怪人ジギード

鉄 竜太

怪人ジギード(脚本)

怪人ジギード

鉄 竜太

今すぐ読む

怪人ジギード
この作品をTapNovel形式で読もう!
この作品をTapNovel形式で読もう!

今すぐ読む

〇殺風景な部屋
教授「・・・・・・あれがその怪人か」
研究員「はい。「ジギード」と名乗っています」
ジギード「・・・・・・」
教授「コミュニケーションがとれるのか!」
研究員「はい。問題なく会話が可能です」
教授「驚いたな・・・・・・」
教授「「死んだものを生き返らせる」というだけでも恐るべきことなのに」
教授「どこで知ったのか、我々の言語を理解しているとは」
ジギード「「恐るべきこと」?」
教授「・・・・・・そうさ。蘇りは人間が昔から「不可能」としてきた夢の話だからね」
ジギード「私の勘違いなら申し訳ないが、命が戻るのは「喜ばしいこと」ではないのか」
教授「そうかもしれないな」
研究員「ジギードさん。何度も申し訳ありませんが」
研究員「教授も来られたことですので、またいくつかお話をよろしいでしょうか」
ジギード「あぁ」
教授「では私から・・・・・・」
教授「事前に聞いている話だと、昨夜山道を車で走っていた夫婦が鹿をはねてしまい」
教授「その夫婦が車を停めて警察やらに連絡しているところに君が森の奥から現れた」
教授「夫婦は発狂し気絶」
教授「そして現場に到着した警察から我々に連絡が来て確保、今にいたると」
教授「偶然ではないんだろう?どうして夫婦の前に現れた」
ジギード「死の臭いがしたからだ」
教授「死の臭い?」
ジギード「そう。死の臭い、しかもまだ死ぬべきじゃなかったものが死んだ臭い」
研究員「ジギードさんは「まだ死ぬべきじゃない命」だけを蘇らせてるらしいんです」
教授「ほう。それは何故?」
教授「そしてどういったところから「死ぬべきじゃない」のかを判断している?」
ジギード「人間は食事をする時、食べ物に感謝をするだろう」
ジギード「それに似ているのかもしれない」
ジギード「私は頂く、だから私は与える」
ジギード「そのやり方が違うだけだ」
ジギード「そうして、人間も食事するなら美味しいものを、だろう?」
ジギード「それは主観でしかない」
ジギード「主観で美味しいとか美味しくないとか、食べたいとか食べたくないとかを判断する」
ジギード「意味の無い食事はしない」
ジギード「それが互いのためになる」
教授「なるほど」
教授「それと、警察が現場に到着した時点で死んだ鹿はいなくなっていたらしいが、どこに行ったんだ」
ジギード「どこかはわからない」
ジギード「だが生きている」
教授「それはどうしてわかる?」
ジギード「その前に一つ」
教授「・・・・・・?」
ジギード「「死」とはその生き物が誕生した瞬間から必ずその身に存在していて」
ジギード「それが「死ぬ」ということは、同じく生き物が持つ「生」に対して「死」の大きさが上回った時のことを言う」
ジギード「そうして、私はそこから「死」だけを吸う」
ジギード「すると「死」ばかりだった生き物はどうなる?」
教授「・・・・・・「生」が上回る?」
ジギード「そう」
ジギード「人間の考える、「生」を消費していき、それが尽きた時に死ぬというのは少し間違っている」
ジギード「「生」も減るが、「死」も蓄積されていく」
ジギード「なので私の力で「生き返る」とか「蘇る」というのは少し違う」
ジギード「死が減っただけだ」
ジギード「それをわかった上で話を聞いて欲しい」
教授「・・・・・・わかった」
ジギード「さっきの続きだが、私は死を吸う時、私自身の死を少しだけ与える」
ジギード「するとその生き物には私の一部が入っていることになる」
ジギード「だから生きているかどうかだけはわかる」
ジギード「それに、自分の死を持たない生き物が万が一死んだ時」
ジギード「その者の死を持つ私のもとへ生が引き寄せられるからわかる」
教授「その・・・・・・復活した生き物が死ぬ時、また君の前に現れるというのか?」
ジギード「違う。例えるなら「魂」だけが私の中へ戻るというのか」
ジギード「生き物は生と死があるからその形を保てるのであって、生が少なくなり、死は私のものだと、死が上回った時にその形が無くなる」
教授「消えるのか?」
ジギード「そういうことだ」
ジギード「そうして、その者の魂が自分自身の死を求めて私の中に吸収される」
教授「死体は残らず」
教授「食えるものは全て食いつくすのか」
ジギード「不満か?」
教授「いいや、変な言い方をしたな。すまない」
研究員「とりあえず、その力を見てみますか」
教授「そうだな。確かに見た方がわかりやすそうだ」
  研究員がガラスケースに入れた死んだネズミを持ってくる
研究員「つい先ほど毒を注射して死んだネズミです」
研究員「これを生き返らせ・・・・・・死を吸い取ってみてください」
ジギード「臭いが薄い」
教授「というと?」
教授「「死ぬべきじゃない命」ではないと?」
ジギード「そうだ。生きることに関する強い意志が感じられない」
研究員「実験動物ですし、そんなものなのでしょう」
教授「それは申し訳ないが、今回はこれで我慢してくれないか」
教授「ぜひ君の力を見てみたいんだ」
ジギード「・・・・・・そうか」
  ジギードがゆっくりとネズミに手をかざすと、ジギードの身体中の青い宝石のような部位が強く光りだした
  その光がジギードの手から流水のようにこぼれ落ち、ネズミに降りかかる
  すると、ネズミが息を吹き返し、ガラスケースの中を走り始めた
研究員「すごい!動き出しましたよ」
教授「あぁこれは・・・・・・驚いた」
教授「平然と動いている」
教授「そういえば、この復活した者の思考はどうなっているんだ?今まで通りなのか?」
ジギード「彼らの行動は私が決めることができる」
ジギード「基本的には彼らのやりたいように行動させる。私は干渉しない」
教授「そうでない選択もできるのか」
教授「つまり、復活した者をコントロールできると?」
ジギード「まぁそういうことだ。見ていろ」
  ジギードがそう言うと、ネズミが突然動きを止め、その場で眠り始めた
ジギード「眠るように指示を出した」
ジギード「次は跳ねるように指示を出す」
  ジギードがそう言った直後、寝ていたネズミが突然跳び回り始めた
教授「このコントロールに距離は関係ないのか?」
教授「すごく遠くにいる者にも効果はあるのか?」
ジギード「私が死を吸った生き物は全て私の一部となる」
ジギード「距離は関係ない」
教授「・・・・・・ちょっと失礼」
  教授が研究員を手招きし、ジギードから少し離れる
教授「どう思う」
研究員「悪い人ではなさそうですけど・・・・・・」
教授「だがあの力はなかなか危険だぞ」
教授「死んだ者を復活させるだけでなく、距離の関係ないコントロールができると言う」
教授「彼がどれだけの生き物を復活させたかは不明だが・・・・・・」
研究員「しかし、ジギードさんを研究していけば夢の蘇り治療なんかも可能になるかもしれませんよ」
教授「そう。研究対象としてとても興味がある」
教授「なので昏睡状態にして保存しようと思うのだが」
研究員「異議なし。ガスの使用許可もらってきます」
教授「あぁ頼む」
  研究員が足早に部屋を出る
教授「いやぁ待たせて悪かったね」
ジギード「・・・・・・」
教授「ちなみに、君自身は不死身だったりしないのか?」
ジギード「少しややこしいが、私にとっての生命エネルギーは死だ」
ジギード「言ってしまえばすでに死んでいる」
ジギード「だが、この瞬間も活動することが可能なので不死身の体とも言えるな」
ジギード「ただ、試したことは無いが、おそらく長い間死を吸わないでいると、人間で言うところの死に到達するかもしれない」
教授「死を吸うのは食事と同じと言ってましたものね」
ジギード「そうだ。どうなるかは自分でもわからん」
教授「いやぁ非常に、実に不思議な存在だな・・・・・・」
研究員「教授!こちらへ!」
教授「あぁわかった!」
教授「ではジギードさん、少し失礼しますよ」
ジギード「・・・・・・」
  二人が足早に部屋を出た途端、入り口の扉は閉まり、どこからか空気の漏れるような細い音が鳴り始めた
ジギード「人間・・・・・・」
ジギード「やはりそうなるのか」
ジギード「今までも私に興味を持った人間は皆、私を道具にしようとする」
ジギード「今回もそうだというなら、私は抵抗する」

〇巨大研究所
「A班より警備棟!」
「大至急!増援を求む!」
「・・・・・・助けてくれ!!」
「警備棟よりA班。何事だ」
「武器を持ってこさせろ!」
「侵入者だ!」
「警備棟よりA班。監視カメラでも確認したが・・・・・・それは」
「そうだ!」
「猿やら鹿やら!熊までいやがる!」
「動物共だ!!」
「この蜂も!侵入者かもしれない!」
「どうなっていやがる!」
「すぐに増援を送る」
「当たり前だ!」
「こいつら!研究所の入り口に一直線に向かってきやがる!」
「・・・・・・人間もいるぞ!!」

〇殺風景な部屋
ジギード「死の克服は人間の夢か」
  ジギードの身体に、外で死んだ者達の魂が吸い込まれ、青い宝石のような部位が淡く発光する
ジギード「私は、これでしか生きられないだけだ」
  ジギードのいる部屋の扉が静かに開き始める
  扉の外には、全身の骨が折れて不自然な格好で立っている鹿と、巨大な熊がいた
  その足元には、さっきまでジギードに質問をしてた教授と研究員が倒れている
ジギード「私自身、なぜこんなことを何千年も続けているのかとっくにわからなくなっている」
ジギード「・・・・・・」
ジギード「人間の浅い歴史では、まだ私は救われないか」

〇巨大研究所
  ジギードは開いた扉からゆっくりと外へ出て、森の奥へ消えていった
  同時に、研究所を壊滅させた生き物達は、何事も無かったかのようにそれぞれの方向へ歩き始めた

コメント

  • 相手の死を吸い続けることで生き続けるというジギードのアンビバレントな状況に混乱すると同時に魅了されます。生と死を対立概念ではなく、天秤の二つの皿にのせた量のようにバランスで捉える発想が新鮮でした。

  • すごく深い話ですね。
    生きる、死ぬ、という概念は通常人間の真理としてあるもので、でもそれを意識することはそうそう無いですよね。
    コントロールできるとなると、脅威でしかありません。

  • ジギードが何千年とその命をつないでいるのなら、彼によって再生された人や動物もたくさんいるわけで、それらに対するジギードの指示が間違っていないことをただ祈るばかりです。

コメントをもっと見る(4件)

成分キーワード

ページTOPへ