闘血千刃

二律背反

闘血の魅了(脚本)

闘血千刃

二律背反

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〇ダクト内
  ─暗く広大な空間に響く足音
  暗がりから現れる男
  彼に反応して周囲に薄く明かりが灯る
  壁と天井に埋め込まれた無数のカメラが男の姿を追っていた
男「くそ・・・あいつら、俺を見世物に」
  ・・・
男「う・・・!」
  いつの間に現れたか
  剣を持つ異形が彼の前に立ちはだかっていた
異形「・・・そのままでいいのか?」
  異形は気安い口調で男に問う
男「・・・くそっ」
  逃がすつもりはないことを悟り、悪態をつく
男(こんなとこで死ねるかよ・・・俺が)
男「・・・うぉおおっ!」
  爆発と閃光が生じ、男を包み込む
  煙の中からさらなる異形が飛び出し、
  異形に襲い掛かった
異形「・・・あ?」
  瞬きする間の攻防
  異形と異形がすれ違う刹那─
  剣を持つ異形の一閃で、飛びかかった
  異形は胴体に深手を負う
  壁に激突し、地面に転がる異形
  見る見るうちに姿を変え、男の姿に戻っていく
男「ゴホッ・・・こ、こんな・・・」
  おれの・・・さい、ごが・・・こんな・・・
  男の瞳から急速に光が失われていく
  剣の血を払い、異形は男を一顧だにせず立ち去った

〇SHIBUYA109
  地下アリーナの上部
  人々が行き交う街並み

〇校長室
  とある事務所内─
  ノックの音に氷動レイは顔を上げた
紅 シンジ「ふー」
  けだるそうに男が入ってきた
  名を紅シンジ
  地下怪人格闘の選手である
  シンジは遠慮なく椅子に座り、スマホをチェックする
氷動 レイ「ご苦労だったな」
紅 シンジ「へました運び屋の処分なんかに 俺をつかうなよ」
氷動 レイ「相手は怪人で組の者には荷が重い それにアリーナで戦えただろう?」
紅 シンジ「あんな相手じゃ戦いにならないんだよ 見ろ、コメントも盛り上がってねー」
  レイに向けてかざしたスマホには
  先ほどの戦いの映像が流れていた
  動画にはすでに百件近くコメントが書き込まれている
氷動 レイ「お前、人の意見なんて気にするのか?」
紅 シンジ「ファンのニーズは知っておかないとなァ」
  こんこんとノック
氷動 レイ「入れ」
桜 ゲン「失礼します」
紅 シンジ「おーす、ゲンちゃん」
桜 ゲン「・・・どうも」
紅 シンジ「さっきの見てくれた? 仕事したぜ」
桜 ゲン「いえ、興味ないので」
紅 シンジ「・・・つれないねぇ」
桜 ゲン「レイさんのボディガードを務めるなら アリーナにも出てほしくないです 手の内をさらすような真似を・・・」
紅 シンジ「今更だねぇ・・・ 俺が地下格闘でデビューする前に スカウトしてくれよな」
氷動 レイ「ゲン、要件は?」
桜 ゲン「あ、はい 会長がお呼びです」
氷動 レイ「・・・本部か 行こう」
紅 シンジ「おいおい、俺は働いた後なんだけど─」

〇繁華街の大通り
  三人を乗せた車は市内を走る

〇車内
紅 シンジ「用事ってのは跡目の件かね?」
氷動 レイ「そうだろうな」
紅 シンジ「『会長の孫』ってだけで敵が多いことで」
氷動 レイ「お前もふざけた態度で身内を敵に回すな 見ろゲンの視線を」
桜 ゲン「・・・いえ」
紅 シンジ「ゲンちゃんは真面目だからな まー、もう少しの辛抱だよ」
氷動 レイ「・・・今この瞬間にも襲撃の可能性はある もう退けないぞ」
紅 シンジ「逃げる気はないぜ 戦えないほうが俺は死ねるからな」
氷動 レイ「・・・狂った犬だな」
  言葉を受けてもシンジは意に介さず
  車外に視線を移す

〇渋谷のスクランブル交差点
  ふと、通り過ぎる男と目があう

〇車内
紅 シンジ「・・・」

〇渋谷のスクランブル交差点
  それはいつもの帰り道─
カオル「ふぅ・・・」
カオル(なんだかつまらないな・・・)
  満たされない思いを抱えたまま
  日々を送る少年、カオル─
  交差点で車が止まるのを
  なんとなく眺める
  その車の下に何か─
  黒い猫のような俊敏なものがもぐりこんだように見えた
カオル(なんだ・・・猫?)
  次の瞬間─
カオル「うわっ!」
  爆発は車の下で起きた
  爆音と白い閃光が彼を襲う
  爆風に飛ばされて後頭部を打ち付けて悶えた
カオル「うぅ・・・」
  耳が聞こえない
  かすむ視界の中で車はもうもうと
  黒煙を上げて炎上していた

〇ビルの屋上
  爆発を離れた場所から確認する二人の男─
スーツの男「どうだ?」
監視員「・・・ターゲットの死亡確認できず」
スーツの男「目を離すな」
  その襲撃者二名に与えられた指令は
  氷動レイの抹殺だった
  スーツの男は報告で得た情報を頭に引き出す
  ターゲットの車には三人が乗車
  氷動レイとその部下
  全員が『怪人化』できる
  ターゲットが怪人なら、生身の時を狙うのが鉄則
  しかし車は防弾仕様
  今回は戦車地雷クラスの代物を使用した
  並みの相手ならこれで終わるが、相手は武闘派
監視員「・・・ターゲット確認 怪人化しています」
スーツの男(甘くないか──)
スーツの男「プランB開始」

〇渋谷のスクランブル交差点
カオル「う・・・」
  炎上している車に異変が起きた
  ドアが吹き飛ぶ
カオル「か、怪人・・・」
  車の中から三体の怪人が姿を現した
白面修羅「やっぱ仕掛けてきたな」
  紅シンジの怪人体─白面修羅が言う
  キィイイイイ!
  見計らったように一台の車が三人めがけ猛スピードで突進──
氷骨無道「修羅は迎撃 オニキスは退路の確保を」
  氷動レイの怪人体─氷骨無道が指示を出す
白面修羅「了解」
  修羅が剣を抜き、双眸が車の運転手を見極める
  若い男だった
  それを認めても修羅に躊躇いはなく
  運転手めがけて剣を投擲した
白面修羅「ふっ!」
男「!!」
  剣は狂いなくフロントガラスを叩き割り
  運転手を襲う
男「がっ・・・!」
  車は急ハンドルで怪人たちから逸れ
  ガードレールに激突し沈黙
白面修羅「さて、次は・・・」
  修羅は次なる襲撃に備えたが、動きはない
  敵はこちらの行動を見定めるつもりか
  ドンと激突した車の車内で爆発が起きた
  爆発物でも積んでいたか
白面修羅「逃げるなら早くしたほうがいいぜ・・・!」
  レイたちを振り返ると、そこは一面が火の海と化していた

〇渋谷のスクランブル交差点
白面修羅「いつの間に・・・」
  炎は身の丈ほどまで燃え上がり視界を遮る
  炎の勢いは『車が炎上しただけ』では考えられないほどだ
  怪人の能力か─
  炎の揺らめきの中でレイと桜の姿を認めた
  逃げ遅れたか
白面修羅(これが次の手か)
  火の粉が修羅の胸元へ落ちた
  振り払おうと触れた瞬間─
白面修羅「ぐっ!」
  燃え盛り胸が焦げる
  炎の能力を持つ怪人──ならば狙いはレイだ
  氷骨無道は炎に弱い
  交差点内に炎の壁は広がり
  完全に包囲された
  それだけでなく、別の炎の壁が修羅を取り囲みつつあった
  脱出を試みるも壁は修羅の周囲を追いかけてくる
白面修羅「・・・!」
  背後に殺気を感じ、身を逸らして一撃をかわす
  顔の左側面に激痛
  襲撃した怪人は即座に炎の壁に身を隠した
白面修羅(奴は炎の怪人じゃない─)
  直感─今の攻撃と炎の攻撃
  両者の質の違いを修羅は感じた
  少なくとも敵は二体いる─

〇渋谷のスクランブル交差点
スレイヤー(今の不意打ちを躱すとは)
  怪人─スレイヤーは内心驚いていた
スレイヤー(警戒されたか フェイントを織り交ぜて急所を狙う──)
  スレイヤーは修羅を包囲する炎の壁をぐるりと回る
  スレイヤーにも修羅の姿は見えないが、対策はある
白面修羅「ちっ!」
  修羅を襲う爆発は炎の怪人、炎鬼の攻撃だ
  壁の外で爆発音を聞くスレイヤー
  今、彼は修羅の背後にいる
  目標を囲む炎の壁、その周りを移動し
  背後を取った時に炎鬼が発火攻撃
  それが陽動となり、また背後を取った合図にもなる
  心臓の位置めがけスレイヤーは右腕の爪を繰り出した
スレイヤー「な─!」
  だが右手は空を切る
  修羅は視界の端にしゃがみ込んで待ち構えていた
  咄嗟に右腕を曲げてガード
  下からの斬撃を受ける
スレイヤー「ぐっ!」
  受けながらもスレイヤーは修羅に体をぶつけた
  間合いを潰し密着したまま
  修羅の脇腹に左ボディーを打ち込む
スレイヤー「シッ!」
  続けて右アッパーで刺し貫く─
  つもりが、相手の剣の柄が先に
  スレイヤーの顔に迫っていた
  スレイヤーの視界が一瞬白く染まり
  アッパーも空を切る
  追撃を恐れ後方へ飛びのいた
  二人の間に発火が連続して起きる
  炎鬼の援護─
白面修羅「ちっ─」
  修羅は追撃を止め
  スレイヤーは再び炎の壁の外へ逃れた
  苦戦していた
  ここまで手ごわいとは
スレイヤー「!?」
  突如、炎の勢いが弱まり修羅の姿が一瞬、見えた
  炎鬼の能力の限界が近い─
  失敗の二文字がスレイヤーの頭をよぎる
  俺たちには手に余る仕事だったのか
  修羅が炎の中から悠然と現れる
  修羅を囲むはずの炎の壁が追い付いていない
  それどころか炎の勢いは弱くなっていく
スレイヤー「─うぉおおおっ!」
  スレイヤーが突進
  炎鬼の力が尽きる前に攻勢にでる
  修羅の周囲で発火が連続するが
  修羅は歩みを止めない
  兵隊に撤退は許されない
  任務を成功させる他ないのだ─
スレイヤー「がっ・・・あ・・・」
  スレイヤーの執念を─その体ごと
  修羅の一閃が引き裂いた

〇渋谷のスクランブル交差点
カオル「あ・・・」
  炎が消えて、カオルはその瞬間を見ていた
  怪人達の戦い、その結末を
カオル「う・・・」
  体が猛烈に熱くなる─
カオル「うあああ!」
  絶叫と爆発
「はぁ・・・はぁ・・・」
  何が起きたかわからない
  湧き上がる煙が体を包んでいる
カオル「・・・えっ?」
  まず目に飛び込んだのは太く厳つい
  異形の両手だ
  散乱したガラスに自分の姿が─
  怪人の姿が写り込んでいた
カオル「なんで・・・怪人に・・・」
  戸惑いとは裏腹に体は熱く、力がみなぎるよう
  視線を感じると、あの怪人がこちらを見ていた
カオル「あ・・・」
  高揚感が体を支配し理性を吹き飛ばした
カオル「う・・・うぉおおお!」
  カオルの突進を難なく躱す修羅
カオル「ぐぅうう」
  戦いの高揚感がカオルを駆り立てた
白面修羅「・・・」
  興味深くカオルに見入っていた修羅は剣を収めて徒手空拳に
カオル「があぁっ!」
カオル「ぐふっ」
  修羅の拳が腹部に突き刺さり、カオルの意識を断ち切る
  怪人化が解かれる
カオル「う・・・」
  崩れ落ちるカオル
白面修羅「・・・どう見ても学生だな」
氷骨無道「修羅、退くぞ」
白面修羅「あぁ」
  薄れる視界の中で、怪人たちは去っていった

〇黒背景
  数日後──

〇渋谷のスクランブル交差点
  事件が起きた交差点は何事もなかったように車が行き来している
  あの日以来、この場所で時間を潰すようになった
  自分は何を待っているんだろうか─

〇病室
「怪人化したあなたの行動には制限がつきます」
  病院
  検査後に告げられた言葉
  僕は怪人になった

〇渋谷のスクランブル交差点
  原因は怪人たちの戦いを間近で目撃したからだろうと

〇病室
  怪人化しても日常がなくなるわけではなく
  今まで通りの生活を送っていいと
  毎日の行動報告
  日常エリア外への移動禁止など
  条件が課された
相談員「その力をどう使うかで、怪人たちの未来が変わる その自覚をもってほしい」

〇渋谷のスクランブル交差点
  あの日以来、燻り続けているものがある
  戦いの欲求
  だからここにきてしまうのか
カオル(・・・帰ろう どうせ何も起きやしない)
紅 シンジ「おっと、悪い・・・」
カオル「いえ・・・」
カオル(写真? 今の人のもの?)

〇ダクト内

〇渋谷のスクランブル交差点
カオル「え・・・!!」
  写真にはあの怪人
  裏にはURLがのっていた
  振り返る
  あの男性の姿はもうどこにもない
カオル「・・・」

〇ビルの裏
紅 シンジ(きっかけは充分 あとは少年次第か)
  影の道を歩くシンジ
  彼もカオルと同じく、怪人同士の戦いを間近で目撃し魅了された者
  戦う相手が増えるのは彼にとっても
  喜びだ

〇雷
  なによりあの怪人の姿
  戦いを渇望した者の姿に他ならない

〇ビルの裏
  シンジは戦いのすべてが好きだった
  己が怪人であることに微塵の後悔もない

〇雷
  白面修羅
  戦いを象徴したかのようなその威容に
  彼自身も魅了されている

〇ビルの裏
紅 シンジ「っと、時間か」
  シンジはレイの元へ向かう
  跡目争いという戦いの渦中にある
  あの男の元へ

〇霧の中
  ひしひしと大気に戦いの予兆を感じ
  ひとり微笑みながら─

コメント

  • スレイヤーと修羅の息が詰まるような攻防戦の描写が読み応えありました。シーンを盛り上げる炎の使い方なんかも巧みで感心しきり。カオルの突然の怪人化とシンジの物語が交錯していく展開にも作者さんの力量の高さを感じました。

  • 怪人化するキッカケは誰しもが持ってるのですね。
    一度体験してしまうとその欲求にのめり込むのは現実でもあり得る話でそんな現実離れしているようには感じませんでした…。

  • 語り口調から臨場感が伝わってきて面白かったです。

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