君の瞳は100万ポンド

結丸

喪失(脚本)

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結丸

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〇ジャズバー
氷見 怜士「へえ・・・ 雰囲気の良い店だな」
???「そう? 古いだけよ」
???「はい、着替え」
氷見 怜士「あ、サンキュ」
  ──バサッ。
???「それにしてもいつ振り? 高校卒業以来よね?」
氷見 怜士「そうだっけ?」
???「・・・変わらないわね、怜士くんは」
氷見 怜士「そうかな・・・ ルイは変わったよな」
廣瀬 ルイ「あたし?」
氷見 怜士「ああ。 だって、前に会った時は高校球児だったし」
廣瀬 ルイ「ちょっと、塁少年のことは忘れてよね」
氷見 怜士「はは、ごめんごめん」
廣瀬 ルイ「それで? なんであんな格好してたの?」
氷見 怜士「うん? あー・・・ハロウィンの予行練習」
廣瀬 ルイ「ふーん・・・ それじゃ、サイズはもう少し大きめのほうが いいんじゃない?」
氷見 怜士「そう?」
廣瀬 ルイ「ええ。とっても窮屈そうだったから。 怜士くん、わりと筋肉質だし」
氷見 怜士「そっか、じゃあそうするよ」
廣瀬 ルイ「・・・・・・」
氷見 怜士「何?」
廣瀬 ルイ「気持ち悪い」
氷見 怜士「えっ?」
廣瀬 ルイ「ヘラヘラ笑ってるけど、心が死んでんのよ」
廣瀬 ルイ「落ち込むなら落ち込みなさいよ」
氷見 怜士「あ・・・」
廣瀬 ルイ「そうそう、心と顔が合ってきた」
廣瀬 ルイ「ほら・・・癒してあげるわ。 ここ、触ってみて?」
氷見 怜士「あ・・・ すっげえ硬い・・・」
廣瀬 ルイ「でしょう?」
氷見 怜士「やっぱルイの上腕二頭筋、すごいな」
廣瀬 ルイ「ずっとトレーニングは続けてるからね」
氷見 怜士「俺、最近サボッてたからなぁ・・・」
廣瀬 ルイ「彫り師やってんでしょ? 今度あたしにも入れてよ」
氷見 怜士「おう、いいぜ。 ホームベースにする?」
廣瀬 ルイ「野球から離れてくんない?」
氷見 怜士「だな・・・」
廣瀬 ルイ「・・・怜士くん?」
廣瀬 ルイ「だいぶ疲れてるみたいね・・・ しょうがない、2階に運んであげるか」
  ルイは氷見の身体を担ぎ上げると
  階段をゆっくり昇った。

〇貴族の部屋
  重なる唇
  啄むように何度も・・・

〇部屋のベッド
氷見 怜士「・・・メ、だ・・・」
氷見 怜士「・・・ダメだって・・・」
氷見 怜士「天音!!!!!!!!」
氷見 怜士「・・・・・・」
廣瀬 ルイ「爆睡だったわね」
氷見 怜士「あ、マジで──」
氷見 怜士「って何て格好してんだよ!?」
廣瀬 ルイ「あたし、寝るときはいつもこうなの」
氷見 怜士「あ、そう・・・」
廣瀬 ルイ「ねぇ、アマネって誰? 怜士くんの彼女?」
氷見 怜士「はは、違うよ」
廣瀬 ルイ「じゃあ彼氏?」
氷見 怜士「いやいや、妹だから」
廣瀬 ルイ「妹? 怜士くん、妹いたんだ」
氷見 怜士「ああ・・・」
氷見 怜士「血は繋がってないけどな」
廣瀬 ルイ「何それ、ドラマチックー! あたしそういう話大好きよ」
氷見 怜士「ドラマチックって・・・」
廣瀬 ルイ「で、怜士くんはそのアマネちゃんが 好きなの?」
氷見 怜士「はぁ!? なんでそうなるんだよ」
廣瀬 ルイ「だって、寝言で名前を叫ぶぐらいだし? なんか必死っていうか──」
氷見 怜士「そんなんじゃない」
廣瀬 ルイ「そうやってムキになるのも怪しい」
氷見 怜士「はぁ・・・ しょうがねぇな」
  氷見はルイに夢の内容を話した。
廣瀬 ルイ「ふぅん、妹のキスシーン見ちゃったんだ」
氷見 怜士「な? 身内がキスしてるとこなんて見たら うなされもするだろ?」
廣瀬 ルイ「なるほどね・・・ じゃあ、怜士くんはアマネちゃんのことを なんとも思ってないのね?」
氷見 怜士「当たり前だろ。 天音は妹で──」
廣瀬 ルイ「血が繋がってなくても?」
氷見 怜士「・・・ああ」
廣瀬 ルイ「分かった。 じゃ、あたしがその悪夢に上書きしてあげる」
氷見 怜士「上書き?」

〇黒
  ルイは部屋の電気を消した。
「? おい、ルイ──」
「!?!?!?!?!?!?」
「あん、ジッとして」
「ちょ、何──あ! どこ触ってんだよ!」
「いいからいいから♪」
「よくない!!!!!! で、電気──」
「だーめ♡」
「ぐっ・・・ なんて腕力だ・・・」
「そうそう、大人しくして・・・」
(ダメだ、このままじゃ・・・)
(仕方ない──)
「っ・・・!?」

〇部屋のベッド
廣瀬 ルイ「う・・・んん・・・」
氷見 怜士「はぁ、はぁ・・・ とりあえず気絶させとこう・・・」
氷見 怜士「・・・・・・」
氷見 怜士「ごめんな、ルイ」

〇貴族の部屋
  その頃──
西園寺 天音(結局、一睡も出来なかったな)
西園寺 天音「まだ寝てる・・・」
西園寺 天音(結局、一睡も出来なかったな)
西園寺 天音(隣に密がいたってこともあるけど──)

〇貴族の部屋
  ・・・余計なことして悪かった

〇貴族の部屋
西園寺 天音「・・・・・・」
  ──コンコン。
西園寺 天音「はい」
田町「天音様。 お食事のご用意が──」
田町「し、失礼いたしました・・・!」
西園寺 天音「あ、何もないから大丈夫。 勝手に人の部屋で寝ちゃっただけだから」
田町「は、はぁ・・・」
西園寺 天音「お食事、禮おじさまもいらっしゃるの?」
田町「あ・・・ お部屋でお召し上がりになりますか?」
西園寺 天音「ううん、今日は向こうでいただくわ。 いつもごめんなさいね」
田町「そんな・・・」

〇城の会議室
西園寺 禮「・・・平瀬はどうした」
鷹見「それが、体調を崩しておりまして・・・」
西園寺 禮「ほう・・・? 珍しいこともあるものだ」
西園寺 天音「おはようございます」
西園寺 禮「天音・・・ どういう風の吹き回しだ?」
西園寺 天音「・・・・・・」
西園寺 禮「やれやれ・・・ 平瀬のことといい、妙な日だ」
西園寺 天音(平瀬さん、どうかしたのかしら・・・)
鷹見「天音様」
西園寺 天音「ありがとう、鷹見さん」
西園寺 禮「・・・・・・」
西園寺 天音「・・・・・・」
  沈黙が流れ、ナイフとフォークが皿に触れる音だけが響く。
西園寺 禮「・・・天音」
西園寺 天音「はい」
西園寺 禮「密から聞いたか?」
西園寺 天音「・・・はい」
西園寺 禮「そうか、なら話は早い。 今日の午後、さっそく役所へ手続きに──」
西園寺 天音「おじさま」
西園寺 禮「うん? 何だ」
西園寺 天音「私のこの瞳が・・・ 西園寺の宝を守る鍵なんですよね」
西園寺 禮「? ああ。 お前の虹彩認証でしか開かない鍵だからな」
西園寺 禮「全く、父さんはどうしてこんな ややこしい鍵を・・・ブツブツ・・・」
西園寺 天音「・・・・・・」
  天音はフォークを握る左手に力を込めた。
西園寺 禮「それにしても、今さら何の確認だ?」
西園寺 天音「確認・・・そうですね。 改めて確かめておきたくて」
西園寺 禮「確かめるって──」
西園寺 天音「・・・っ!」
  天音はフォークを自分の瞳に向けた。
西園寺 禮「天音!?」
田町「天音様!?」

次のエピソード:真実

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