音色を探して

72

聴くという事(脚本)

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〇一軒家
  グループホームにも名前があった。ここの名前は「カモミール」。「カモミール」って何だろう
  「カモミール」を調べた事で、花にも興味をもつようになった
  このカモミール、4人の入居者が入れるようになっていたが、私が入った時には、私ともう一人の二人だけだった
  彼女の名前はミモザ。この人も花の名前。実は杉の森学園から同じ日に移った人
  普通は入居のタイミングは異なるものらしいのだが、同じ場所にいたからとの理由で、同じ日に入ってきたのだ

〇一階の廊下
  そしてここにもスタッフはいる。管理者という人が木下さん
  それと世話人と呼ばれるスタッフの、小泉さんと岸さん
  スタッフは夕方から朝までお仕事をしており、そのため毎日交代して来ている。木下さんは時々日中もいるけど
  昼の時間は、私もミモザさんもお仕事に出掛けるから、スタッフが居なくても大丈夫なのだ

〇児童養護施設
  ミモザさんは平日、杉の森学園に行って清掃作業をしていた
  山下さんと一緒に仕事をしているので、少し羨ましかった
  私も一緒に働いていたのだけど、実は働く場所が変わることになったのだ
  杉の森学園で生活をしている人に、ご両親が自営業をしている方がおり、その夫婦がお祭りに来ていたのだ
  二人はお祭りの時にピアノを弾いている私を見て、自分達の店で一緒に働いて欲しいと考え、スタッフに申し出たのだ

〇レトロ喫茶
  二人は喫茶店を営んでいた。旦那さんが料理を作り、奥さんは接客等を行っていた
  お店の名前は「春近し」。お店を訪れた人が、幸せに結ばれるようにと願ってつけたのだとか
  杉の森学園の人のご両親。喫茶店の人はマスターと呼ばれると聴いていた。
  私は二人をマママスター、パパマスターと呼んだ

〇レトロ喫茶
  働くことが決まる前に、一度お店に行ってお話をする事になっていた
  お二人は私が洗い物を出来ること、お金の計算が出来ない事など、杉の森学園のスタッフから聴いて分かっていた
マママスター「私達はみあさんに洗い物や掃除をやって欲しいのだけど、それともう一つ、やってもらいたい事もあるの」
  パパマスターがお店の奥にある何かの固まりから、かぶさっている布を外した
  そこには小さなピアノのようなものがあった

〇レトロ喫茶
パパマスター「これはオルガンという楽器。使い方はピアノに似ているんだけど・・・ちょっと触ってみる?」
  ピアノに似てるけどちょっと音が独特なオルガン。私はしばらく弾くことを楽しんだ
マママスター「昔、これを弾くのが好きな人がいてね・・・」
マママスター「このオルガンを、お店があまり忙しくない時に弾いてほしいの」
パパマスター「ちなみにこんな感じに弾いてくれたら最高なんだけど」
  そう言ってパパマスターが私に渡したのは、ワルター・ワンダレイのCD「RainForest」
パパマスター「まぁ、そのとおりになんて出来ないと思うけど、あくまでも雰囲気。イメージ作りに聴いてみて」

〇一軒家
  私はCDを聴くことを楽しみに、グループホームに戻った
  実はグループホームに移る時に、スマホを購入。
  さらに中古品のお店に行ってキーボードを買いに行った時に、安いCDラジカセも購入していたのだ
  購入後は聴いたことのある音楽をキーボードで弾いて、アプリで検索して、ユーチューブで本物を聴くことを楽しんでいた
  杉の森学園で働いていたお金は、仕事の訓練だったので、実はもらえたお金は少なかったらしい
  私は生活保護というとのを受けていたのだ。身元が分からないので、私が倒れていた地域からそのお金は出ていた

〇一階の廊下
ミモザ「みあちゃんあそぼー」
  帰ると早々にミモザさんが話しかけてきた
  でも私はCDを聴きたかった
みあ「ごめんね、私CDが聴きたいの」
ミモザ「じゃーあとであそぼー」
  「あと?」後で遊ばなければいけないのかなー。何だか少し気が重くなったが、とりあえず部屋に行った

〇女の子の一人部屋
  パパマスターから渡されたCDを聴いてみた。何だか明るくてとても心地よかった
  CDが一周すると、もう一回最初から聴いた
  ふと我に返ってキーボードを取り出した。音が出ないように電源を切ったまま、音楽に合わせて両手の指を動かした
木下さん「みあさーん。みあさーん」
  ふと気がつくと、かなりの時間が経っていた。夕食の時間だ

〇アパートのダイニング
木下さん「どうしたの?なかなか来なかったけど」
  私はパパマスターから渡されたCDの事や、キーボードで練習していた事を伝えた
木下さん「へぇー覚えられそう?」
みあ「難しいけど面白いから頑張る」
  覚えてきれいに弾いたら、パパマスターもマママスターもきっと喜んでくれると思ったから、たくさん頑張ろうと思っていた
ミモザ「みあちゃん、ごはん食べたらあそぼー」
  また嫌な気持ちになった。だって音楽の練習したいし。あんまり遊びたくもなかったし
みあ「私嫌だ。ミモザさんとは遊びたくない。だって音楽の勉強がしたいの」
  本音を言っているのに凄く悪い気分だった
ミモザ「なんで、なんであそんでくれないの」
  ミモザさんが泣き出した。私も胸が苦しくなった

〇アパートのダイニング
木下さん「ケンカじゃないけど、今のは良くないな。でも、何が悪かったかわかるかな?」
  私もミモザさんも黙ったままだった
木下さん「二人とも相手の気持ちをちゃんと受け止めてからお話している?」
木下さん「さっきから聴いていると、二人の会話は一方通行。わかるかな?」
  そういえばそうかも。私は自分の気持ちだけしか伝えていなかった

〇アパートのダイニング
みあ「ミモザさんは私と何で遊びたいの?どういう遊びがしたいの?」
  私は「あそぼー」の続きを聴いてみた
ミモザ「わからない。でも、みあちゃんの歌やピアノが好きなの。でも、何してあそびたいのかはわからないの。ごめんなさい」
  「あそぼー」の続きは私の好きなことだった。私は誰かが自分の歌やピアノで喜んでくれる事が好きだったから
みあ「ミモザさん。私の歌やピアノが好きなんだったら、今ちょうど練習中だから聴いてもらっててもいいよ」
みあ「ごめんね。ちゃんと話も聴かないで断っていて」
  私はぜんぜんだった。木下さんは皆の気持ちを考えているのに、私は自分の気持ちだけしか考えていなかった
ミモザ「みあちゃん、わたしもごめんなさい。。わたしはテレビでよくながれる歌が好きなの」
ミモザ「でも、みあちゃんは私のしらないやさしい歌を知っているから、もっといっぱい聴きたかったの」
  そういえば、私も言葉を余り知らなかった時には、人に気持ちを伝えるのに苦労した。

〇アパートのダイニング
  ミモザさんはあまり言葉を知らない。それでも頑張って私の知っている音楽を聴きたかったのだ。それが彼女の「あそぼー」だった
  私はお仕事でオルガンの練習をしたかった。でもそこに観客がいることはそんなに問題ない
  私達は三人で話し合った。そして毎日時間を決めて、私はミモザさんにキーボードを使って音楽を聴かせる事になった
  私も仕事用の練習があるから、一日30分。それでもミモザさんは納得してくれた

〇ゆめかわ
  その日の夜、私は二人にキーボードで音楽のプレゼントをした。杉の森学園でボランティアさんが弾きていた曲など
  でもミモザさんは、私が時々に弾いてる洋楽に関心があるようだった
  私はキーボードで、デニース・ウィリアムスの「Let's Hear It For The Boy」を弾きながら歌った
  この歌は、女性が自分の恋人を歌った曲。その恋人は歌も音痴で背も低くて、かっこよくない人だった
  それでも自分を愛しているから最高の人。そんな感じの歌
  何だかその恋人と私やミモザさんが似ている気がしたから。苦手な事は多いけど、自分達なりに頑張っているところが

〇水玉2
木下さん「みあさん、すごーい。キーボードも上手いけど、英語で歌えるんだね」
  そういえば木下さんは、私の音楽は初めてだった
ミモザ「みあちゃんの歌すごく好きなの~」
  二人がとても喜んでくれて、私も満足だった

〇女の子の一人部屋
  その後私はお部屋に戻って、CDを聴きながらの練習を再開した
  明日から新しいお仕事の始まりだ

次のエピソード:障がいのある世界

コメント

  • 上手く言葉にできませんが、凄く好きです。みあ……リサの成長にワクワクします。続きも楽しみにしています。

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