10,000,000,000 ‐ヴィリヲン‐

在日ミグランス人

第10話 永遠の別れ(脚本)

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〇未来の店
シンノウ「少しは協力してくれる気になったかな?」
  自称革命組織アメノウズメのアジト。
  アジトと言っても何の事はない、一昔前の図書館みたいな場所だ。
シンノウ「どうだい? 集めるのに苦労したんだ」
  ビブリオマニアなのか、電子書籍が一般的な昨今では中々珍しい光景だ。
  デッドメディアである書籍をこれだけ集めるなんて大したものだ。中には検閲対象に引っかかりそうな物もある。
  料理のレシピ本。食べ歩きガイド。グルメマンガ。いずれも有害図書だ。
アメタ「本は嫌いじゃないが、そんな話をしに来たんじゃない」
シンノウ「例の幼児退行化現象の事だな」
アメタ「そうだ」
アメタ「僕の動きを察知していたくらいだ。それなりの情報は集まっているんだろう?」
シンノウ「まさか。こっちもさっぱりだよ」
  力づくでも聞き出すつもりだったが、本当に何も知らない様だ。
  とは言え、何かしらの収穫がないとわざわざ出向いた甲斐がない。
アメタ「お前はこの事件をどう見る?」
シンノウ「政府による陰謀」
アメタ「革命家が好きそうな言葉だな」
シンノウ「まるで俺達が支配されたがっている様に聞こえるな」
アメタ「当たらずとも遠からずだろう。革命って思想に支配されている」
シンノウ「革命運動を起こさせる事さえもが陰謀の内だと?」
アメタ「僕が支配者だったら、革命の意志さえコントロールするね」
シンノウ「世界中の人間を幼児退行させて?」
シンノウ「あんただって政府の陰謀説を疑ってるじゃないか」
アメタ「いや。それだとメリットがない」
アメタ「支配と言えば聞こえは良いが、その実ただの育児だ。幼児化させてしまったら支配する旨味がない」
シンノウ「じゃあ誰の仕業だって言うんだ?」
アメタ「それが知りたいのさ。その目的が」
アメタ「少なくとも、陰謀とか、革命とか、支配とか、そんな俗っぽい動機ではないと思う」
シンノウ「・・・・・・」
シンノウ「俺達に協力する気はないか?」
アメタ「世の中が気に入らないなら自分を変えろ。その方が手っ取り早いし、誰にも迷惑をかけない」
アメタ「僕は今の世界が結構気に入っている」
アメタ「不満もあるが、そんな事を言い出したら切りがない。自由なんて求めるくらいで丁度良いのさ」
シンノウ「聞き分けの良い、大人みたいだな」
アメタ「大人だからな」
シンノウ「・・・・・・」
シンノウ「良いだろう。一つ情報をやる」
シンノウ「その代わり今回の件が片付いたら、今度こそ俺達に協力してくれ」
アメタ「わかった。貸しにしておいてくれ」
  納得したのかシンノウは端末を操作し始める。
  因みに僕は協力する気は更々ない。解決出来次第ばっくれるつもりだ。
シンノウ「政府が支給している食糧に添加物が入っているのは?」
アメタ「勿論知っている。精神安定剤や鎮静剤だろ?」
  これが、この無茶苦茶な世界で暴動などが起きない理由の一つだ。
  嘗ては甘味飲料やスナック菓子が氾濫していたお陰で、糖分を過剰摂取、
  イライラや不安、攻撃性を高めてしまった過去がある。
  食餌の制限と管理は、犯罪の抑止にも効果があった訳だ。
シンノウ「それだけじゃない」
シンノウ「LLPAWMと呼ばれるナノマシンが混入されていると最近わかった」
アメタ「LL・・・・・・ 何?」
シンノウ「生存限界数人口調整監視分子郡」
シンノウ「LivingLimitPopulationAdjustmentWatch  Moleculargroupの略だ」
  長い。こういうのは普通アルファベット三文字だろう。
  日本の役所じゃあるまいし、センスがないにも程がある。
シンノウ「各政府が連携して、世界の人口をコントロールしようとしているのさ」
アメタ「そのLL何とかっていうナノマシンが、幼児退行の引き金になっていると?」
シンノウ「詳しい事はわからないから、何とも言えない。だが手がかりくらいにはなるだろう」
シンノウ「世界規模で、人為的、且つ外部からの影響といったら他に思いつかない」
アメタ「だが政府の配給品なら僕も・・・・・・」
シンノウ「だから、詳しい事はこいつに聞いてくれ」
  言いながらシンノウは僕の端末にデータを送ってくる。
  モニターには女性の姿が表示されていた。
アメタ「誰だ?」
シンノウ「LLPAWMの開発者。ハイヌヴェレ博士だ」
シンノウ「彼女に会って話を聞けば何かわかるかも知れない」
  成程。これは大きな収穫だ。所在は・・・・・・
  中国?
アメタ「どうでも良いが、お前どこからこんな情報を仕入れたんだ?」
シンノウ「同志は世界中にいる。戦場で良い物を食べているのは、あんただけじゃないって事さ」
  呆れた。
  革命やら平等を謳っておきながら、僕と同じ不良監察官じゃないか。
  権力に従った振りをして、その実、好きにやっている同じ穴のムジナ。
  道理で動きを察知される訳だ。

〇車内
  これで次の目的地が決まった。
  だが、やらなければならない事が残っている。
  酷く気が進まない。
  けれども、もう決断しなくてはならない。
  次はいつ日本に戻って来られるのかわからない。
  嫌なタイミングだ。
  虫の知らせってやつだろうか。
  何となく察しがついてしまった。
  たった今、
  お母様が息を引き取られました。

〇綺麗な病室
  病院に到着した時には、全ての処置が終わった後だった。
  正直、どんな話をしたのか覚えていない。
  母は小さくなっていた。
  そんな事だけは覚えている。
  涙は出なかった。
  自分でもびっくりするくらい落ち着いていた。
  いや、正直に言おう。
  何が起きたのか理解していなかっただけかも知れない。
  まるで現実感がない。
  どこか夢の様な・・・・・・

〇昔ながらの一軒家
  通夜、葬儀はひっそり内々に行うつもりだったが、どこから聞きつけたのか結構な人数の参列者があった。
  恐らく母さんと交流のあったハングリストの面々なのだろう。
  この度はご愁傷様でした。お悔やみの言葉を貰うと、次々に母さんの遺体に寄り添い、涙を流していく。
  意外だった。母さんがこんなに社交的だったなんて。こんなにも多くの人に慕われていたなんて。

〇火葬場
  出棺から火葬、埋葬までは業者がやってくれるから滞りなく進んだ。
  特に火葬なんて、最近ではほんの短時間で済んでしまう。
  技術的な事もあるが、何より屍者が増えたのが最大の要因らしい。
  余りにも早いので業者でもなければ、いつ焼いたのかわからない。
  母さんは迷わず天国に行けただろうか。
  どうでもいいが結構な値段がするものだ。
  リピートビジネスではないから当然かも知れないが、死ぬのにもカネが掛かるなんて。
  なんて事を考えていたら、見透かされた様に葬儀屋に言われた。
  お葬式というのは、屍者の為ではなく、遺された者の為に行うものなんですよ、と。
  そうだよな。
  死んだ後にどうするかなんて本人には決められない。
  遺族が納得する為の儀式なのだ。
  中には死を受け入れられない人もいるだろう。
  心の整理をしなくてはならない。

〇アパートのダイニング
  全てが終わって、ウリコを寝かしつけると、僕は堰を切ったように泣いた。
  止めどなく涙が溢れてくる。
  いつかこんな日が来るとわかっていた筈なのに。
  覚悟は出来ていた筈なのに。
  母さん。
  もう会えないんだね。
  もう僕の名前を呼んでくれないんだね。
  もう僕の頭を撫でてくれないんだね。
  母さん。
  僕の母さん。
  僕の半分。
  僕の女神。
  勝手なものだ。あんなにも憎んでいたのに。
  いざ、いなくなって初めて気づく。
  虐待されていた事なんて、これっぽっちも関係ない。
  母さん。
  僕は貴女を、間違いなく愛していたんだ。
「さよ、な・・・・・・ ら・・・・・・」

〇アパートのダイニング
  さて、やるべき事を終えて、張り切って中国行きの手続きを取ったまでは良かったが、問題がまだ残っていた。
  ウリコの処遇だ。
  預かってくれそうな所を散々探したが、まったく見つからない。
  というのも僕が赤の他人だから。ウカとは結婚していた訳でも何でもない。
  相応の施設にでも入れようと思ったが、それではウカに申し訳が立たない。
  何より、
ウリコ「おじさんと、いっしょにいく!」
  この言い草だ。
  あの親にして、この子あり。ウリコはまさしくウカの娘だった。
  言い出したらきかないモードに入られると僕では手がつけられない。
  まったく、どういう躾をしていたんだ。ウカの奴は。
  そのウリコは部屋の片隅で何やら食糧を引っ掻き回している。
  僕が保存食ばかり食べていたのを見かねたらしい。
  食事への教育はしっかりしていたらしく、手際は悪くない。
アメタ「あのな、遊びに行く訳じゃないんだぞ?」
アメタ「それに危険かも知れない」
ウリコ「じゃあ、おじさんが、まもって!」
  何故僕は、自分の娘みたいな歳の子に、理不尽な要求をされながら料理を振る舞われているのだろう。
アメタ「困ったな・・・・・・」
  駄目だ。前向きに考えよう。
  ウリコを連れていかない方法ではなく、連れて行く方法。
  僕の手だけじゃ足りない。せめてもう一人必要だ。
  信頼出来て、子供のお守りが得意で、可能なら戦闘もこなせる人材。
  いるか? そんな都合の良い奴が。
ウリコ「いただきます、は?」
アメタ「ああ、頂きます・・・・・・」
ウリコ「どうぞ。めしあがれ❤」
アメタ「はも・・・・・・」
ウリコ「おいしい?」
アメタ「ああ。美味い」
  驚いた。よくもまあ、質素な配給品でこれ程の物が作れたものだ。
アメタ「こんなに美味しい物を食べたのは・・・・・・」
  いるじゃないか。
  お守りが得意で、戦闘もこなせて、信頼出来る奴が。
  端末を取り出すと、異国の恋人のアドレスを呼び出した。
「ちょっと中国までデートしないか?」

次のエピソード:第11話 再会

コメント

  • うぅっ・・・あのシーンでうるっときたのと、胸が締め付けられました・・・・・・
    相反する感情ってありますよね・・・
    続きが気になります・・・マイペースに最終話まで読み進めていきたいと思います!

    あと、なんだかとてもこの効果音がよくて、普段からなんか使いたくなりますね!!!↓

    「はも・・・」




  • 今までのエピソードの登場人物が繋がってきましたね!
    スマホで女性が表示されたときのアメタの顔に!?となりました。さてはめちゃくちゃ美人??
    親を亡くした感情の動きに気持ちが入っていてとても丁寧で良かったです。クールに振る舞うアメタの内面の優しさが滲み出てますね。
    戦えて子どもの扱いに慣れた彼女の登場と、ウリコちゃんとの出会いが楽しみです😊

  • 葬儀ってお金かかりますよねぇ。
    人が死んだらすぐに葬儀屋もやってきて情報社会怖い。
    ウカちゃんは料理もできて、度胸もあってかわいい

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