彼女の手はちょっと硬くて

關紅洋

彼女の手はちょっと硬くて(脚本)

彼女の手はちょっと硬くて

關紅洋

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彼女の手はちょっと硬くて
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〇教室
  私、逸野ひなたには好きな人がいる。
  それは・・・・・・
真崎夏「ひーなたっ! 一緒に帰ろ!」
逸野ひなた「う、うんっ」
  真崎夏。私はなっちゃんって呼んでいる。
  私なんかと違って、運動神経抜群。
  そして何より明るい。
  そんな私達の出会いは・・・・・・

〇教室
  時は遡ること2ヶ月前──
  5月。
  私達が高校に入学して1ヶ月が経った。
  大半の生徒は仲良しグループを作っていた。
  私は昔から友達を作るのが下手だった。
  気が弱いし、どんくさいし、空気とか読めないし。
  だけど1人でいると先生や周囲にいらぬ心配をかけてしまうから、適当なグループにいつも属していた。
女子生徒「じゃあ私ら遊んでくるから、 掃除当番よろしくな~」
逸野ひなた「う、うん・・・・・・」
  今のグループで私の気が弱いのはすぐにバレた。
  グループのみんなは「友達でしょ?」と私を良いように使いだした。
  だけど、それでいい。
  どうせ私には反論する度胸もない。
  昔からいつもそう──
  また高校でも、我慢すれば・・・・・・
  みんなが飽きるまで待てば・・・・・・
  
  そう思っていた。
女子生徒「サンキュー! 持つべきものは友だね~」
真崎夏「ちょっと待ちなよ! そんなの友達じゃないでしょ!?」
女子生徒「アンタ確か、真崎だっけ? 私らのグループの事なんだから関係ないでしょ?」
真崎夏「グループなんて、それこそ掃除当番サボるのとは話は別でしょ!」
女子生徒「チッ・・・・・・ うるせーな・・・・・・」
真崎夏「ちょっと! 待ちなさい!」
真崎夏「逃げられちゃった。 えーっと、逸野さん? 大丈夫?」
逸野ひなた「えっ!? は、はい・・・・・・」
真崎夏「逸野さん、アイツらとはいつもこんな感じなの?」
逸野ひなた「ま、まぁ・・・・・・ でも、私のグループだし・・・・・・」
真崎夏「ふーん、アタシはそういうグループとか、好きじゃないかも」
真崎夏「逸野さんはなんでグループに入ってるの?」
逸野ひなた「だ、だって、みんな入ってるし。 入らないと居場所が・・・・・・」
真崎夏「居場所かぁ・・・・・・」
真崎夏「じゃあ、アタシが居場所になったげる!」
逸野ひなた「え、えぇっ!? 真崎さんが・・・・・・」
真崎夏「そう! あと、「真崎さん」じゃなくて別の名前で呼んで?」
逸野ひなた「え、えと・・・・・・ じゃあ、なっちゃん」
真崎夏「いいね! よろしくね! ひなた!」
  なっちゃんが差し出してくれたその手は、
  とても柔らかく、暖かかった。

〇街中の道路
真崎夏「あーっ、 今日も学校疲れた〜!」
逸野ひなた「その割にはなっちゃん元気そうだね」
真崎夏「まぁね! あと少しで夏休みだし!」
逸野ひなた「あ、もうそんな時期かぁ」
真崎夏「ひなたは夏休みどっか行きたいところある?」
逸野ひなた「行きたいところ・・・・・・ 去年までは友達もいなかったし、考えたことないや」
真崎夏「だったらさ! 今年はアタシといろんな所いこうよ! 海とか、お祭りとか・・・・・・」
逸野ひなた「え、えっ!? でもなっちゃん、そういう所は他の友達と行くんじゃ・・・・・・」
真崎夏「うーん、確かにお誘いはあったけど、 全部パスした!」
逸野ひなた「う、嬉しいけど、本当にいいの? 私なんかと遊びに行っても楽しくないよ」
真崎夏「そんなことないよっ。 「私なんか」って禁止! アタシはひなたと一緒がいいの」
逸野ひなた「わ、わ、私がいい!? なっちゃんはどうしてそこまで私を・・・・・・」
真崎夏「えっ? なんでってそれは・・・・・・」
  キキーッ!!
逸野ひなた「な、なっちゃん!!」
  私の目の前で車に跳ねられたなっちゃんの身体は宙を舞った。
  あまりのショックで、私は動けなかった
  何もできない自分が情けなかった

〇教室
  あれからというもの、なっちゃんは一命こそ取り留めたらしいが、学校には来ていない。
逸野ひなた「あっ、先生」
先生「逸野さん、どうかした?」
逸野ひなた「なっちゃ── 真崎さんはいつ頃学校に来れるようになるんでしょうか」
先生「真崎さんねぇ・・・・・・ 家には戻ってきてるみたいなんだけど、 連絡取れないのよ」
逸野ひなた「連絡が取れない? だってご両親とか・・・・・・」
先生「真崎さん、ご両親いないのよ。 中学校までは孤児院暮らしで、今は一人暮らしみたい」
逸野ひなた「(そうだったんだ・・・・・・)」
先生「あっ、そうだ! 色々配布物とか溜まってるから、真崎さんの家に届けてあげて? あなた真崎さんと仲良いでしょ?」
逸野ひなた「いいですけど・・・・・・ 仲良いってだけなら他の子でも」
先生「確かにあの子は決まったグループに属さず誰とでも話す社交的な子よ。 先生の間でも評判が高いわ」
先生「だけど、事故があってからあの子の心配をして私に訪ねてきたのは、あなただけよ」
逸野ひなた「私、だけ・・・・・・」
先生「普段はみんな真崎さんを頼りにするのに、薄情よね。 でも、あなたならきっと真崎さんの力になれる」
逸野ひなた「わ、私が・・・・・・ なっちゃんの力に・・・・・・」
先生「頼んだわよ、逸野さん」

〇マンションの共用廊下
逸野ひなた「先生から聞いた住所だと、この辺のはず・・・・・・」
逸野ひなた「えっと・・・・・・ ここかな?」
  私は恐る恐る、インターホンを押した。
  だが、返事はない。
逸野ひなた「留守? 買い物かな?」
  私はまた出直そうかと思った。
  だけど、その時・・・・・・
逸野ひなた「物音!? やっぱり中にいるの?」

〇玄関の外
逸野ひなた「あ、開いてる・・・・・・」
  私は心臓をバクバクさせながら部屋に入った。

〇綺麗な部屋
逸野ひなた「なっちゃん? いるの? 私だよ、ひなただよ?」
  なっちゃんの部屋で私は奇妙な書類を見つけた。
逸野ひなた「これは・・・・・・ なっちゃんの診断書? 病院からもらったのかな?」
  しかし、その書類はただの診断書ではなかった。
逸野ひなた「怪人化・・・・・・? 感染・・・・・・? 一体なんのことだろう」
  その時、私の背後から微かに声が聞こえた。
「こな・・・・・・いで・・・・・・」
逸野ひなた「えっ? この声、なっちゃん?」
真崎夏「来ないで・・・・・・」
逸野ひなた「なっちゃん。 やっぱりそこに──」
真崎夏「来ないで!」
夏(怪人態)「この姿・・・・・・ 見せたくなかった・・・・・・」
逸野ひなた「ひ、ひぃぃ!」
夏(怪人態)「ひなた・・・・・・」
逸野ひなた「(怖いけど、声は確かになっちゃんだ・・・・・・)」
逸野ひなた「本当になっちゃんなの?」
夏(怪人態)「そうよ。 アタシ、真崎夏だよ」
逸野ひなた「なっちゃん・・・・・・」
夏(怪人態)「ね、ねぇひなた。 アタシね・・・・・・」
逸野ひなた「きゃっ!」
  なっちゃんが近づいてきた瞬間、
  私は無意識に身を引いた。
夏(怪人態)「ひな・・・・・・た?」
逸野ひなた「あっ、ごめん・・・・・・ まだ頭の整理がついてないっていうか・・・・・・ つい身体が──」
夏(怪人態)「もう、いいよ。 帰って」
逸野ひなた「えっ?」
夏(怪人態)「いいから帰って! アタシだってなりたくてこんな身体になったんじゃない!」
逸野ひなた「それって、どういう──」
夏(怪人態)「この街には、瀕死の患者を使って人体実験をしている組織がいるの。 あの事故の後、私の身体は組織に引き渡された」
逸野ひなた「じゃ、じゃあその人体実験によって・・・・・・」
夏(怪人態)「そう。 アタシの命は助かったけど、発作的にこんなバケモノに変身するように・・・・・・」
夏(怪人態)「こんな事になるなら、死んだほうがよかった!」
逸野ひなた「そ、そんな事言わないでよ」
夏(怪人態)「好きな人に怖がられるなんて・・・・・・」
逸野ひなた「なっちゃん、それは──」
夏(怪人態)「とにかく出ていって!」
逸野ひなた「・・・・・・」
  私は、なっちゃんに何も言ってあげる事ができなかった。

〇ゆるやかな坂道
逸野ひなた「先生、私。 なっちゃんの力に、なれませんでした・・・・・・」
  なっちゃんは私の日常に光をくれた。
  だけど、私は何もしてあげられてない。
  事故の時から、ずっと・・・・・・
男「どうしたの、お嬢ちゃん。 そんな泣いちゃって。 もしかして失恋とか?」
逸野ひなた「えっ、いや、その・・・・・・」
男「てかさ、お嬢ちゃん。 今、一人?」
逸野ひなた「えっ・・・・・・ (ナンパかな、怖いな・・・・・・)」
男「一人みたいだね。 ラッキー!」
男「実はさ、試したい事があってね」
逸野ひなた「試したい・・・・・・こと?」
男「俺さ、 最近変身できるようになったんだよね!」
男(怪人態)「そこで、俺の武器で女の子を切り刻んだら、どんな声で鳴くのかなー?ってね・・・」
逸野ひなた「いやぁぁぁぁぁ!」
  私は心の中でなっちゃんに助けを求めた。
  でも私は彼女を傷つけてしまったばかり。
  そんな都合の良い願いが叶う訳は──
男(怪人態)「だ、誰だテメェ!」
逸野ひなた「なっちゃん!」
夏(怪人態)「ひなた。 会うのはこれで最後にしよう」
逸野ひなた「ど、どうして・・・・・・」
男(怪人態)「何をゴタゴタ言ってんだよォ!」
夏(怪人態)「うぐっ! アタシと同じ手術を受けたヤツか・・・・・・」
夏(怪人態)「ひなた、下がって!」
逸野ひなた「う、うん・・・・・・」
  その後、なっちゃんと怪人は激しい戦いを繰り広げていた。
  でも、敵は武器を持っている分、
  なっちゃんは次第に劣勢になっていた。
夏(怪人態)「ぐわぁぁぁぁっ!!」
逸野ひなた「なっちゃん!」
男(怪人態)「せっかく貰った力なんだ。 自分の為に使えばいいのによぉ〜」
夏(怪人態)「使ってるよ・・・・・・十分・・・・・・」
男(怪人態)「あん?」
夏(怪人態)「勝手に一目惚れした女の子を救う為にね!」
逸野ひなた「ひ、一目惚れ!?」
夏(怪人態)「事故のとき、ひなたはアタシにどうしてそんなに構ってくれるのか聞いたよね?」
逸野ひなた「う、うん」
夏(怪人態)「その理由が一目惚れなんて、笑っちゃうでしょ? 可愛いあなたの居場所になりたい。 そう、あの日思っただけなの」
逸野ひなた「(私達、両想いだったんだ──)」
夏(怪人態)「でも、こんなアタシと一緒にいたら、 ひなたの居場所がなくなっちゃう!」
夏(怪人態)「だって、ひなたはまだ普通の女の子なんだから、いくらでもやり直せる」
夏(怪人態)「アタシじゃなくても、きっと居場所、見つけられ──」
男(怪人態)「さっきからゴチャゴチャと! 刻むぞ!!」
夏(怪人態)「いやぁぁぁっ!」
逸野ひなた「なっちゃん・・・・・・」
夏(怪人態)「ひなた、早く逃げて。 もう、お別れ──」
逸野ひなた「バカ!」
夏(怪人態)「!?」
逸野ひなた「何が居場所見つけられるよ! 一人ぼっちの私に、勝手に惚れて、勝手に構って──」
逸野ひなた「そんな事されたら、私だって好きになっちゃうに決まってるじゃん・・・・・・ なっちゃんは、私の王子様なんだから!」
逸野ひなた「私の居場所はなっちゃんの隣以外ありえないよ!」
夏(怪人態)「ハハッ ひなたがそこまで自分の意見を言うの、 初めて見たよ・・・・・・」
逸野ひなた「それに、私もなっちゃんの居場所になりたいから──」
  私はなっちゃんの手を握り、身体を引き寄せた。
  彼女の手はちょっと硬くて、冷たかった。
  引き寄せた事で近づいたなっちゃんと私の唇を、そのままそっと重ねた。
男(怪人態)「この女、怪人とキスしやがった! お前それがどういう意味か──」
逸野ひなた「知ってるよ」
逸野ひなた「怪人化を促す成分は・・・・・・」
ひなた(怪人態)「唾液を介して、感染するって」
夏(怪人態)「ひ、ひなた・・・・・・」
ひなた(怪人態)「書類読んだんだ。 これでお揃いだね」
男(怪人態)「ば、バカな!? 進んで怪人に!?」
ひなた(怪人態)「今度は私がなっちゃんを一人ぼっちから救う番!」
男(怪人態)「な、なんだこの・・・・・・パワー・・・・・・は・・・・・・」
夏(怪人態)「す、すごい・・・・・・ 一撃で・・・・・・」
夏(怪人態)「まずい、騒ぎを聞いてパトカーが・・・・・・」
ひなた(怪人態)「えへへ、逃げないとだね」
夏(怪人態)「なんで、嬉しそうなの?」
ひなた(怪人態)「私、やっとなっちゃんの役に立てたんだもん!」
夏(怪人態)「もう! そういう場合じゃないでしょ? 何処に逃げる?」
ひなた(怪人態)「なっちゃんと一緒ならどこでもいいよ!」
  完

コメント

  • 「彼女の手はちょっと硬くて」をタイトルにする作者さんのセンスがすごい。「硬くて」の後に「でも…」と、夏を思うひなたの言葉が続くような余韻があって素敵です。相手や自分がどんな姿になっても互いを思いやることができるかどうか、その試練に見事に勝利した二人の姿が眩しいですね。

  • 二人の関係性はきっと友情よりも愛の力が強いんだろうなぁ。
    以前と現在では多少見た目の変化はありましたが、お互いの居場所に戻れたことが、私はこの二人の幸なんだなと感じます。

  • 清々しい2人の関係が見られる物語ですね。夏が怪人化しても、ひなたは恐怖や排除といった感情を抱かず、逆に自らが怪人化の道を選ぶって、愛ですねー!

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