決別(脚本)
〇暗い廊下
──コツ、コツ、コツ・・・
平瀬「・・・・・・」
平瀬「・・・?」
床がひどく濡れている。
平瀬(水漏れ? おかしいな、一体どこから・・・)
ふ、と視線を上げると──
平瀬「・・・っ・・・!」
氷見 怜士「・・・・・・」
氷見は気を失っている平瀬の服を奪い、
それを素早く身につけた。
氷見 怜士「ちょっとキツいけど・・・ ずぶ濡れよりマシだな」
氷見 怜士「・・・悪いな」
〇貴族の部屋
西園寺 天音「もー、なんでこんなパジャマしかないの?」
遠慮気味にドアをノックする音が聞こえた。
西園寺 天音(また密かな・・・)
西園寺 天音「・・・はい」
西園寺 密「お、似合ってんじゃん」
西園寺 天音「どこがよ」
西園寺 天音「っていうかアンタ、そんなの着てるの? 生意気ね」
西園寺 密「え、そう? 風呂上がりにちょうどいいんだけどなぁ」
西園寺 天音「風呂上がりって・・・ 待って、ちゃんと穿いてるわよね?」
西園寺 密「・・・・・・」
西園寺 天音「出てってくれる?」
西園寺 密「は、穿いてるって!」
西園寺 天音「はぁ・・・ それで、何の用?」
西園寺 密「さっきの続きなんだけど・・・」
西園寺 天音「また? 何度言われても同じよ。 私はアンタとは──」
西園寺 密「親父殿はオレと天音を入籍させるつもりだ」
西園寺 天音「・・・は?」
西園寺 密「お前の鍵を手に入れるために、親父殿は息子であるオレの妻に迎え入れるつもりらしい」
西園寺 密「しかも明日」
西園寺 天音「バカ言わないで! そんなの、私が言うことを聞くと思ってるの?」
西園寺 密「思ってないさ。 ただ、相手はあの西園寺禮だぜ?」
西園寺 密「自分の目的のためならどんな手段も厭わない それが親父殿だ」
西園寺 天音「だからってそんな──」
西園寺 密「ここにいる以上、後ろ盾のないお前は この条件を飲むしかない」
西園寺 密「断れば恐らく、氷見って奴にも危険が及ぶ だろうな」
西園寺 天音「・・・最低・・・」
西園寺 密「そうだ、最低なんだよ。 っていうかそんなの昔から分かってるだろ?」
西園寺 密「だから、天音は──」
西園寺 密「ここから逃げろ」
西園寺 天音「・・・え?」
西園寺 密「オレさ・・・ 天音のこと、本当に好きなんだ」
西園寺 密「だから・・・こんな形で、お前の気持ちを 無視してまで一緒になりたくない」
西園寺 天音「密・・・」
西園寺 密「抜け道があるから・・・ オレが屋敷の外まで連れてってやるよ」
西園寺 密「それで、お前はすぐ兄貴のとこへ戻れ」
西園寺 天音「・・・・・・」
西園寺 密「? どうしたんだよ」
西園寺 天音「戻ったら、また・・・氷見さんを危険に 晒すことになる」
西園寺 密「何言ってんだよ。 あの人すげー強いじゃん」
西園寺 天音「でも──」
???「そいつの言う通りだ」
西園寺 密「!?」
西園寺 天音「・・・この声・・・」
氷見 怜士「よう」
西園寺 天音「氷見さん・・・」
西園寺 密「あんた、いつの間に・・・!? どうやってここへ?」
氷見 怜士「ま、それは企業秘密ってことで」
西園寺 密「ふぅん・・・まぁいいや。 渡りに船ってやつだ、それじゃ天音を──」
西園寺 天音「嫌よ」
氷見 怜士「え・・・」
西園寺 密「何言ってんだよ! せっかく迎えに来てくれたのに」
西園寺 天音「氷見さん、何ノコノコやってきたのよ。 私の努力を無駄にするつもり?」
氷見 怜士「あ、天音──」
天音は氷見を押し退け、密に抱きついた。
西園寺 密「!!!?」
西園寺 天音「ねぇ、分かるでしょ? こんな時間に2人で部屋にいたのよ?」
西園寺 密「こ、こら! 何言って──」
天音は慌てる密の首に腕を絡め、
やや強引に唇を押し付けた。
氷見 怜士「・・・・・・」
西園寺 密「・・・っは、天音・・・」
氷見 怜士「はぁ・・・ 見てらんねぇな」
氷見 怜士「じゃあ、その下手くそなキスがお前の答えってことなんだな?」
氷見の言葉に天音はようやく唇を離した。
西園寺 天音「・・・そうよ」
氷見 怜士「ふーん・・・」
西園寺 密「いや、これは何かの間違いで・・・ 間違い・・・エヘヘ・・・」
氷見 怜士「鼻の下伸び切ってて何言ってんのか 分かんねぇよ」
氷見 怜士「・・・天音」
西園寺 天音「な・・・何?」
氷見 怜士「・・・余計なことして悪かった」
西園寺 天音「・・・・・・」
氷見 怜士「じゃあな」
氷見は静かに部屋から消えた。
西園寺 密「はぁ・・・」
西園寺 天音「・・・・・・」
〇歌舞伎町
メイド居酒屋の店員「いらっしゃいませご主人様〜♡ メイド居酒屋で雨宿りしていきませんか〜♡」
だらしない男「へぇ、メイド居酒屋かぁ」
メイド居酒屋の店員「はいっ♡ 雨なんでたくさんサービスしちゃいますよ♡」
だらしない男「えっ・・・ サービスって、ど、どんな?」
メイド居酒屋の店員「ここじゃ・・・言えません♡」
だらしない男「っかー! いいねいいね!」
だらしない男「よし、じゃあ200円しかないけど 行っちゃおうかな!」
メイド居酒屋の店員「・・・は?」
だらしない男「いやぁ、さっきパチンコでスッちゃって。 おじさん癒してほしいわけ♡」
メイド居酒屋の店員「・・・さよーなら」
だらしない男「え!?」
だらしない男「ちょ、待っ──」
男は慌てて追いかけたが、
メイドの姿はあっという間に人の波に消えていった。
だらしない男「ガーン・・・ せっかくサービスしてもらおうと思ったのに」
だらしない男「・・・・・・ん?」
だらしない男「あっ! そこのお兄さん、もしかしてメイド居酒屋の 関係者?」
氷見 怜士「・・・・・・」
氷見 怜士「・・・俺? いえ、違います」
だらしない男「なんだ・・・紛らわしいなぁ」
氷見 怜士(そうか、服・・・このままだったな)
氷見 怜士(この辺で適当に服買って、 どっかで着替えて──)
???「あれ? もしかして・・・怜士くん?」
氷見 怜士「えっ?」
氷見 怜士「あ・・・ お前は──」