CLEA and GLADIUS

やっすん

存在意義(脚本)

CLEA and GLADIUS

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〇実験ルーム
  うぅ・・・痛い・・・
  痛い、痛い・・・やめ、て・・・!
  何度も繰り返される痛み──それが記憶の始まりだった。
  この実験室に来る前のことは、何も思い出せない・・・
研究員A「実験体CL-A型3号の能力は、まだ目覚めないのか?」
研究員B「はい・・・電気ショックによる負荷を続けていますが、未だ効果はありません」
研究員B「これ以上続けると、生命維持に支障をきたす恐れが・・・どうしますか?」
研究員A「我々は一人でも多く、“奴ら”に対抗できる “能力者”を覚醒させなくてはならない」
研究員A「負荷を上げろ。ダメならこの実験体は諦める」
研究員A「戦う力がないのなら、コイツに存在意義など無い」
  ・・・!
  痛みで朦朧(もうろう)とする意識の中、
  ある感情が膨れ上がるのを感じた。
  それは──目の前にいる彼らへの、憎しみ。
CL-A型3号「ゆ・・・るさ、ない・・・」
CL-A型3号「あなたたち・・・ぜったいに・・・ 許さない・・・!」
研究員A「おぉ、この数値・・・! 間違いない、覚醒したぞ!」
研究員B「で、ですが、これは── 能力が暴走しています! このままでは・・・!」
クレア「みんな・・・消えろ・・・!!」

〇実験ルーム

〇基地の広場(瓦礫あり)
CL-A型3号「はあ・・・はあ・・・」
???「ほう、これは大したものだな」
CL-A型3号「!」
???「ニンゲンの研究所を破壊するよう、“上”から命令を受けて来てみれば・・・」
???「フッ、手間が省けたというものだ」
CL-A型3号「あなたは・・・」
  “彼”と遭遇したのは初めてだった。
  でも、頭の中には“彼”の・・・“彼ら”の存在についての情報が植え付けられていた。
  “彼”は別の世界からやってきた侵略者──
  “怪人”と呼ばれる存在。
  そして私は──
???「貴様か。我々と戦うため、ニンゲンが造り上げた能力者とは」
???「身寄りのない同族を利用して、記憶を操作し、改造する・・・ニンゲンとは悪趣味だな」
???「それで・・・貴様、どうする? 与えられた命令を遂行して、我らと戦うか?」
???「これほどの力を相手にするとなれば、俺も血が騒ぐというものだ・・・ククク・・・」
  頭のどこかで、彼を攻撃しろという声が響く。
  これも植え付けられた命令なのだろう。
  だけど──
CL-A型3号「私は・・・戦いたくない」
???「何?」
CL-A型3号「あなたと戦うことは、人類の望み・・・」
CL-A型3号「私を好き勝手にした人たちの望みを、なぜ叶えなくちゃいけないの・・・?」
  私を苦しめてきたモノを消し去っても、憎しみはまだ胸の中で渦巻いていた。
CL-A型3号「私は・・・ニンゲンを許さない・・・!」
???「・・・ならば、俺と来るか?」
CL-A型3号「えっ?」
???「俺と共に、ニンゲンと戦うか?」
???「貴様が我らの脅威になるならば、破壊するつもりだったが──」
???「我らの新たな力となるならば、願ってもない」
CL-A型3号「・・・」
???「もう一度聞こう。 俺と来るか?」
CL-A型3号「・・・行きたい。 あなたと一緒に・・・」
CL-A型3号「お願い、連れて行って!」
???「フフフ・・・いいだろう」
???「オマエ、名はあるのか?」
CL-A型3号「CL-A型3号・・・」
  本来の名前もあったかもしれないけれど、思い出せなかった。
???「実験番号か。それでは呼びにくいな・・・」
???「CL-A型・・・CLAか。 確かニンゲンの名前に、似た文字列のものがある」
???「CLEA・・・そう、クレアだ。 オマエをクレアと呼ばせてもらおう」
クレア「クレア・・・クレア。 私の、新しい名前・・・」
クレア「・・・あなたの名前は?」
???「我々の名は本来、ニンゲンたちの発音とは異なる。だが、近い発音のものを選ぶならば──」
グラディウス「グラディウスと呼ぶがいい」
クレア「グラディウス・・・」
  私は、私を苦しめたニンゲンを滅ぼすと決めた──グラディウスと共に。
  ──でも。

〇高級マンションの一室
TVのアナウンサー「──次は、怪人との和解についてのニュースです」
TVのアナウンサー「強硬姿勢を保っていた○○国ですが、協議の結果、ついに和解協定を受諾」
TVのアナウンサー「これで、全世界の半数が怪人勢力との和解を成し遂げ──」
クレア「ちょっと!」
クレア「話が違うじゃない!!」
グラディウス「どうした、クレア。 ここ最近、機嫌ナナメだな」
クレア「当たり前でしょ!」
クレア「これからニンゲンと戦おうって時に・・・」
クレア「戦いが終わっちゃうなんて!」
  ・・・予想外だった。
  領土の拡大を求めて侵略してきた怪人に対して──
  人類は、怪人の世界の資源と引き換えに、
  一部の領土の譲渡を提案、共存を持ちかけた。
  話し合いなど困難のように思われたけど、
  蓋を開けてみれば、両者の利害は完全に一致して──
グラディウス「首脳会議やら何やら、話し合いがトントン拍子に進んで、あっという間に協定が出来上がったなぁ」
クレア「こんなことになるなら、なんのために私を改造したのよ!」
  この協定がもう少し早く出来ていれば、私が改造されて苦痛を味わうこともなかったのに・・・
クレア「ほんと、ニンゲンって勝手ね!」
グラディウス「・・・最近わかってきたが、 お前、なかなか気性が荒いな?」
グラディウス「まあ、そうでなければ研究所丸ごと吹き飛ばしたりしないか」
クレア「余計なお世話よ!」
クレア「あなたこそ、あっさり和解を受け入れるなんて・・・」
クレア「自分一人でもニンゲンたちを根絶やしにしてやるくらいの気概を見せたらどうなの!?」
グラディウス「おいおい、無茶言ってくれるな」
グラディウス「俺は“上”からの命令に忠実なだけだ。敵対していた時は、この世界を武力で制圧することに異論はなかったが・・・」
グラディウス「和解が決定した今、逆らう気は微塵もない」
グラディウス「いま戦うことに何のメリットも無いしな」
クレア「むぐぐ・・・」
  怪人が全員そうかはわからないが、グラディウスは非常に冷静で理性的だ。
  だけど、私はそんなふうに割り切れなくて・・・
クレア「ああもうっ、ムシャクシャする!」
グラディウス「まあ落ち着け。 気分転換に甘い物でもどうだ?」
グラディウス「昼の情報番組で紹介されていたコンビニスイーツとやらを・・・」
クレア「ニンゲン社会に馴染むなー!」
グラディウス「おっと──ハハ、威勢がいいな! オマエのそういうところ、好ましいぞ!」
クレア「くっ、頑丈・・・!」
  怪人め、どこにいるー!?
「・・・?」

〇街中の道路
ヒーロー?「隠れてないでかかってこい、怪人どもー!!」
グラディウス「何を騒いでるんだオマエ。 近所迷惑だぞ」
ヒーロー?「あっ、怪人! やっと現れたな!」
レッド・シャイニング「正義のヒーロー、レッド・シャイニング! ここに見参っ!!」
レッド・シャイニング「決まった・・・!」
  ヒーロー・・・私のように改造されて能力が開花した者の中でも、実戦での活躍が特に期待されていた存在だ。
レッド・シャイニング「さあ怪人! オレと戦え!!」
グラディウス「いや、戦わんが」
レッド・シャイニング「な、なぜだ〜!?」
グラディウス「なぜと言われてもなぁ・・・」
  ヒーローと怪人が戦うことは自然な流れ──でもそれは、和解が成り立つ前の話。
グラディウス「まったく・・・和解に納得いかない奴がここにもいたか」
クレア「ちょっと。私とそいつを一緒にしないでよ」
レッド・シャイニング「むっ! その少女は・・・ さては誘拐して人質に取ったな! なんて卑怯な!!」
グラディウス「・・・すまん、クレア。確かにオマエは、 こんなに言動が短絡的ではないな」
クレア「わかればいいのよ」
レッド・シャイニング「何をごちゃごちゃ言っている! さては少女を洗脳するつもりか!? そうはさせん!」
レッド・シャイニング「とぉーーっ!!」
グラディウス「!」
クレア「グラディウス!」
グラディウス「心配ない・・・しかしコイツ、意外とやるな!」
レッド・シャイニング「意外とはなんだ! 次はもっとキツいのをお見舞いしてやる!!」
グラディウス(クク・・・これは血が騒ぐ!)
グラディウス(いや、待てよ──)
通行人「おい、あれ・・・ 怪人とヒーローが戦ってるぞ!」
通行人「和解協定はどうなってるのよ・・・!?」
グラディウス(まずい・・・こんな現場を長く見れられては、協定に亀裂が入るかもしれない)
グラディウス(そうなれば和解の道も・・・)
グラディウス「おいオマエ、落ち着け! 我々に戦う理由はもう無い」
レッド・シャイニング「うるさい! 俺はヒーローだぞ!? 怪人と戦うのが存在意義なんだ!」
レッド・シャイニング「そのために改造を受けて、トレーニングにも耐えてきた。痛いことや苦しいことも・・・」
クレア「・・・!」
レッド・シャイニング「正義のために、みんなのために戦うことが、 俺の存在意義だったから・・・」
レッド・シャイニング「なのに、もう戦わなくていいなんて・・・ 用済みなんて・・・ 勝手な話じゃないか!」
レッド・シャイニング「今さら、他にどんなふうに生きろっていうんだよ!!」
レッド・シャイニング「オレはオレの生き方を取り戻すんだ! 和解がどうなったって知るもんか!」
グラディウス「なんてことだ・・・ヒーローが己の存在意義のために平和を破ろうとするとは」
グラディウス「・・・やむをえん。 ここで引導を渡すしかないか」
グラディウス「しかし・・・怪人がヒーローを倒したとなると・・・」
クレア「グラディウス、下がって」
グラディウス「クレア・・・?」
レッド・シャイニング「なっ!? 急に眠く──」
レッド・シャイニング「う・・・う〜〜ん・・・」

〇高級マンションの一室
グラディウス「よかったのか? コイツを連れてきて」
クレア「仕方ないでしょ・・・あのまま放っておくわけにいかないもの」
クレア「目を覚まして、私が怪人に誘拐された子だとか言いふらされたら面倒だし」
グラディウス「確かに俺も困る・・・」
グラディウス「しかし、それだけじゃないだろう?」
クレア「・・・私がコイツに同情したって言いたいの?」
クレア「馬鹿馬鹿しい・・・コイツは、ニンゲンに与えられた存在意義に縋ってる。私とは逆よ」
クレア「そんなもの、くだらない・・・」
  “戦えないなら存在意義はない“──
  ニンゲンたちはそう言って、私を苦しめた。
  だから私は・・・存在意義なんて言葉が嫌いだ。
グラディウス「──あぁ、そうだな」
グラディウス「クレア。コイツを止めてくれて助かった」
グラディウス「コイツが暴れ続けても、俺がコイツを倒してしまっても、和解に影響を及ぼしたかもしれない」
グラディウス「オマエがいてくれてよかった。 ありがとう」
クレア「・・・!」
  “いてくれてよかった”──
  その言葉は、“存在意義”と似ているようで、どこか違っていた。
  もっと温かくて──
クレア「っ・・・」
クレア「べ、別に、お礼を言われるようなことじゃ・・・」
クレア「それに、私は和解協定が崩れたって構わないんだから」
クレア「そうなれば、遠慮なくニンゲンを滅ぼせるもの。あなたと一緒に」
グラディウス「ハハ、わかった。協定が崩れた時は、我々もニンゲンと戦わざるを得ない」
グラディウス「だが、そうならないうちは──」
クレア「・・・わかってるわ。私はこのバカとは違う。無理に和解を破ったりしない」
クレア「あなたが望まないことをしたくはないもの・・・」
グラディウス「! クレア・・・」
クレア「・・・つ、疲れたから、今日はもう休むわ。 着替えてくる・・・」
グラディウス「・・・フフ。あいつ・・・」

〇高級マンションの一室
レッド・シャイニング「ん・・・ここは? オレはいったい・・・」
「目が覚めたようだな」
レッド・シャイニング「お、おまえは・・・!」
グラディウス「まあ落ち着け。 事情を説明してやるから・・・」
???「グラディウス? そいつ、起きたの?」
クレア「まだ暴れるようなら、 もう一度眠らせるけど・・・」
レッド・シャイニング「き、きみはさっきの!? なんて可憐なんだ・・・!」
レッド・シャイニング「安心してくれ! このオレが、すぐ怪人の魔の手から救い出してやるからな!」
クレア「気安く話しかけないでくれる? この勘違い野郎」
レッド・シャイニング「かっ、勘違い野郎!?」
レッド・シャイニング「そんなこと・・・ 女の子に言われたのは、初めてだ〜!」
クレア「ふんっ!」
グラディウス(やれやれ・・・こういう輩がこれからもまだ出てくるかもしれないな)
グラディウス(ならば和解を維持するため・・・どうにかするのが、当面の任務といったところか)
グラディウス(──ん? 本来、こういうのがヒーローの役目じゃないのか・・・?)

コメント

  • ツンデレのクレアと理性的なクラディウスのコンビがすごくいい。本来なら一番平和を願うはずのヒーローが自身の存在意義のために平和をぶち壊しにかかるという本末転倒ぶりが皮肉というか何というか。現実社会でも、戦争の周辺でこれと似た状況がたくさんありそうですね。

  • グラディウスさん、今度からクレアちゃんだけでなく、この勘違いヒーローもどき(人に迷惑を掛ける奴には、もどきで十分でしょう)のお世話するのか…
    ガンバ!

  • クレアとグラデイウスは運命の出会いをしましたね。彼らのぶれない存在意識が盲目に存在意義を求める人間たちを制してくれたらと思いました。私達の心の奥底に潜む悪の部分に優しく触れてくれた作品でした。

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