デスゲームに参加したくないので小料理屋始めました!

AAKI

予約7.宇古 鶏太とホットドック(脚本)

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〇広い厨房
  男たち2人は、何を聞かされているのだろうと言いたげな顔で女性たちを見る。
宇古 鶏太「止めなくて良いんっすか?」
  一応は客商売だろうと、彼女らを御せる可能性のある葉大にすがる。
朝生 葉大「まぁ、往々にして趣味の世界とは理解しがたいものなんですよ」
宇古 鶏太「そういう問題じゃ・・・」
  もう諦めている様子の葉大のことを諦める鶏太。
根木 薫「ま、乗ってやろうじゃん」
  否応なく話は続く。
根木 薫「あたいのときは身勝手なばぁさんだったよ」
根木 薫「良くいるって話だとつまらないヤツとでも言うべきなのかもな」
  薫は渋々と言いつつもスラスラと話していく。
  似たような目的、そして似通った趣味のこととなるとついつい自分語りをしてしまう。
  上手く引き出した鴨姫の勝ちで良いだろう。
根木 薫「自分の考えが正義で普遍だと思ってるような頭の固い年寄りは、まぁ40点――及第点ってとこ」
根木 薫「自分の正義が通じなくなった段で、浮かべる表情は最高だったけど」
  表情にこそ出ていないが声音はやはり享楽的で狂気的にトーンが乱高下している。
  鴨姫とは違う別のベクトルなのはもはや明らかだ。
宇古 鶏太「え、えっと・・・何かすぐに作れそうなものを1つ」
  自分はもう関わりたくないと、1人で注文をしてくる。
  それ自体は構わないが、何をと言われても困る。
朝生 葉大「うーん、何を作りましょうかねぇ」
  さすがに薫に狙われかねないので食糧室には出ていけない。
  残された食材はキャベツ、ソーセージ、少々の調味料。
  そして、適当だったのでなぜ入っているのかわからないコッペパン。
朝生 葉大「そう言えば野球、お好きなんですね」
宇古 鶏太「え?」
宇古 鶏太「あぁ、そうっすね」
宇古 鶏太「こう見えても高校球児だったんっすよ」
  そう答えるにつれて元気を取り戻して行く。
宇古 鶏太「まぁ、今では草野球と野球観戦が趣味の土木作業員っすよ」
宇古 鶏太「あ、あの小谷翔のホームランボールも――まぁ、自慢は良いっすよね」
  料理ができるまでの間にざっくりそんな話をするのだ。
  そして料理はできあがった。
  軽くフライパンで温めたコッペパンに縦の切れ込みを入れ、炒めたソーセージとキャベツを挟んでケチャップとマスタードをかけた。
宇古 鶏太「ホットドックっすか?」
朝生 葉大「はい、球場に行かれるならこういうのもお好きかなと」
  今の材料ではさすがに同レベルのものは作れないですが、と付け加え提供した。
宇古 鶏太「トーキョードームのホットドックが美味しいんっすよねぇ!」
宇古 鶏太「あ、でも、店長のものも負けてないっすよ」
  とってつけたようにも思えるタイミングだが、一通りの料理を食べ終えてなお数個を平らげた姿は正直といえる。
宇古 鶏太「ソーセージは全体に火を通しつつも噛み切ったときの音がするようになってるし」
宇古 鶏太「キャベツもシナシナになるまで炒めてるのに程よく歯ざわりが良い」
宇古 鶏太「ケチャップとマスタードの塩梅もよし」
宇古 鶏太「あげくにはパンも中身の食感を邪魔しないようにしつつも、湿気でフニャフニャにならないよう温める気遣い」
宇古 鶏太「いやぁ、どれもこれも気遣いつつも素晴らしい味を出していているっすね」
宇古 鶏太「ビールがないのが残念でしかたないっす」
  気を取り直したのかツラツラと感想を述べてくる。
朝生 葉大「ありがとうございます」
  その辺りで、鴨姫たちの話も終わりのようだった。
芹沢 鴨姫「満足できたようで何より」
根木 薫「お前の働きじゃねぇだろ」
  相変わらずの言い草に薫は呆れてツッコミを入れる。
芹沢 鴨姫「やぁ、葉大の料理効果かな」
芹沢 鴨姫「皆、口が軽くなってくれて嬉しいよ」
  鴨姫は他人事のように言って笑う。
根木 薫「チッ、ペテンを使ったくせに・・・」
  上手いこと話を引き出されたのを忌々しげにつぶやく。
  これ以上は付き合いきれないと、本来の目的を放り出して立ち去ろうとする薫。
根木 薫「いい加減、まともに戦いえよな」
芹沢 鴨姫「大丈夫、大丈夫」
芹沢 鴨姫「次はちゃんと殺り合うよ」
  一応、ちゃんと約束はする。
  それもまた話術の1つなのではと薫は疑っているようだ。
根木 薫「どーだがか」
  それまで言うとさっさとキッチンを出ていった。

〇スーパーの店内
宇古 鶏太「そんじゃ、俺はこれで失礼するっすね」
  薫が出ていってから5分くらいして、鶏太はそう言うと食糧室の方から出ていこうとする。
宇古 鶏太「ぐぇっ!」
  その首根っこを掴まれ、鳥の鳴き声みたいな悲鳴を上げた。
宇古 鶏太「ゲホッ!」
宇古 鶏太「ゴホッ・・・なんっすか姉さん・・・」
芹沢 鴨姫「逃さないよ」
宇古 鶏太「な、なんっすか・・・!?」
宇古 鶏太「まさか、俺を殺そうっていうんっすか!?」
  鴨姫に引き止められ、迂闊にキッチンから出たことを後悔しているようだ。
芹沢 鴨姫「いや、今は見逃すよ」
宇古 鶏太「じゃあ・・・」
  鴨姫は鶏太を安心させるように言うが、やはり疑いは拭えない。
芹沢 鴨姫「まぁまぁ、そう怯えなさんな」
芹沢 鴨姫「鶏ちゃんには1つ頼みたいことがあるんだよ」
  またしても意外なようで意外ではない言葉がでてくる。
  その言葉をすぐに飲み込めないのは鶏太だけだ。
宇古 鶏太「頼みたいことって、なんっすか・・・?」
芹沢 鴨姫「鶏ちゃんは乱暴なところこそあっても、なんだかんだで人と仲良くなることに関しては私よりも少し上手だからね」
  少し?――彼女を知る者は誰もがそんな疑問を覚えたに違いない。
宇古 鶏太「あ、はは・・・そんな大役をありがたいっす?」
  とはいえ、あながち間違いでもないため否定しきれなかった鶏太。
  しかし、そこまでする必要があるのかと葉大は考える。
朝生 葉大「気になるんですが芹沢さん」
朝生 葉大「いったいどういう意図なんです?」
芹沢 鴨姫「察しが悪い・・・というと申し訳ないかな」
芹沢 鴨姫「えーと、逆に聞くけど、件の公園での出来事はどれくらい知っているかな?」
  葉大の問いに、気遣いつつ説明すべき内容を選ぶ。
  さらには質問を返してきた。
  されど、そこまで詳しい話など覚えていない。
朝生 葉大「いえ、未解決のままだったかくらいで終わったということしか?」
芹沢 鴨姫「客商売で世俗に疎いのは考えものだね」
  素直に答えるもからかうように言ってくる。
芹沢 鴨姫「ごめん、ごめん」
芹沢 鴨姫「それだけ料理に全力投球なんだろうからね」
芹沢 鴨姫「さておき、未解決という点は確かだね」
  まずは正解した部分には拍手。
芹沢 鴨姫「通り魔的な事件として犯人は見つかっていない」
芹沢 鴨姫「だから、私たちはこうしてデスゲームに参加させられているわけだ」
芹沢 鴨姫「しかし、考えてもみたことはないかい?」
  奇妙な問い。
芹沢 鴨姫「こんな手の込んだことをするくらいなら、容疑者を1人ずつ尋問した方がいくらか簡単だろうに、と」
  続く解答に、葉大と鶏太は顔を見合わせて納得した表情を作る。
  なんとか騙していたりしているのだろうが、2人の大男というエキストラだっていて無理がありすぎるのだ。
芹沢 鴨姫「詳しい理由は復讐者当人に聞かないとわからないけれど、館の構造から予測はできる」
  チラリと、カメラで見聞きしているであろう主催者に視線を送る鴨姫。
芹沢 鴨姫「個室を除けば出入り口は2つ以上存在し、多くは2箇所」
芹沢 鴨姫「奥さんに非道を働いた犯人は単独ではないと踏んでいるんじゃないかな?」
  鴨姫の推測に対する解答はなかった。
  しばしの沈黙の後、わずかな返答が返ってきた。
主催者「それは、全てが暴かれたときにね」
  声に変化はないものの、それこそが正直な答えのようにも思えた。
  それ以後はまた沈黙を保つ主催者。
芹沢 鴨姫「まぁ、話を戻そうか」
芹沢 鴨姫「とりあえず、鶏ちゃんは仲良くなれる人と片っ端から仲良くなって話を聞いてよ」
宇古 鶏太「ずいぶんとアバウトな指示っすね?」
  鴨姫に言われるも、具体性がなく学のあるなしなど関係なくわけがわからなかった。
芹沢 鴨姫「何でも良いのだよ」
芹沢 鴨姫「いざというとき話ができないと困るからね」
  おおよそなるほどとなる答えである。
宇古 鶏太「わからなくはないっすけど・・・なんか操り人形にされてる感じ?」
芹沢 鴨姫「酷いなぁ」
芹沢 鴨姫「まぁ、命を握っているから間違いでもないか」
宇古 鶏太「うげ・・・」
  鴨姫にとっては冗談のつもりなのだろうが、本当に身の危険を感じている側からはジョークではすまない。
宇古 鶏太「わ、わかったっすよぉ~」
  脅されているとはいえ、裏を返せば従っている間は殺されないということだ。
宇古 鶏太「ほんっと、襲ってこないでくださいっすよ?」
芹沢 鴨姫「大丈夫、大丈夫」
  鶏太に安心しろと笑いかける鴨姫。
  その日は、葉大にこそ仕事は残っていたが、特に新しい情報もなく過ぎていく。

次のエピソード:予約8.フカ野 海斗と冬瓜のスープ

コメント

  • このデスゲームの真相究明と犯人解明に向けて、作中キャラクターたちも動き出しましたね。今後の展開は見逃せないですね!
    今回のお料理・ホットドッグですが、思うに不思議な食べ物ですよね。仮に単体では微妙な素材たちでも、ホットドッグにすれば食べられてしまいますし。本作のように丁寧な仕事をすれば、急に美味しさのグレードも上がるのも魅力ですよね。あー、ケチャップとマスタードがドバドバのを作りたくなりますw

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