第6話 イケメン探偵は謎を追う(脚本)
〇昔ながらの一軒家
〇実家の居間
神田芳江「それで、東京の探偵さんが何のご用でしょうか?」
皇伽耶斗「単刀直入に申し上げます」
神田芳江「何でしょう?」
皇伽耶斗「私は、優子さんが亡くなった本当の理由を調査しています」
神田芳江「本当の理由?」
皇伽耶斗「はい」
神田芳江「そんなの、優子は三島早織って女のせいで死んだんですよ」
神田芳江「今さら何を言ってるんですか」
皇伽耶斗「それが、関係者の話を聞くと、そうではない可能性がありまして」
神田芳江「関係者って誰ですか?」
皇伽耶斗「それは・・・」
神田芳江「ああ、康生ね」
神田芳江「まだあの子はそんな事を言ってるんですか」
皇伽耶斗「お兄さんの話を聞くと、どうしても早織さんが原因とは思えないんです」
神田芳江「あの子はあの女の事が好きなんですよ」
神田芳江「だから、認めたくないだけです」
皇伽耶斗「でも、お兄さんは、妹さんはあんな事で死ぬ人ではなかったと・・・」
神田芳江「優子は傷ついたんです!」
神田芳江「親友だと思っていた女に裏切られて!」
神田芳江「もう、いいですか?」
神田芳江「帰ってください」
〇レトロ喫茶
皇伽耶斗「お忙しいところすみません」
川村琴乃「忙しい事なんてありゃせん」
川村琴乃「こっちは普段ゴロゴロして、テレビばっか観てる暇な主婦やさかい」
皇伽耶斗「はあ・・・」
川村琴乃「早織の事で聞きたい事があるって言うてたな?」
皇伽耶斗「はい」
皇伽耶斗「中学時代、神田優子さんの他では琴乃さんが一番仲が良かったとお聞きしたので」
川村琴乃「まあ、そうなるんかな」
川村琴乃「優子に比べたら全然やけどな」
皇伽耶斗「やっぱりふたりは仲が良かったですか?」
川村琴乃「まあなー」
川村琴乃「あのふたりだけは強い絆で結ばれてると思うてたんやけどな」
川村琴乃「優子が自殺するまでは」
皇伽耶斗「その話なんですが・・・」
川村琴乃「やっぱ、話ってそれか」
皇伽耶斗「はい」
皇伽耶斗「優子さんは、本当に早織さんが原因で自殺したんでしょうか?」
川村琴乃「当時、あのふたりを知ってる人間からしたら信じられへんけどな」
川村琴乃「なんせ、遺書があったからな」
皇伽耶斗「えっ! 遺書があったんですか!?」
川村琴乃「これ、当時、父親が警察官やってる友達からこっそり聞いたんやけどな」
皇伽耶斗「ええ」
川村琴乃「優子が亡くなった後、早織宛てに優子から手紙が届いたらしいんや」
皇伽耶斗「本当ですか?」
皇伽耶斗「その手紙にはなんと?」
川村琴乃「便箋に1行、『私は裏切られた』と書かれてあったそうや」
皇伽耶斗「裏切られた・・・」
川村琴乃「早織は見た時、ショックやったろうな・・・」
皇伽耶斗「この話、優子さんのご両親やお兄さんはご存知なんでしょうか?」
川村琴乃「そりゃ、家族なんやから当然知っとるやろ」
皇伽耶斗「ですよね・・・」
〇高層ビルのエントランス
皇伽耶斗「お仕事中すみません」
谷亜里沙「えっ!」
皇伽耶斗「え、どうかなさいました?」
谷亜里沙「あ、いや、何でもないです・・・」
谷亜里沙「ちょうど休憩に入ったところなので大丈夫です」
皇伽耶斗「では、お時間もないので早速ですが」
谷亜里沙「はい」
皇伽耶斗「中学時代に神田優子さんと仲が良かったですよね?」
谷亜里沙「あ、はい、私は早織ほどじゃありませんが同じクラスだったので」
皇伽耶斗「優子さんが亡くなる直前、優子さんが好きだった男子生徒が早織さんに告白した、っていう話を聞いたのですが」
皇伽耶斗「それはご存知ですか?」
谷亜里沙「ええ、知ってると言うか、良く覚えています」
谷亜里沙「普段穏やかな優子が珍しく怒ってましたから」
皇伽耶斗「優子さん、怒っていたんですか?」
谷亜里沙「ええ」
谷亜里沙「その男子は、山本っていう名前だったんですが」
谷亜里沙「良く優子は彼の事を早織に相談してたそうなんです」
谷亜里沙「だから、『私が山本君の事好きなの知ってるのに、何ですぐに断ってくれないのよ!』って、私に対してプンプンしてました」
皇伽耶斗「優子さんは、早織さん本人にもそれを言ったでしょうか?」
谷亜里沙「わかりません」
谷亜里沙「ただ・・・」
皇伽耶斗「何ですか?」
谷亜里沙「あくまで、これは私の感想ですが・・・」
皇伽耶斗「はい、何でも言ってください」
谷亜里沙「私にはあの時、優子が本気度マックスで怒ってるようには見えませんでした」
皇伽耶斗「そうなんですか?」
谷亜里沙「私の目には、です」
皇伽耶斗「わかりました、ありがとうございます」
皇伽耶斗「最後に、その山本さんの下の名前を教えていただけますか?」
谷亜里沙「ええと、何だったっけかな・・・」
皇伽耶斗「覚えてませんか?」
谷亜里沙「確か・・・」
皇伽耶斗「すみません、大丈夫です」
皇伽耶斗「もし思い出しましたら、こちらに連絡を・・・」
谷亜里沙「いや、たぶん・・・今夜夕食をご一緒していただかないと思い出せない感じです」
皇伽耶斗「え?」
谷亜里沙「だから、その・・・」
皇伽耶斗「そうですね! ぜひご一緒してください」
谷亜里沙「本当ですか!?」
皇伽耶斗「私も知らない土地で、ひとりで食事するつもりでしたから」
皇伽耶斗「亜里沙さんみたいな素敵な女性にご一緒いただけたら、とても嬉しいです」
谷亜里沙「やった!」
〇黒背景
如月春香「亜里沙さんみたいじゃなくて悪かったですね!」
〇高層ビルのエントランス
皇伽耶斗「げっ」
谷亜里沙「どうかしました?」
皇伽耶斗「いや、何でもありません」
皇伽耶斗「では、また夜に」
〇ビジネスホテル
〇ホテルの部屋
皇伽耶斗(優子さんは早織さんに対して怒っていた)
皇伽耶斗(そして、優子さんから早織さんに『私は裏切られた』と書かれた遺書が送られた)
皇伽耶斗(やっぱり自殺の原因は、好きな人が別の女性、それも親友に告白したというショックと)
皇伽耶斗(その親友がすぐに返事をしなかったことに対する失望だったのか・・・)
〇モヤモヤ
男「1日も早く島根から離れた方がいい」
皇伽耶斗「でも、そしたら僕たちもう会えないよな?」
男「そうかもな」
男「これから頑張って生きろよ」
皇伽耶斗「本当にそれでいいのか?」
男「このままここに居たら危険だし、仕方ないだろう」
皇伽耶斗「でも、お前は僕にとってたった一人の親友だし・・・」
男「甘ったれたこと言ってんじゃねぇよ」
男「それ以外に道があるのか!?」
〇ホテルの部屋
皇伽耶斗「ハッ!」
皇伽耶斗(なんだ、夢か・・・)
〇デザイナーズマンション
〇ダイニング(食事なし)
如月春香(まだ所長は帰って来ないのかな・・・)
〇黒背景
田代勇太「4年前に島根県で発生した、未解決の強盗殺人事件に関与している疑いがあるんですよ」
〇ダイニング(食事なし)
如月春香「嘘だよ・・・」
如月春香「そんなはずない」
如月春香「確かにムカつく男だけど」
如月春香「人を幸せにしたくてこの事務所やってる所長が」
如月春香「人を殺すはずない!」
皇伽耶斗「ただいまー」
如月春香「あ、所長!」
如月春香「おかえりなさい!」
皇伽耶斗「あ、ああ・・・」
如月春香「あれ、どうかしました?」
皇伽耶斗「いや、如月君の笑顔も可愛いなと思って」
如月春香(でたよ、この女たらし)
如月春香「またまたー、帰って来てそうそう何言ってるんですか」
如月春香「って、ちょっと待てよ・・・」
如月春香「『も』ってどういうことですか?」
皇伽耶斗「え?」
如月春香「『如月君の笑顔も』ってどういうこと!?」
皇伽耶斗「あ、えっと、それは・・・」
如月春香「しょーちょー」
皇伽耶斗「あ、はい」
如月春香「ちゃんと仕事してきたんだろうな?」
皇伽耶斗(あー、もうこの人怖い、助けてー)
〇公園の砂場
〇ダイニング(食事なし)
如月春香「結局、自殺の原因はまだわかっていないんですね・・・」
皇伽耶斗「原因の特定には至らなかったけど、遺書の事とか大きな進展はあったよ」
如月春香「そうですね」
皇伽耶斗「問題は、早織さんがすぐに返事をしなかった事を、優子さんが本当はどう思っていたのかだね」
皇伽耶斗「友人の亜里沙さんによると、怒ってる素振りはあったけど、本気には見えなかったそうだし」
如月春香「それなんですけど」
如月春香「私も考えてみたんですが」
如月春香「返事を保留にしたのは、優子さんや告白してきた山本って男子生徒を早織さんが尊重したからではないでしょうか」
皇伽耶斗「というと?」
如月春香「例えば、その時、早織さんがすぐにその場で山本さんに断ったとします」
皇伽耶斗「うん」
如月春香「山本さんは傷つきますよね」
如月春香「自分は早織さんにとって考える余地もない、即答で断る程度の存在なのかと」
皇伽耶斗「確かに、そうかもな」
如月春香「そして優子さんも、早織さんが即答したらしたで」
如月春香「本当のところ早織は山本君の事どう思ってるんだろう?」
如月春香「もし少しでも山本君の事が気になっていたら」
如月春香「私の事がなければ告白を受けるんじゃないか?」
如月春香「なんて、悩んでしまうかもしれません」
如月春香「だから早織さんは、ふたりがそうならないように、ちゃんと考えてから返事をしたいと思った」
皇伽耶斗「なるほど」
如月春香「さらに私の考えを言わせていただくと」
如月春香「優子さんは周囲には怒っている素振りを見せていたそうですが」
如月春香「それは、自分の動揺を隠すためのパフォーマンスであって」
如月春香「実際のところ、親友である彼女は、早織さんのそういう考えに気づいていたと思います」
皇伽耶斗「うーん、如月君の話もわかるけど」
皇伽耶斗「親友だからって、そこまで気持ちが通じ合うものかな?」
如月春香「なに言ってるんですか」
如月春香「だから親友っていうんじゃないですか」
皇伽耶斗「だから親友か・・・」
如月春香「ただ、いずれにしてもタイミング的に優子さんの自殺に告白が関係してることは間違いないとは思います」
皇伽耶斗「だろうね」
皇伽耶斗「期待薄かもしれないけど、とりあえず山本さんに会いに行くか」
如月春香「所長がイケメンを利用して聞き出した山本浩史さんですね」
皇伽耶斗「おい、言い方に気をつけたまえ」
如月春香「笑顔の素敵な亜里沙さんから聞き出した山本浩史さんは、いまどちらにお住まいですか?」
皇伽耶斗「・・・」
〇古いアパート
〇アパートの玄関前
如月春香「東京に住んでてラッキーでしたね」
皇伽耶斗「ああ」
如月春香「あ、この部屋ですね」
如月春香「山本さーん!」
如月春香「留守ですかね?」
山本浩史「な、何かご用ですか?」
皇伽耶斗「山本浩史さんですね?」
皇伽耶斗「私、こういう者ですが・・・」
山本浩史「ヒッ!」
皇伽耶斗「あっ!」
如月春香「えっ!?」
如月春香「逃げた?」
皇伽耶斗「如月君、とりあえず追うぞ!」
如月春香「は、はいっ!」
〇住宅街の道
如月春香「なんで逃げてるんでしょう?」
皇伽耶斗「わからないが、何かやましいことでもあるんだろう」
如月春香「あ、公園に逃げ込みました」
皇伽耶斗「如月君は、反対方向の入口に回ってくれ!」
如月春香「ラジャ!」
〇広い公園
山本浩史「ハァハァ」
山本浩史「あっ!」
皇伽耶斗「もう逃げられませんよ、山本さん」
山本浩史「俺は何もやってない」
如月春香「じゃあ、どうして逃げるんですか?」
山本浩史「俺は悪くない!」
皇伽耶斗「落ち着いてください」
山本浩史「全部あいつが悪いんだ!」
皇伽耶斗「ダメだ、これじゃ埒が明かない」
皇伽耶斗「署に連行しよう」
如月春香「え?」
如月春香「あ、ああ、そうですね、イケメン先輩」
皇伽耶斗(こいつ・・・)
山本浩史「待て、俺を逮捕するのか!?」
皇伽耶斗「場合によってはな」
山本浩史「待ってくれ、本当だ、本当なんだ、俺は何もしていないんだ」
皇伽耶斗「知ってることを全部話してくれれば悪いようにはしない」
山本浩史「あいつに脅されて、それで仕方なく・・・」
皇伽耶斗「あいつとは誰ですか?」
山本浩史「決まってるだろ、高見沢だよ」
皇伽耶斗「高見沢・・・」
如月春香「最近、どこかでその名前を耳にした覚えが・・・」
山本浩史「この間、おたくらに逮捕された教師の高見沢だよ!」
皇伽耶斗「あっ!」
如月春香「ええっ!」