラウ部長「私が採用しました」
ムスカワヨシス専務「これからは経費削減、人員整理だ。 即戦力以外の採用は認めない」
イロチシンラクシラウ部長「こんな時だからこそ、人員がいるんです!」
大高 守人「会社とか仕事とか全然分からないけど、部長に話を聞いてるうちに閃いたことがあります」
大高 守人「せっかく怪人のカラダを手に入れたのに、どうしてショボイ仕事してんだろう、って」
ムスカワヨシス専務「何だと、テメェ。 もういっぺん言ってみろ!」
イロチシンラクシラウ部長「まぁ、聞いてください。 続けて」
大高 守人「本来ヒーローってのは倒すべき相手でしょ? 金もらって頭下げるなんて馬鹿げてますよ」
ムスカワヨシス専務「それがウチのビジネススタイルだ」
大高 守人「どうせやるなら世界征服でも目指しましょうよ。 金なんて奪っちゃえばいいじゃないですか」
ムスカワヨシス専務「ただでさえコンブライアンスが厳しい時代に寝ぼけたこと言ってんじゃねぇよ」
大高 守人「寝ぼけてんのはどっちですか! パワハラ紛いの発言に、やってことは偽装工作。まともな会社じゃないでしょう」
イロチシンラクシラウ部長「・・・お前、それ言い過ぎ」
イロチシンラクシラウ部長「でも、コイツの言葉で目が覚めました。 こんな中途半端なビジネス続けても先が知れてます」
イロチシンラクシラウ部長「このご時世でヒーローを廃業するところも増えてます。 需要がこの先、確実に減るんです」
大高 守人「ヤラセで強いフリしてるだけのなんちゃってヒーローなんてこっちが本気出せばすぐ倒せますって」
イロチシンラクシラウ部長「だから、戦力を増やして総攻撃をかけたいんです」
ムスカワヨシス専務「・・・頼もしい新人が入りましたな、社長」
ヤマトヒラオル社長「ああ。 二人で暴れ回ったあの頃を思い出すな」
ヤマトヒラオル社長「よし! じゃあ、来週の役員会議で決議して株主総会で承認取ろう」
ムスカワヨシス専務「IRとニュースリリースも出さなきゃですね」
大高 守人「アッハッハッハッハッ!」
大高 守人「・・・って、本当にやる気あります??」
  つづく・・・?

コメント

  • 悪役専門の俳優事務所「悪役商会」を彷彿とさせる会社だなあと思って読みました。悪役の役者さんこそ真面目で誠実な人じゃないと務まらないそうですから、怪人も同様に正義のヒーローの尻拭いをする羽目になるんでしょうね。世間の幻想を維持して利益を得るためのカラクリを「アスリートみたい」と例えた発言には笑ってしまいました。

  • 見た目は怪人なのに、台詞がリアル過ぎてギャップにハマりました🤗ちゃんと仕事してて、思わず笑ってしまいました。
    怪人が自ら”怪しい人”と説明するくだりがお気に入りです🙌

  • 求人公募の内容から悪いイメージしかわかない会社が、こんなに情の熱い社長率いる怪人達の職場とはびっくりでした。ヒーローが暴れだす時点で、何もかもが逆転しているような、でもおもしろいビジネスではありますね!

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