恩暮呂堂の 貧乏絵師

福山 詩(フクヤマ ウタ)

8恩暮呂堂、開店(脚本)

恩暮呂堂の 貧乏絵師

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〇祈祷場
  兼巻さんの協力もあり
  
  恩暮呂堂の宣伝広告を町にばら撒いた
  
  惣七
  元くノ一の彫師、千羽
  猫の摺師、ヤマブキ
  も仲間になって
  はてさて 来てくれるかね
  お客さん
千羽「この絵はここへ置いて ふぅ、店内に浮世絵が沢山。すごいわね」
千羽「惣七?」
千羽「顔が真っ青よ どうしたの?」
惣七「今日は恩暮呂堂の開店日だろ」
惣七「昨晩は一睡も出来なかった」
千羽「大丈夫 私達がついてるわ」
ヤマブキ「女に励まされる 男 惣七」
惣七「なんだよヤマブキ!」
ヤマブキ「安心しろ ヤマブキもいる」
惣七「・・・まあ 開店に向けて皆であんなに準備したもんな」

〇祈祷場
  二か月前
惣七「縁!開店日に向けて出来るだけ絵を描いてくれ!」
縁(えにし)「あいよ 版元さん」
千羽「惣七 版画の確認お願い」
惣七「見せてくれ」
惣七「うわっ! 細かい!」
惣七「これ、髪の毛一本一本彫ってある! ここまで繊細に人の手で彫れるものなんだな!」
千羽「ふふ 気づいてくれてありがとう」
千羽「この技術は彫師全員が出来るものではないと言われているの」
惣七「だろうな これ、本当に見惚れるよ」
千羽「・・・」
千羽「ありがとう惣七 私を信じて雇ってくれて」
惣七「え、いやいや お礼を言うのはこっちのほうだよ」
「・・・」
ヤマブキ「く にゃーん!」
惣七「なんだよヤマブキ! 今いいところだったのに!」
  ヤマブキは 摺った絵を 鼻の頭で押した
  絵の端には猫の肉球で朱印が押されていた
千羽「可愛い 肉球が押されてる それになんて鮮やかな色彩」
千羽「おいで ヤマブキ あなたは天才ね」
ヤマブキ「・・・うんにゃ」
惣七(こいつ、千羽の膝でゴロゴロと・・・ 羨ましい)
惣七「この調子で開店準備に 備えて皆で頑張ろう!」

〇祈祷場
千羽「大丈夫 きっとお客様は来てくれるわ」
惣七「あ、ああ! そうだな、よーし! 開店の時間だ!」

〇古びた神社
町民「ここが新しく出来た問屋か」
町民「地図を見た時は半信半疑だったけど 本当にこんな場所に店があるとはね」
惣七「・・・」
縁(えにし)「凄い人だかりだねぇ」
惣七「俺は・・・ 夢でも見ているのか?」
縁(えにし)「アッハッハッハ 何言ってんのさ」
縁(えにし)「皆 アンタが撒いた種が ここへきて花開いたのさ」
縁(えにし)「そうだろ?版元さん」
惣七「・・・く」
惣七「うぅ 縁、良かったなぁ これで皆に絵を見てもらえるぞ」
縁(えにし)「泣くのはまだ早いよ まだ一枚も絵を売ってないだろぉ?」
縁(えにし)「しかも 売れたって二束三文 いやそれ以下にしかなりゃしないんだから」
惣七「うぅ だから」
惣七「それはお前のせいなんだって」
惣七「よーし! 開店だ!」
惣七「朝から並んでくれてありがとな! 恩暮呂堂、開店だ!」

〇祈祷場
町民「いや~凄いなこの絵は 本当に動き出しそうだぜ」
小豆とぎ「にこ♡」
町民「ん? 本当に動い」
惣七「ははは!お客さん、こいつと目が合っちまったのかい? ぜひ持って帰ってよ まけとくからさ」
町民「ああ?ああ、そうだな!頼む (気のせいか)」
惣七「おいおい 動くなよ 貰い手がなくなるぞ(というか版画でも動くのか)」
小豆とぎ「すまん、つい嬉しくて 愛想良くしちゃった」
町民「なぁ 他の妖怪画も見せてくれよ」
惣七「どんな絵が好きなんだ?」
町民「そうだな 小豆はかりの絵は少し愛嬌があるから 不気味な絵はあるかい」
惣七「この河童なんかどう? 不気味だろ~?」
町民「凄い迫力だね~!」
惣七「不気味さはこの河童の肌の質感で出しているんだ! ぬめりを加える為に縁は本当に河童の粘膜を顔料に混ぜていて」
町民「ははは! 本物の河童ね!兄ちゃんの話、面白いな」
惣七「あ (本当のことだけどな) そうそう、粘りのある糊を使って・・・」
千羽「お買い上げの方はこちらで並んでください!」
町民「どれにするか迷うね」
町民「本当に、どの絵も素敵だね!」
町民「ねえお姉さん、どっちの絵が良いと思う?」
千羽「あっえーと」
町民「あら!?可愛い子だね! もしかして店主の男と、そうゆう関係なの?」
千羽「え?いや、あの」
千羽(ひええ 彫るのは得意だけど お客さん相手は難しいわね)
兼巻さん「惣七君のお店繁盛してますね」
ヤマブキ「ンニャー」
兼巻さん「猫まで買い始めたんですかね 惣七君 よしよし」
ヤマブキ「ゴロゴロ」
異国の民「おやこんにちは兼巻さん」
兼巻さん「これはこれは!こんにちは! いつぞやはありがとうございました」
異国の民「こちらこそ、縁という天才絵師を教えてくださりありがとうございました。 あの後友人が絵を買いに行ったそうで」
兼巻さん「ああ、そうですね (ひどい目にあいましたよ)」
異国の民「私もまた絵を買いに来ました」
異国の民「良い絵にはお金は惜しみません さてどれをどれだけ買おうかな」
兼巻さん(この方は縁の水龍の絵を高額で買った 次も金に糸目は付けないはず)
兼巻さん「そ、惣七君! こちらのお客様に絵の接客を!」
町民「兄ちゃんの話でこの絵に興味が湧いた この河童も貰っていくよ」
惣七「まいどありー!」
縁(えにし)「おや、忙しそうだね」
縁(えにし)「アタシの描いた絵がこんなにも沢山の人のところへ嫁に行って・・・ 悪くないね」
縁(えにし)「惣七、疲れてやしないかい? きりのいいとこでちゃんと休むんだよ」
惣七「絵の説明が欲しい人は呼んでくれ!」
縁(えにし)「惣七?」
兼巻さん「惣七君!急いでこちらへ!」
兼巻さん「前、水龍を高額で買ったお客様ですよ! 縁の絵を気に入ってくれていたから きっと沢山買ってくれます・・・!」
惣七「よ、よし! 分かった!」
縁(えにし)「・・・」
縁(えにし)「ああ そうか」
縁(えにし)「惣七、ようやくアンタにも 月が回ってきて」
縁(えにし)「アタシが見えなくなったんだね」
縁(えにし)「おめでとう 惣七」
縁(えにし)「アンタは自分の力で貧乏から抜け出した」
縁(えにし)「さしずめ アタシは お役目御免ってとこだね」
縁(えにし)「ありがとう・・・惣七」
縁(えにし)「アンタとの生活 中々楽しかったよ」

〇祈祷場
町民「あなたのおかげで良い絵が沢山買えたわ ありがとう」
町民「またね 甘い物好き?今度は饅頭でも持ってくるからね」
千羽「ありがとうございました!」
千羽「ふぅ やっと落ち着いたわ」
千羽(あとはあのお客様だけね 惣七、頑張って!)
異国の民「恩暮呂堂さん、私は縁さんの絵の虜ですよ」
惣七「ありがとうございます!」
惣七(縁 聞いてるかな 俺もすごく嬉しいな)
異国の民「で、いかがですか?」
惣七「え?はい? なんですか? (まずい、聞いてなかった!)」
異国の民「ですから、 ここにある絵を全て買い取りたくて」
異国の民「恩暮呂堂さんのお好きな金額で」
惣七「え?好きな金額!? (この人金持ちそうとは思っていたがとんでもないな!)」
惣七「じゃあ全部売りま」
惣七(いや待て、縁の願いは何だった? 沢山の人に自分の作品を見てもらうことだ)
惣七「・・・」
惣七「申し訳ないですが この絵は沢山の町人に見てほしい、と縁に言われているので」
兼巻さん(惣七君!? 折角の好機を棒に振るのか?)
異国の民「ああ、そうでしたか 絵師の意志を組んでいるのですね」
異国の民「これは失礼しました」
異国の民「いやなに 金があるとつい、必要な数以上を 欲しがってしまう」
惣七「いやいや! 全部は無理ですが 店内には縁の絵が沢山あるから ゆっくり決めてください」
異国の民「ありがとう 君のような版元に恵まれて絵師は幸せ者ですね」
異国の民「それでその・・・相談なんですが 縁さんに会わせてくれませんか?」
異国の民「天才の顔を一度拝みたいのです」
惣七「あーいやー 縁は素性を明らかにしないことを条件に雇っているので」
惣七(貧乏神は視える人と視えない人が いるからなぁ)
惣七(それにしても縁の姿が見えないな どこへ行ったんだ?)
異国の民「そうでしたか わかりました」
異国の民「では私は全種類の絵を一枚ずつ 頂いて帰るとします お代はこちらで足りますか?」
惣七「え!? お、お客様! 多すぎです!!」
惣七(大判が・・・何十枚あるんだこりゃ?)
惣七(縁の貧乏が発動しても相当な金額が手元に残るぞ)
異国の民「これは私からの気持ちです ぜひ受けとってほしい」
惣七「でも」
兼巻さん「そ、惣七君 お客様が言ってくれているんだ 頂いても罰はあたりませんよ」
惣七(まあ、どうせ 手取りは減るからな)
惣七「分かりました ありがたく頂戴します」

〇古びた神社
異国の民「いやあ 楽しく買い物していたらすっかり夜だ」
惣七「またお待ちしています ありがとうございました」
惣七「・・・」
惣七「終わったー」
惣七「皆 よくやってくれた 売り上げは少ないけど少しずつ頑張ろう」
兼巻さん「何を言っているんですか? 惣七君 さっきのお客様から大判を沢山頂いておいて」
惣七「あーあれね 多分落として減ってますよ」
千羽「惣七 何言ってるの? ここにあるじゃない」
惣七「え? でも縁の貧乏の力のせいで俺の報酬は減るはず」
兼巻さん「凄いですね! これだけの大金を一日で売り上げたんですよ惣七君!」
惣七「・・・」
惣七「なんで」
「え?」
惣七「なんで縁の貧乏の力が発動しないんだ!?」
惣七「おい縁!? どうなってんだよ!」
惣七「縁・・・?」
惣七「・・・あいつ」
惣七「どこへいったんだ?」
  縁が消えたその日、恩暮呂堂は
  繁盛し、大金を売り上げた
  
  そして惣七は
  貧乏ではなくなった

次のエピソード:9惣七の夢、縁の夢

コメント

  • こうなるのは惣七にとって良いこと(?)なんだけどね。
    やっぱりキツイよねえ。
    さて次回は?

  • 惣七がまたもや千羽さんにデレデレしていますが、よくよく考えたら今までそんな対象キャラがいなかったのですよねw ステキな仲間に恵まれ、金回りも良くなる展開になると縁が、、、納得できる理由ではありますが、惣七にとっては受け止めがたい現実ですよね。思わぬ急展開にドキドキですね!

  • そ、そんな……! 貧乏になるのは嫌だけど、縁くんが見えなくなるのも寂しいですね。
    次回も楽しみです!

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