P11・魔王と勇者(脚本)
〇中東の街
キオル「雨強くなってきたな。帰りてぇ~」
ローレット「・・・ねえ」
ローレット「さっき言ってた、 用済みの養子ってどういうこと?」
キオル「面と向かってよく聞けるな」
ローレット「思わせ振りな言い方するのが悪いんじゃん」
キオル「──俺の本当の両親は、魔獣に殺されたんだ」
ローレット「えっ・・・」
キオル「密猟者に狙われて怪我を負った マンティコアだった」
キオル「でも、その手負いのマンティコアから 俺を助けてくれたのも魔族だった」
ローレット「・・・・・・」
キオル「そいつも、いかにも 水属性みたいな外見だったのに」
キオル「魔法じゃなくて素手で マンティコアを捩じ伏せてたよ」
ローレット「言っとくけど、私はマンティコアと 素手で戦うほど脳筋じゃないからね!?」
ローレット「・・・それで、その後は?」
キオル「孤児院に入ってすぐ、俺の魔力に目をつけた伯爵家の養子になったけど・・・」
キオル「あまり間を置かず養父母が実子を授かって、俺はお払い箱ってわけ」
ローレット「そんな──」
キオル「よくある話さ」
キオル「それに、そのおかげでこうして冒険者やってられんだから、義弟様々だよ」
ローレット「・・・・・・」
ローレット「あんたは、魔獣や魔族をどう思ってるの?」
キオル「俺を助けてくれた魔族には感謝してる」
キオル「でも、両親を殺した魔獣のことは恨んでる」
キオル「それに──」
キオル「あの魔獣が人間を襲うきっかけを作った 密猟者のことも、同じくらい憎んでる」
ローレット「そっ、か・・・」
キオル「・・・俺がルカードと行動してんのはさ」
キオル「あいつが人間側の都合だけで勇者やってるんじゃないって知ったからなんだ」
ローレット「・・・?」
キオル「人間界では、魔獣の密猟や密売は 見て見ぬふりをする奴の方が多い」
キオル「でもルカードは、どんな些細な事でも 掬い上げて正そうとする」
キオル「人間と魔族は理解しあえるって、 あいつ本気で信じてるんだ」
ローレット「何それ・・・」
ローレット「モブ顔のくせに生意気」
キオル「ははっ」
キオル「・・・だからさ、俺が手伝うことで 少しでも救われる奴がいたらいいなって」
キオル「俺やあのマンティコアみたいな被害に遭う奴が減らせたらいいなって思って・・・」
キオル「──って、何語ってんだろうな」
ローレット「・・・・・・」
キオル「会場の方からだ」
ローレット「行こう!」
〇荒廃した市街地
キオル「これは・・・」
ローレット「エリゼ、どこ!?」
???「ううっ・・・」
ローレット「呻き声・・・?」
キオル「瓦礫の下からだ!」
ウォルテラ子爵「その声は・・・キオルくんか?」
キオル「ウォルテラ卿!? いったい何が──」
ウォルテラ子爵「魔王だ」
キオル「魔王!?」
ウォルテラ子爵「美しい少女の姿をした魔王が、 オークション会場を破壊して──」
ローレット「────ッ」
キオル「少女・・・?」
キオル「魔王っつったら 校長先生みたいな顔したオッサンだろ!?」
ローレット「あたし、行かなきゃ」
キオル「あっ、おい!」
キオル「ローレット!!」
ミア「キオル!」
キオル「ミア!」
ミア「早く瓦礫を退かすわよ!」
キオル「あっ、ああ」
ウォルテラ子爵「はぁっ、助かった・・・」
キオル「いま回復を──」
ウォルテラ子爵「いや、大丈夫。 それより他の人たちも助けてくれ」
ウォルテラ子爵「まだ何人も瓦礫の下にいるはずだ」
キオル「分かった」
ミア「向こうからも声がしたわ!」
キオル「・・・ミア、何があったんだ?」
ミア「・・・・・・」
ミア「実は──」
〇黒背景
〇劇場の舞台
ヴィエリゼ「──私はヴィエリゼ・レイヤール・ヴァンダドラル」
ヴィエリゼ「全ての魔族を従えし魔王、 魔界ヴァンダドラルの統治者」
ヴィエリゼ「眷族たちを返してもらう!!」
ルカード「だめだ、エリゼ!!」
ヴィエリゼ「・・・っ」
ヴィエリゼ「邪魔をしないで!!」
ルカード「くっ・・・」
セイレーン「魔王様っ・・・」
ヴィエリゼ「もう大丈夫よ」
セイレーン「はい・・・っ」
ヴィエリゼ「他に、捕らえられている魔族は?」
セイレーン「スライムや妖精などの 小さな子たちが大勢・・・」
セイレーン「それとシャパリュの子供が数匹と、 ケルピーの子供が一頭おります」
ヴィエリゼ「分かったわ、ありがとう」
〇劇場の舞台
貴族「キャーッ!!」
貴族「天井が落ちたぞ!! 何人か下敷きに──」
ルカード「エリゼ・・・」
セイレーン「このお方の名前を気安く呼ぶな!!」
ヴィエリゼ「いいのよ」
セイレーン「魔王様。ですが──」
ヴィエリゼ「いいと言っている」
ヴィエリゼ「隠していてごめんなさい」
ヴィエリゼ「父は少し前に引退して、 悠々自適な隠居生活をしているの」
ヴィエリゼ「今は私が、魔界ヴァンダドラルの王よ──」
ルカード「そうか・・・」
貴族「ううっ・・・」
貴族「誰か手を貸して! 夫が怪我を──」
貴族「衛兵は何をやっている!?」
ルカード「ここまで被害が広がってしまっては、俺は勇者として、君を見過ごす事はできない」
ルカードの手から、カシャン──と音を立てて仮面が落ちる。
貴族「勇者ルカード!?」
貴族「勇者様、どうかお助けくださいませ」
貴族「魔族を── 魔王を倒してください!!」
オークショニア「勇者様、どうぞこちらを」
ルカード「・・・ありがとう」
ヴィエリゼ「・・・・・・」
???「伏せてください!!」
〇荒廃した教会
フェゴール「ほほ、これで風通しがよくなりましたね」
ゲンティム「楽しそうだな、おい」
ダーリナ「ヴィエリゼ様!」
ヴィエリゼ「みんな・・・」
ダーリナ「遅くなり申し訳ございません」
ヴィエリゼ「私は大丈夫。それより──」
ヴィエリゼ「フェゴール!」
フェゴール「はっ」
ヴィエリゼ「先に魔界へ戻ってセイレーンの手当てを。 ひどく痛めつけられているの」
フェゴール「御意のままに」
フェゴール「久し振りに思いきり魔力を解放できると思ったのですが、こればかりは仕方ありませんね」
ゲンティム「俺が代わりに暴れといてやるよ」
フェゴール「はいはい、頼みましたよ」
ゲンティム「さて、と──」
ゲンティム「剣を取ったって事は、 そのつもりなんだろ?」
ゲンティム「なあ、勇者サマよお!!」
ルカード「覚悟はできている──、かかってこい!」
ダーリナ「ゲンティムさんっ・・・」
ゲンティム「俺が遊んでんだ。 手ぇ出すなよ、ダーリナ!」
ダーリナ「・・・・・・」
ダーリナ「ヴィエリゼ様!」
ダーリナ「今のうちに、他の魔族も解放しましょう」
ヴィエリゼ「ええ、そうね・・・」
ルカード「エリゼ・・・ッ!!」
ヴィエリゼ「・・・!」
ヴィエリゼ「今日は本当に楽しかった」
ヴィエリゼ「今までありがとう」
ヴィエリゼ「ごめんね・・・」
ルカード「待っ──」
ゲンティム「オラァッ!!」
ルカード「──ッ!」
ゲンティム「おらおら、どうした! 勇者っつってもたいした事ねえなぁ!?」
ルカード「くそっ・・・」
ゲンティム「お前の覚悟ってのはそんなもんか!?」
ルカード(まだ瓦礫の下敷きになっている 人がいる・・・)
ルカード(俺は勇者だ・・・ 退くわけにはいかない!!)
〇西洋風の駅前広場
ゴーレム「こっちだよ!」
ヴィエリゼ「ローレン! 手伝ってくれるのね」
ゴーレム「ゴーレムさん越しでしか動けないけど・・・」
ヴィエリゼ「充分よ、ありがとう」
ゴーレム「・・・大丈夫?」
ヴィエリゼ「えっ・・・?」
ゴーレム「エリゼ様、 なんだか悲しそうな顔してる・・・」
ヴィエリゼ「そんなことないわ。 それより、早くみんなを助けましょう!」
ゴーレム「ダー様ぁ・・・」
ダーリナ「・・・さぁ、お仕事ですよ」
ダーリナ「それより──」
ダーリナ「ダー様って呼ばないでと 何度言えば分かるの?」
ゴーレム「あうぅ・・・」
妖精「魔王様!」
スライム「まおー様! 助けに来てくれタ?」
ヴィエリゼ「遅くなってごめんなさい」
ヴィエリゼ「すぐに魔界へ転送するわ」
ヴィエリゼ「・・・ケルピーはどこ?」
妖精「雷に驚いて駆けて行ってしまったの」
妖精「あの子、とっても衰弱していたの・・・」
ヴィエリゼ「必ず見つけ出すから、 貴方たちは先に魔界へ戻っていて」
ヴィエリゼ「怪我をしている子は フェゴールが手当てしてくれるわ」
ヴィエリゼ「ダーリナ、他の子たちも連れてきて」
ヴィエリゼ「ローレンはケルピーの捜索を」
ダーリナ「はい!」
ゴーレム「分かった!」
ヴィエリゼ(大丈夫、間違ってない・・・)
ヴィエリゼ(私の務めは、魔族のみんなを守ること)
ヴィエリゼ「私は、魔王なんだから──」
これまで隠していた現魔王という事実が明るみに…
そして魔王と勇者、互いの立場が仲を引き裂く…
物語全体の転換点になりそうな回でした!