〇教室
教師「というわけで今から小テストだ。プリント回すぞー」
　　えーっ！ というブーイングが、教室に響く。
　　俺はそれには加わらず、机の中に隠したスマホを気にしていた。
松岡春斗（・・・今日は、メッセこねえな）
　　いつもなら、俺から送らなくても、うるさいくらいに送られてくるのに。
松岡春斗（でも、かといって俺から送んのもな）
　　それに送るべき内容も特にない。
松岡春斗（普段、なに話してんだっけ）
　　思い返してみるが、おおよそ腹減ったという内容か教師への文句ばかりだ。
松岡春斗「ふ・・・っ」
　　思わず笑ってしまい、慌てて口元を隠す。
松岡春斗（どうでもいい話しばっかしてんのな、俺ら）

〇学校の屋上
梅村千秋「・・・あ、来たんですか」
松岡春斗「こっちのセリフだ、バカ」
　　昼休憩、屋上のドアを開けると、そこには宣言どおり梅村の姿があった。
梅村千秋「僕、ちゃんと言いましたよね？ 今日から僕も参加しますって」
松岡春斗「ああ？ 忘れたな。そんな余計な情報、わざわざ入れとく脳のスペースなんかないんだわ」
梅村千秋「え？ もうボケちゃったんですかぁ？ お・じ・い・ちゃ・ん」
松岡春斗「一個しか違わねえっつの」
　　俺と梅村がバチバチと見えない火花をちらしていると、不意にドアが開く。
竹田夏樹「あれ」
梅村千秋「せぇんぱぁいいっ！」
松岡春斗「たけ、遅かったな」
竹田夏樹「ん、古文眠すぎ、爆睡してた」
　　それだけ言って、ふあっとあくびをするたけ。
竹田夏樹「それよりお前ら、いつの間に仲良くなったんか？ 階段まで声、めっちゃ聞こえてるばい」
「仲良くなんか無い」
竹田夏樹「息ぴったし、すげえ！ 漫才か！」
松岡春斗「いやほんと、こいつなんか知らん。生意気なクソ一年ってことしか」
梅村千秋「ですです、竹田センパイの害虫じゃなかった、友達ってことしか」
松岡春斗「おい、声出てるぞ」
梅村千秋「てへぺろ」
竹田夏樹「仲良しじゃん、普通に。まいっか、俺が改めて紹介してやるけん」
　　たけはまず、梅村を指差した。
竹田夏樹「梅・・・・・・なんだっけ」
梅村千秋「梅村千秋ですっ、センパイ♪」
竹田夏樹「あー、そうそう千秋。でも、俺は梅って呼んでるけん、まっちゃんも梅でよか」
　　そう言ったたけの向こうで、中指を突き立てるクソ梅村。
竹田夏樹「えーっと、こいつは中学の後輩。ガリ勉で、いじめられてたんよな」
梅村千秋「そうです！ 颯爽と助けてくれたんですぅ、センパイが」
竹田夏樹「らしい。あんま、俺は覚えてねえ。あ、そいやメガネ辞めたんか？」
梅村千秋「高校デビューです♪ でも、センパイがメガネ好きなら、明日からメガネかけますね」
竹田夏樹「いや別に。あ、そいやなんで梅、冬高に？ お前ならもっと上、行けたばい」
梅村千秋「竹田センパイがいないなら、学校なんて行く価値ありませんしぃ」
竹田夏樹「ほー。・・・そーらしい、まっちゃん」
松岡春斗「俺に振られても困る」
　　たけと梅村のやり取りを見ていて、わかったことが一つだけあった。
松岡春斗（まっっったく、相手にされてねえ）
　　この様子なら、梅村のことはさして気にしなくてもいいようだ。
梅村千秋「なんか今、腹立つ顔して僕のこと見てませんでしたかぁ？」
松岡春斗「自意識過剰じゃないか？」
梅村千秋「ぐぬぬ・・・！」
梅村千秋「センパイ、この人は？」
竹田夏樹「ああ、えーと松岡はる・・・」
竹田夏樹「まっちゃん！」
松岡春斗「おい、たけ！」
竹田夏樹「まっちゃんはまっちゃんやけんよか」
松岡春斗「くっ・・・」
梅村千秋「ぷっ」
松岡春斗（このクソガキ）
竹田夏樹「高校に入ってからのダチ！ バスケ部のキャプテンばい！」
松岡春斗「たけ、他には・・・」
竹田夏樹「飯がうまい！」
　　梅村同様、雑な説明にうなだれる。俺も梅村も黙り込み、しばらく睨み合っていると、盛大にたけの腹の虫が鳴く。
竹田夏樹「なーなー、もう限界！ 弁当！ べーんーとーうー！」
松岡春斗「あのな、たけ、俺は・・・」
竹田夏樹「べーんーとっ！ べーんーとっ！」
　　待てと言いたかったが、これ以上は無理だろう。
　　俺は諦めて、弁当箱を取り出した。無論、自分とたけの分、二つだけ。
竹田夏樹「待ってました！ いっただきっまーす！」
　　元気よく言って、たけが弁当箱を開く。
　　・・・と次の瞬間。
竹田夏樹「ぎゃあああああ！」
松岡春斗「え」
梅村千秋「ど、どうしたんです、センパイ!?」
竹田夏樹「か、かかか、か・・・」
梅村千秋「か・・・？」
竹田夏樹「から！ あげ！ だ！」
梅村千秋「へ？」
竹田夏樹「からあげだ！ からあげだ！ からあげだーーー!!!!」
　　雄叫びをあげたたけが、もちもちと口いっぱいにからあげを頬張る。
竹田夏樹「からあげ、うま！ うま！」
松岡春斗「お、おう」
竹田夏樹「からあげはやっぱ、胸よりモモばい」
竹田夏樹「胸はタンパクで油にもよく合うし、カロリーも抑えられていいばってん、やっぱりからあげはがっつりどっしり食いたかけん！」
梅村千秋「は、はあ」