#17 映画(脚本)
〇荒廃したセンター街
ゾンビ「ゔぁお・・・ゔ・・・」
「うわああああ!」
ゾンビ「ゔぅぅ・・・!」
男性「うっ・・・」
女性「わ・・・わ・・・」
ゾンビ「ゔぁ・・・ゔううぁ・・・」
女性「誰か・・・助けて・・・」
女性「え・・・」
ゾンビハンター・マサコ「腐敗した現代に滴る臓物。穢れを祓うのはあたしらゾンビハンター」
ゾンビハンター・マサコ「さぁ、おやつの時間は終わりだよ! オムツ替えてやるから横に並びな!」
「ゔぅぅ・・・あぁ・・・」
ゾンビハンター・マサコ「どうだい、ケツの穴まで綺麗になっただろう?」
ゾンビハンター・マサコ「・・・ん?」
ゾンビ「ゔぁう・・・」
女性「ひっ・・・」
女性「うぅっ・・・」
ゾンビ「ゔゔゔゔゔゔゔゔゔ・・・」
ゾンビハンター・マサコ「あたしとしたことがお尻を拭き忘れてたわ」
ゾンビハンター・マサコ「まあ、いい。新しいケツ穴こさえて全身からクソ垂れ流しやがれ」
ゾンビハンター・マサコ「ふぅ・・・すっきり。快便、快便っと」
ゾンビハンター・マサコ「さて、夕食の準備をしないと。スーパーのタイムセールはもうすぐだわ」
〇高級マンションの一室
不知火美桜「・・・面白い? これ」
天童美琴「面白いよ! グロくて人がいっぱい死んで」
不知火美桜「そう? 内容はあまりないと感じたけど」
天童美琴「私、教団にいた時は布教用のプロパガンダ作品しか観せてもらえなかったからさ」
天童美琴「こういう何のメッセージも込められてなさそうな、それでいて監督のやりたいことだけ詰め込んだような作品に惹かれるんだ」
不知火美桜「そうなんだ」
天童美琴「ずっと観たかったんだよね。こういうB級映画」
不知火美桜「別に私と観る必要なかったんじゃ?」
不知火美桜「ネットが使えるなら一人でも観れただろうし」
天童美琴「友達と一緒に観るのが良いんじゃん」
天童美琴「笑いながら「クソ映画だわ〜」とか言い合ってさ」
不知火美桜「クソ映画だと思ってるんだ」
天童美琴「で・・・でもそこが良いんです!」
不知火美桜「私はやっぱり面白い映画が好きだな」
不知火美桜「起承転結があって、主人公に感情移入できて、展開にメリハリがあるようなちゃんとした映画が観たい」
天童美琴「え〜、映画なんてギャー! ドカーン! グシャー! で良いのに」
不知火美桜「・・・次は私のオススメを観よう」
天童美琴「どんな映画?」
不知火美桜「そうだね。例えるなら、ひと夏のボーイミーツガールかな」
〇開けた景色の屋上
女子生徒「やっぱり、最後はここに戻ってきてしまう」
女子生徒「・・・違う」
女子生徒「最初からこうすれば良かったんだ」
男子生徒「待ってくれ!」
女子生徒「待たない。世界が私を待ってくれなかったように、私もこの世界を待たない」
女子生徒「待ってるだけじゃ、何も始まらない」
男子生徒「始まる・・・違うだろ。お前は終わらせるつもりだろ」
女子生徒「私が消えることによって、全てが始まるんだよ」
男子生徒「そんな・・・そんなのってアリかよ!」
女子生徒「それ以外、ないんだよ」
女子生徒「私はね、これまで何度も、何度も」
女子生徒「何度も、何度も、何度も、気が遠くなるような時間を繰り返してきた」
女子生徒「そんな私が、これ以外ないって決めたんだ」
女子生徒「悪いけど・・・君が何を言おうと」
男子生徒「じゃあ連れてけよ!」
女子生徒「えっ」
男子生徒「お前がどっか行っちまうってんなら、俺も一緒に連れてけ」
男子生徒「それでいいだろ。俺はお前のいない世界に用なんてないんだよ」
女子生徒「・・・」
女子生徒「後悔しない?」
男子生徒「するもんか」
女子生徒「本当に?」
男子生徒「ああ」
ぎゅっ
男子生徒「この手は絶対離すなよ」
女子生徒「・・・ふふっ。やっと夢が叶った」
女子生徒「私、馬鹿だなあ。今まで、何をしてたんだろう」
男子生徒「・・・?」
女子生徒「ねぇ、最後にキスしよう」
男子生徒「キス・・・?」
女子生徒「うん。誓いのキス」
男子生徒「・・・分かった」
女子生徒「目を閉じて」
男子生徒「・・・」
女子生徒「・・・」
女子生徒「・・・ごめんね。そして、さよなら」
男子生徒「・・・!」
〇開けた景色の屋上
男子生徒「・・・」
男子生徒「あれ、俺、何してたんだっけ」
男子生徒「確か、補習の授業を受けてて・・・」
男子生徒「・・・」
男子生徒「どうして、涙が・・・」
男子生徒「うっ・・・うう・・・」
〇高級マンションの一室
天童美琴「えっ、終わり?」
不知火美桜「うん。終わり」
天童美琴「最後、結ばれるんじゃないの?」
不知火美桜「結ばれない。少女は自分の存在をこの世から消す代わりに、世界を救った」
不知火美桜「そして少年はこれからも平和な世界で、変わらない日常を過ごす」
天童美琴「それじゃ、最初と何も変わらない・・・」
不知火美桜「そう。何も変わってない」
不知火美桜「この映画の面白いところはね、最初と最後で何も変わってないところ」
天童美琴「・・・」
不知火美桜「私の勝手な解釈だけど、この映画のヒロインはこの映画の中だけの存在なんだ」
不知火美桜「主人公と出会い、別れる。その120分の間だけ、存在を許されている」
不知火美桜「だから最後は無に帰る。でも、彼女がいた時間そのものが消えてしまうわけではない」
天童美琴「え・・・でも、みんなの記憶から消えて、なかったことになるんじゃ」
不知火美桜「私たちの記憶には残ってるから」
不知火美桜「私たちがこの映画を観たという120分の歴史だけは変わらない」
天童美琴「うーん・・・それでもどこか、やりきれないよ」
不知火美桜「まぁ、ネットでもよく「消化不良」とか「オチが弱い」とか言われてるしね」
不知火美桜「確かにハッピーエンドでもバッドエンドでもない、中途半端なエンディングだと思う」
不知火美桜「でも、私はそこが好きなんだ」
天童美琴「・・・“アリス”ちゃんって変わってるね」
不知火美桜「そりゃ、ヴァンパイアだからね」
天童美琴「・・・もう」
不知火美桜「何にせよ、映画は面白いよ」
不知火美桜「現実では起こり得ないことを描いてるからね」
天童美琴「でも、私は現実は現実で面白いと思う」
不知火美桜「そうだね。現実という縛りがあるからこそ、非現実的な事象にも意味が生まれるのかもしれない」
不知火美桜「ヴァンパイアなんて存在しない。存在しないからこそ、もし存在していたら面白い」
天童美琴「やっぱり、“アリス”ちゃんはヴァンパイアなの?」
不知火美桜「“ヨウコ”ちゃんはどっちだと思う?」
天童美琴「私は・・・」
不知火美桜「・・・」
天童美琴「・・・ヴァンパイアだと思う」
不知火美桜「え」
天童美琴「“アリス”ちゃんってどこか人間離れしたオーラがあるし、百年以上生きてるって言われても信じちゃう」
天童美琴「それに、本当にヴァンパイアだったら素敵だなって」
不知火美桜「・・・ふっ」
不知火美桜「ふっふっ・・・」
天童美琴「・・・?」
不知火美桜「ふっはっはっはっは!」
天童美琴「ど、どうしたの? 私、そんなに面白いこと言った?」
不知火美桜「ふっ・・・ひっふ・・・」
不知火美桜「・・・その通り、私はヴァンパイア」
不知火美桜「百年どころか、千年はこの世に君臨している気高き夜の女王」
不知火美桜「“ヨウコ”よ、汝を我が眷属にしてやろう。共に永遠の刻を生きようじゃないか」
天童美琴「永遠、かぁ。それはいらないかな」
不知火美桜「ほう。では何を望む?」
天童美琴「永遠の逆。刹那」
天童美琴「私は刹那的快楽に溺れたい」
天童美琴「今だけ、楽しいことがしたい。今だけ、気持ちいいことがしたい。そして、死ぬまでそれを繰り返したい」
天童美琴「私の今までの不自由を帳消しにするくらい、自由に生きたい」
不知火美桜「ふふっ、良い望みだ。この私が手助けしてやろう」
不知火美桜「もはや汝を縛るものは何もない」
不知火美桜「汝の前に立ち塞がる障壁は全てB級映画が如くドカーン! と破壊してやろうじゃないか」
不知火美桜「ヴァンパイアの真祖である、この私がな」
天童美琴「あは・・・ヴァンパイア最高」
不知火美桜「まずは手始めに教会を壊そう。汝を縛り付けている、あの憎き教会を」
天童美琴「・・・うん」
不知火美桜「・・・開け! 夢と幻想の扉!」
〇古びた神社
天童美琴「・・・」
天童美琴「・・・って、瞬間移動!?」
不知火美桜「これもヴァンパイアの権能さ」
天童美琴「すごい」
不知火美桜「ここは汝の故郷とも呼べる場所だが、思い残すことはないか?」
天童美琴「・・・ないよ。やっちゃって」
不知火美桜「では破壊しよう。過去を精算しよう」
不知火美桜「祈りも呪いもまとめて断ち切ろう」
天童美琴「・・・」
不知火美桜「爆ぜろ! 嘘と真実の焔(ほむら)!」
〇古びた神社
???「教会が爆発した・・・!?」
???「一体どうなってる!」
「・・・」
不知火美桜「ふっ・・・ひふっ・・・」
天童美琴「は・・・あはっ・・・」
不知火美桜「ひっ・・・ひっはっは・・・!」
天童美琴「ははっ・・・はははははっ・・・!」
「ひっははっはっはははっ!」
天童美琴「・・・なんか、スッキリした」
不知火美桜「こんなの序の口だよ。もっともっと気持ち良くなろう」
不知火美桜「次は何する? 何を燃やす?」
天童美琴「そうだね。次は──」
〇学校の部室
天童美琴「どう? 良い感じの編集でしょ」
不知火美桜「その炎CG? すごくリアルだね」
天童美琴「言うて素材を切り貼りしただけだけどね」
不知火美桜「そろそろ私たちの自主制作映画も完成だね」
天童美琴「そうだね。撮影は済んでるから後は編集だけ」
不知火美桜「・・・」
天童美琴「・・・」
不知火美桜「・・・ぷっ」
天童美琴「・・・あは・・・」
天童美琴「あははははっ・・・!」
不知火美桜「ひっ・・・ははっ・・・!」
「あはっ・・・ははははっ・・・!」
天童美琴「・・・まるでドラマのような学園生活」
天童美琴「文化祭に映画撮影、部活動にアルバイト」
天童美琴「修学旅行に放課後デート、恋に友情に様々なイベント」
天童美琴「もう、やりたいこともやり尽くしたなぁ」
不知火美桜「“ヨウコ”ちゃん、満たされてる?」
天童美琴「満たされてるよ。でも、そろそろ普通じゃ満足できなくなってきた」
天童美琴「もっと普通じゃないことがしたい」
不知火美桜「ふふっ・・・」
天童美琴「何?」
不知火美桜「何でもない」
天童美琴「あっ・・・そうだ」
天童美琴「ボードゲームもしたいんだった」
天童美琴「マーダーミステリーとかTRPG、人狼ゲームにも興味あるんだよね」
不知火美桜「ん〜。でもそれって普通じゃない?」
天童美琴「そのままやったら普通だからさ」
天童美琴「実際に命を賭けてやってみようよ」
不知火美桜「“ヨウコ”ちゃん・・・」
天童美琴「だめ?」
不知火美桜「・・・」
不知火美桜「それ、最高♪」
不知火美桜「まるで映画じゃん!」
天童美琴「良かった」
天童美琴「命を賭けると言っても実際に死ぬわけじゃなくて、死ぬ体(てい)でプレイする感じ」
天童美琴「“アリス”ちゃんの記憶操作でそこら辺はなんとかなるよね」
不知火美桜「任せなさい」
不知火美桜「メンツはどうする? 私が集めようか?」
天童美琴「お願い。せっかくだからマーダーミステリー風の人狼ゲームがしたいな」
天童美琴「設定とかは“アリス”ちゃんに任せるよ」
不知火美桜「おっけー」
不知火美桜「とっておきの設定があるからさ、期待しといてよ」
天童美琴「楽しみ」
不知火美桜「・・・ふふっ」
天童美琴「何?」
不知火美桜「何でもない!」
天童美琴「もう・・・」
不知火美桜「・・・では早速始めようか」
天童美琴「・・・うん」
不知火美桜「開け・・・。夢と幻想の扉」
〇雲の上
〇海辺
〇大樹の下
フォクシー「・・・」
フォクシー「あれ? 私は・・・」
アクエリア「フォクシー! まだ仕事は残ってるぞ!」
アクエリア「いい加減、神獣としての役割を全うしろ!」
フォクシー「そうだ、私は・・・楽しいことがしたくて」
アクエリア「フォクシー! 聞いてるのか!?」
フォクシー「うるさああああい!」
アクエリア「なっ・・・」
フォクシー「天界にいてもつまらない! 私は楽しいことがしたいの!」
アクエリア「何だと・・・」
フォクシー「どけどけぇー!」
アクエリア「待て! フォクシー!」
フォクシー「待たない! 私は待たないぞぉ!」
フォクシー「お姫様はな、王子様の迎えを待ってるだけじゃダメなんだ!」
アクエリア「お姫様じゃないだろお前は!」
〇田舎の教会
アリス「・・・」
アリス「人が神に魅入られるように、誰もが幻想に惹かれてしまう」
アリス「普通では満足できなくなり、特別に価値を見出してしまう」
アリス「普通な私、特別な私──」
アリス「──っと、ここでの私は「村娘 アリス」だったな」
村娘 アリス「どこからどこまでが設定で、どこからどこまでが本当の自分か、自分でも分からない」
村娘 アリス「私は一体、何者なんだろう」
格闘家 バロン「教会が爆発した・・・!?」
医師 クランツ「中はどうなってる!」
村娘 アリス「何者かって、そんなのヴァンパイアに決まってる」
村娘 アリス「それだけは絶対の真実。彼女に認めさせた、私という存在の定義」
村娘 アリス「私は自分がヴァンパイアだと知ってる。だから私はヴァンパイア」
村娘 アリス「そう、私はヴァンパイア。永遠の刻を生きる気高き夜の女王」
村娘 アリス「どんなに退屈でも、私はその役割を全うする」
〇田舎の教会
これからも──
〇渋谷のスクランブル交差点
永遠の刹那を──
〇学校の部室
歩き続ける──
〇田舎の教会
だって私は──
村娘 アリス「ヴァンパイアだから・・・!」
まさかループしてたとは。面白かったです。
特に夢のシーンでのフォクシーの不安定な心情表現は凄かったです。
そっちが主役ーーーー!
劇中劇でだんだん表と裏がわからなくなるという楽しいお話でした。
そしてどんなにシリアスなストーリーでもうんこが入ると全部流れてしまうということが貴重な発見でした。
アルカちゃんのお風呂シーンはまだですか