第二話 フラれる方法(脚本)
〇市街地の交差点
相楽先輩は、意外にも私のペースに合わせてゆっくりと歩いてくれた。
相楽宗吾「おい、オマエんちどこだ?」
樋渡花音「え? いや、あの・・・」
樋渡花音(ひいい、私の家の場所なんて知ってどうするつもり!?)
樋渡花音(ううん、それどころじゃない! うちの資産状況を知って恐喝でもするつもりだったりして・・・)
樋渡花音(ちょっと待って、そもそもなんでこの人、私からの告白をオッケーしたんだろ・・・何か思惑があるんじゃないの?)
樋渡花音(ヤクザの息子だって話だし、私、どこかに売り飛ばされちゃったりして・・・!? どどど、どうしよう、おかあさーん!)
相楽宗吾「おい」
相楽先輩の顔が近づいてくる。
樋渡花音「う、売り物に手を付けるのはどうかと思いますっ!」
相楽宗吾「何言ってんだ、オマエ?」
樋渡花音「きゃあっ!」
相楽先輩に引き寄せられた私は、すんでのところで前から走って来た自転車を避けることができた。
ぼんやりしていたせいで、近づいてくる自転車に気づくのが遅れてしまったのだ。
相楽宗吾「気をつけろ」
樋渡花音「すみませんっ」
樋渡花音(・・・相楽先輩ってすごく女慣れしてない?)
樋渡花音(ハッ、ひょっとして彼女がいるんじゃ・・・)
樋渡花音(よく見たら結構男前だし、こういうタイプって年上の女性からウケが良さそうじゃない?)
樋渡花音(超派手な20代ぐらいの読モっぽい恋人──うん、なんかすごいしっくりくる!!)
樋渡花音(でも、そうならやっぱり私の告白をオッケーしたの、おかしくない?)
樋渡花音(たまには違うタイプの女と遊んでやろうとか、そういうやつ・・・?)
樋渡花音(ヤバイ、これって貞操の危機なんじゃ・・・!?)
相楽宗吾「・・・何見てんだよ」
樋渡花音「ひい、すみませんっ!」
相楽宗吾「また妙な妄想してんじゃねえだろうな」
樋渡花音「えっ・・・?」
相楽宗吾「・・・ちょっとつき合え」
樋渡花音「はっ?」
〇広い公園
相楽先輩は公園の前で立ち止まり、そこへ入っていった。
樋渡花音(ちょ、ちょっと待って。この流れ・・・私、いきなりこんな場所で!?)
身構える私に構わず、相楽先輩はおもむろに公園の倉庫を開け始めた。
樋渡花音(えええ、なんで公園の倉庫開けてんの!? 鍵とか持ってるし)
そこから取り出したのは、掃除道具だった。
樋渡花音「あの、相楽先輩・・・?」
相楽宗吾「そこのベンチにでも座ってろ」
樋渡花音「は、はいっ」
睨まれると、逆らえない。私は仕方なく指示された通りベンチに腰掛けた。
相楽先輩は雑草を刈ったり、煙草の吸殻やごみを拾っている。
樋渡花音(不良のくせに、なんでこんなこと?)
樋渡花音「・・・手伝います」
相楽宗吾「あ?」
樋渡花音(ただ待ってるだけって手持ち無沙汰すぎるもんね)
樋渡花音「ゴミ、集めてきますね」
相楽宗吾「・・・ああ、頼む」
〇広い公園
一時間後、きれいになった公園を眺めて、私は達成感でいっぱいになった。
樋渡花音(すごい、見違えるようにきれいになった・・・!)
相楽宗吾「ご苦労だったな」
近づいてきた相楽先輩の表情は、今まで見た中で一番柔らかかった。
樋渡花音(この人、こんな顔もできるんだ)
相楽宗吾「ここの掃除担当のじいさんがぎっくり腰で、治るまで代理をしてる」
樋渡花音「そ、そうなんですね」
樋渡花音(・・・ここ、先輩の組の縄張りだったりするのかな?)
相楽宗吾「おいっ!」
樋渡花音「ひいっ、すみません!」
相楽先輩の大声に、つい反射的に謝ってしまう。
樋渡花音(・・・って、私に怒鳴ったんじゃない?)
男「なんだあ?」
派手なシャツを着た柄の悪そうな男が振り返る。
相楽宗吾「テメエ、今煙草捨てやがったな?」
男「ひっ、・・・す、すみません、」
相楽先輩を見るなり、男はすぐに顔色を変えて煙草を拾い、走り去った。
樋渡花音(あんな柄の悪そうな人をビビらせるなんて・・・やっぱり相楽先輩、ただものじゃない)
相楽宗吾「ったく、公園には小さい子どもも来るってのに、ポイ捨てとか無神経すぎだろ」
樋渡花音「・・・・・・」
相楽宗吾「んだよ?」
樋渡花音「ちょっと意外で」
相楽宗吾「フン」
樋渡花音(ひょっとしたら、見た目は怖いけど、そう悪い人じゃなかったり・・・?)
樋渡花音(いやいやいや、騙されちゃだめよ、花音。これがこの男の手口なのかも・・・)
樋渡花音(素行が悪い人って、ちょっといいことするだけで評価上がったりするもんね・・・)
樋渡花音(あぶないあぶない、騙されるところだった)
相楽宗吾「手伝わせて、悪かった」
樋渡花音「いえ、とんでもないです!」
相楽宗吾「礼に茶でも──」
樋渡花音(待って待って、私、この人に嫌われてフラれなきゃならないんじゃない! お礼言われてる場合じゃないっ!)
樋渡花音「あ、あのっ! だったら私、つき合ってもらいたい場所があるんですけどっ」
相楽宗吾「・・・別に構わねえけど」
〇ゲームセンター
相楽宗吾「なんだ、ゲーセンに来たかったのか?」
樋渡花音「そ、そうなんですっ、一度来てみたくて」
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