怪人ネゴシエーター

ざとういち

怪人ネゴシエーター(脚本)

怪人ネゴシエーター

ざとういち

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怪人ネゴシエーター
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〇黒
「夏美・・・!しっかりして! お姉ちゃんが付いてるから・・・!」
「夏美・・・夏美・・・!!」

〇病室
橘 愛姫「夏美・・・お姉ちゃんは、 あなたをこんな目に遭わせた 怪人を絶対に許さないから・・・!」
橘 愛姫「一匹残らずやっつけてあげるから・・・!」
橘 夏美「それは駄目だよ・・・お姉ちゃん・・・」
橘 夏美「怪人さんはみんな悪い人って 訳じゃないんだよ・・・」
橘 愛姫「・・・・・・」
橘 夏美「・・・・・・お姉ちゃん」
橘 愛姫(こんなに優しい妹を酷い目に遭わせた 怪人を私は許さない・・・)
橘 愛姫(絶対に・・・ッ!)

〇警察署の入口

〇大会議室
橘 愛姫「・・・・・・」
神木警部「諸君も知っての通り、一年前、 別の世界から怪人が侵攻するようになり、 今年になってその被害は増すばかりだ」
神木警部「しかし警察の戦力では、奴らに対抗するのは 非常に厳しいのが現状である」
神木警部「そこで我々『怪人対策班』に 新たな助っ人を投入することにした」
橘 愛姫(助っ人・・・?)
神木警部「ネゴシエーターさん どうぞ、お入りください」
ネゴシエーター「怪人ネゴシエーターです」
ネゴシエーター「よろしくお願いします」
橘 愛姫「なッ・・・!?」
神木警部「こちらのネゴシエーターさんは、 怪人でありながら、我々人間に 協力してくださる貴重な存在だ」
神木警部「彼には、街で暴れる怪人達を説得する 交渉人として現場に赴いてもらう」
橘 愛姫「ちょ・・・ちょっと待ってください!! 神木警部・・・!!」
神木警部「どうした?橘刑事」
橘 愛姫「どうしたじゃありません!! 何故怪人対策を怪人に頼るのですか!? 意味が分かりません!!」
橘 愛姫「怪人ですよ!?あの野蛮で恐ろしい、 破壊と暴力しか考えていない怪人です!!」
神木警部「・・・君の事情は分かっているつもりだ 幼いながら将来有望なヴァイオリニスト として注目されていた妹の橘 夏美さん」
神木警部「数ヶ月前、彼女が腕に大怪我をさせられた 事件は、怪人が引き起こした物なのだからな」
橘 愛姫「だったら何故あんな奴を・・・!?」
神木警部「説明した通り、我々警察の戦力では 奴らに対抗することが出来ない」
神木警部「ならば、最善の手を選択するのは 不思議なことではないはずだ」
橘 愛姫「信用出来ません・・・!! 何か裏がある・・・!!」
橘 愛姫「内部から警察を壊滅させるつもり なのかもしれません・・・!!」
ネゴシエーター「・・・私の行動に何か不審な点があり、 信用出来ないと判断したその時は、 遠慮なく始末してくれて構わない」
ネゴシエーター「私一人程度なら、君達の装備でも 至近距離で何発か撃ち込めば 倒すことが出来るはずだ」
橘 愛姫「はぁ・・・!?」
神木警部「そういうことだそうだ・・・ そこで橘刑事には彼の護衛及び、 監視役を務めて欲しい」
橘 愛姫「・・・・・・」
橘 愛姫「私は別に今ここで始末してもいいんですよ?」
ネゴシエーター「・・・・・・」
神木警部「・・・私は君のことを信頼している」
橘 愛姫「・・・・・・ッ」
ネゴシエーター「・・・・・・よろしく頼む」
橘 愛姫(なんで私がこんな奴と・・・!!)

〇黒
「駅前で怪人による襲撃事件発生!! 怪人ネゴシエーターはただちに 現場に急行してください!!」

〇車内
橘 愛姫「・・・・・・」
ネゴシエーター「・・・・・・」
橘 愛姫「・・・・・・」
ネゴシエーター「・・・・・・」
橘 愛姫「あんた・・・」
ネゴシエーター「・・・な、な、なんだ?」
橘 愛姫「ネゴシエーターとか言ってたわよね」
ネゴシエーター「そ、そうだが・・・?」
橘 愛姫「私とまともに会話も出来ないのに、 本当に怪人の説得なんて出来るの?」
ネゴシエーター「・・・そ、それは・・・」
橘 愛姫「・・・・・・」
ネゴシエーター「・・・・・・」

〇渋谷駅前
サメ怪人「シャーックックックック!! 人間共はみんな俺の餌にしてやる!!」
女性「いやあああああっ!! た・・・食べられる・・・!!」
男性「に・・・逃げろーっ!!」
サメ怪人「一匹たりとも逃さんぞ!」
  そこまでだッ!!
サメ怪人「・・・あぁん?」
ネゴシエーター「怪人ネゴシエーター、参上・・・」
サメ怪人「なんだてめぇ・・・? 俺の獲物を横取りする気か?」
ネゴシエーター「・・・人間を襲うのはやめろ 食べ物なら他の物を食べればいい」
サメ怪人「俺に指図すんじゃねぇ!!」
ネゴシエーター「食べられた人間の気持ちがお前には 分からないのか・・・!?」
サメ怪人「食い物の気持ちなんざ 分かる訳ねぇだろうが!!」
ネゴシエーター「お前も寿司にされたらどう思うか 想像してみろ・・・!!」
サメ怪人「喧嘩売ってんのかてめぇ!?」
橘 愛姫(・・・ちょっと・・・ 本当に大丈夫なのあいつ・・・?)
サメ怪人「ゴチャゴチャとうるせぇ奴だ!! まずはてめぇから食ってやるよ!!」
ネゴシエーター「・・・・・・」
ネゴシエーター「交渉決裂か・・・」
橘 愛姫(諦めるの早っ・・・!?)
ネゴシエーター「・・・・・・」
ネゴシエーター「むんっ・・・!!」
サメ怪人「グワアアアアアアアッ!!」
橘 愛姫「つ・・・強い・・・!! あんなデカい奴を一撃で・・・」
橘 愛姫「というか・・・ 普通に倒しちゃったけど・・・」
ネゴシエーター「・・・・・・」
ネゴシエーター「任務完了だ・・・ 署に戻ろう橘刑事・・・」
橘 愛姫「・・・・・・」
橘 愛姫(なんなのこいつ・・・? どういうつもりなの・・・?)

〇黒
  ──それからも、私はこの
  怪人ネゴシエーターと現場に
  何度も向かうことになるのだが・・・。

〇渋谷のスクランブル交差点
スライム怪人「人間は丸呑みにするのだ! お前の言うことなんて聞かないのだ!」
スライム怪人「ぎぃええええええええっ!!」

〇SHIBUYA109
クマ怪人「人間はみんなオモチャだよ♪ 君もオモチャにしてあげるよ♪」
クマ怪人「うばあああああああっ!?」

〇黒
  怪人全てに説得を試みるのだが、
  全て上手くいかず、怪人ネゴシエーターは
  結局最後は倒してしまうのだった──。

〇警察署の廊下
神木警部「・・・・・・」
橘 愛姫「警部・・・」
神木警部「どうした?橘刑事」
橘 愛姫「怪人ネゴシエーターの件ですが・・・ あれで本当に良いのでしょうか・・・?」
神木警部「何がだ?」
橘 愛姫「だって・・・交渉人なんですよね・・・? まともに交渉を成立させずに怪人を 全て倒してしまうなんて・・・」
神木警部「ふっ・・・君もずいぶんと おかしなことを聞くんだな・・・」
神木警部「君があんなに憎んでいた 人間に害をなす怪人を、都合よく 怪人が片付けてくれているんだ」
神木警部「なんの問題があるというんだ?」
橘 愛姫「そ・・・それはそうなんですけど・・・」
橘 愛姫「なんというか・・・気持ち悪くて・・・」
神木警部「少し話でもしてみればいいんじゃないか?」
橘 愛姫「・・・・・・」
神木警部「・・・引き続き頼むぞ」
橘 愛姫「・・・・・・話ね・・・」

〇車内
橘 愛姫「・・・・・・」
ネゴシエーター「・・・・・・」
橘 愛姫「・・・・・・」
ネゴシエーター「・・・・・・」
橘 愛姫「・・・署に戻る前に」
ネゴシエーター「・・・な、な、なんだ?」
橘 愛姫「署に戻る前に少し寄り道してもいい?」
ネゴシエーター「あ・・・あぁ・・・ 構わないが・・・」
橘 愛姫「・・・・・・」
ネゴシエーター「・・・・・・」

〇公園のベンチ
ネゴシエーター「はぁ・・・」
橘 愛姫「コーヒー、飲む・・・? 好きかどうか知らないけど・・・」
ネゴシエーター「あ、あぁ・・・すまない・・・」
ネゴシエーター「いただこう・・・」
ネゴシエーター「・・・・・・」
橘 愛姫「・・・・・・」
橘 愛姫「なんであんた・・・ ネゴシエーターなんてやってるの?」
ネゴシエーター「・・・!」
橘 愛姫「何か私には言いにくい理由でもある訳?」
ネゴシエーター「・・・・・・」
橘 愛姫「あんたこのままだと、自分が本当に やりたいこと出来ないんじゃないの?」
ネゴシエーター「・・・・・・」
ネゴシエーター「・・・・・・数ヶ月前のある夜」
ネゴシエーター「この公園で一人の少女と会ったんだ・・・」
橘 愛姫「・・・えっ?」

〇公園のベンチ
  その頃の私は怪人ソウルイーターとして
  人間の魂を狙い、夜の公園を彷徨っていたのだが・・・。
  すると突然、どこからか
  心が洗われるような音楽が
  聴こえてきたんだ・・・。
  その曲を聴いていたら、今まで
  自分に取り憑いていた魔物が
  取り除かれたように、
  心が穏やかな気持ちになったんだ・・・。
ソウルイーター「き・・・君・・・!」
橘 夏美「・・・・・・!!」
ソウルイーター「君があの素晴らしい音楽を 奏でているのか・・・!?」
橘 夏美「・・・ひっ!?」
ソウルイーター「・・・あぁ、怖がらせてすまない・・・ 俺はただ、その曲が聴きたいだけ だったんだ・・・」
橘 夏美「・・・怪人さんは音楽好きなの?」
ソウルイーター「・・・分からない」
橘 夏美「・・・・・・私は」
橘 夏美「嫌いかな・・・」
ソウルイーター「な・・・何故・・・!?」
ソウルイーター「そんなに素晴らしい音楽なのに・・・!?」
橘 夏美「最初の頃は好きだったんだ・・・ お母さんも褒めてくれて・・・」
橘 夏美「お姉ちゃんも喜んでくれて・・・」
橘 夏美「でも、今は・・・才能があるからって たくさん練習しなくちゃいけなくなって」
橘 夏美「お母さんはやらなきゃ駄目だって・・・」
橘 夏美「でも、こんなことお姉ちゃんには 相談出来なくて・・・」
橘 夏美「お姉ちゃん、警察官で忙しいから・・・」
ソウルイーター「・・・・・・」
橘 夏美「こんな気持ちならもうヴァイオリンなんて 弾きたくない・・・」
橘 夏美「ヴァイオリンが弾けないように なればいいのに・・・」
ソウルイーター「・・・出来るぞ・・・弾けないように・・・」
橘 夏美「・・・えっ?」
ソウルイーター「俺はソウルイーター・・・ 魂を食べる怪人だ」
ソウルイーター「魂を食べる箇所を絞れば、 体に支障をきたすレベルに コントロールすることが出来る」
橘 夏美「ほんとに・・・?」
ソウルイーター「だが・・・君はそれで 本当にいいのか・・・?」
橘 夏美「分からない・・・でも・・・」
橘 夏美「今のままの方が嫌かな・・・」
ソウルイーター「・・・・・・そうか」

〇黒
  ありがとう・・・怪人さん・・・

〇公園のベンチ
ネゴシエーター「その出逢いがきっかけで・・・ 私は、彼女と同じように・・・ 怪人の心を変えたいと思ったのだ・・・」
橘 愛姫「・・・そ・・・そんな・・・」
橘 愛姫「そんなことって・・・・・・」
橘 愛姫「・・・うぅっ・・・!!」
ネゴシエーター「・・・やはり話すべきじゃなかったか・・・」
ネゴシエーター「私はネゴシエーター失格だな・・・」
ネゴシエーター「・・・・・・」
  誰かーっ!!助けてーっ!!
ネゴシエーター「・・・な、なんだ!?」

〇駅前広場
炎怪人「ヒーッヒッヒッヒッ!!」
炎怪人「人間はみんな丸焦げにしてやるぜ!」
  そこまでだッ!!
炎怪人「あん?」
ネゴシエーター「怪人ネゴシエーター、参上・・・!」
ネゴシエーター「無意味な破壊活動はやめろ!! 人間達がお前に何をしたと言うんだ!?」
炎怪人「知らねぇよ!!俺は燃やしてぇから 燃やしてるだけだぁ!!」
ネゴシエーター「燃やされた者の気持ちになってみろ!!」
炎怪人「俺は元から燃えてるわ!!」
ネゴシエーター(くっ・・・やはり俺には無理なのか・・・)
ネゴシエーター「すまない・・・!夏美・・・!」
ネゴシエーター「むぅ・・・!!」
ネゴシエーター「痛っ・・・!?」
ネゴシエーター「な、なんだ・・・!?」
橘 愛姫「諦めるなっ・・・!!」
ネゴシエーター「あ・・・愛姫・・・!?」
橘 愛姫「あんたは私の妹を救ったんだ・・・!!」
橘 愛姫「家族の私が救ってあげられなかった 私の妹を・・・!!あんたは救った・・・!!」
橘 愛姫「あんたならやれる・・・!! 自信持て・・・!!馬鹿野郎・・・!!」
ネゴシエーター「・・・・・・!!」
炎怪人「何をゴチャゴチャ言ってやがんだぁ!! まずはそのうるせぇ人間から焼いてやる!!」
ネゴシエーター「・・・いかんッ!!」
炎怪人「ヒィィィイイイ〜ッ!?」
ネゴシエーター「・・・あ・・・あぁ・・・」
ネゴシエーター「・・・私は・・・本当に駄目な奴だ・・・!!」
ネゴシエーター「たった一人の少女の魂を・・・!! 継ぐことが出来ないなんて・・・!!」
ネゴシエーター「・・・・・・うぅッ・・・!!」
橘 愛姫「・・・・・・本当ね」
橘 愛姫「あんたじゃ無理だわ・・・」
ネゴシエーター「・・・う・・・うぅ・・・」
橘 愛姫「あんた・・・一人じゃね・・・」
ネゴシエーター「・・・・・・!!」
橘 愛姫「しょうがないから教えてあげるわよ・・・」
橘 愛姫「私もね・・・いろんな事件で 犯人と交渉したりしたんだから・・・!」
ネゴシエーター「あ・・・愛姫・・・!」
ネゴシエーター「・・・・・・ありがとう・・・!」
ネゴシエーター「・・・うぅ・・・ッ!!」
橘 愛姫「ほんとあんたといると調子狂うわ全く・・・」
  これは、まだまだネゴシエーターとしては
  未熟な怪人ネゴシエーターの物語──。

コメント

  • 奇しくも、理由こそ違えど夏美の存在が任務のモチベーションとなっている二人が分かり合えてタッグを組むことになるまでの流れが自然で見事でした。無事に説得できた怪人が新たなネゴシエーターとして増えていったら共生も夢じゃないかもですね。

  • ネゴシエーターは怪人として生きながらも、自身の存在を自ら認めたくなかったのかもしれませんね。夏美ちゃんの奏でる楽器の音色に心動かされたという記述から一気に叙情的になって、更なる期待感です。

  • 弾丸を殺すためでなく、発破をかけるために使ったところが良かったです!
    音楽に心を洗われた怪人が、家族が怪人被害を受けた(と思い込んだ)警官と怪人を説得するためにタッグを組むという構図が面白いですね。
    2人が見事交渉成功するところ、見てみたいです!

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