第5話 イケメン探偵はやる気を出してみる(脚本)
〇ダイニング(食事なし)
皇伽耶斗「お忙しいところ、お呼び立てして申し訳ありません」
神田康生「いえ、それでご用件は?」
神田康生「仕事があるので手短にお願いします」
皇伽耶斗「わかりました」
皇伽耶斗「先日、早織さんが当事務所を訪れて」
皇伽耶斗「部屋で心霊現象が起きるようになったから調べてほしいという依頼を受けました」
神田康生「えっ・・・」
皇伽耶斗「それでですね」
皇伽耶斗「これに見覚えありますよね?」
神田康生「えっ!」
神田康生「どうして・・・」
皇伽耶斗「うちの優秀な助手が見つけました」
如月春香(だから、さりげなく褒めるな)
如月春香(腹立つなー)
如月春香「とりあえず、神田さんに事情をお聞きして」
如月春香「早織さんには調査結果を報告しようと思いまして」
神田康生「そうですか・・・」
如月春香「実は、私たちが依頼を受けた時、もし幽霊の正体が神田さんだったら」
如月春香「部屋の鍵を返して、もう二度と私に構わないように伝えてほしいと早織さんから言われています」
神田康生「えっ・・・」
皇伽耶斗「もし、今後、幽霊の正体が神田さんだと早織さんに知られた場合」
皇伽耶斗「彼女の希望りにしなくてはならなくなるかもしれません」
皇伽耶斗「だから、その前に話してみませんか?」
皇伽耶斗「早織さんとあなたの関係、そしてあなたが何をしようとしてたのかを」
神田康生「・・・」
如月春香「もしかしたら、私たちが何かお力になれるかもしれません」
神田康生「・・・私には、早織ちゃんと同い年の妹がいました」
神田康生「優子といって、早織ちゃんとは幼馴染でした」
神田康生「ふたりはとても仲が良くて、兄弟のいない早織ちゃんは」
神田康生「私の事をお兄ちゃんと呼んで懐いてくれました」
如月春香「なるほど」
神田康生「その優子が高校生の時に自殺したんです」
如月春香「えっ・・・」
神田康生「早織ちゃんは、その自殺の原因が自分にあると今でも思っています」
皇伽耶斗「自殺の直前に喧嘩したとか?」
神田康生「優子が好きだった男子生徒が、早織ちゃんに告白したそうなんです」
如月春香「それを優子さんが知ってしまったとか?」
神田康生「いや、早織ちゃん自ら告白されたと優子に話したそうです」
神田康生「すぐには返事できないから少し時間をくれと告白相手に答えたことも」
皇伽耶斗「ほう・・・」
神田康生「早織ちゃんが言うには」
神田康生「優子がその男子生徒を好きな事を知っていたのに」
神田康生「すぐに断らなかった私に優子が失望したんだろうと」
神田康生「幼馴染に裏切られた気持ちにさせてしまった」
神田康生「私が優子を殺したようなものだと、それからずっと、そう言っています」
皇伽耶斗「それを聞くと、早織さんがその相手を好きだったわけではなさそうですよね」
皇伽耶斗「なぜすぐに断らなかったのか、早織さんに聞きましたか?」
神田康生「そんな、責めるようなこと聞けません・・・」
皇伽耶斗「ふむ」
神田康生「それから早織ちゃんは自分が楽しむような事を一切せず」
神田康生「恋愛もせずに今まで生きてきました」
神田康生「私が、優子はそんな事で自殺したわけじゃないと言っても耳を貸してはくれません」
皇伽耶斗「自殺の原因に心当たりが?」
神田康生「いえ」
神田康生「ただ、もしあの時、早織ちゃんも男子生徒の事を好きで、彼からの告白を受けていたとしても」
神田康生「心に傷を負うでしょうが、優子はふたりを祝福したと思うんです」
神田康生「兄として、優子はそういう奴だったと思っています」
皇伽耶斗「つまり、すぐに断らなかったくらいで自殺するわけはないと」
神田康生「はい」
如月春香「もしかして、それを優子さんの幽霊で伝えようとした?」
神田康生「はい・・・」
神田康生「この部屋には幽霊が出ると思わせて」
神田康生「最終的には、優子に似た女性に幽霊をやってもらうつもりでした」
如月春香「神田さんは、早織さんのことが好きなんですね」
神田康生「え? いや、私はただ・・・」
皇伽耶斗「神田さん」
神田康生「はい?」
皇伽耶斗「あなたは如月君に感謝すべきですよ」
神田康生「どういう事ですか?」
皇伽耶斗「早織さんは、幽霊の正体を怪しんでいました」
皇伽耶斗「そんな状況で、偽物の幽霊を見せて」
皇伽耶斗「彼女が騙されたと思いますか?」
神田康生「う・・・」
皇伽耶斗「そんな小細工をして、バレたらもっと早織さんを苦しめる事になるとは思いませんか?」
皇伽耶斗「スペアキーを渡すほど信頼して慕っているあなたが、そんな小細工で自分を騙そうとしていたと知ったら」
皇伽耶斗「いくら自分のためとはいえ、余計に心を閉ざしてしまわないでしょうか」
神田康生「わ、私はどうしたら・・・」
皇伽耶斗「早織さんを救うには、優子さんの死の真相を突き止める以外にありません」
神田康生「今さらそんな事できませんよ・・・」
皇伽耶斗「神田さん」
神田康生「はい・・・」
皇伽耶斗「顔を上げて自分の目の前をしっかり見てください」
〇広い改札
〇新幹線の座席
皇伽耶斗(まずは優子さんの実家だな)
〇ダイニング(食事なし)
三島早織「皇さんは?」
如月春香「別件で急遽出張になってしまって」
如月春香「私ですみません」
三島早織「いえ、大丈夫です」
如月春香「では、早速、幽霊の正体ですが・・・」
三島早織「わかりましたか?」
如月春香「たまたま私の祖母が除霊師だったので見てもらったところ」
三島早織「え、そこまで・・・」
如月春香「本当に幽霊だったようです」
三島早織「えっ!?」
如月春香「あ、でも、原因は早織さんの部屋じゃなくて」
如月春香「あのアパートが建つ前、あそこは工場だったらしく」
如月春香「作業員が事故で亡くなってるらしいんです」
如月春香「祖母によると、その工員の霊だということでした」
三島早織「それは本当ですか?」
如月春香「ええ」
三島早織「え、でも、私の名前を呼んでたのは?」
如月春香「その亡くなった工員の奥様がサオリさんだったそうです」
三島早織「奥様に何かを伝えたかったという事でしょうか」
如月春香「おそらく・・・」
如月春香「ただ、祖母に除霊してもらったので、もう出ないと思いますよ」
如月春香「祖母は腕がいいと評判ですので」
三島早織「神田さんじゃなかった・・・」
如月春香「では、すみません、今回の費用ですが・・・」
〇デザイナーズマンション
〇ダイニング(食事なし)
如月春香(やっぱり調査費用、少ないよなぁ・・・)
如月春香(これじゃ、私にバイト代を3倍渡したら、ほとんど残らないじゃん)
如月春香(うーん、モヤモヤする・・・)
如月春香(連絡してみようかな・・・)
〇シックなカフェ
田代勇太「ちょうど良かった、私からも連絡しようと思っていたところだったんですよ」
如月春香「どうしてですか?」
田代勇太「いや、あなた辞めてないようだから、もう一度忠告しておこうと思って」
如月春香「忠告って何ですか? 所長がいったい何をしたって言うんですか!?」
田代勇太「これ、これから記事にするんで、誰にも口外しないでくださいよ?」
如月春香「な、なんですか?」
田代勇太「お宅の所長ね」
田代勇太「4年前に島根県で発生した、未解決の強盗殺人事件に関与している疑いがあるんですよ」