最強怪人に転生したら、なぜか婚約破棄されて追放された、意味がわからない。

aza/あざ(筒示明日香)

最強怪人はこの理不尽を説明してほしい(脚本)

最強怪人に転生したら、なぜか婚約破棄されて追放された、意味がわからない。

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〇魔物の巣窟
ダーククリムゾンハーツ「シャドウハーフ! 貴様に婚約破棄を申し渡す!」
シャドウハーフ「・・・・・・」
シャドウハーフ(何言ってんだ? コイツ)
  シャドウハーフは、考えていた。
シャドウハーフ(意味が、わからない・・・・・・)
  ・・・・・・

〇お嬢様学校
女子高生「先輩! ご機嫌よう!」
シャドウハーフ(前世)「ええ、ご機嫌よう」
女子高生「はわー! 先輩に挨拶返されちゃった!」
シャドウハーフ(前世)(元気なものね)
  前世で、私は────怪人シャドウハーフは、一人の女子高生だった。
  少子高齢化のこんな世の中でも、未だ合併の噂すら聞こえて来ない、巷でも有名なお嬢様学校に通っていて。
  それなりに優秀な成績を修める私は、それなりに周囲に認められ生きていた。
シャドウハーフ(前世)(まぁ、とは言っても、中身はごくごくイマドキ普通の女子高生なんですけどねー?)
シャドウハーフ(前世)(表向きはともかく、“マジ”とか“ガチ”とかも使うし)
シャドウハーフ(前世)(親も使い分けているから厳しく言わないし、ね。外では上品振ってるけどー)
  だとしても、外面を徹底した私の評価は、変わらない。私はお嬢様学校の優秀なご令嬢な訳だ。
他校の男子生徒「好きです! 付き合ってください!」
  時に行き過ぎた好意を寄せられる程に。
先生「あ! そこ! 他校の生徒が、ウチの学校でいったい何してるんだ!」
  私が困っていると、たまたま見回りか、通り掛かった先生が気付いて近寄って来た。
他校の男子生徒「あ、やべっ!」
他校の男子生徒「逃げろ!」
  先生に見付かった男子高生は、一目散に逃亡を図る。
先生「あ、こら! 待ちなさい!」
  先生も逃げる男子高生を追い掛けて、行ってしまった。
  この光景に、私は苦く笑いが洩れる。
  こんなことは日常茶飯事だ。それに彼はまだマシなほうだった。
  学校の敷地内に侵入したことはゆるされないが、先生に発見されて逃げ出すだけ良心的なほうだ。
  酷いと、家まで付き纏われたり、先生がいても向かって来たり。
シャドウハーフ(前世)(怖い思いをしたことだって、一度や二度じゃ無いもの)
  だから、私は体を鍛えていた。空手や合気道、柔道と・・・・・・なるだけ打ち込んだ。コレでも女子空手部の部長なのだ。
  学校の生徒に絡む不良を叩きのめしたことも在った。ある程度の相手なら戦えると、本気で信じていた。
  これが過信だと悟ったのは────
シャドウハーフ(前世)「ぇ・・・・・・」
  為す術無く、通り魔に命を奪われ、死んだあとだった。
  ・・・・・・

〇魔物の巣窟
ダーククリムゾンハーツ「聞いているのか! シャドウハーフ!」
シャドウハーフ(しまった)
シャドウハーフ(余りの衝撃から現実逃避が過ぎて、ついうっかり前世の記憶にまで辿り着いてしまった・・・・・・)
シャドウハーフ(・・・・・・こんなこと在る?)
  だって致し方在るまい。
ダーククリムゾンハーツ「シャドウハーフ!」
  目の前の相手が、訳わかんないことを、喚き散らしているモンだから。
  相変わらず、相手は何やら言っているが、およそ正気ともシャドウハーフの理解が及ぶ内容とも思えなかった。
シャドウハーフ「・・・・・・一つ訊きたいんだが」
ダーククリムゾンハーツ「何だ」
シャドウハーフ「・・・・・・婚約、とは、何だ?」
ダーククリムゾンハーツ「はぁ? 婚約を知らんのかっ」
ダーククリムゾンハーツ「婚約とは、将来を約束した者が結ぶもので、」
シャドウハーフ「いや。そう言う話じゃない」
  誰が婚約と言う単語の意味を訊いたと言うのか。
シャドウハーフ「そんな一般的な意味を尋ねているのでは無い」
シャドウハーフ「私が問うているのは、いつ、貴様と私が婚約をしたのかと言うことだ」
シャドウハーフ(て言うか、在るのかこの世界に、婚約なんて概念)
  通り魔に抗うことすら出来ず殺され、忸怩たる思いから、力を求めた。
  怨念とも呼べる一念が天に届いたのか、シャドウハーフは怪人の世界へ生まれ変わっていた。
  力こそ、すべて! 脆弱な人間では得られない、種としての強さを文字通り身に着け、シャドウハーフは生まれ落ちた。
  生まれながら頑強な肉体の、完璧な怪人へ!
シャドウハーフ(・・・・・・だと言うのに・・・・・・)
シャドウハーフ(婚約って何ぞ? 生まれて十と幾年。初めて聴いたわ)
  そもそも怪人の世界に性別は無い。なぜなら、生殖行為が無いからだ。
シャドウハーフ(せいぜい在っても真似事か、そこらの話だ)
シャドウハーフ(“さすがあの、グローバル経営で世界を沸かす会社社長のご令嬢”と讃えられた、前世ですら無かったよ?)
シャドウハーフ(婚約とかさー)
  硬めの皮膚で寄ることも出来ない眉間の皺を、心中で刻みながら、シャドウハーフは考える。
ダーククリムゾンハーツ「なっ・・・・・・」
  シャドウハーフの投げた疑問に、ショックを受けたみたいに相手がよろめく。
ダーククリムゾンハーツ「以前、私とフュージョンする約束をしただろうが!」
  相手の言葉にシャドウハーフは、
シャドウハーフ「・・・・・・ああー・・・・・・」
  そう言えば、と思い出していた。
  ・・・・・・

〇岩山の中腹
ダーククリムゾンハーツ「シャドウハーフ!」
シャドウハーフ「何だ」
シャドウハーフ(誰だ・・・・・・? 知らない顔だな)
ダーククリムゾンハーツ「私とフュージョンし、次世代を造ろう!」
シャドウハーフ「・・・・・・」
シャドウハーフ(何か喋っているみたいだが、強風のせいで聞こえんな・・・・・・)
ダーククリムゾンハーツ「シャドウハーフー!」
シャドウハーフ(何か叫んでる・・・・・・呼んでるのか? よく聞こえないが、まぁ良いか)
シャドウハーフ(フュージョンがどうとか言っている気がしたけど、適当に返しても問題在るまい)
シャドウハーフ「ああ、わかったわかった」
  あとでな、と続けた返答が相手へ届いたか否かは、背を向けていたシャドウハーフには判然としなかった。
  ・・・・・・

〇魔物の巣窟
シャドウハーフ(言ってたわー。今、思い出したわ)
  シャドウハーフが持って生まれた強さに溺れず修行に没頭していた時分、何か言っていたヤツがいたなと。
  シャドウハーフは、フュージョン、の語彙で想起していた。
  『フュージョン』、とは、怪人の世界で言う、言わば“子作り”だ。
  自分たちの遺伝子情報を内包したもの、多くは血液などだが、それらを『卵』と呼ばれる“核”に入れ、混合する。
  こうして怪人たちは、己が強い因子を次世代に継がせ、より強力な個体を幾星霜も創り上げていた。
  同種と継ぎ合わせても良いが、基本は他種族の怪人と継ぎ合わせるのが通常だった。
シャドウハーフ(弱点を補うためにも、そのほうが利点が多いから)
  かく言うシャドウハーフも、元は蠍と蜂の因子を持つ怪人がフュージョンして生まれた個体だ。
  またコレは余談だが。更に一つ前、親に当たる蜂の怪人は蜘蛛の怪人との継ぎ合わせで、
  シャドウハーフには毒耐性、毒付与、糸生成に空中固定のスキルも受け継がれていた。
シャドウハーフ(まぁ、毒に関しては蠍も蜂もお家芸だし、蠍は蛇の因子も在ったらしいから、蜘蛛だけの恩恵では無いけどね・・・・・・)
シャドウハーフ(あとお爺ちゃんかお婆ちゃんか知らんけど、)
シャドウハーフ(私、蜘蛛が死ぬ程駄目なんだよね・・・・・・)
  前世では唯一の弱みが蜘蛛恐怖症《アラクノフォビア》だったシャドウハーフ。
  何の因果か、現世ではその遺伝子を継いでいるのだから、皮肉なものだった。
  シャドウハーフが思いを馳せていると。
ダーククリムゾンハーツ「聞いているのか! シャドウハーフ!」
  再度焦れた風に相手が怒鳴った。
シャドウハーフ「・・・・・・あー、聞いてる聞いてる」
  如何にも面倒臭そうに、シャドウハーフは返す。だんだん、この訳がわからない状況にダレて来たのだ。
シャドウハーフ(あんときフュージョンどうのって、何か言ってたの、コイツかー)
シャドウハーフ(あとでな、つったのにもういなかったし、秒で忘れたんだよ。こっちは)
  最早やる気の失せたシャドウハーフ。更に。
シャドウハーフ(てかコイツ誰?)
シャドウハーフ(あの修行場は、弱いヤツは来れないから、強いは強いんだろうけど)
シャドウハーフ(誰なんだろ。崖を昇る風に紛れてて、半分くらい聞き流してたからなぁ)
シャドウハーフ(つか、“フュージョン”を約束することを『婚約』って言うの? 初めて知ったんだが)
  一等の疑問はそこ、だった。ぶっちゃけシャドウハーフには相手が誰だろうと関係無い。
シャドウハーフ(だって興味が無いからな)
  どこの誰でも良いが、何で衆人環視の中でこんなことせにゃあならんのだ
  それがシャドウハーフの気持ちだった。
シャドウハーフ(言うてここ、フュージョンの卵が在るとこだからな)
シャドウハーフ(え、まさか待ってたの? 待ち草臥れてやさぐれてこんなこと言い出したとか?)
シャドウハーフ(え、たまたま通り掛かっただけなんだけど、待ってたの?)
シャドウハーフ「え、キモ・・・・・・」
ダーククリムゾンハーツ「は? 何か言ったかっ?」
シャドウハーフ(あ、やべ)
シャドウハーフ「いや何でも・・・・・・」
  口から本音が洩れたようだ。相手は苛々しているが、シャドウハーフにはどうしようも無い。
シャドウハーフ(────ええと、何だろうな)
シャドウハーフ(コレ、いったい全体どうやって収拾着けたら────)
  マスクタイプの顔面で窺い知ることは出来ないが、歯噛みしているのが、シャドウハーフにはわかった。雰囲気で。
  どうしたら良いんだろうかーとシャドウハーフが膠着状態に入って悩んでいたとき。
「待ってください!」
  どこからか、覚えの無い高い声が割り込んで来た。
ダーククリムゾンハーツ「おお! 来たのか!」
  覚えが無かったのは、シャドウハーフだけだったそう。あ、そう。
デルフィニウム「私のために! 争わないで!」
シャドウハーフ「誰だよ────!」
  今度は小柄な、およそ怪人とは思えない者が現れた。
  最早カオスだ。少なくともシャドウハーフの中では。
ダーククリムゾンハーツ「威嚇するんじゃない! 怖がっているじゃないか!」
シャドウハーフ「威嚇なんかしとらんわ! 突っ込んだだけだわ!」
ダーククリムゾンハーツ「突っ込むだとっ? 卑猥な!」
ダーククリムゾンハーツ「見損なったぞ、シャドウハーフ!」
シャドウハーフ「いやもう何が!?」
  シャドウハーフは考えた。
シャドウハーフ(削れる・・・・・・何かが削れる・・・・・・SAN値が削れる・・・・・・!)
  シャドウハーフは唇が無いのに、下唇を噛みたい気分だった。
  何もわからないまま、かなりの距離まで置いてけ堀を食らって、未だ引き離されている。そんな気がした。
シャドウハーフ(相互理解って知ってる・・・・・・?)
シャドウハーフ(・・・・・・────取り敢えず)
シャドウハーフ「誰?」
ダーククリムゾンハーツ「ははは、可愛かろう?」
シャドウハーフ「いや、会話して。誰かって訊いているんだが」
ダーククリムゾンハーツ「むっ。何だ貴様は。もっと言い方が在るだろうが」
  難癖を付けたくせに、どうやら紹介はしてくれるらしい。こほん、と口の場所も不明なくせに顎ら辺へ拳を宛て咳払いし、話し出す。
ダーククリムゾンハーツ「この者は、デルフィニウムと言う。植物系怪人だ」
  心成しか弾んだ声調に、ほぉーんと醒めた反応をする。心底どうでも良い。
シャドウハーフ(デルフィニウム、ね。そう言や、そんな名前の花が在るな)
ダーククリムゾンハーツ「こやつは見てわかる通り可愛くてな。何より可愛くてな」
シャドウハーフ(真面目にどうでも良い)
  シャドウハーフの生ぬるい態度に気付きもせず、滔々と紹介は垂れ流される。淀み無く。
ダーククリムゾンハーツ「可愛くて可愛くて。走れば躓き掛け、物を任せれば壊し、」
シャドウハーフ(ナチュラルボーンクラッシャーってヤツ? 制御出来ない程強いとかなのか?)
シャドウハーフ(そうは見えないが・・・・・・)
  可愛い、と言うのは同意する。外見は人型、しかも儚げな美少女だ。
シャドウハーフ(肢体は華奢だし、手首足首なんか折れそうだけど)
  怪人は、外貌なんか当てにならない。筋肉の量が少なくとも、質が柔軟で強靭なことも在る。
シャドウハーフ(骨も、細くても柔靭で頑丈で在るなら可能だろう。限度は在るだろうけど)
シャドウハーフ(もしそうなら、滅茶苦茶羨ましい)
  可愛くて最強。現世の姿や強さに文句は無いけれど、元が女子高生だっただけに、惹かれるものが在った。
  ・・・・・・などとシャドウハーフは推考していたが。
ダーククリムゾンハーツ「擦り傷切り傷も作ってしまうし、やらかしたあとの泣き顔が、放って置けなくてなー」
シャドウハーフ(うん、何か違うっぽいな?)
  この言い分から、聞く限り“強過ぎて目が離せない”とかとは、違うようだ。危なっかしくて放置出来ないなど・・・・・・。
シャドウハーフ(赤ん坊に言うみたいだ)
ダーククリムゾンハーツ「こんな細身だし、いつか壊れそうで・・・・・・実際怪我も在るしなぁ。私が守ってやりたいのだ」
シャドウハーフ(はい、決定打ー! つまり“可愛くて『か弱くて』仕方ない”って話だったわー)
  シャドウハーフは、一気に興味を失った。美少女姿が擬態の、最強個体ならまだまだ聴く気も起きたのに。がっかりだった。
シャドウハーフ「で?」
  関心の失せたシャドウハーフ。早く茶番が終わらないかなと明後日を眺めていた。
ダーククリムゾンハーツ「ん?」
シャドウハーフ「それで何だ?」
ダーククリムゾンハーツ「あ、ああ! ゆえに! 貴様とは婚約破棄だ!」
ダーククリムゾンハーツ「私は、このデルフィニウムとフュージョンする!」
シャドウハーフ「あっそー」
シャドウハーフ(くっそどーでも良いわー。忘れてたんだから、そっちでやってくれよ)
  余りに面倒臭い上、無関係も良いところの話で、シャドウハーフはだんだんやさぐれて来た。修行に戻りたい。
シャドウハーフ(しっかし、コレとねー・・・・・・)
  強さが正義の怪人世界で、脆弱極まる個体とフュージョンと言うのは、かなり奇特だった。
シャドウハーフ(弱体化の恐れも考慮したら、有り得ない選択肢だからな)
シャドウハーフ(こう考えると、もしや植物怪人だし、幻覚なんかが使える種とかなんだろうか)
  デルフィニウム、と言う名を冠した植物は、アルカロイド系の毒を含んでいた。
シャドウハーフ(毒に耐性が在っても、幻覚や興奮とかの毒性には弱いパターンも在る)
シャドウハーフ(そんな弱点を有していて、身体能力が高く頑健な個体を籠絡するのもまた戦略で強みだしな)
  とは言っても、アルカロイド系にも様々在るから一概に幻覚作用が在るとは言えないし、
シャドウハーフ(花のデルフィニウムは、幻覚じゃなかった気がするんだけど)
  同名だからって、このデルフィニウムと言う美少女型怪人が、まんまの特質を継いでいるとも限らない。
シャドウハーフ(・・・・・・まぁ、何にしてもだ)
シャドウハーフ(私、どこまでも関係無いわぁー・・・・・・マジで無関係だったわー・・・・・・)
  シャドウハーフにとっては、勝手にしやがれ案件だった。
  だけども、あくまで他人事と脳内で処理していたシャドウハーフを、あくまで相手は逃す気が無いそうだ。
ダーククリムゾンハーツ「だので、貴様を追放する! シャドウハーフ!」
シャドウハーフ「何でだよー!!」

〇魔物の巣窟
  意味がわからなかった。何で追放?
シャドウハーフ(しかもどこっ?)
  開いてない口は塞ぎようも無いが、口が開いても塞がらないだろう。突飛が過ぎる。
  だが絶句するシャドウハーフを置き去りに、相手は話を進めた。初めから変わらないマイペース振りだ。誉めてない。
ダーククリムゾンハーツ「貴様が、可愛いデルフィニウムを脅かしても困るのでな! 私の権限で追放させてもらう!」
ダーククリムゾンハーツ「地球にな!」
シャドウハーフ「地球っ?」
シャドウハーフ「ふっざけんな!」
  場所を聞き、シャドウハーフはガチギレだった。だけど、相手は意にも介さない。
ダーククリムゾンハーツ「ふ、嫉妬に狂った貴様がデルフィニウムに何を仕出かすかわからんからな! 当然の処置よ」
ダーククリムゾンハーツ「やれ!」
  相手の高らかな号令と共に、数人の怪人が現れ複数がシャドウハーフが取り押さえると、一人が手を翳す。
側近2「シャドウハーフ、・・・・・・御免!」
  絶句の不意を衝かれ、不覚を取ったシャドウハーフ。
シャドウハーフ「くっ・・・・・・!」
  瞳が通常の碧から力を解放する橙に変わるも、取り押さえる怪人たちも手練れで重量級タイプなのか、簡単には振り解けなかった。
シャドウハーフ「・・・・・・っ様ら! 地球への追放なのだぞ! おかしいとは思わんのか!」
側近3「我らとて、理不尽だとは思うのです! だが属する流派の手前、従わない訳にもいかんのです!」
シャドウハーフ「いや、理不尽以前に異常だろ! 貴様らの上層はどうなんだ! こんなことがゆるされるのか!」
側近1「ダーククリムゾンハーツ様は我らが流派の次期頭領になられる方ですので・・・・・・無碍には出来んのです」
シャドウハーフ(あー、アイツ、『ダーククリムゾンハーツ』って名前だったのかー・・・・・・。言われてみれば、胸元のヤツがハートの形してるわ)
シャドウハーフ「じゃなくて!」
シャドウハーフ「貴様ら正気か!? 地球行きと言えば、実質の永久追放だぞ!」
  怪人世界と地球と言う惑星は次元で隔てられている。行き来にも次元移動能力を持つ怪人が不可欠で、
  物の輸送だけでも、次元転送能力を持つ怪人が必要だった。誰もが自由に渡れたり物を送ったりは不可能なのだ。
  要するに、一度送り出されてしまえば、あちらに次元移動する手立てが無い限り到底戻ることは叶わない。
  こんな不可逆の地への追放なぞ、使用用途はただ一つ。
シャドウハーフ「罪人でもない者を送り出すなど、正気の沙汰ではない! 目を醒ませ!」
  ・・・・・・そう。詰まるところ、罪人共の流刑だ。
  加えて、怪人世界は弱肉強食。強者が法だった。
  流刑に処される怪人は、皆、秩序から脱落した弱者なのだ。
  地球を襲う悪の組織や怪人は、怪人世界でやって行けず罪を犯し堕ちた結果、最弱の世界で一旗揚げようとした者たちだった。
シャドウハーフ「そんな中に私を入れるだと! 冗談じゃない!」
  地球への流刑は罪人で、弱者。
  コレが常識の世界で今回の追放など、日々鍛え自己研鑽に勤しんでいたシャドウハーフには度し難いものが在った。
シャドウハーフ「くそっ! 放せぇえええ!」
  暴れるシャドウハーフ。が、無情にも次元転送能力者と思しき怪人の手が光り、シャドウハーフの足元にも光の円陣が現れる。
側近2「シャドウハーフ! しばしの辛抱です! いずれお戻りいただきますゆえ!」
シャドウハーフ「や、絶対嘘だろ! 向こうには手段も無いくせにどうやって・・・・・・!」
側近2「いえ・・・・・・実はダーククリムゾンハーツ様は何度も行かれてお戻りなのです・・・・・・」
側近2「そのせいか・・・・・・面妖な思想にハマってしまわれたようですが・・・・・・」
シャドウハーフ「は? じゃあまさかアレ、素なのっ? 婚約とか何とかも、アイツが被れたオタクってこと・・・・・・っ?」
側近2「某《それがし》にはよくわかりませんが、それらを口にしておられるのはダーククリムゾンハーツ様のみです・・・・・・」
シャドウハーフ「はぁああっ? ざっけんな、クッソがぁああああ!」
  咆哮するシャドウハーフ。けれども転送は終盤に差し掛かり、
  怪人たちが巻き添えにならぬよう引いた今、拘束は無いのに固定され、動くことは出来ない。
シャドウハーフ「ゆるさない! 絶対にゆるさな──────」
  轟く怒号を最後に、最強怪人シャドウハーフは消えた。
  あとには次元転送に因る歪みに揺れる景色と、
  人知れず、ダーククリムゾンハーツにも気取られず、可憐に微笑むデルフィニウムの姿が在った・・・・・・。

〇街外れの荒地
プラチナサンシャイン「プラチナサンシャインスライダー!」
「ぎゃあああああああああ!!!!」
  一人のヒーローが、怪人を倒していた。怪人はヒーローの強力な必殺技の前に爆ぜて散る。
  怪人が放った断末魔の残響が消失し、気配も無くなるとヒーローは変身を解除した。
  変身解除後、そこに立つのは戦闘服に身を包む精悍な青年。
  名を白鉄陽醒《しろがね ひさめ》と言う。
  とあるPMSC────いわゆる民間軍事会社が運営する、防衛組織のエリート隊員だった。
  適性が認められ対怪人戦闘用の改造人間となった白鉄は、日本支社の関東支部に属しており、担当は東京地区。
  日本でも人流も物流も過密な首都東京は激戦区で、白鉄の上げる事件件数も群を抜いていた。
  そして、近ごろは異常な達成率を誇っている。理由は・・・・・・。
白鉄 陽醒「・・・・・・おい」
白鉄 陽醒「いるんだろう・・・・・・出て来たらどうだ?」
  白鉄が、後背に呼び掛けると、かた、と音をさせ物陰から何者が出て来る。
影未「・・・・・・」
  大きな建物の陰から人影が分離するように、音も無く姿を見せたのは美しい女性だった。
白鉄 陽醒「・・・・・・」
影未「・・・・・・」
  しばらく、無声の睨み合いが続く。
  静寂を破ったのは、白鉄だった。
白鉄 陽醒「なぜ、お前は俺に助言をくれる? 何が目的なんだ・・・・・・?」
白鉄 陽醒「影未《えいみ》」
  影未と呼ばれた美女は、くすりと笑った。
影未「また、それ?」
  艶然と微笑する影未に刹那、白鉄は頬を赤らめるも、すぐに朱は引く。
  動じてなどいないと、誇示するみたいに。もっとも並外れた動体視力の影未には、余り意味は無かったが。
影未「お前は何も知らなくて良い」
影未「私は怪人に復讐を誓う者」
影未「それ以上でもそれ以下でも、ましてやそれ以外でも無い」
  影未は宣言すると、踵を返した。
白鉄 陽醒「ま、待て・・・・・・!」
  慌てて追うも、白鉄が建物の裏へ回ったときには、影未は影も形も無かった。
白鉄 陽醒「・・・・・・」

〇入り組んだ路地裏
  白鉄との逢瀬のあと、影未は一人路地裏を颯爽と歩いていた。
  “怪人に復讐を誓う者”。嘘ではない。
影未(ゆるさぬ・・・・・・絶対にゆるさぬ・・・・・・!)
  影未の瞳に、束の間、押し寄せる感情の荒波で橙の色味が差す。

〇黒背景
  彼女こそ、不当に地球へ追放されたシャドウハーフその人だった。
  今の影未の容姿は、シャドウハーフの体をリデザインしたものだった。
  リデザインとは、怪人が持つ特性の一つで、環境に合わせ自在に姿形を変えられる技のことだ。
  ただ相手の目を誤魔化す幻影から実体そのものを変容させるものと数多在るが────シャドウハーフのそれは実体を変えるものだ。
  実体をリデザインするには長い変態時間を有するが、その分、長期間の活動がし易くなる。
  便利なもので、元に戻るには変態の半分にも満たない時間で可能だった。切迫した状況で在れば在る程、生存のためか短縮される。
  怪人世界へ戻れないかもしれない、戻れるにしてもいつになるか先行き不透明な現状、シャドウハーフは実体のリデザインを選んだ。

〇入り組んだ路地裏
影未(性別の無い怪人で、まさか女性体になるとはね)
  性別は選ぶことは出来たが、敢えてシャドウハーフはそこまで細かく設定しなかった。なるだけ時間短縮を狙ったからだ。
  成り行きに任せたほうが早く変われると踏んだのだけど────三日掛けて変わったシャドウハーフは女性体だった。
影未(前世の記憶を思い出した影響かな。もしくは、質量変換の問題か)
影未(怪人時の質量、筋肉にもなったけど、大概胸やら尻やらに行ったからな・・・・・・)
  どんな経緯にしても、シャドウハーフにとっては構わなかった。
影未(怪人時の体じゃないなら、女性体のほうが動かし易くは在るからな。隠れ蓑にも最適だし・・・・・・復讐するにも丁度良い)
影未(前世で、悔しい思いをした。私の及ばない他人の身勝手で命を奪われた)
  だから、今度こそ容易く殺されない体に生まれ変わったのに。
影未(最強怪人に転生したら、なぜか婚約破棄されて追放された、)
影未(意味がわからないっ・・・・・・!)
  今度は、訳のわからない他人事の色恋沙汰に巻き添え食らって、尊厳を踏み躙られた。
影未(外野の痴話喧嘩に巻き込まれたぐらいなら良い。そこに絡んで、弱者のレッテルを貼られるなんて・・・・・・っ!)
  追放されたなら、もう面倒で奇っ怪なヤツらに煩わされないんだから、新しい生活をしたら良い。こう言う意見も在るだろうけれど。
影未(虚仮にされて、黙って終わらせるものか・・・・・・!)
  残念ながら、元来シャドウハーフはきっちりやり返さねば気が済まない性質だった。
  これこそ、前世から。
影未(さっぱり忘れてスローライフなんか、真っ平御免だ!)
  どうやらあのダーククリムゾン何ちゃら、地球のカルチャーに染まっていたらしい。
  婚約破棄だの追放だのと言う単語から考察するに、一世を風靡して一ジャンルを確立した、異世界転生物とかだろうか。
影未「だったら、お望み通りの展開にしてやろうっ・・・・・・!」
  異世界転生、異世界転移に多いのは婚約破棄や追放だけではない。
  ざまぁ、と言う、復讐展開物も多く実在する。
  シャドウハーフの────影未の現況は、言わずもがな異世界転生物だろうし。
影未「首を洗って待っていろ・・・・・・あんの、オタク怪人んんんっ!」
  小声で盛大に吐き棄て、影未は路地裏を早足で抜けた。
  影未の作戦は、とにかくヒーロー側の技術向上させ、手当り次第怪人を倒させて上位怪人と戦わせること。
  出来るならお忍びで来るオタク怪人・・・・・・
  もとい、ダーククリムゾンハーツに随伴する次元移動能力者を、捕縛することだった。
  だけれども、この企みは、思わぬ形で成功する。

〇坑道
ダーククリムゾンハーツ「なぁ」
モーザ・ドゥーグ「・・・・・・何でしょうか」
  主人に呼ばれたモーザ・ドゥーグは、半ば呆れていた。
モーザ・ドゥーグ(このところ、映像通信中継機を置いて地球をご覧になれるようにしたら、危ない外出は減ったものの・・・・・・)
モーザ・ドゥーグ(今度はそれに齧り付いて観る始末。私や周りが尻拭いに奔走していることを、この方はわかっておられないのだな・・・・・・)
  属する流派の中、何れ頭になるダーククリムゾンハーツに仕えるモーザ・ドゥーグは複雑な胸中を抱えていた。
モーザ・ドゥーグ(先日のシャドウハーフの件でもだ)
モーザ・ドゥーグ(彼の者が属していた流派や彼の者と懇意にしていた、あるいはしたかった者から大量の苦情が来ていると言うのに気にも留めていない)
モーザ・ドゥーグ(頭が痛い)
  強い者が法と言え、多種多様な生物、他者がいれば最低限の社会が生まれる。
  一見原始的に見える怪人の世界にも、秩序は在った。
  だとしても、やはり帰結するのは、強者優遇と言う一点なのだが。
  こうして他者が抗えない中で、暴君と化している主に頭痛を覚えるモーザ・ドゥーグ。
  黒妖犬の名を持つこの怪人は、主人の傍若無人に頭を悩ますも、忠実な犬らしくおくびにも出さなかった。
ダーククリムゾンハーツ「この、美しい女は誰だ?」
  ダーククリムゾンハーツが指すモニターの向こうでは、昨今目覚ましい活躍をするヒーロー、
  プラチナサンシャインが怪人を倒しているところだった。
  同じ怪人が問答無用処されている場面だが、ダーククリムゾンハーツもモーザ・ドゥーグも特に含むところは無い。
  なぜなら、地球の怪人は流刑にされた罪人なので、地球で処理されても何ら痛むことは無いからだ。
  何なら、自業自得とさえ思う。
  だので、ダーククリムゾンハーツもチャンネルを回したらたまたまやってた特撮作品を観る感覚で、観覧していたのだろうけども。
モーザ・ドゥーグ「・・・・・・女?」
  ダーククリムゾンハーツが指差すモニターには、変身を解いたプラチナサンシャインこと白鉄陽醒がいるだけで
  モーザ・ドゥーグには女など視認出来ないのだが・・・・・・
  目を凝らし固まるモーザ・ドゥーグに焦れ、ダーククリムゾンハーツが喚く。
ダーククリムゾンハーツ「いたんだ! 美しい赤毛の女が!」
ダーククリムゾンハーツ「プラチナサンシャインと話していた! 緑の目の、色っぽい女が・・・・・・!」
  ダーククリムゾンハーツの詳説に、モーザ・ドゥーグはああ、と得心する。
モーザ・ドゥーグ「それは、シャドウハーフですね」
ダーククリムゾンハーツ「・・・・・・は?」
モーザ・ドゥーグ「だから、シャドウハーフです。最近プラチナサンシャインや防衛組織を手助けしているようですよ」
  彼の者は向上心が在り士気の高い相手には好意的ですから・・・・・・とモーザ・ドゥーグが頷き語るも
  ダーククリムゾンハーツは凝固したみたいに動かなかった。
  話は終わったなとばかりに背を向けた辺りで、モーザ・ドゥーグは後ろに引かれた。
モーザ・ドゥーグ「ぐぇっ」
モーザ・ドゥーグ「・・・・・・何ですか、放してくださいよ」
  尻尾を掴まれなかっただけマシだろうけども、それでも動きづらい。抗議すれば、見返った主は茫然自失の様相で。
ダーククリムゾンハーツ「嘘だ・・・・・・」
  呟く。何を言っているんだと理解に苦しみつつ、モーザ・ドゥーグは返した。
モーザ・ドゥーグ「嘘じゃありません。アレはシャドウハーフです」
ダーククリムゾンハーツ「嘘だ! あんなに可愛くなかったぞ!」
モーザ・ドゥーグ「・・・・・・リデザインしたからでしょう。素の形容では目立ちますから」
ダーククリムゾンハーツ「リデザイン・・・・・・?」
モーザ・ドゥーグ「ダーククリムゾンハーツもあちらに行った際はしているでしょう? 目晦まし程度ですけど」
モーザ・ドゥーグ「こちらでは不必要ですし、シャドウハーフは地球に行ったことが在りませんでしたから、まぁ私も初めて見ましたが」
  何言ってんだと、もう隠さずモーザ・ドゥーグは嘆息して返答した。
モーザ・ドゥーグ「・・・・・・」
  何だか俯き加減でぶつくさ零しているけれど、コレで本当に終いだろうと身を翻して────今一度裾を握られた。
モーザ・ドゥーグ「何ですか!?」
  モーザ・ドゥーグが苛立ちに任せて叫ぶと、ダーククリムゾンハーツが、ばっと面を上げた。
ダーククリムゾンハーツ「シャドウハーフを迎えに行く!」
モーザ・ドゥーグ(・・・・・・はぁ?)
  や、もう本当にどうなってんだコイツと言う気分でモーザ・ドゥーグは主人を見遣る。
  モーザ・ドゥーグにちゃんと所懐を説く気も無いのか、ダーククリムゾンハーツは支離滅裂な言葉を吐き続ける。
ダーククリムゾンハーツ「だいたい、地球に行ってからあんな可愛くなって、プラチナサンシャインと良い雰囲気なんておかしい!」
ダーククリムゾンハーツ「もともと私とフュージョンする予定だったのに! こんなの予測外だ!」
ダーククリムゾンハーツ「地球なんて貧弱な星で、たかが軟弱怪人相手に良い気になっているヒーローなんかがシャドウハーフの相手なんて烏滸がましい!」
ダーククリムゾンハーツ「シャドウハーフは私のだ! 連れて帰る!」
モーザ・ドゥーグ「・・・・・・」
  また良からぬ“発作”が始まったかと眉間を揉んだモーザ・ドゥーグは。
モーザ・ドゥーグ「・・・・・・それは・・・・・・」
モーザ・ドゥーグ「良うございますね」
  全面的に主に同意した。
  身勝手極まりない主人の凶行に振り回されるシャドウハーフには同情すれど、
  シャドウハーフの追放に憤懣遣る方無い者や帰還を待ち侘びる者からの苦情が消えるなら易いものだ。
  モーザ・ドゥーグは、同意を得られて上機嫌の主を前に薄く微笑んだ。

〇惑星
  ────このあと。
  トチ狂ったダーククリムゾンハーツに追い掛け回されたり
  デルフィニウムの策に嵌められそうになったり
  新たな怪人が登場したり
  プラチナサンシャインこと白鉄陽醒と、シャドウハーフに何か在ったりするのだが。
  それはまた別のお話なので、
  シャドウハーフこと影未は、未だ知らず、己が目的に邁進していた。
影未「絶対、思い知らせてやるー!」
  【 了 】

コメント

  • 「最強怪人に転生したら、なぜか婚約破棄されて追放された、意味がわからない。」は最高に面白かった!怪人に転生した主人公の不思議な体験や、前世の記憶の混乱が描かれていて、一気に引き込まれました。ラブコメ要素もあって笑いもたくさんありました。次にどんな展開が待っているのか、今からワクワクしています。続きが気になる作品です!

  • 怪人が個体を増やす方法を具体的に描写した物語って今まで読んだことないので興味深く拝読しました。フュージョンという概念が新鮮ですね。地球オタクで美少女好きだなんて、クリムゾンハーツの前世も地球人だったんじゃないだろうか。白鉄と影未に「バーカ、バーカ」って言われながら地球でコテンパンにされてほしいなあ。

  • 何だか巻き込まれたり振り回されたりと難儀なシャドウハーフさん、対象的に周囲を巻き込んでメチャクチャするダーククリムゾンハーツ、すごい物語世界ですね。読み応え充分のストーリーでした

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