聴くという事(脚本)
〇一軒家
グループホームにも名前があった。ここの名前は「カモミール」。「カモミール」って何だろう
「カモミール」を調べた事で、花にも興味をもつようになった
このカモミール、4人の入居者が入れるようになっていたが、私が入った時には、私ともう一人の二人だけだった
彼女の名前はミモザ。この人も花の名前。実は杉の森学園から同じ日に移った人
普通は入居のタイミングは異なるものらしいのだが、同じ場所にいたからとの理由で、同じ日に入ってきたのだ
〇一階の廊下
そしてここにもスタッフはいる。管理者という人が木下さん
それと世話人と呼ばれるスタッフの、小泉さんと岸さん
スタッフは夕方から朝までお仕事をしており、そのため毎日交代して来ている。木下さんは時々日中もいるけど
昼の時間は、私もミモザさんもお仕事に出掛けるから、スタッフが居なくても大丈夫なのだ
〇児童養護施設
ミモザさんは平日、杉の森学園に行って清掃作業をしていた
山下さんと一緒に仕事をしているので、少し羨ましかった
私も一緒に働いていたのだけど、実は働く場所が変わることになったのだ
杉の森学園で生活をしている人に、ご両親が自営業をしている方がおり、その夫婦がお祭りに来ていたのだ
二人はお祭りの時にピアノを弾いている私を見て、自分達の店で一緒に働いて欲しいと考え、スタッフに申し出たのだ
〇レトロ喫茶
二人は喫茶店を営んでいた。旦那さんが料理を作り、奥さんは接客等を行っていた
お店の名前は「春近し」。お店を訪れた人が、幸せに結ばれるようにと願ってつけたのだとか
杉の森学園の人のご両親。喫茶店の人はマスターと呼ばれると聴いていた。
私は二人をマママスター、パパマスターと呼んだ
〇レトロ喫茶
働くことが決まる前に、一度お店に行ってお話をする事になっていた
お二人は私が洗い物を出来ること、お金の計算が出来ない事など、杉の森学園のスタッフから聴いて分かっていた
マママスター「私達はみあさんに洗い物や掃除をやって欲しいのだけど、それともう一つ、やってもらいたい事もあるの」
パパマスターがお店の奥にある何かの固まりから、かぶさっている布を外した
そこには小さなピアノのようなものがあった
〇レトロ喫茶
パパマスター「これはオルガンという楽器。使い方はピアノに似ているんだけど・・・ちょっと触ってみる?」
ピアノに似てるけどちょっと音が独特なオルガン。私はしばらく弾くことを楽しんだ
マママスター「昔、これを弾くのが好きな人がいてね・・・」
マママスター「このオルガンを、お店があまり忙しくない時に弾いてほしいの」
パパマスター「ちなみにこんな感じに弾いてくれたら最高なんだけど」
そう言ってパパマスターが私に渡したのは、ワルター・ワンダレイのCD「RainForest」
パパマスター「まぁ、そのとおりになんて出来ないと思うけど、あくまでも雰囲気。イメージ作りに聴いてみて」
〇一軒家
私はCDを聴くことを楽しみに、グループホームに戻った
実はグループホームに移る時に、スマホを購入。
さらに中古品のお店に行ってキーボードを買いに行った時に、安いCDラジカセも購入していたのだ
購入後は聴いたことのある音楽をキーボードで弾いて、アプリで検索して、ユーチューブで本物を聴くことを楽しんでいた
杉の森学園で働いていたお金は、仕事の訓練だったので、実はもらえたお金は少なかったらしい
私は生活保護というとのを受けていたのだ。身元が分からないので、私が倒れていた地域からそのお金は出ていた
〇一階の廊下
ミモザ「みあちゃんあそぼー」
帰ると早々にミモザさんが話しかけてきた
でも私はCDを聴きたかった
みあ「ごめんね、私CDが聴きたいの」
ミモザ「じゃーあとであそぼー」
「あと?」後で遊ばなければいけないのかなー。何だか少し気が重くなったが、とりあえず部屋に行った
〇女の子の一人部屋
パパマスターから渡されたCDを聴いてみた。何だか明るくてとても心地よかった
CDが一周すると、もう一回最初から聴いた
ふと我に返ってキーボードを取り出した。音が出ないように電源を切ったまま、音楽に合わせて両手の指を動かした
木下さん「みあさーん。みあさーん」
ふと気がつくと、かなりの時間が経っていた。夕食の時間だ
〇アパートのダイニング
木下さん「どうしたの?なかなか来なかったけど」
私はパパマスターから渡されたCDの事や、キーボードで練習していた事を伝えた
木下さん「へぇー覚えられそう?」
みあ「難しいけど面白いから頑張る」
覚えてきれいに弾いたら、パパマスターもマママスターもきっと喜んでくれると思ったから、たくさん頑張ろうと思っていた
ミモザ「みあちゃん、ごはん食べたらあそぼー」
また嫌な気持ちになった。だって音楽の練習したいし。あんまり遊びたくもなかったし
みあ「私嫌だ。ミモザさんとは遊びたくない。だって音楽の勉強がしたいの」
本音を言っているのに凄く悪い気分だった
ミモザ「なんで、なんであそんでくれないの」
ミモザさんが泣き出した。私も胸が苦しくなった
〇アパートのダイニング
木下さん「ケンカじゃないけど、今のは良くないな。でも、何が悪かったかわかるかな?」
私もミモザさんも黙ったままだった
木下さん「二人とも相手の気持ちをちゃんと受け止めてからお話している?」
木下さん「さっきから聴いていると、二人の会話は一方通行。わかるかな?」
そういえばそうかも。私は自分の気持ちだけしか伝えていなかった
〇アパートのダイニング
みあ「ミモザさんは私と何で遊びたいの?どういう遊びがしたいの?」
私は「あそぼー」の続きを聴いてみた
ミモザ「わからない。でも、みあちゃんの歌やピアノが好きなの。でも、何してあそびたいのかはわからないの。ごめんなさい」
「あそぼー」の続きは私の好きなことだった。私は誰かが自分の歌やピアノで喜んでくれる事が好きだったから
みあ「ミモザさん。私の歌やピアノが好きなんだったら、今ちょうど練習中だから聴いてもらっててもいいよ」
みあ「ごめんね。ちゃんと話も聴かないで断っていて」
私はぜんぜんだった。木下さんは皆の気持ちを考えているのに、私は自分の気持ちだけしか考えていなかった
ミモザ「みあちゃん、わたしもごめんなさい。。わたしはテレビでよくながれる歌が好きなの」
ミモザ「でも、みあちゃんは私のしらないやさしい歌を知っているから、もっといっぱい聴きたかったの」
そういえば、私も言葉を余り知らなかった時には、人に気持ちを伝えるのに苦労した。
〇アパートのダイニング
ミモザさんはあまり言葉を知らない。それでも頑張って私の知っている音楽を聴きたかったのだ。それが彼女の「あそぼー」だった
私はお仕事でオルガンの練習をしたかった。でもそこに観客がいることはそんなに問題ない
私達は三人で話し合った。そして毎日時間を決めて、私はミモザさんにキーボードを使って音楽を聴かせる事になった
私も仕事用の練習があるから、一日30分。それでもミモザさんは納得してくれた
〇ゆめかわ
その日の夜、私は二人にキーボードで音楽のプレゼントをした。杉の森学園でボランティアさんが弾きていた曲など
でもミモザさんは、私が時々に弾いてる洋楽に関心があるようだった
私はキーボードで、デニース・ウィリアムスの「Let's Hear It For The Boy」を弾きながら歌った
この歌は、女性が自分の恋人を歌った曲。その恋人は歌も音痴で背も低くて、かっこよくない人だった
それでも自分を愛しているから最高の人。そんな感じの歌
何だかその恋人と私やミモザさんが似ている気がしたから。苦手な事は多いけど、自分達なりに頑張っているところが
〇水玉2
木下さん「みあさん、すごーい。キーボードも上手いけど、英語で歌えるんだね」
そういえば木下さんは、私の音楽は初めてだった
ミモザ「みあちゃんの歌すごく好きなの~」
二人がとても喜んでくれて、私も満足だった
〇女の子の一人部屋
その後私はお部屋に戻って、CDを聴きながらの練習を再開した
明日から新しいお仕事の始まりだ
上手く言葉にできませんが、凄く好きです。みあ……リサの成長にワクワクします。続きも楽しみにしています。