〇中庭
石塚ゆら「SL？」
石塚ゆら「・・・って、機関車の？」
副部長「違う違う 【サブリーダー】略して【SL】だよ」
石塚ゆら「あーそっちかー！アハハ」
石塚ゆら「って、ええ!? サブリーダーを、あたしがやるんですか!?」
部長「ええ。週末の強化山行と、もちろんインターハイ本番でもね」
部長「これまでは長老先輩がつとめてたけど、ぜひ石塚さんにやってほしいんですって」
石塚ゆら「だってサブリーダーって・・・」
石塚ゆら「道に迷わないようにしつつ、危険箇所がないか常に目配りしつつ、チーム全体のペース配分も考えて先頭歩くやつじゃないですか!!」
副部長「わかってんじゃ～ん!!」
副部長「それだけ信頼されてるってことだよ!!」
石塚ゆら「・・・」
石塚ゆら「あたしなんかには無理ですよ」
副部長「えっ・・・」
部長「・・・石塚さん？」
石塚ゆら「・・・アハハ、いやほんとやめといたほうがいいですって～」
石塚ゆら「とりあえず・・・走り込みしてきまーす!!」
「・・・」
副部長「なんかあったな、ありゃ」

〇学校沿いの道
石塚ゆら「ハア・・・ハア」
石塚ゆら（だって・・・もしまた失敗したら・・・）
石塚ゆら（あんなふうに・・・）

〇学校のプール
　　３年前──
　　守山中学校 水泳部
コーチ「というわけで・・・」
コーチ「１年生からも石塚が地区大会に出場することになった!! がんばれよ!!」
部員「すごーい!!ゆらっち!!」
石塚ゆら「ありがとー!!がんばるよ!!」
サヤカ「・・・」

〇更衣室
サヤカ「あたし・・・聞いちゃったんだ」
サヤカ「ゆらが・・・コーチと付き合ってるって」
マキ「は？マジで？」
エリ「たしかに最近、夜も居残りでコーチと練習してたよね・・・」
サヤカ「ゆらには内緒にしてくれって頼まれたんだけど・・・」
サヤカ「みんなも大会に出たくてがんばったのに・・・１人だけえこひいきされてるのが許せなくて・・・!!」
部員「・・・私たちも許せないよ!!」
部員「そんなの、先輩たちにも報告しなきゃじゃん・・・!!」
サヤカ「・・・」

〇学校のプール
石塚ゆら「オハヨー！」
石塚ゆら「・・・？」
石塚ゆら「あ、ねえねえ、このあとタイム計るのお願いしてもいい～？」
部員「は？なんであたし？」
石塚ゆら「え・・・だって昨日はあんなに応援してくれるって・・・」
部員「コーチに計ってもらえよ」
部員「ちょwww」
石塚ゆら「・・・!?」
　　あたしは孤立した
　　それでもなんとか笑顔で泳ぎつづけた
石塚ゆら「やった!!自己ベスト!!」
石塚ゆら「・・・」
石塚ゆら（気にしない、気にしない）
石塚ゆら（あたしは楽しく・・・泳ぐだけ・・・）
石塚ゆら「・・・」
　　でも、現実は甘くなかった
　　地区大会当日──
　　あたしの成績はさんざんなものだった
　　飛び込む前も──
　　泳ぎ始めてからも──
　　誰も声援を送ってくれなかった
　　心が、折れてしまった・・・

〇更衣室
サヤカ「なにしてんの？」
石塚ゆら「あ・・・」
サヤカ「退部したんじゃなかったっけ？部外者は立ち入り禁止なんだけど」
石塚ゆら「た、退部じゃないよ・・・休部・・・ 辞めてないよ」
石塚ゆら「やっぱり水泳好きだし・・・ また楽しく泳げるようになったら・・・」
サヤカ「アハハ!!」
サヤカ「タイムなんか気にしないで楽しく泳ぎたいって、よく言ってたもんね!!」
サヤカ「・・・そういうところがムカつくんだよ」
サヤカ「楽しく泳ぎたい？」
サヤカ「そんなこと言ってるから、結局『役立たず』だったんじゃないの」
サヤカ「もうこの部に、あんたなんかの居場所はないんだよ」
石塚ゆら「・・・!!」
サヤカ「他の中学に転校でもすれば？ そこの水泳部で楽しく泳いでみなよ」
サヤカ「まあ、そこでも失敗しちゃって『役立たず』かもしれないけどね」
石塚ゆら「・・・」
サヤカ「あんたなんか、どこ行っても変わんないよ」
　　呪いのようだった
　　その呪いはよく効いた
　　あたしは二度と水泳部には戻れなかった
　　泳ぐのもやめてしまった
　　また失敗して『役立たず』になるのが怖かった
　　今も──

〇湖畔
　　強化合宿 当日
　　湖畔テント場
石塚ゆら「・・・はあ」
黒木「サブリーダー、断ったんだって？」
石塚ゆら「・・・あっち行って」
黒木「ひでえな・・・」
黒木「なんで断るんだよ。なかなかやらせてもらえねーぞ？俺だったら受けるね！」
黒木「てかさ、お前今日ミスしすぎ。 テントのペグ打ちも方向違ったし、 天気図も抜けてる地点があったし～」
黒木「そんなんでインターハイ優勝とかよく・・・」
石塚ゆら「──うるさいなあ!!」
石塚ゆら「わかってるよ、あたしが足ひっぱってるのぐらい・・・!!」
石塚ゆら「役立たずなりに頑張ってるんだよ・・・!!」
黒木「な、なんだよ・・・そんな深刻に・・・」
矢間「黒木。峰岸先生が呼んでたぞ」
黒木「あ、ウス！」
黒木「・・・悪かったよ、あんま思い詰めんなよ」
石塚ゆら「あ・・・」
矢間「石塚」
石塚ゆら「・・・あ、アハハ・・・すみませんちょっとケンカしちゃいました」
石塚ゆら「あっ、休憩おわりですよね!? 食事の準備しなきゃ～～」
矢間「おい、待っ・・・」
矢間「・・・」

〇学校の部室
　　ミーンミンミンミン・・・
部長「・・・今日も来ないわね」
副部長「強化合宿から帰ってきて以来、LINEも無視だわ」
長老「・・・」
部長「強化合宿では、たしかに石塚さんらしくないミスが多かったし・・・」
部長「なにより元気がなかったのよね」
副部長「大丈夫かって聞いても「大丈夫です」しか言わねえからな～～」
副部長「また振り出しに戻っちゃったかんじだな、最初の頃みたいに・・・」
長老「・・・いや」
長老「あれから、ゆらは成長した」
長老「今は、少し立ち止まってしまってるだけだ」
部長「とはいえ、インターハイまであと少ししかないし・・・」
長老「待とう」
長老「私たちにできるのはゆらを信じることぐらいだ」

〇ファストフード店

〇カウンター席
石塚ゆら（またサボっちゃった・・・）
石塚ゆら（先輩たち、怒ってるだろうな・・・）
石塚ゆら（長老先輩なんて、受験生なのに）
石塚ゆら（あたしがインターハイ行きたいなんて言ったせいで・・・なのにいまさら自信がなくなったなんて・・・）
石塚ゆら「せんせー!?」
矢間「サボりとはいい度胸だな」
石塚ゆら「・・・すみません」
矢間「頼みすぎた。食え」
石塚ゆら「あ、ありがとございます・・・」
石塚ゆら「え、てかなんでいるんすか」
矢間「窓から見えた」
石塚ゆら（探してくれてたってこと・・・？）
　　そのまま、あたしと先生は
　　ひたすらポテトを食べ続けた

〇ファストフード店

〇カウンター席
矢間「・・・そろそろ俺は学校に戻る」
矢間「お前も遅くならないうちに帰れよ」
石塚ゆら「・・・なんで、なにも言わないんですか」
石塚ゆら「インターハイ近いんだぞ！とか、 どうするつもりなんだ！とか、 みんなに迷惑かかるぞ！とか──」
矢間「・・・」
矢間「ポテトを食う元気があるのがわかったからいい」
石塚ゆら「ええ～・・・」
矢間「・・・俺は、高校のときに失敗してる」
石塚ゆら「失敗？」
矢間「加奈子の怪我だ」
石塚ゆら「あ・・・」
矢間「加奈子はインターハイ出場が決まって、絶対に優勝するんだって燃えてた。 ──ちょっと前のお前みたいに、バカみたいに」
矢間「俺も、男子チームで出場が決まってたから・・・『男女どっちが優勝できるか』なんて競うようなことを言ったりしてた」
矢間「・・・今思えば、加奈子にプレッシャーをかけてたんだと思う」
矢間「インターハイ２日目、加奈子は岩場を無理に登ろうとして・・・足を滑らせて靭帯を損傷する大怪我を負った」
石塚ゆら「・・・先生のせいじゃないですよ」
矢間「わかってる」
矢間「でも・・・俺があんなにインターハイにこだわってなければ、俺があんなに優勝しようなんて言わなければ」
矢間「加奈子は無理せずにいられたんじゃないか、今も山に登れたんじゃないか」
矢間「──そう思ってしまうときもある」
石塚ゆら「・・・」
矢間「まあ、つまり・・・」
矢間「お前には、加奈子みたいになってほしくないんだ」
矢間「無理はするな」
矢間「誰かに何かを言われても、気にするな ──俺はお前を信じてる」
矢間「お前も・・・お前を信じてやれ」
石塚ゆら「先生・・・」
矢間「じゃあな」
石塚ゆら「・・・」
石塚ゆら（照れてるし・・・）
石塚ゆら「・・・」

〇カウンター席
　　──少し離れた席
サヤカ「・・・」
エリ「あいつ、また教師に色目つかってんの？」
マキ「けっこうイケメンだったね～ ・・・サヤカ？」
サヤカ「・・・」
サヤカ「ほんと、変わってない・・・ いつもいつも・・・周りに応援してもらって当然みたいに笑って・・・」
サヤカ「叩きつぶしたはずなのに・・・」
サヤカ「なんでよ・・・!!」