【読切】Requiem for X(脚本)
〇山の中
怪人X「今日も鍛錬しなければ」
ごめんなさい! もうしません!
怪人X「何だ?」
〇けもの道
浜田寛之「いいからこっちへ来い!」
浜田美琴「ヤダ! ごめんなさい! 許してください!」
浜田美結「騒ぐんじゃないよ!」
浜田美琴「痛い! 許してください!」
浜田寛之「もう、めんどくせえからここで殺っちゃうか?」
浜田美結「もうちょっと奥の方が良くない?」
〇山の中
怪人X(あいつら何をしてるんだ?)
怪人X(子供の首を絞めだした・・・)
怪人X(ここで騒ぎを起こすなよ)
〇けもの道
浜田美琴「うぅ・・・」
怪人X「そこで何をしている」
浜田美結「ヒィーッ!」
浜田寛之「な、なんだお前は?」
怪人X「見てわからないか?」
怪人X「怪人だよ」
怪人X「名前はまだない」
浜田寛之「ふ、ふざけるな!」
浜田寛之「どうせ、着ぐるみだろ?」
怪人X「キグルミ?」
浜田美結「どうするの?」
浜田寛之「見られたからには、こいつも始末するしかないだろう・・・」
浜田美結「そんな事できるの!?」
浜田寛之「大丈夫だ、偽物に決まってる」
怪人X「お取込み中すまないが」
浜田美結(き、木が真っ二つに!)
怪人X「悪いが、この通り、俺は本物だ」
怪人X「それを踏まえた上で、今後についてよく考えた方がいいぞ」
浜田寛之「うわーっ!」
浜田美結「きゃーっ!」
怪人X「あ、おいっ!」
怪人X(あいつら子供置いて逃げやがった・・・)
怪人X「おい・・・」
怪人X「大丈夫か?」
浜田美琴「う、うん・・・」
浜田美琴「助けてくれてありがとう」
怪人X「いや、別に俺は助けたわけじゃ・・・」
浜田美琴「でも、あのままだったら私、死んじゃってたと思うから」
浜田美琴「死ぬってどういうことか良くわかってないけど・・・」
浜田美琴「お父さんが本気で首を絞めてたことはわかる」
浜田美琴「だから、ありがとう」
怪人X「お前、俺が怖くないのか?」
浜田美琴「そりゃ怖いけど・・・」
浜田美琴「お父さんとお母さんに比べたらマシかな」
怪人X「俺より怖いって・・・」
浜田美琴「うぅぅぅ」
怪人X「どうした?」
浜田美琴「なんか寒い・・・」
怪人X(困ったな・・・)
〇森の中の小屋
〇荒れた小屋
怪人X「ほら、お湯で悪いけど飲みな」
浜田美琴「ありがとう・・・」
浜田美琴「温かい」
怪人X(なんだよ)
怪人X(可愛いじゃねぇかよ)
怪人X(あいつら、何でこんな子を・・・)
怪人X「お父さんとお母さんにイジメられてるのか?」
浜田美琴「うん・・・」
怪人X「どんな事されてるんだ?」
浜田美琴「叩かれるのはしょっちゅう」
浜田美琴「後は、お風呂場で熱いお湯かけられたり」
浜田美琴「夜から朝までベランダに立たされたり」
怪人X「それは、お前が何か悪いことをしたからか?」
浜田美琴「お前じゃなくて、私、美琴」
怪人X「ん? ああ、名前か」
浜田美琴「そうそう」
怪人X(生意気な娘だな・・・)
浜田美琴「えっとね・・・」
浜田美琴「テストの点数が悪かったり」
浜田美琴「遊んだ後に片付けを忘れたりするとお仕置きされる」
怪人X(そんなの俺のダメさに比べたら大したことないぞ)
怪人X「まあ、どんな理由があったにしろ、子供に暴力はダメだろ」
浜田美琴「そうなの?」
怪人X「確か人間の世界じゃ、虐待だって問題になるはずだぞ」
浜田美琴「私は悪くないの?」
怪人X「悪いのはお前の親だ」
浜田美琴「そうなんだ・・・」
怪人X「お前、これからどうしたい?」
浜田美琴「美琴、ね」
怪人X「ああ、うん」
浜田美琴「うーん・・・」
浜田美琴「ここにいちゃダメ?」
怪人X「ここって、俺と一緒にか?」
浜田美琴「うん」
怪人X「俺は怪人だぞ?」
浜田美琴「うん」
怪人X「悪い奴だぞ?」
浜田美琴「でも、助けてくれたよ?」
怪人X「だから助けたわけじゃなくて」
浜田美琴「お父さんもお母さんも、怪人さんが本物だって逃げたんだから」
浜田美琴「もうここには戻ってこないよね?」
怪人X「それは、まあ、そうかもな」
浜田美琴「だったら、ここにいるのが一番安全でしょ?」
怪人X「うぅぅ・・・」
〇山並み
〇荒れた小屋
浜田美琴「おはよう・・・」
怪人X「起きたか?」
浜田美琴「あれ?」
浜田美琴「部屋がきれいになってる!」
怪人X「しばらくここにいるんじゃ、少しは綺麗にしとかないとな」
怪人X「風呂も入れるようにしといたから」
浜田美琴「ほんと!?」
怪人X「前に人間は風呂ってものに入るって聞いたから掃除しといた」
浜田美琴「ありがとう!」
〇山の中
怪人X「とりゃー!」
浜田美琴「すごーい!」
〇山道
浜田美琴「怪人さん、ちょっと待ってよー」
怪人X「何でお前まで走ってるんだ?」
浜田美琴「だからーお前じゃなくて美琴だってばー」
怪人X「ああ、すまない」
浜田美琴「私も鍛えて強くなるの!」
怪人X「はいはい、わかったよ」
〇空
〇荒れた小屋
怪人X(忘れてる)
〇白いバスルーム
怪人X「タオル忘れてるぞー」
怪人X「って、お前」
怪人X「扉閉めて入れよ!」
怪人X「はいはい、すぐに出て行くよ」
怪人X「ここに置いとくからなー」
怪人X(背中が痣だらけじゃないか・・・)
〇山中の川
浜田美琴「怪人さんは強いのに、どうして鍛えてるの?」
怪人X「お前にはそう見えるかもしれないが」
浜田美琴「美琴!」
怪人X「俺たちの世界じゃあ、俺は落ちこぼれなんだよ」
浜田美琴「そうなの?」
〇魔王城の部屋
総督「期待していたのに、君にはガッカリだ」
怪人X「申し訳ございません・・・」
総督「そんな実力では、君に戦闘員を付けることはできない」
総督「それ以前に、名前すら与えることはできんよ」
怪人X「そんな・・・」
怪人X「せめて名前だけは!」
総督「私が認めるまで、エックスとでも名乗っておけ」
怪人X「エックス・・・」
怪人X(ってか、エックスでカッコよくね?)
総督「しばらく山籠もりして鍛えるがいい」
〇山中の川
浜田美琴「名前付けてもらえなかったんだ・・・」
怪人X「カッコ悪いよな」
浜田美琴「自分に名前が無いから、私の事も名前で呼んでくれないの?」
怪人X「いや、そういうわけじゃ・・・」
浜田美琴「カッコ悪くなんかないよ」
浜田美琴「怪人としては落ちこぼれでも」
浜田美琴「私にとってはヒーローだから」
怪人X「・・・」
〇荒れた小屋
浜田美琴「怪人さん、待ってよー」
怪人X「・・・」
〇山の中
怪人X「エックスビーム!」
浜田美琴「すごーい!」
浜田美琴「遠くまで飛ぶようになったね!」
怪人X「まだまだー!」
〇山中の川
〇荒れた小屋
怪人X「もう朝か・・・」
怪人X(なんか外が騒がしいな・・・)
浜田美琴「怪人さん!」
怪人X「まさか!」
〇山道
刑事「この辺りにいる怪人が娘さんを誘拐したと?」
浜田寛之「はい」
刑事「本当に怪人だったんですね?」
浜田寛之「それは何度も説明したじゃないですか!」
浜田美結「私たちの目の前で、木を刀で切ったんです」
浜田寛之「あっ!」
浜田寛之「あいつです!」
〇山の中
浜田美琴「なにこれ・・・」
怪人X(周りを囲まれている?)
浜田美琴「あっ」
怪人X「どうした?」
浜田美琴「あそこにお父さんとお母さんが・・・」
怪人X(なるほど、そういうことか)
周囲は我々警察が包囲している
無駄な抵抗は諦めて、少女を解放しなさい
怪人X「どうしたものか・・・」
〇山道
刑事「おい、勝手に発砲するな!」
警官「申し訳ありません!」
刑事(弾が当たった金属音は聞こえた・・・)
刑事(だが奴は微動だにしていない)
刑事「三文字さん!」
三文字快人「はい」
刑事「どうやら奴は本当に怪人のようです」
刑事「だとすると我々の手には負えません」
刑事「お願いしてもよろしいですか?」
三文字快人「わかりました」
〇山の中
浜田美琴「誰か来るよ?」
怪人X「そのようだな」
怪人X「お前は三文字快人!」
浜田美琴「サンモンジ・・・?」
怪人X「本物の正義のヒーローだ」
三文字快人「そこの怪人!」
三文字快人「大人しく美琴ちゃんを放すんだ!」
怪人X「さすがは三文字、勇ましいな」
怪人X「だが見ての通り、放すも何も私はこいつを拘束などしていない」
浜田美琴「私が好きで、怪人さんと一緒にいるんだよ」
三文字快人「何だって!?」
怪人X「2週間くらい前、あそこにいる男と女が、こいつを連れて山に入ってきた」
怪人X「そして突然、俺の目の前でこいつの首を絞めだしたから」
怪人X「俺はそれを止めただけだ」
三文字快人「美琴ちゃん、こいつの言ってることは本当かい?」
浜田美琴「うん」
怪人X「この子は普段からあいつらに虐待を受けていたんだ」
〇山道
浜田寛之「そいつの言ってることは嘘だ!」
浜田美結「三文字さん、騙されちゃダメ!」
〇山の中
怪人X「じゃあ、こんな山奥に何しに来たんだよ?」
〇山道
浜田寛之「それは・・・そう!」
浜田寛之「珍しいキノコがこの山で採れるって聞いたから家族で来たんだ」
〇山の中
怪人X「苦しい言い訳だな」
怪人X「本人が殺されかけたって言ってるのに」
三文字快人「もし、お前の言ってることが本当だとしても」
三文字快人「本気で殺そうとしたわけじゃないだろう」
怪人X「お前は、こいつがこれまでにされた仕打ちを知らないからそんな事が言えるんだ」
怪人X「背中なんて見てみろ」
怪人X「痣だらけで見るに堪えないから」
浜田美琴「えっ、どうして知ってるの?」
怪人X「いや、それはこの間・・・」
浜田美琴「あーっ! お風呂覗いたな!」
怪人X「それは今いいだろう・・・」
三文字快人(何でそんなに仲がいいんだ・・・)
三文字快人「とにかく、第三者を交えてちゃんとご両親と話し合うべきだ」
三文字快人「美琴ちゃん、君だってずっとここに居るわかにはいかないだろう?」
浜田美琴「そうなの?」
怪人X「それは・・・」
三文字快人「問題があったとしても、子供はご両親の元で育つのが最終的には一番いいんだよ」
怪人X「確かに、俺がこの先もずっとお前と一緒に居てやることはできない」
浜田美琴「え、どうして?」
怪人X「それは俺が悪い怪人で、お前が人間だからだ」
浜田美琴「だから美琴だってば・・・」
怪人X「ただ、だからといってあいつらの元に戻すことはもっとできない」
三文字快人「どうしてなんだ? ふたりは美琴ちゃんの実の親だぞ?」
怪人X「でも、殺そうとしたんだ」
怪人X「血のつながった娘を自分の手で!」
三文字快人「だからそれはこれから・・・」
怪人X「一度殺そうとまでした奴らの所に簡単にこいつを戻すべきじゃない」
怪人X「こんなに小さい子に二度と地獄を味あわせてはいけないんだ!」
浜田美琴「怪人さん・・・」
三文字快人「お前に悪意がないことはわかった」
三文字快人「とにかく美琴ちゃんはこっちに渡すんだ」
怪人X「三文字」
三文字快人「なんだ?」
怪人X「俺は、お前を倒すために怪人としてこの世に生み出された」
三文字快人「お前とは後で闘ってやるから」
怪人X「でも、今は違うんだ!」
三文字快人「どういうことだ?」
怪人X「いま俺は、こいつを守るためにこの世にいる!」
三文字快人「あ、おい!」
浜田美琴「怪人さん!」
〇山中の坂道
怪人X(他の奴を巻き込まない、ギリギリの距離を狙うんだ・・・)
怪人X(ここだ!)
怪人X「エックスビーム!」
怪人X(頼む、届いてくれ!)
〇山道
刑事「危ないっ!」
浜田美結「きゃーっ!」
刑事(外れた!)
刑事「大丈夫ですか!?」
浜田寛之「は、はい」
刑事「危険ですので、おふたりは後ろに下がってください!」
刑事「相手が攻撃してきたため、発砲を許可する」
刑事「撃てっ!!」
〇山中の坂道
〇山の中
浜田美琴「怪人さん!」
三文字快人「あ、危ない!!」
〇山道
刑事(美琴ちゃんが!)
刑事「発砲止めっ!!」
〇山中の坂道
浜田美琴「怪人さん!」
怪人X「馬鹿! 危ないだろうが!」
浜田美琴「大丈夫!?」
怪人X「ああ、全然問題ない」
怪人X「いくら落ちこぼれでも、拳銃でやられたりしない」
浜田美琴「良かった・・・」
怪人X「怒らないのか?」
浜田美琴「何を?」
怪人X「俺は、お前の親を殺そうとしたんだぞ」
浜田美琴「うーん・・・」
浜田美琴「良く分からない・・・」
浜田美琴「でも、もう痛かったり熱いのはイヤ」
怪人X「ごめんな、ビーム届かなくて」
怪人X「やっぱり俺は落ちこぼれだな」
浜田美琴「ううん、そんなことないよ!」
怪人X「・・・」
浜田美琴「怪人さん!!」
〇山の中
三文字快人「いったい何があった!?」
総督「まったく、くだらん騒ぎを起こしおって」
三文字快人「お前は総督!」
三文字快人「今のはお前がやったのか?」
総督「ああ」
総督「やっぱり出来損ないの怪人は早々に始末しなきゃダメだな」
三文字快人「ふざけるな!」
三文字快人「お前が造ったんだろうが!」
総督「おっと」
総督「今はまだお前と闘う時ではない」
総督「サラバだ」
三文字快人「待て!!」
〇山中の坂道
浜田美琴「怪人さん、怪人さん!!」
怪人X「さすが総督の一撃は効くなぁ」
浜田美琴「そんな事言ってる場合じゃないよ!」
三文字快人「おい、大丈夫か!?」
浜田美琴「しっかりして!」
怪人X「ごめんな、ミコト」
浜田美琴「えっ・・・」
怪人X「最後まで守ってやることができなくて」
怪人X「この世に生み出されてから、良かった事なんて一度もなかったが」
怪人X「ミコトと一緒に過ごした日々は楽しかった」
浜田美琴「やっと名前呼んでくれたね」
浜田美琴「私もすっごく楽しかった!」
三文字快人「おい、待て!」
三文字快人「美琴ちゃんを守ってやるんだろう?」
三文字快人「最後まで責任持てよ!」
怪人X「俺だってそうしたかったが、残念ながら、もう無理なようだ」
怪人X「三文字、ミコトのこと頼む」
浜田美琴「怪人さん!」
怪人X「不幸にするようなことがあったら絶対に許さないからな」
三文字快人「わかった、約束する!」
怪人X「悔しいが、これでいいんだ、きっと・・・」
浜田美琴「怪人さん・・・?」
三文字快人「おい、死ぬな! しっかりしろ!!」
浜田美琴「怪人さーーーーん!!!!!」
〇墓石
墓前で手を合わせる美琴と三文字
三文字快人「あいつは落ちこぼれだったのかもしれないけど」
三文字快人「とんでもない奴だよ」
浜田美琴「どうして?」
三文字快人「死んで墓を作ってもらった怪人なんか、今までにひとりも居ないからさ」
浜田美琴「そんなの当たり前だよ」
三文字快人「え?」
浜田美琴「だって、見かけは怪人だったかもしれないけど」
浜田美琴「私にとってはすごく優しい」
浜田美琴「正義のヒーローだったんだから!」
〇山の中
浜田美琴「手加減したらダメだからね!」
怪人X「俺が手加減しなかったら、お前死ぬぞ」
浜田美琴「お前じゃなくて、美琴!」
怪人X「ったく、うるさいなー」
浜田美琴「行くぞ!」
怪人X「はいはい」
浜田美琴「くらえ、ミコトビーム!」
怪人X「あー、やーらーれーたー」
浜田美琴「うー」
怪人X「どうした?」
浜田美琴「どうしたじゃない!」
浜田美琴「ちゃんと、まじめに相手しろー!!」
浜田美琴「もう」
美琴の「怪人としては落ちこぼれだけど私にとってはヒーロー」という言葉が聞けただけで、怪人Xはこの世に誕生した意味がありましたね。子供の虐待に関しては、社会全体が怪人Xの心意気で取り組まなければダメなところまで来ているような気がします。
警察官のユニホームを身に着けていても心が腐っている人もいるし、お腹を痛めて産んだからといって誰でもが全うな母親というわけではないですよね。怪人xや美琴ちゃんの関係のように、真の正義や愛情でうまれる信頼は本当に素敵です。
子供は両親の元で暮らすべき、怪人は悪行を行う存在なので討伐されるべき、などなど、社会にはいろんな価値観がありますが、一度リセットして物事を見直したくなりました。美琴ちゃんには幸せになってもらいたいものです。怪人Xさんの分までも。