財布を落としただけなのに

×××

最終話【警部の勘】(脚本)

財布を落としただけなのに

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〇中規模マンション
  翌日──
  柊美琴の自宅マンションには、警察官が通報を受け駆けつけていた。

〇部屋のベッド
多岐川警部「喉元を掻っ切られたんだなぁ・・・」
多岐川警部「酷い殺し方をするもんだ・・・」
  警視庁捜査一課の警部『多岐川』は、美琴の亡骸に合掌し、黙祷をささげる。

〇部屋のベッド
警官「警部!」
多岐川警部「おぅ!どうした?」
警官「被害者の遺留品から、身元がわかりました!」
  警官は多岐川に、美琴の免許証を手渡す。
多岐川警部「被害者は柊美琴、20歳かぁ・・・」
多岐川警部「まだ若いのに・・・可哀想に・・・」
警官「しかも鑑識によると、指紋の類いは一切検出されなかったそうで・・・」
多岐川警部「そうらしいなぁ、おそらく犯人が全て拭い取ったんだろう・・・」
警官「物取りの犯行にしては、周到過ぎますよね・・・」
警官「それに、手慣れてる・・・」
多岐川警部「確かにな!相当殺しに慣れてる奴の犯行だろうなぁ」
多岐川警部「それに、部屋があまりにも──」
満谷警部補「多岐川警部!!」
  多岐川の直属の部下。警視庁捜査一課の警部補『満谷』が慌てた様子で部屋に入ってくる。
多岐川警部「あーやかましい!!現場でデカい声だすなっていつも言ってるだろ!」
多岐川警部「君はいつも暑苦しいんだ!」
満谷警部補「あ、すいません・・・」
多岐川警部「まったく・・・」
多岐川警部「で?何かあったのか?」
満谷警部補「はい!」
満谷警部補「実は昨日の夜・・・周辺を彷徨く怪しい女性を見たという方が・・・」
多岐川警部「だからデカい声は・・・」
多岐川警部「って何?目撃者?本当か!」

〇中規模マンション
多岐川警部「昨夜の話をお聞かせいただけますか?」
近隣住民「はい・・・」
近隣住民「昨日の・・・そう!23時くらいでしたかにね・・・」
近隣住民「この辺を行ったり来たりしてる、変な女性が居たんです・・・」
多岐川警部「なぜ、怪しいと思われたんですか?」
近隣住民「この辺じゃ、あまり見かけない方でしたし」
近隣住民「随分と身長が高い人だったんで、記憶に残ってたんです・・・」
多岐川警部「身長が高い?だいたいどのくらいですか?」
近隣住民「そうですねぇ・・・」
近隣住民「あ!あなた!若いあなたと同じくらいでした」
満谷警部補「私ですか?」
多岐川警部「何もそんなに驚く事じゃないだろ?」
多岐川警部「別に君が犯人だと言ってるわけじゃないんだ」
多岐川警部「いつもいつも、リアクションがオーバーなんだよ!君は!」
満谷警部補「あ、いや、そういう意味では・・・」
多岐川警部「で、満谷くんは、身長はいくつだ?」
満谷警部補「あ、じ、自分は179cmです・・・」
近隣住民「あ、たぶん、そのくらいはあったと思います・・・」
多岐川警部「確かに、女性にしては、というか、男女関係なく高身長と言われる身長ですね・・・」
多岐川警部「・・・・・・」
多岐川警部「他に怪しいと思った点はありますか?」
近隣住民「怪しい?うー・・・ん」
満谷警部補「どんな些細な事でもいいんです!何かありませんか?」
近隣住民「すいません・・・」
近隣住民「何か気味悪かったんで、すぐ家に帰ったんですよ・・・」
近隣住民「なんか・・・怖くて・・・」
多岐川警部「そうですか・・・」
近隣住民「すいません、あまりお役に立ててませんよね・・・」
多岐川警部「いえいえ!そんな事はありませんよ!貴重なお話ありがとうございます!」
多岐川警部「貴重なお時間をとらせてしまい申し訳ありません」
近隣住民「あの・・・犯人を、どうか捕まえてください」
近隣住民「近所で殺人とか・・・怖くて買い物にも行けませんから・・・」
近隣住民「子供まだ小さいですし・・・不安で・・・」
多岐川警部「心中・・・お察し致します」
多岐川警部「ですがご安心ください!」
多岐川警部「警察が総力をあげて、犯人逮捕に尽力いたしますので!」
近隣住民「お願いします・・・」
近隣住民「では失礼します・・・」
多岐川警部「ご協力感謝致します!」
多岐川警部「・・・・・・」

〇中規模マンション
  多岐川は懐からタバコを取り出し、火をつける
多岐川警部「ふぅー・・・・・・」
多岐川警部「満谷くんは、さっきの話・・・どう思う?」
満谷警部補「立派な目撃証言だと思います!」
多岐川警部「・・・・・・」
満谷警部補「23時というのも、死亡推定時刻ともあっています!」
多岐川警部「ふむ・・・」
満谷警部補「直ちに緊急配備をして・・・」
多岐川警部「俺は・・・臭うよ」
満谷警部補「臭う?それはどういう・・・」
多岐川警部「満谷くんは、殺害現場は見たか?」
満谷警部補「いや、そんなにシッカリとは・・・」
多岐川警部「おい、おい、ちゃんと見とけよ・・・いつも言ってるだろ?」
満谷警部補「す、すいません・・・」
多岐川警部「まったく・・・君と言うヤツは・・・」
満谷警部補「でも、殺害現場がどうかされたんですか?」
多岐川警部「指紋が全て拭い取られていたんだ!」
満谷警部補「指紋が全て?」
多岐川警部「ああ!それどころが、被害者以外の人間がいた形跡がまるで無かった・・・」
多岐川警部「被害者は透明人間にでも殺害されたのか?ってくらいになぁ・・・」
満谷警部補「透明・・・」
多岐川警部「俺が思うに、この事件は、相当殺しに慣れたヤツの犯行だと思う・・・」
満谷警部補「プロの犯行・・・という事ですか?」
多岐川警部「プロとまでは言わないが、素人の犯行では無いって事は確かだな」
多岐川警部「付け加えるなら、口論のあまりに刺殺したっていう『突発的』な殺人じゃなく」
多岐川警部「明確な殺意と、綿密に練られた計画をもって犯行に及んだ『計画的』な殺人だと、俺は睨んでる・・・」
満谷警部補「計画的・・・」
満谷警部補「周到すぎるという事ですか?」
多岐川警部「ああ!しかも・・・」
満谷警部補「どうかされたんですか?」
多岐川警部「部屋があまりにも、綺麗に片付き過ぎてるんだよ!不気味なくらいだ・・・」
満谷警部補「争った形跡が無い、という事ですか?」
多岐川警部「いや、そうじゃない・・・」
多岐川警部「片付けられているんだよ・・・」
満谷警部補「片付けられている?」
多岐川警部「おそらく犯人は、犯行後、すぐには現場を去らずに」
多岐川警部「指紋をはじめとした、自分の痕跡を処分しながら、部屋の掃除をしていたんじゃないか?と思う」
満谷警部補「犯人が部屋の掃除をしたって言うんですか?」
多岐川警部「痕跡を消さなければいけない!」
多岐川警部「という意識のあまり、やり過ぎて綺麗にし過ぎた!という事だと思うがな・・・」
満谷警部補「・・・・・・」
多岐川警部「そこに来て、あの目撃証言だ・・・」
多岐川警部「どうも俺は腑に落ちないんだ・・・」
多岐川警部「おかしいと思わないか?」
満谷警部補「おかしい?」
多岐川警部「殺害現場から、自らの痕跡を全て消し、やりすぎて現場を片付けてしまう程に周到な犯人が」
多岐川警部「犯行前か、もしくは犯行後に現場を彷徨き、姿を晒すなんて、素人同然なミスをするだろうか?」
満谷警部補「というと?」
多岐川警部「犯人は一人じゃ無い・・・」
満谷警部補「複数犯!という事ですか?」
多岐川警部「そう考えるのが妥当だろう・・・」
多岐川警部「おそらく、先程の目撃証言にあった怪しい女は、警察の捜査を撹乱させるためのミスリード」
多岐川警部「実行犯は別に居る・・・」
多岐川警部「殺しに手慣れた実行犯と、それに雇われた目撃者役の女・・・」
多岐川警部「そう考えれば、全てに辻褄が合うんだ・・・」
多岐川警部「まぁ、実行犯の性別までは分からないがな」
満谷警部補「ならば直ちに──」
多岐川警部「いや、待て・・・」
満谷警部補「え?」
多岐川警部「満谷くんは、先程の目撃証言にあった、怪しい女をあたってほしい」
多岐川警部「そっちは君に任せる・・・」
満谷警部補「し、しかし・・・」
多岐川警部「あくまでも、この仮説は、俺の推測でしか無いんだ!」
多岐川警部「それに、女の身長が、179くらいってのも、正直当てにならん」
多岐川警部「ハイヒールやら、厚底の靴を履けば、身長なんて誤魔化せるからな」
多岐川警部「23時って言う暗い時間なら尚更誤魔化せる」
満谷警部補「ならば犯人は、それを計画に入れて反抗に及んだと言う事ですか?」
多岐川警部「おそらくそうだろう・・・」
満谷警部補「恐ろしいほど狡猾な犯人ですね・・・」
多岐川警部「あぁ、敵ながらアッパレってのは、まさにこの事だ!」
多岐川警部「だから、実行犯は、俺が個人的にあたってみる!この捜査は難航しそうだからな」
満谷警部補「し、しかし・・・」
多岐川警部「悪いが、君じゃ足手まといになる・・・」
満谷警部補「・・・・・・」
満谷警部補「わかりました・・・」
多岐川警部「頼んだぞ!しっかりな!」
満谷警部補「はい!」
多岐川警部「・・・・・・」
多岐川警部「少々厄介な事件だなぁ・・・」

〇テレビスタジオ
ニュースキャスター「つづいてのニュースです!」
ニュースキャスター「本日の早朝9時に、都内の中層マンションの一室にて」
ニュースキャスター「首元を刃物のような物で切り裂かれ──」
ニュースキャスター「亡くなっている女性が発見されました」
ニュースキャスター「被害者の名前は、柊美琴さん20歳」
ニュースキャスター「近隣住民からの証言によりますと──」
ニュースキャスター「死亡推定時刻とされる23時頃に、周辺を徘徊していた──」
ニュースキャスター「怪しい女性を見たとの情報もあり──」
ニュースキャスター「警察はその女性がなんらかのカタチで事件に関係していると見て捜査を進めています」

〇高級マンションの一室
鳥丸崇矢「そういえばさ・・・」
加賀美天馬「ん?なに?」
鳥丸崇矢「あの女・・・殺されたらしいな・・・」
鳥丸崇矢「ニュースになってたよ・・・」
加賀美天馬「あの女?」
鳥丸崇矢「あの女だよ!柊美琴!」
加賀美天馬「あぁ、美琴さんか・・・」
鳥丸崇矢「首元を刃物で切られて即死だってよ・・・」
加賀美天馬「・・・・・・」
鳥丸崇矢「世の中には怖い奴が居るよなぁ・・・」
加賀美天馬「・・・・・・」
鳥丸崇矢「ん?どうした?元気ねぇな・・・」
加賀美天馬「う、うん・・・」
鳥丸崇矢「なんだ・・・やっぱ悲しいか?」
加賀美天馬「いや、そうじゃないんだ・・・」
加賀美天馬「でも・・・その・・・なんか」
鳥丸崇矢「なんだよ?」
加賀美天馬「なんか・・・俺って心が腐ってるのかな」
鳥丸崇矢「なんだよ!いきなり!どうした?」
加賀美天馬「なんというか・・・天罰がくだったんだ!って思っちゃって・・・」
鳥丸崇矢「天馬・・・」
加賀美天馬「崇矢にあんな事したから・・・」
加賀美天馬「やっぱ俺・・・」
鳥丸崇矢「そんな事気にすんなよ!」
加賀美天馬「でも・・・」
鳥丸崇矢「悪いのは殺した犯人だろ?天馬じゃない!」
加賀美天馬「崇矢・・・」
鳥丸崇矢「そうそう!その笑顔だよ!天馬はやっぱ笑ってる顔が一番いい!」
  崇矢は天馬を自らの体に抱き寄せる。
加賀美天馬「やめてよ・・・照れるよ」
鳥丸崇矢「ずっとそうやって、俺のそばで笑っててくれよ!な?天馬!」
加賀美天馬「う、うん・・・」

〇高級マンションの一室
鳥丸崇矢(計画は全てうまく行った・・・)
鳥丸崇矢(馬鹿な警察も、目撃された女が犯人だと思って懸命に捜査をしてるんだろうが)
鳥丸崇矢(そんなの・・・時間の無駄だ)
鳥丸崇矢(なんせ美琴を殺したのは俺なんだからな・・・)
鳥丸崇矢(これで・・・天馬は俺の物になった・・・)
鳥丸崇矢(この天馬との生活を・・・)
鳥丸崇矢(天馬との明るい未来を守る為なら)
鳥丸崇矢(何人の人間が犠牲になっても構わない・・・)
鳥丸崇矢(何人だろうが殺してやる・・・)
鳥丸崇矢(天馬は・・・誰にも渡さない・・・)
  To Be Continued

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