エピソード2(脚本)
〇ファンシーな部屋
康子ちゃんはあれ以来、私の前に頻繁に現れるようになった・・・
その度に面倒事が嫌いなはずの私が何故だかワクワクしている。
容子「それで・・・今日は何があったの・・・?」
康子「それがね・・・」
康子ちゃんは少し言葉を濁していた・・・言いにくい事なんだろうか・・・?
康子「人間の学校に行くことになったんだけど付き添って行ってくれる人が誰もいないの・・・」
何故いきなり人間の学校に行くことになったんだろう・・・いったい誰が申し込みをしたのだろうか?
人間の学校で康子ちゃんが平穏に過ごせることができるのだろうか・・・?
私の頭の中に様々な不安がよぎった。
容子「ん~付き添いは私がすれば済むことなんだけどねぇ・・・学校行くのは誰が決めたの?」
康子「お父さんだよ・・・人間の授業は為になるから学びなさいって・・・」
あの龍は何を考えているのだろう・・・康子ちゃんは一度、人間に捕まり監禁されていた事を無かった事にするつもりなのだろうか?
私はなんだか次第に腹が立ってきた・・・!!
容子「康子ちゃんは行きたいの?人間の学校・・・」
康子「うん・・・私行ってみたい!!」
容子「そう・・・だったら私が付き添うわ!!」
私は康子ちゃんが無事に学校に通うことができるよう保護者代理になる事を決めた!!
康子「わ~い!やったぁ~!!」
容子「一度、学校に下見に行ってみましょう・・・」
康子「うん!」
〇学校の校舎
ここが康子ちゃんの通う学校らしい・・・しかし、不吉な暗示を示すかのように辺りはどんよりと曇っていた・・・
容子「ここね・・・」
康子「うん・・・大きな学校でしょ!!」
辺りの不吉な雰囲気など気にすることも無く康子ちゃんは、はしゃいでいた・・・
しかし龍の娘である康子ちゃんがここで無事に過ごす事ができるのだろうか・・・?
一抹の不安がよぎった・・・
容子「何かあったらお父さんは直ぐに対処できるわよね?」
康子「たいしょ・・・?」
私は混乱からか誤って大人びた言葉を使ってしまった・・・!!これでは康子ちゃんには伝わらないだろう・・・
容子「康子ちゃんのピンチに直ぐに助けにくるって事よ・・・」
康子「うん!お父さんは直ぐに助けてくれるよ!」
自分の娘にこれほど信頼されるなんて・・・私は以前、康子ちゃんが捕まっていた事は本当だったのかと疑問に思った・・・
容子「そろそろ帰りましょうか・・・?」
加奈子「あ、あの・・・」
康子ちゃんと同じ年ぐらいの女の子が声を掛けてきた・・・この学校の生徒なのだろうか・・・?
容子「な~に?どうしたの?」
加奈子「その娘・・・人間じゃありませんよね・・・?」
容子「何を言ってるの・・・?人間・・・人間だよ・・・」
慌てふためいた私は訳の分からない返答をしていた・・・しかし、何故気づかれたのだろうか?
加奈子「私にはわかるんです・・・私も人間じゃないので・・・」
耳を疑った・・・この世の中には人間以外のものが、それほど多くまぎれているのだろうか?
容子「あ、あなたは誰なの・・・?」
加奈子「私は・・・加奈子・・・妖怪です・・・」
康子「(ぽっかぁ~~~ん)」
容子「(ぽっかぁ~~~ん)」
数日後・・・
〇ファンシーな部屋
今日は康子ちゃんの初登校の日だ・・・自分の事を妖怪だと名乗る少女の事は気になっていたが深く考えずにいた・・・
本当に人間じゃない少女なのであれば康子ちゃんと同類であるということ、大きく言えば仲間という事ではないだろうか?
康子ちゃんに仲間ができる事は悪い事ではない・・・私としては大歓迎である・・・
私はあの加奈子という少女が康子ちゃんの友達になってくれることに大きな期待を抱いていた・・・
容子「康子ちゃ~ん・・・康子ちゃ~ん?」
康子「は~い・・・」
容子「準備はできた・・・?」
康子「うん・・・できたよ」
容子「ハンカチは持った・・・?」
康子「うん・・・持った」
容子「お弁当はカバンに入れた・・・?」
康子「うん・・・入れたよ」
何故だか母親の気持ちが大変よく理解できた・・・
容子「忘れ物は無いわね?」
康子「うん・・・大丈夫」
容子「では、行きますよ・・・」
〇学校の校舎
容子「お初にお目に掛かります・・・康子の姉の容子と申します」
容子「これから康子がお世話になりますが、どうかよろしくお願いいたします・・・」
私は康子ちゃんの姉という設定を決め込んでいた。何故だか学校にもそう申請されてるらしい・・・
担任の古賀「これはご丁寧に・・・康子ちゃんの受け持つ事になりました、担任の古賀です、よろしくお願いします」
康子「よろしくお願いします!!」
担任の古賀「おっ!元気だなぁ~」
「ふっふっふっふっふ・・・」
担任の古賀「うわぁ!ビックリしたぁ~!!また君かぁ~」
加奈子「出ていけぇ~この学校から出ていけぇ~」
担任の古賀「こらぁ~!!」
容子「あの子は・・・」
担任の古賀「康子ちゃんと同じクラスの子ですが・・・少し変わり者でして・・・」
容子「変わり者・・・?」
担任の古賀「日頃から自分は妖怪だと言ってクラスでは浮いた存在です・・・」
容子「自分は妖怪だと皆に言って回ってるんですか・・・?」
担任の古賀「はい・・・注目を引きたいのでしょうね・・・」
加奈子という少女は本当に妖怪なのだろうか?それともこの担任の言った様に注目を集める為の嘘なのだろうか?
しかし、本当の妖怪ならば自分の正体を皆に触れ回るだろうか?
正体がばれれば生き辛くなるだろうし、康子ちゃんの様に何かの組織に狙われる恐れだってある・・・
加奈子という少女の本心がどこにあるのか?私にはまだわからなかった。
担任の古賀「校舎を案内いたします・・・付いてきてください・・・」
〇通学路
容子「学校はどうだった・・・?」
康子「楽しかったよ・・・色んなことを教えてくれるんだね!?」
康子ちゃんは学校でどんな風に過ごしたのだろうか・・・?クラスの皆は仲良くしてくれたのだろうか・・・?
質問したい事はいっぱいあったが、思いついたままの質問では要点を聞き出せない。
質問内容をまとめてから切り出す事にした。
「ふっふっふっふっふっふ・・・」
康子「うわぁ~」
加奈子「学校は楽しかったぁ~?」
康子「か、加奈子ちゃん・・・!!」
この娘は何故いつもこんな登場の仕方をするのだろうか・・・?人が驚く姿に魅力を感じているのだろうか・・・?
加奈子ちゃんの本心が僅かに垣間見えた気がした・・・私はここぞとばかりに確信に迫ることにした!
容子「加奈子ちゃんは妖怪だと言っていたけど・・・本当なの!?」
加奈子「はい・・・本当ですよ・・・」
意外な答えだった・・・私は僅かでも加奈子ちゃんが慌てる姿を想像していた。
しかし、加奈子ちゃんには慌てる様子など感じられない・・・それどころかその姿には後光が差してるかに見えた・・・
加奈子「私のお父さんを紹介します・・・付いてきて下さい・・・」
〇川沿いの原っぱ
加奈子「お父さ~ん!お父さ~ん! 帰りましたよ~ぉ!加奈子です・・・」
加奈子の父「ああ・・・おかえりなさい・・・」
その姿は紛れもなくカッパだった・・・加奈子ちゃんはカッパだというつもりなんだろうか・・・?
どう見ても人間じゃん!その言葉が頭の中でリピートしていた・・・
加奈子「お客さんを連れてきました・・・」
容子「始めましてぇ~加奈子ちゃんのクラスメイトの康子の姉の容子と言います・・・宜しくお願いします・・・」
康子「(うわぁ~お皿が乗ってる・・・) は、はじめまして・・・康子です・・・」
加奈子の父「ああ・・・いらっしゃい・・・」
加奈子ちゃんのお父さんは意外と無愛想だった・・・目を向けて挨拶してもこちらの目線を直視することは無かった・・・
加奈子の父「魚でも食べるかい・・・?」
容子「い、いいえ・・・結構です・・・」
加奈子の父「だったらその辺でのんびりしていって・・・私は忙しいので失礼するよ・・・」
そう言い残すと加奈子ちゃんのお父さんは川の中に消えて行った・・・
加奈子「信じてもらえましたか・・・?」
目の前で見たカッパの姿に信じないとは言えなかった・・・しかし、加奈子ちゃんに関しては1つ2つ解せない事がある・・・
容子「加奈子ちゃん・・・私たちを学校から追い出そうとしたのは何で?」
加奈子「私・・・嘘つき・・・はたまた虚言壁がある・・・って事で学校では浮いています・・・」
加奈子「そのおかげで本当の事を言っても誰も相手にしません・・・」
加奈子「同じキャラの子がいると、どこかでぼろが出るかもって怖いんです・・・」
加奈子「私の話には真実が含まれていますからね・・・」
加奈子「本当に妖怪の娘だなんて知れたらただじゃ済ないです・・・ですから二人を遠ざけようと・・・」
加奈子ちゃんの話に私は納得した・・・加奈子ちゃんは自分の身を守るのに必死だったのだ・・・
妖の娘である以上、危険は常に付きまとう・・・加奈子ちゃんは自分が悪いレッテルが貼られる事を厭わずに安全を選んだ・・・
同類の出現により、何かのきっかけでほころびが生じる事が恐怖だったのだ。
私の加奈子ちゃんに対しての疑問はほぼ解けた・・・しかし、加奈子ちゃんは私達を敵視してる感じではない・・・
親を紹介しているくらいなので寧ろ仲良くなりたいのではないだろうか?学校では変わり者を演じ疎外されている・・・
問題は現状をどう解決するか・・・?
容子「加奈子ちゃんは康子ちゃんと友達になりたくはなぁい?」
加奈子「と、友達!!」
加奈子「でも、学校では私・・・浮いていなくてはいけなくて・・・」
容子「康子ちゃんはどう?加奈子ちゃんと友達になりたい?」
康子「私はなりたい!友達になりたい!」
容子「わかった・・・この件は私に預からせて・・・」
〇雲の上
数日後・・・
私は康子ちゃんのお父さんに会いに来ていた・・・
以前、康子ちゃんの両親が何処にいるか聞いた時、空の彼方と言っていたが本当に雲の上とは・・・
容子の父「人間以外の子たちの学校を作りたいと・・・?」
容子「はい・・・康子ちゃんの他にも人間以外の子供たちは沢山いるんですよね?」
容子の父「確かに・・・たくさんいますね・・・ですが他の親御さん達も人間の教育を受けさせたいと思っているはずですよ・・・」
容子「教師には人間を用意します!!」
容子「私が信用できる人間を厳選します!!」
容子の父「ほう、そこまできっぱり言い切るとは・・・」
容子の父「わかりました・・・協力しましょう!!」
容子「ありがとうございます!!」
容子の父「いいえ・・・あなたの言葉には私達は逆らう事は出来ませんので・・・いつも力を貸して頂きありがとうございます・・・」
またしても、この龍は何を言ってるのだろう・・・?何の取柄も無い私に貸す力などあるはずがない!!
容子「康子ちゃん、帰りますよ~」
康子「は~い」
〇お嬢様学校
康子ちゃんのお父さんが用意してくれた校舎は立派なものだった。いったいどうやって用意したものなのだろうか?
もしかしたら私が思っているよりも、とんでもない力を持っているのかも知れない・・・
教師を厳選します!なんて言ってしまったが龍の方が簡単にできたかも知れない・・・
容子「ここよ~」
康子「わぁ~立派な学校だね~」
加奈子「大きいですね・・・」
容子「ここにはあなた達の様な人間以外の子供たちが通うのよ・・・」
容子「もう気兼ねすることも無いのよ・・・」
加奈子「ほ、本当ですか!!」
容子「ええ、これからはクラスで浮いた存在になるなんてしなくて良いの!」
康子「正体も隠す必要がないんでしょ?」
容子「そうよ・・・ここでは自由にして良いの・・・」
加奈子「逆になんだか怖いです・・・」
容子「怖がる必要はないわ・・・ここに居る時はあなた達は守られているの・・・」
理屈はわからないがここは世間から隔離され安全が保たれている。子供たちも人間以外なので気を使うことも無い。
しかし私にはまだ大きな課題が残されていた。事情を理解した上で秘密を守れる教師の選別である。
康子「加奈子ちゃん・・・これで友達になれるね!!」
加奈子「う、うん・・・よろしくね・・・」
康子「こ、こちらこそよろしくね!!」
困難な課題は残したままだが、二人の微笑ましいやり取りは未来への希望へと繋がった・・・
最初は小さなことでも切っ掛けが無ければ始まらない。私は二人がいつまでも仲良く居てくれる事を切実に願った・・・END