姫様は冷徹王子の溺愛をご所望です

朝永ゆうり

第12話 最初で最後の夜と朝(脚本)

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朝永ゆうり

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〇宮殿の部屋
  その晩、ジークの部屋を訪れたカレン。
  初めて見る彼の寝室。そして──
  ベッドサイドに積まれた本たち。
カレン「ジーク・・・本当に、行っちゃうの?」
ジーク王子「ああ」
ジーク王子「だが、これですべて終わる」
ジーク王子「ブルートの街にも、やっと──」
ジーク王子「──平和が、訪れるんだ」
  カレンは気づいた。
  笑顔のジークの、拳の震えに。
カレン(誰よりも優しいジークだから、一人で抱え込んじゃうんだよね)
カレン(今までだって、きっとそうだったんだ)
カレン(全部受け止めたい、とか言ったくせに、 私──)
カレン(でも今回ばかりは、私は・・・)
  国王が出した結論、それは──

〇西洋の円卓会議
ルシャード国王「降伏の条件は、一番若い王族の命を差し出すこと」
ルシャード国王「カレンの想いは受け取った。だが──」
ルシャード国王「王族、という点でも、ジークが適任だろう」
ルシャード国王「軍の統帥を任せたお前を、降伏の条件として差し出す」
ルシャード国王「そうすれば、こちらに戦意が無いことも伝わる」
ルシャード国王「ジーク・・・お前の優しさは、強さだったんだな」
ルシャード国王「自国の民の幸せのため、国を捨てるなど──」
ルシャード国王「そう出来る判断ではない。 だが、私もお前の判断が正しいと思う」
ルシャード国王「守るためには、失うものが必要だが──」
ルシャード国王「私は、大切なものを履き違えていたのかもしれないな」
ルシャード国王「ジーク・・・王妃を失った私にとっては、お前は唯一の家族だ」
ルシャード国王「強くて優しい、自慢の息子だ」

〇荒野の城壁
  その後、『降伏』の書状を持った
  オスカー大佐は、一足先に──
  ──ブルートの街を越え、
  帝国へ書状を届けた。

〇宮殿の部屋
カレン(どうして、私は何もできないの・・・?)
  カレンはそっと、自身の手を彼の拳に乗せた。
カレン「私、やっぱり・・・一緒に行きたい」
ジーク王子「ダメだ」
ジーク王子「カレンを危険な目に遭わせるわけにはいかない!」
ジーク王子「それに・・・」
  ジークは乗せられたカレンの手を、きゅっと握り直した。
ジーク王子「カレンには、守ってほしいものがある」
カレン「え・・・?」
カレン「これ・・・」
ジーク王子「幼い頃、お前が作ったものだ」
カレン「え?」
ジーク王子「忘れたのか?これを被ったお前が──」
カレン「忘れるわけ無いでしょ! でも、どうして──?」
ジーク王子「あの日、目覚めた俺の枕元にこれが置いてあった」
ジーク王子「だから、庭師に作らせたんだ」
ジーク王子「蒸留酒で一度色を抜き、色付けした植物油で染めれば長期保存が可能だと聞いて、な」
  カレンはそっと、花冠に触れた。
カレン「ジーク・・・」
ジーク王子「カレン、俺は──」
ジーク王子「お前を永遠に愛すると誓う」
ジーク王子「だから、お前にも誓ってほしい」
ジーク王子「国民を、この場所を、──」
ジーク王子「愛と幸せの溢れる場所にする、と」
  ジークはそっと、花冠をカレンの頭に載せた。
  それは、まるで婚儀でベールを纏った、花嫁のよう。
カレン「ジーク、あたし・・・」
  カレンの頬を、一筋の涙が流れた。
  ジークの親指が、それを優しく拭う。
ジーク王子「カレンなら、誓ってくれるだろ?」
カレン「・・・うん、必ず」
カレン「あなたが命をかけて、守り抜く場所、だから・・・」
カレン(それが、あなたを生涯愛するってことだと思うから・・・)
カレン「ジーク・・・愛してる」
ジーク王子「カレン・・・」
  そっと、カレンの唇に触れたぬくもり。
  それは、初めてのキス。
ジーク王子「滑稽だな。 最初にお前に触れる日が最後の夜だなんて」
カレン「ジーク、あたし、あたし・・・」
  溢れ出した涙が止まらない。けれど──
  そのぬくもりを離すまいと、カレンは自らジークに顔を寄せた。
カレン(今夜だけ・・・今夜だけでいいから)
カレン(神様、もう少しだけ──)
カレン(夜を、長くしてはくれませんか?)

〇空
  いつの間にか止んだ雨。
  その夜、月夜に溶け合う2つの影は──
  一夜限りの、永遠の愛を誓い合った。

〇宮殿の門
カレン「ジーク・・・」
町人「何だ何だ?」
町人「ジーク王子が一人で帝国に向かうらしいわ」
町人「まさか皇帝までもを手にかけて──」
町人「まさかそこまではできないでしょう・・・」
町人「でも、これで清々するわね」
町人「ああ。ジーク王子のいないこの国は、きっと誰にも怯えない」
町人「やっと誰の目も気にせず堂々と暮らせるな・・・」
ハンナ「姫様・・・」
カレン「結局、国民には誤解されたままだったか・・・」
カレン(ううん、私が変えていくの)
カレン(幸せになったこの国で、ジークっていう英雄を──)
カレン(本当は優しい、愛に溢れた王子様だって・・・)
トーマン(王子付執事)「ジーク様、そろそろ出発しないと・・・」
ジーク王子「そうだな」
ジーク王子「・・・・・・」
ジーク王子「城下の者たちよ!」
ジーク王子「私はこれから、グロース帝国へ向かい──」
ジーク王子「紛争を終結させてくる!!」
町人「は?」
町人「どういうことだ?」
ジーク王子「この国の未来は、現国王と──」
ジーク王子「ここにいる、愛する妻、カレンに託す!」
  ふと、カレンの前に影が降りてくる。
カレン「ジーク・・・」
  そして──
ジーク王子「愛している、カレン」
  彼の唇が、カレンのそれを塞いだ。
町人「え・・・?」
町人「あの氷王子が、キス・・・?」
ジーク王子「行ってくる」
カレン「気をつけて」
ジーク王子「ああ・・・」
  その時ほろり、とジークの目からこぼれ落ちたもの。
町人「泣いてる?」
町人「氷王子が、泣いてる?」
???「ちょっと待った〜!!」
アルノ(宮廷画家)「みんな、間に合ったよ!」
孤児院の子ども「ジーク王子、行っちゃうの?」
孤児院の子ども「帰ってくる?」
  泣き出しそうな子どもたちを、ジークはその胸にぎゅっと抱きしめた。
ジーク王子「大丈夫だ」
ジーク王子「この国の未来は、お前たちの居場所は ・・・プリンセスが、守ってくれるさ」
町人「ジーク王子が──」
町人「笑った──!?」
ジーク王子「さて──」
ジーク王子「もう、行かねば」
ジーク王子「ゼルダ、行くぞ!」
  愛馬のグリゼルダにまたがったジークは、
  その腹をぽんっと一蹴りした。
  馬のいななきとともに、
  宮殿前から駆けていくジーク。
カレン「ジーク!!!」
カレン「愛してるからーー!!!」
ジーク王子「俺も、愛しているーーっ!」
  カレンはぎゅっと、拳を握りしめた。
  涙が溢れそうになって、下唇を噛んだ。
アルノ(宮廷画家)「プリンセス☆」
アルノ(宮廷画家)「泣きたいときは、泣いていいんだよ☆」
カレン「でも・・・」
アルノ(宮廷画家)「ね?」
カレン「・・・ありがとう」
カレン(ジーク・・・)
カレン(もう、誰にも”氷王子”だなんて言わせないから)
カレン(この地を、愛と幸せの溢れる場所にして──)
カレン(──あなたを、愛と幸せに溢れた王子様だったって、語り継ぐから)
  カレンはそう心に誓って、彼の去っていった方向に背を向けた。

〇空
カレン(ジーク、)
カレン(さようなら・・・)

次のエピソード:最終話 愛と幸せの王国

コメント

  • 時間が忘れるくらいに読み進めた。笑
    それくらいすごい作品だった

  • 最初で最高の夜が最後の夜になるなんて… 悲しい別れですが、2人とも(特にジークが)最後に素直に自分の気持ちを言えたのはとてもよかったと思います。カレンは愛している。でもやはり国民のためにというのが何より大事。ジークのやさしさと覚悟、それを受け継いだカレン…素晴らしいラストでした。

  • ラブラブになった途端に最後だなんて……
    でも、カレンはさようならで終わる子じゃないはず!
    国民の声がひどくて切なかったですが、反論は一言もせずに誤解をバキバキ壊してる様子が爽快でした☆国民の呆気にとられた顔が目に浮かぶw

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