第十五話「演劇はチーム戦」(脚本)
〇体育館の舞台袖
小山内陽菜「智治・・・間に合うかな」
海東三鈴「ここまで来たら、信じるしかないっしょ!」
摂津亜衣「なあ、それよりお客さんどれくらい来てるんだ?」
海東三鈴「そりゃあんだけ宣伝したんだし、満席じゃない? 立ち見もいるかも」
小山内陽菜「あんたはなんでも楽観的すぎるの」
青野沙也加「幕間からせーので覗いてみる?」
海東三鈴「賛成!」
青野沙也加「じゃあ行くよ。せーの」
四人が幕間から客席を覗き込む。
客席はガラガラで数人しかいなかった。
海東三鈴「どうして・・・」
摂津亜衣「・・・やっぱり、いくらなんでも急すぎたのかな」
小山内陽菜「せっかく頑張ってきたのに、お客さんが全然いないんじゃ意味ないよね・・・」
青野沙也加「みんな・・・・・・前を向こう!」
青野沙也加「ちゃんと胸を張っていい芝居をしよう。 今来てくれているお客さんのためにも」
青野沙也加「そして全部終わった後、私たちが私たち自身を誇れるように」
海東三鈴「・・・うん。賛成!」
摂津亜衣「そうだな。落ち込んでもしょうがない」
小山内陽菜「わかった! 今、私たちができる全力で取り組もう!」
そして開演のブザーが鳴った。
〇花模様
第十五話「演劇はチーム戦」
〇体育館の舞台
サワコ「高校一年生の春。 私たちは、学校の裏山にいた」
サワコ「そこには、見渡す限りの桜が咲いていた」
ハル「私たちはそこで、同じ演劇部になる仲間たちと出会った」
イチカ「四人は性格も好みもバラバラだった」
ヒナタ「サワコ、ハル、イチカ、ヒナタ」
サワコ「いつも喧嘩ばかりしてる私たちだけど、この日、たった一つだけ約束をした」
ハル「三年後、卒業式の日もここに集まろうって」
イチカ「まだ何者でもない私たちだけれど」
ヒナタ「何者になれるかもわからないけれど」
サワコ「みんなと一緒だったら、怖くない」
〇体育館の舞台
桐島優「お姉ちゃん! テンポ良くて気持ちいい掛け合いだよね?」
桐島香苗「別に・・・普通でしょ?」
桐島優「でもオリジナルってなると、やっぱりこの後の展開が大事かな」
桐島香苗「まあ、お手並み拝見ってところかな」
〇体育館の舞台袖
物語が進み、ステージは陽菜と亜衣の二人きりになった。
ハル(陽菜の演じるヒナタが、同じ部活の女友達に告白する大事な場面・・・ここが大事なとこだよ!)
〇体育館の舞台
ヒナタ「私・・・」
感極まり、陽菜は言葉に詰まる。
ヒナタ「私・・・私、イチカのことが好き」
その瞬間、劇場の空気が変わった。
観客が陽菜の勇気を讃えるように、小さな安堵の息を漏らす。
イチカ「ヒナタ」
ヒナタ「最後に面と向かって、きちんと伝えておきたかった」
桐島優(不安とか口にしてたのに・・・こんなにいい演技できるんだ)
〇体育館の舞台
物語は進んでクライマックスへ向かう。
ステージ上に四人が出揃った。
サワコ「でさ、半年くらいガムシャラにバイトと勉強して、海外に行こうかなって!」
「海外!?」
サワコ「ほら、私、ミュージカルがやりたいから」
サワコ「やっぱりアメリカとか本場に行ったほうがいいなって思ったの」
ハル「本気なの!?」
サワコ「うん。九月入学のところも多いし、これから半年で準備できるでしょ?」
サワコ「もし間に合わなかったらその次だって、またその次だっていいしさ。あはは」
笑いながら涙を流してしまう三鈴。
それを見て一同がハッとする。
ハル(稽古の時は泣いたりしなかったのに・・・)
ハル(台詞は明るいけど、感情が真逆に行ってるんだ。これがサワコというキャラクターの光と闇──)
思わずもらい泣きをする陽菜と亜衣。
ヒナタ「そっかそっか・・・サワコなりにいっぱい考えたんだよね」
イチカ「悪くないと思う・・・いや、サワコらしくてすごくいい」
会場がどこか温かく、優しい空気に包まれる。
ハル「サワコ──」
言いかけて、沙也加は言葉に詰まる。
沙也加の視界に、客席の後方で険しい顔をしている女性の姿が映った。
青野寿子「・・・・・・」
ハル(お母さん!? なんで──)
陽菜と亜衣も沙也加の異変に気付いた。
微妙な沈黙が会場に流れる。
ハル「サワコ、私・・・」
沙也加の額に冷や汗が滲む。
呼吸が荒くなり、意識が朦朧としてくるのを感じる。
ハル「ハァ・・・ハァ・・・」
ヒナタ(沙也加、台詞!)
イチカ(どうした、沙也加・・・!)
沙也加が再び客席を見ると、寿子の姿は消えていた。
ハル(そうだよ・・・お母さんがこんなところに来るはずがない)
ハル(あんなの幻に決まってる・・・!)
三鈴も困惑し、観客も異変に気付き始めたそのとき──
〇ベビーピンク
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