11話 遠乗り(脚本)
〇草原の道
素晴らしく晴れ渡った空の下。
マルクと従者たちに守られるように、私とシラカバ、レイルズとメリナを乗せた栗毛のエラーブル号が進む。
富士丸葵「この道は少しぬかるんでるみたいです。 あちらを回りましょう」
レイルズ「わかった。エラーブル、右に・・・」
レイルズ「うわぁッ!」
メリナ「きゃあっ!」
急に方向転換したせいで、エラーブルに乗ったふたりの姿勢が傾く
富士丸葵「王太子殿下、内ももに力を入れて踏ん張って。絶対に手綱を離しちゃダメですよ!」
レイルズ「あ、ああ。わかった」
富士丸葵「メリナ姫も、しっかりと鞍に捕まってくださいね」
レイルズの前に横向きに座ったメリナも、気丈にうなずいて鞍にしがみついた。
レイルズ「すみません、メリナ姫」
メリナ「乗せてもらっているのは姫のほうじゃ。 文句は言わぬ」
レイルズとメリナを近づけるために計画した、この遠乗り。
富士丸葵(王太子殿下は優しくて立派な方だ。メリナ姫だって、ちょっと我は強いけど賢くて素直ないい子)
富士丸葵(ふたりが仲良くなって両思いになることが、殿下のためにも、この国のためにも、1番なんだ)
レイルズは決して乗馬がヘタというわけではない
しかし人を乗せて、となると、なかなかうまく手綱をさばけないようだ
マルク「殿下、目的地の湖まではまだ距離があります。さあ、参りましょう」
レイルズ「そうだね。アオイ、悪いけど先導を頼む」
富士丸葵「お任せください!」
〇森の中
富士丸葵「王太子殿下、手綱はもう少し短く持って」
レイルズ「こうかな」
富士丸葵「はい、バッチリです!」
平野を抜け、湖のある森に着く頃には、レイルズもずいぶん腕を上げ、危なげなく馬を操れるようになっていた
だけど森に入ると、道も荒れてくる。
マルク「前方に倒木だ。どうする?」
富士丸葵「高さもありませんし、またいじゃいましょう。」
富士丸葵「王太子殿下、私の後に続いてまっすぐ進んでください」
レイルズ「わかった、まっすぐだね」
軽々と倒木をまたいだ私とシラカバに続き、レイルズも軽く馬のお腹を蹴る
けれどエラーブルは立ち止まったまま動かない
富士丸葵「王太子殿下、もっと強く蹴って大丈夫ですよ」
レイルズ「もっと強くって」
真剣な表情でもう一度蹴りを入れるが、エラーブルは平気な顔で尻尾を揺らすだけだ。
富士丸葵「殿下、このくらいの障害なら馬は簡単にまたげます」
富士丸葵「乗り手が怖がっていると、馬は動きませんから」
レイルズ「怖がってなどいないよ」
キッと眉を上げて、今度はしっかりと鐙をお腹に当てる。
レイルズ「行け、エラーブル!」
エラーブル「ブルンッ!!」
エラーブルが大きく鼻息を吐き、余裕の表情で倒木をまたいだ。
富士丸葵「そう、その調子です!」
レイルズ「ふぅ・・・」
レイルズはホッとしたように息をつく。
メリナ「レイルズ殿は、馬術がお得意ではないようじゃな」
メリナ「ユルベールの王族は皆、幼い頃より馬術をたしなむと聞いたが」
レイルズ「子供の頃は病気がちで、医者に運動を止められていたんだ」
メリナ「む、そうであったか。我が国にもタチの悪い風土病が蔓延しておるゆえ、レイルズ殿のご苦労は察するぞ。」
メリナ「して、今は?」
レイルズ「すっかり健康だよ。馬術は数年前から習い始めたんだけど、いつまでたっても下手で、家臣たちにも笑われている」
レイルズ「忙しくて、なかなか稽古の時間が取れなくてね」
レイルズはそう言って、恥ずかしそうに苦笑する。
富士丸葵「大丈夫ですよ。王太子殿下は基礎がしっかりしていますから。あとは慣れです」
レイルズ「・・・だったらいいけど」
レイルズは苦笑いのままそう言って、馬に集中するように少し険しい顔で前を向いた。
〇湖畔
その後は危険な箇所もなく、私たちは無事に湖に到着した。
マルク「では、ここで休息としましょう」
マルクがひらりと馬から下り合図すると、従者たちは一斉に木立に布を張り巡らせ、休憩用のテントを建てはじめた。
先に馬から下りたレイルズが、馬上でまごついているメリナに腕を差し出す
レイルズ「メリナ姫、お手伝いします」
メリナ「む、かたじけない」
メリナがレイルズの腕に手をかけ、馬から飛び降りた。
レイルズ「っ・・・!」
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