#1 サンクチュアリ(脚本)
〇諜報機関
米国某研究機関。
窓も無く薄暗い室内で、多くの研究員たちが、せわしなくパソコンのキーボードを叩いている。
研究員「Chief, what the hell is this? (しゅ、主任、これは一体何でしょうか?)」
研究主任「【英語】 急にどうした?」
研究主任「【英語】 落ち着いて状況を説明しなさい」
研究員「【英語】 申し訳ございません・・・」
研究員「【英語】 こちらの映像、先ほど人工衛星から送られてきたものなのですが」
研究員「【英語】 妙なものが映りこんでいて・・・」
研究主任「【英語】 ネブラスカ州の田舎町の映像か」
研究主任「【英語】 ん、なんだこれは。柱・・・?」
研究員「【英語】 拡大します」
研究員がマウスを操作すると、画面の一部が大きく表示された。
研究主任「【英語】 光っている・・・?」
研究主任「【英語】 光の柱が立っているのか」
研究員「【英語】 ええ。しかも見てください、この柱の中を」
研究主任「【英語】 これは・・・人?」
〇外国の田舎町(陣あり)
空に向かって伸びる光の筋の中に、一人の少女が泣きながら立っていた。
少女「【英語】 助けて・・・誰か助けてー!」
〇教室
教室の真ん中で、武藤卓也(むとうたくや)が星野倫太郎(ほしのりんたろう)を囲うように、床に何やら描いている。
片手には古びた本を持っている。
武藤卓也「ねーねー、倫太郎くん、早く脱いで。 もうすぐ魔法陣も書き終わるからさー」
星野倫太郎「いやー、さすがに裸は・・・」
星野倫太郎「みんなの前だし、ちょっと恥ずかしいかなー、なんて。あはは・・・」
女子生徒A「ちょっと卓也。あたし、そんなキモいやつの裸なんて見たくないだけど」
武藤卓也「えー、だってマジックカフェなんだぜ。魔法の世界っつったら、キモいモンスターとかいるだろ」
星野倫太郎「そんな何度もキモいって言わないでよ。 傷ついちゃうなー。ははは」
教室は、今度の文化祭の出し物である『マジックカフェ』の準備をする生徒でにぎわっていた。
黒い布で壁を覆ったり、衣装を作ったり、みな楽しそうだ。
女子生徒A「つか、そんな怪しげな本どこにあったんだよ」
武藤卓也「知らね。内容もよくわんないけど、なんか魔法陣の描き方が書いてあるっぽい」
武藤卓也「・・・てか、倫太郎くーん。 俺、描き終わっちゃったよ?」
星野倫太郎「でも、みんな僕の裸なんて、見たくないんじゃないかなー、なんて・・・」
武藤卓也「そうだよ、見たくねえよ」
武藤卓也「でも、クラスの宣伝のためには、魔法陣の上で裸になってる倫太郎くんの写真がどうしても必要なんだよぉー」
卓也が陣から離れ、スマホのレンズを倫太郎に向ける。
星野倫太郎「あはは、でもなー。そんなストリップみたいなこと、やったことないし」
武藤卓也「グダグダ言ってねぇでさっさと脱げよ、殺すぞ!」
星野倫太郎「・・・・・・」
倫太郎はクラスを見回したが、誰もが我関せずというように、文化祭の準備をしている。
倫太郎は涙目になりながら、制服のボタンに手をかけた。
星野倫太郎(いつも通り、ちょっとの間、死にたい気分になるだけ)
そう諦めた、その時だった。
武藤卓也「は? なんだこれ?」
突如、床に描いた魔法陣が青白く光った。
星野倫太郎「え、ちょっと、卓也くん、何したの」
武藤卓也「いや、知らねえよ。 この本の通りに描いただけで・・・」
武藤卓也「う、うわあ!」
〇魔法陣で荒れた教室
星野倫太郎「うわああ、なに、なにこれ!」
魔法陣から伸びた光の柱は、天井を突き破り、さらに上へと伸びていった。
崩れた天井が瓦礫となって降ってくる。
生徒たち「きゃああっ!」
武藤卓也「や、やべえ、逃げろ!」
星野倫太郎「卓也くん、待って、置いてかないで」
星野倫太郎「・・・え、あれ、なんで、出られない!?」
透明な壁に阻まれ、倫太郎は陣から一歩も出ることができなかった。
星野倫太郎「卓也くん、何とかしてよ! その本に何か書いてあるでしょ、ねえ!」
武藤卓也「うるせぇ、なんだよこれ、シャレになんねえって」
卓也は持っていた本をその場に放り捨て、教室を出て行ってしまった。
星野倫太郎「待って、置いてかないでよ。 誰か、助け──」
倫太郎の言葉を遮るように、大きな崩落が起き、周りは瓦礫で埋め尽くされてしまった。
星野倫太郎「・・・あ、あれー。あはは」
星野倫太郎「これ、何のドッキリですか? ねぇ、どこかにカメラがあるとかですかー?」
どこからも応答はない。
星野倫太郎「ははは。あれー、変だな・・・」
倫太郎は陣の壁にゆっくり触れる。
倫太郎の表情から、笑みが消える。
星野倫太郎「うわあああ、助けて! 誰か、誰かいませんかー!」
星野倫太郎「なんだこれ、なんだこれ、どうしよう・・・」
星野倫太郎「そうだ、床の文字、これを消せば・・・!」
倫太郎はその場にうずくまり、制服の袖で描かれた陣を消そうと試みた。
星野倫太郎「なんで、なんで消えないの。 ただのチョークのはずなのに。 くそっ、くそっ!」
星野倫太郎「助けて・・・誰か助けてー!」
〇白い校舎
パトカー、消防車、救急車で埋め尽くされたグラウンドで、各局のリポーターがこぞって報道している。
リポーター「都内の県立高校に、突如として現れた謎の光の柱は、校舎の一部を破壊し、依然として消える気配はありません」
リポーター「あれが一体何なのか、発生原因含め現在調査中とのことで・・・」
リポーター「あ、いま、白衣の男性たちが機材を持って校舎の中へ・・・」
〇魔法陣で荒れた教室
魔法陣の中、倫太郎はぐったりした表情で座り込んでいた。
制服の袖は、地面を擦り過ぎたせいでボロボロに破けている。
???「蕪木(かぶらぎ)さん待ってください、危険です」
???「待てないー、待ちきれないー♪」
星野倫太郎「え、誰、警察ですか! 僕を助けに──」
蕪木研二「ばああ、警察じゃなーいよー」
現れたのは、白衣姿の痩せた男だった。
星野倫太郎「え、あの、えっと・・・」
蕪木研二「加えて言うと、助けに来たわけでもないんだなー」
蕪木に続いて、同じく白衣姿の人々がやってきて、陣の周囲にパソコンや計器を設置し始めた。
星野倫太郎「どういうことですか。 あなたたちは一体・・・」
蕪木研二「うわああ、すごい、これが陣か」
星野倫太郎「あの、なんで警察とか、自衛隊とか、そういう人たちが助けにきてくれないんですか。ねえ、おかしいですよね!」
蕪木研二「あああ、すごいなぁ。 ほんとにそっくりだよ。 やっぱり本物は輝きが違うよ」
星野倫太郎「ちょっと、僕の話聞いてますか?」
蕪木研二「触っていいかな、いいよね」
蕪木研二「・・・あああ、なんだこれ、冷たくも温かくもないよ!」
研究員「蕪木さん、あまり不用意に触らないで・・・」
蕪木研二「うふふ、どんな物質でできてんだろうなー。早く調べたいなー」
星野倫太郎「僕の話を聞いてください!」
ドンッ!
倫太郎が壁を思いきり叩く。
瞬間、蕪木は無表情になり、白衣の内ポケットに手を入れた。
蕪木研二「うるせえな」
星野倫太郎「え」
ポケットから抜き出した手には、拳銃が握られていた。
銃口が、倫太郎に向けられる。
蕪木研二「死ね」
星野倫太郎「ちょっと、待っ──」
パンッ!
乾いた発砲音が教室に響いた。