第5話/鎖女は戻ってくる(脚本)
〇学校の廊下
とっさに足が動いた。
自分を褒めてやりたい。
莉々子「(逃げなきゃ!!)」
莉々子「(助けて、先輩!!)」
鎖女が現れた!
昨日先輩に祓われて、消えたはずの鎖女が!
柏木の声「どういうわけか鎖女はすぐに復活する 何度でも噂話をした人間の前に現れるんだ」
莉々子「なんで・・・?」
莉々子「なんで復活すんの!?」
〇個室のトイレ
莉々子「はあっ、はあっ・・・」
莉々子((思わずトイレに逃げ込んじゃった))
莉々子((教室も廊下も・・・誰もいなかった))
莉々子((部活の人たちの声どころか、物音ひとつしない))
莉々子((鎖女が現れたから・・・?))
莉々子「あたしのバカ!」
莉々子「なんで昨日の夜、鎖女の話なんかしたの・・・!!」
莉々子((後悔しても仕方ない。 とにかく今の状況をどうにかしなきゃ))
莉々子((柏木先輩の連絡先知らない・・・ 聞いておけばよかった!))
莉々子((他の人に電話・・・! ユウナ、ママ、パパ・・・誰か出て!))
莉々子「圏外!? 嘘でしょ!」
莉々子「──はっ!」
聞こえた気がした。
重くて冷たい、金属音が。
莉々子((・・・よく考えたら))
莉々子((こういう状況でトイレに逃げ込むのって、サイアクなんじゃ・・・))
・・・ジャラッ・・・
カチッ、カチッ・・・
トイレのタイルに、鎖がぶつかる音。
莉々子((トイレの中に入ってきた・・・!!))
莉々子((お願い、こっちに来ないで!))
きぃ────
ばたんっ
きぃ──────
ばたんっ
莉々子((ひとつずつ順番に確認してる・・・))
莉々子((ひとつめ、ふたつめ))
莉々子((みっつめ・・・次があたし!))
莉々子((お願い、来ないで))
莉々子「(助けて柏木先輩!!)」
・・・
・・・・・・?
来ない・・・?
どうして?
あきらめた?
((まさか上にいるの!?))
天井を仰ぐ。
何もない。
え、助かっ・・・
〇手
〇個室のトイレ
莉々子「きゃあああああ!!」
鎖女が、
あたしの目の前にいた!!
ドサッ!!
後ろにのけぞった拍子に、トイレのドアが開く。
思いっきり尻餅をついた。
けど痛みなんて感じてる余裕ない!!
×××「はぁ──・・・」
鎖女があたしに近づいてくる。
ジャラッ
目の前に、細い、黒ずんだ、血まみれの、太い鎖が垂れ下がる。
ジャラジャラジャラッ!!
何本も何本も、鎖女に巻きついている鎖が暴れ回る。
×××「・・・ろ・・・するな・・・」
×××「やぁ・・・めぇ・・・ろぉ」
×××「はなしを、するな・・・」
×××「あんたの・・・せいで・・・」
莉々子「えっ?」
莉々子「今、なんて──」
〇個室のトイレ
柏木「莉々子!!」
莉々子「・・・っ、柏木先輩!!」
柏木先輩が鎖女めがけて、あの水の入った瓶を投げつけた!
バシャッ
鎖女に水がかかる。
×××「キャアァアアアアアア!!」
×××「・・・やめ、てっ・・・」
莉々子「・・・消えた・・・」
莉々子((今の鎖女の叫び声・・・))
莉々子((昨日のはバケモノっぽかったのに、 今のは人間の悲鳴みたいだった・・・?))
柏木「浄化されたか・・・一旦は」
柏木「何故だ・・・?」
柏木「何故、鎖女は「戻ってくる」んだ・・・!?」
莉々子((『戻ってくる』))
莉々子((確かに、感覚的にはその言い方が正しい))
莉々子「(鎖女は、 戻ってくるんだ)」
柏木「莉々子」
莉々子「はい!」
莉々子((ていうか今、名前っ))
柏木「怪我はないか」
莉々子「だいじょうぶ、です」
柏木「何故教室にいなかった? 探したんだぞ」
莉々子「あ、あの、教室で待ってたんですけど」
莉々子「突然、周りから誰もいなくなって」
莉々子「鎖女が現れたんです・・・」
柏木「・・・やはり、空間を捻じ曲げることまでできるのか」
柏木「分かってはいたが、かなり強い力を持っているな」
莉々子「(生きている人間を、別の空間に閉じ込める・・・それが鎖女)」
柏木「残った微かな気配を追ってきたが」
柏木「無事でよかった」
莉々子((ハッ! ダメダメ!))
莉々子「(助かった途端、のんきに胸キュンなんて!)」
莉々子((ああでも、先輩に不意打ちの微笑〜))
柏木「──とりあえず」
柏木「教室に戻ろう。鞄も置きっぱなしだしな」
〇教室
教室は、完全に元通りだった。
クラスメイト「あれっ、莉々子戻ってきたー」
クラスメイト「いつの間にかいなくなっちゃって、どこ行ってたのよー」
莉々子「(みんな的には、あたしの方がいなくなったんだ)」
クラスメイト「イケメンの先輩が探してたよー」
クラスメイト「あっ、そちらのイケメン・・・///」
莉々子「ハハハ・・・」
思わず苦笑いしつつ、席に置きっぱなしのカバンを取りに入る。
莉々子「ん?」
エミリ「・・・!!」
莉々子((うわっ、エミリだ))
莉々子「(めっちゃキレてんじゃん・・・)」
莉々子((うう、今朝はのんきにいい気分にだってなったけど、))
莉々子「(さすがに2回もオバケに襲われると、人の気も知らないで〜ってなるなぁ)」
柏木「用意できたか?」
莉々子「あ、はい!」
柏木「明日、創立記念日で学校は休みだが」
莉々子「? そうですね」
柏木「差し支えなければ、明日の予定を教えてもらえないだろうか」
莉々子「!」
莉々子「え、えっと、明日はユウナと映画館に行きます。 映画が終わったら解散して、買い物に行こっかなって」
柏木「・・・」
柏木「・・・非常に図々しい提案かと思うが」
柏木「俺も、ついていっていいだろうか?」
莉々子「!?」
柏木「一緒に歩くのが恥ずかしいのなら、近くで護衛という形でも・・・」
莉々子「んなことあるわけないじゃないっすかぁ!!」
柏木「そ、そうか?」
莉々子((イカン、「そんなわけあるかい」感が強すぎて思わず大声になってしまった・・・))
莉々子((いやでも・・・それって))
莉々子((先輩と一緒に遊びに行けるってこと・・・だよね?))
莉々子((いや護衛だけど! でもそゆことだよね!))
莉々子「大丈夫です! 先輩がよかったら、ぜひ一緒に」
柏木「ありがとう」
柏木「じゃあこれ、俺の連絡先」
莉々子((せんぱいのれんらくさき!!!?))
莉々子((はっ!!))
莉々子((感じる・・・ 後ろから鎖女ばりに感じる・・・!!))
莉々子((エミリたちがガチギレしてる気配が・・・っ!!))
エミリ「・・・っ!!」
莉々子((絶対振り向いちゃダメだ・・・))
〇学校の廊下
エミリたちが怖いので廊下に出た。
柏木「そういえば、さっきは失礼した」
莉々子「何がですか?」
柏木「うっかり、名前を呼び捨てにしただろ」
莉々子「あ、あれ!」
莉々子「全然気にしてないです!」
莉々子「どうぞ呼び捨てでも・・・なんでも」
莉々子((先輩に呼ばれるなら・・・))
柏木「分かった。 そう呼ばせてもらう」
先に歩く先輩の背中を見つめながら、
メモを開く。
莉々子((連絡先・・・ それに明日は・・・))
莉々子((デートって、言ってもいいのかな・・・?))
ドキドキしながら、あたしはフワフワの足どりで先輩を追っかけた。
柏木先輩、武骨で頼りになるところはやっぱりステキですね!とはいえ、莉々子ちゃん、危機回避できるとすぐに恋愛モードとは、いろんな意味で忙しい子ですね!