第六話 カツ丼&カツサンド(脚本)
〇住宅街の公園
放課後。
梅村と一緒に、昨夜の公園へとやってきていた。
梅村千秋「・・・では段取りはこんな感じで」
松岡春斗「ああ、わかった。けど、何仕切ってんだよ」
梅村千秋「だって、松岡センパイより、僕のほうが策士って感じするじゃないですか。 事実、頭いいし」
松岡春斗「あのな、俺だって一応・・・」
梅村千秋「明城学園、有名な中高大の一貫校ですよね、知ってます」
梅村千秋「偏差値70近いとこじゃないですか、なんでここにいるんです」
松岡春斗「・・・お前、なんでか知ってんじゃねえのか?」
そう告げると、梅村は肩をすくめる。
梅村千秋「まあ、なんとなく知ってますよ。友人関係でトラブったって」
松岡春斗「知ってるなら聞くな」
梅村千秋「んーでも、腑に落ちないんですもん。別に話を聞く限りは、松岡センパイ側に落ち度はないですよね」
梅村千秋「女の子に勝手に惚れられて、その子のことを好きだった男に、勝手に嫌われて。 なーんにも松岡センパイに落ち度はない」
梅村の言葉に思わず顔をしかめる。
確かに、俺に落ち度はなかった。
トラブった相手側が絶対的に悪い、それは俺だってわかっていた。
でも・・・。
梅村千秋「あ、もしかしてそのトラブった相手って松岡センパイの好きな──」
松岡春斗「黙れ、クソガキ」
梅村千秋「こわ」
松岡春斗(別にはっきりと好きだったわけじゃない・・・。 ぼんやりと、好意を持っていただけで)
松岡春斗「・・・・・・」
黙り込んだ俺を見て、梅村は大げさな仕草で驚いてみせる。
梅村千秋「うっわー地雷踏み抜きました? 忘れてください」
松岡春斗「うっせえ。 ・・・まあ、なんにせよ、環境を変えたかったから明城に進学すんのをやめたんだ」
俺が付け足して言うと、梅村はにっこりと笑った。
梅村千秋「でもよかったじゃないですか」
松岡春斗「何がだよ」
梅村千秋「一番家から近いって理由で入ったのが冬高って話ですけど、ここに来たからこそ、竹田センパイに会えたわけですよね」
松岡春斗「まあ」
梅村千秋「だったら、結果オーライですよ。 あんなに素晴らしいひとはいません」
グッと親指を突き出した梅村に、苦笑してしまう。
松岡春斗「お前、俺は害虫じゃなかったのか?」
梅村千秋「あー、それなんですけどぉ、当初はゴキ○リだったのが、今はダンゴムシ程度に思ってます」
松岡春斗「どっちみち害虫じゃねえか!」
梅村千秋「いいじゃないですか、ダンゴムシ。可愛いですよ? 黒いアイツより」
松岡春斗「ほんと・・・お前、いい根性してんな」
梅村千秋「褒め言葉、ありがとでーす」
あっけらかんとした態度で言って、梅村は俺にピースしてみせる。
松岡春斗「お前さ・・・」
梅村千秋「ん?」
松岡春斗「なんで、たけのこと好きなんだ?」
梅村千秋「・・・んー」
松岡春斗「いじめから助けてもらえたから、か?」
梅村千秋「まあ、簡単に言ってしまえばそうですね」
松岡春斗「絶対あいつ、そんなつもりなかっただろ」
梅村千秋「あはっ。でも・・・いじめっ子たちが当時の僕には絶対に勝てない強いやつに見えていたんですよ」
梅村千秋「本当は、そんなことなかったのに」
少しはにかむように笑って、梅村は頬をかいた。
梅村千秋「それを教えてくれたのが、竹田センパイだったんです」
松岡春斗「・・・たけは、無自覚に人を救うからな」
梅村千秋「わかります。 センパイは人たらしですからね」
深く頷いて、それに同意する。
たけは全てにおいて裏表がない。
その上、卑屈さも、暗さもない
言葉も行動も、思ったことがそのまま豪速球、ストレートに表現される。
だからこそ、救われることもあるのだ。
松岡春斗「そんじゃ、まあ・・・。 俺たちの救世主を救いにいきますか」
梅村千秋「ですね!」
梅村千秋「って、何仕切ってんスか!」
松岡春斗「俺のほうが策士って感じ、するだろ?」
煽るようにそう言うと、梅村は降参ポーズで大きく息を吐いた。
〇学校の屋上
竹田夏樹「うえええええ! 俺の何が悪かったんだー!!」
屋上に、たけの泣き声が響き渡る。
大げさなまでの落ち込みようだが、正直これは毎度のこと。
女子に告っては玉砕し、いつもこれだ。
松岡春斗(よかった。 いつもと違うトーンで落ち込んでたら、さすがに罪悪感わくとこだった)
梅村千秋「センパイ、元気だしてください! ね、もっといいコはいますって! すぐ近くに! めちゃくちゃ近くに!」
竹田夏樹「どこだよボケ!」
竹田夏樹「びええええ!」
松岡春斗「たけ」
竹田夏樹「ん・・・?」
松岡春斗「ほら、お望みのカツだぞ」
竹田夏樹「まっちゃぁんっ!」
ぱあっと明るくなる顔に、にやつきそうになってしまうのを必死に堪えて、弁当を渡した。
竹田夏樹「開けていい!?」
松岡春斗「ああ、もちろ──」
梅村千秋「ちょーっと待ったー!」
松岡春斗「は?」
梅村千秋「今日は僕からもありまーす!」
竹田夏樹「マジかよ!」
梅村も包みを取り出して、たけに渡す。
松岡春斗「おい、お前・・・」
梅村千秋「ふふん、抜け駆けはダメですよ?」
竹田夏樹「よっしゃ、開けるばい!」
たけが俺の弁当の包みと、梅村の包みを一気に解く。
竹田夏樹「わっ」
梅村千秋「ひと手間カツサンドです!」
松岡春斗「カツ丼だ」
竹田夏樹「・・・・・・」
竹田夏樹「クオリティたっか・・・」
松岡春斗「おい、なに引いてんだよ」
ドン引きした様子のたけだが、次の瞬間、何故か瞳が潤みだして・・・。
竹田夏樹「うおおお! お前らの友情やべえな!」
雄叫びをあげたたけが、すごい勢いでカツ丼とカツサンドを交互にがっつき始めた。
竹田夏樹「うめええ! めちゃくちゃうめえ!」
ボロッボロ涙を流しながら、たけが頬張る。
その姿は、かなりしんどいものがあったが・・・それより今は──
松岡春斗「なに作ってきてんだよ」
梅村千秋「ふふん。 ・・・まあ、カツは市販なんですけど」
松岡春斗「だろうな、きれいすぎる」
梅村千秋「くっ! でも、ひと手間してるんです!」
梅村千秋「なんと、塗ってるのはバターとハニーマスタードなんです! しかもただのハニーマスタードじゃないんですよ」
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