17歳、夏、片思いを叶える。

卵かけごはん

#5:僕が吹っ切れた日。(脚本)

17歳、夏、片思いを叶える。

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〇一階の廊下
貢の母「貢!帰ったの?」
貢の母「スマホに何回も電話したのに何で出なかったのよ?」
貢の母「塾から電話かかってきたんだけど。 貢が夏期講習来てないって。 聞いてる?」
浅井 貢(あさい みつぐ)(あーあ、始まった)
貢の母「貢、待ちなさい。どこで何してたの?」
浅井 貢(あさい みつぐ)「──バイト」
貢の母「はあ?」
浅井 貢(あさい みつぐ)「あそこのお菓子屋さん・・・ 「フルール」で働かせてもらってる」
貢の母「どうして?お金が要るの?」
浅井 貢(あさい みつぐ)「違う・・・」
  憧れの人といたい、それに―
浅井 貢(あさい みつぐ)「社会経験・・・したい」
貢の母「何それ?夏期講習は? 今追い込まなかったら T大なんて受からないわよ?」
貢の母「折角あたしが仕事休みの日に、 何でこう・・・」
浅井 貢(あさい みつぐ)(ひとまず部屋に退避だ。 まあ、早晩バレる事だったし)

〇部屋の前
貢の母「待ちなさい貢! 話してくれないと、ママ全然分かんない」
浅井 貢(あさい みつぐ)「だから社会経験したいって言ったじゃん。 聞く気ないよね」
貢の母「社会経験なんてね、 大学行ったら嫌でもするの。今は―」
浅井 貢(あさい みつぐ)「僕だって他の子みたいに、 普通の高校生の生活をしたいんだよ」
浅井 貢(あさい みつぐ)「今日もクラスメイトに言われた。 「いいトコのボンボンだから 掃除もしたことないだろ」って」
貢の母「「他の子」とか「普通の高校生」って何? 貧乏人とか凡人の真似なんてわざわざする必要ある?」
貢の母「まずはT大受かりなさい。 行けば、それなりの環境がある。 視野も将来の夢も広がる」
浅井 貢(あさい みつぐ)「だから?」
貢の母「他の子とは完全に違うレールに乗れるの。 パパとママを見て」
貢の母「パパはネットワークビジネスで起業できた。 ママは美容サロン開けたのよ」
浅井 貢(あさい みつぐ)「ハッ、パパとママを見て? ほとんど帰って来なくて、 僕をずっと鍵っ子にして、 僕に興味なんてなかったくせに?」
貢の母「は?」
浅井 貢(あさい みつぐ)「ずっとそう。覚えてる? 僕の7歳の誕生日に、 「フルール」にケーキ買いに行った時」
浅井 貢(あさい みつぐ)「母さんは僕が選んだ動物のケーキじゃだめって言った。 しかも、食べたこともないのにまずいって決めつけて」
貢の母「今更?そんな昔の事・・・」
浅井 貢(あさい みつぐ)「「昔の事」じゃない! ずっとそうなんだよ!」
浅井 貢(あさい みつぐ)「塾とか、習い事とか、生徒会やれとか。 どうでもいいんだろ?僕の気持ちなんて!自分の正解押し付ければ満足なんだろ?」
貢の母「―?」
浅井 貢(あさい みつぐ)「僕はおかげで色んな機会を奪われた。 友達と遊んだり、ゲームしたり、 好きなこと見つけて夢中でやったりとか!」
貢の母「しちゃダメなんて言ってないわ! それより、小さい頃から色々身に着けた方が将来のためだと―」
浅井 貢(あさい みつぐ)「その言い訳、子供だましだよね。 今ならわかる。 ホントは仕事の方が大事だったんだろ?」
浅井 貢(あさい みつぐ)「僕に時間とられたくなかったんだろ。 僕の下らない話とか我がままに付き合うのが面倒臭かったんだろ?」
貢の母「何言ってるの? ママは、勉強もスポーツも 何でもできる貢が好きで―」
浅井 貢(あさい みつぐ)「嘘つけ! 子供なんて面倒臭いから、小さいうちから金注ぎ込んで色々あてがって、 課してきただけ!」
貢の母「落ち着きなさいよ、みつ―」
浅井 貢(あさい みつぐ)「お前らのせいで、 僕は何にもできなかったんだよ!」

〇男の子の一人部屋
浅井 貢(あさい みつぐ)(母さん・・・出かけたか。 どうせいつもの、仕事先との夜の付き合いだろ)
浅井 貢(あさい みつぐ)「ふーーーっ」
  ベッドに大の字になった。瞼を閉じた。
浅井 貢(あさい みつぐ)(やっと言えた。 もう、親の傀儡はやめる)
店員のお兄さん「自分で決めたいって気持ち、 お兄さんも分かるよ。 クッキー美味しかったら、またおいで」
浅井 貢(あさい みつぐ)「咲兄・・・咲兄・・・咲兄―」
  今変わらなきゃ、踏み出せなきゃ、
  自分がダメになる。
浅井 貢(あさい みつぐ)(ねえ咲兄、僕はまだ全然分からない。 自分に何があるか?何ができるか?って)
浅井 貢(あさい みつぐ)(でもね、自分で決める人間になりたい。 責任持って、これからの毎日を生きたい)
西野 咲也(にしの さくや)「浅井君、初日なのにさすがだね!」
浅井 貢(あさい みつぐ)「一緒にいさせて下さい」
西野 咲也(にしの さくや)「柊也、なぜ浅井君に負けたかは、自分が一番分かるよね?」
浅井 貢(あさい みつぐ)「色々、学ばせて下さい」
西野 咲也(にしの さくや)「浅井君、来てくれてありがとう―」
浅井 貢(あさい みつぐ)「咲兄こそ、ありがとう」
  僕は、あなたの近くで役に立ちたい。
  僕に温もりをくれた咲兄に、
  ちょっとでも恩返しを。
浅井 貢(あさい みつぐ)「あ、今日クッキー買ったんだった」
  サクッ、モグモグモグ―
浅井 貢(あさい みつぐ)「―!!」
浅井 貢(あさい みつぐ)「同じだ・・・」
浅井 貢(あさい みつぐ)(10年前に咲兄がくれたのと同じ味だ。 飾り気のない、素朴で優しい味)
浅井 貢(あさい みつぐ)(美味しい。 親が買ってくるどんな高級なお菓子より。 粉砂糖たっぷりでのドーナツや 海外土産のチョコなんて、比じゃない)
浅井 貢(あさい みつぐ)(咲兄の味は、10年間、 変わってなかったんだ―)
浅井 貢(あさい みつぐ)「なら、グダグダしちゃいられないね!」
学習塾・高村先生「はい、個別指導学園世田谷教室です」
浅井 貢(あさい みつぐ)「もしもし、高村先生ですか?浅井貢です」
学習塾・高村先生「あっ!浅井君? 今日どうした?講習初日だったのに」
浅井 貢(あさい みつぐ)「あの~僕、今日で塾やめます。 今までありがとうございました!」
学習塾・高村先生「え?どういうこと?」
浅井 貢(あさい みつぐ)「よし! 明日から、全力でバイト頑張るぞ~!」

〇広い厨房
  モグモグ、パクパク・・・
西野 柊也(にしの しゅうや)「浅井、お前塾とかないのか?」
西野 柊也(にしの しゅうや)「まあお前のことだから? 頭悪りぃ俺への当てこすりで、 暇つぶしに来てんだろうけど?」
浅井 貢(あさい みつぐ)「やだな~、 当てこするほど柊也の事好きじゃないし!」
西野 柊也(にしの しゅうや)「あん? 俺がいつ下の名前で呼んでいいっつった!」
浅井 貢(あさい みつぐ)「許可が必要?」
西野 柊也(にしの しゅうや)「俺はな、テメエみたいな馴れ馴れしい奴が大っ嫌いなんだよ!」
浅井 貢(あさい みつぐ)「にしても柊也・・・ 今日も沢山お菓子崩したね、こんなに」
浅井 貢(あさい みつぐ)「罰当たりだよ、 咲兄が丹精込めて作ってるのに」
  ブフッ!ゲホゲホッ
浅井 貢(あさい みつぐ)「うわ、きったなっ!」
西野 柊也(にしの しゅうや)「おい! コーヒー噴いちまったじゃねえか!」
浅井 貢(あさい みつぐ)「僕まで濡れた!最悪っ!」
西野 柊也(にしの しゅうや)「人の兄貴を「さくにい」だと? 俺だってそんな風に呼んだ事ねえ!」
浅井 貢(あさい みつぐ)「だって「さくやさん」でしょ?」
西野 柊也(にしの しゅうや)「普通「店長」とか「お兄さん」だろ! 分をわきまえねえにも程がある!」
浅井 貢(あさい みつぐ)「ねえ柊也、咲兄って―」
西野 柊也(にしの しゅうや)「それより浅井!教えろ! 俺をびしょ濡れにした代償としてな!」
浅井 貢(あさい みつぐ)「何、突然?」
西野 柊也(にしの しゅうや)「お前昨日・・・ ほんの数時間で、商品名暗記してただろ。 どうやったら覚えられんだよ」
浅井 貢(あさい みつぐ)「おや、 僕を子犬と呼んだ君が教えを乞う?」
西野 柊也(にしの しゅうや)「茶化すな!真面目に聞いてんだよ! やっぱ・・・地頭の違い・・・か?」
浅井 貢(あさい みつぐ)「違う。 見ただけで40種類も覚えるなんて無理。 人間の脳の構造なんてそんなに違わない。 僕だって一つずつメモしたよ」
西野 柊也(にしの しゅうや)「そ、そうなのか?」
浅井 貢(あさい みつぐ)「商品の名前・見た目、使ってる素材の情報を、まとめてメモしたの」
西野 柊也(にしの しゅうや)「は?一度に覚える事が多すぎだろ」
浅井 貢(あさい みつぐ)「一説には逆に、 色々な情報を脳の中で繋げると、 定着しやすいんだって。 年号を語呂合わせで覚えるみたいに」
西野 柊也(にしの しゅうや)「?」
浅井 貢(あさい みつぐ)「例えば商品名。 ただのカタカナの羅列として丸暗記じゃなく、意味を調べてみる」
西野 柊也(にしの しゅうや)「た、例えば?」
浅井 貢(あさい みつぐ)「「バウムクーヘン」はドイツ語で、 「バウム」が木・「クーヘン」がケーキ って意味!」
西野 柊也(にしの しゅうや)「あぁ、切り株みたいだからか!」
浅井 貢(あさい みつぐ)「そう。 名前の意味やお菓子の絵を、1つずつ単語帳に書くとかはどう? ポケットに入れて隙間時間に見る。 覚えたのは外す」
西野 柊也(にしの しゅうや)「単語帳・・・俺の嫌いなアイテム―」
西野 柊也(にしの しゅうや)「でも、学年トップのお前が言うことだし、実際昨日あんだけ覚えてやがった・・・」
浅井 貢(あさい みつぐ)「おっ!? 子犬の事見直してる?」
西野 柊也(にしの しゅうや)「ちょっ、調子に乗んな! お前にできることは俺だってできんだよ!」
浅井 貢(あさい みつぐ)(もう・・・咲兄の事聞き出そうと思ったのに。 柊也に構ってる暇はないんだけど)
西野 咲也(にしの さくや)「ねえ二人とも~!」
西野 咲也(にしの さくや)「蜂蜜レモンのゼリー作ってみたんだけど、味見してくれる~?」
浅井 貢(あさい みつぐ)「咲兄!今行きます!」
西野 柊也(にしの しゅうや)「だから、その呼び方やめろ! 俺の兄貴だぞ、子犬!」
  やっぱり自分、一歩踏み出してよかった。ここ来てよかった!

次のエピソード:#6:あいつとの打ち明け話

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