終活魔王のエンディングノート

大河内 りさ

P9・お出掛け(脚本)

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大河内 りさ

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〇ヨーロッパの街並み
「・・・・・・」
ローレット「ああっ・・・距離が近い! もっと離れろぉおお〜!!」
ローレット「やっぱり耐えられない! 私、行ってくる!!」
ゴーレム「こらっ、邪魔しちゃだめよ!」
ローレット「その声はミアね! 映像はちゃんと届いてる?」
ゴーレム「ゴーレムってすごいのねぇ。 ちゃんと見えてるわ」
キオル「なぁ、帰っていい?」
ゴーレム「だめ! ちゃんと二人を監視── じゃなくて、護衛してくれなきゃ」
キオル「仮にも勇者と魔王の娘だぜ? 護衛なんか必要ねーだろ」
ローレット「護衛って言うなら、あのモブがエリゼに何かしようとしたら、ぶっ殺していいってことよね」
キオル「お前なあ!」
ゴーレム「ちょっと、 ケンカしてたら二人を見失うわよ!」
キオル「あいつらどこに行くつもりなんだか・・・」
ルカード「これで『勇者とお出掛けしたい』も クリアだね!」
ヴィエリゼ「ルカードってば」
ヴィエリゼ(こうして願いを叶えてくれるなんて 思ってもみなかった・・・)
ヴィエリゼ(どうしてここまでしてくれるんだろう)
ルカード「あとは『勇者の手料理が食べたい』んだっけ?」
ヴィエリゼ「作れるの?」
ルカード「簡単なものならね。 市場でも覗いてみようか?」
ヴィエリゼ「うんっ」

〇西洋の市場
ヴィエリゼ「あれは何?」
ルカード「人間界にしかない果物だね。 食べてみる?」
ヴィエリゼ「うん!」
青果店店主「これを食べたことがない子なんて いるんだなぁ!」
ヴィエリゼ「そんなに有名な果物なの?」
ルカード「こっちでは一般的だね」
ルカード「すみません、二つください」
青果店店主「おう、剥いてやるからそこで食ってけ」
ヴィエリゼ「ありがとう」
青果店店主「ほらよ!」
  目の前に、綺麗にカットされた果物が差し出された。
ヴィエリゼ「わぁ・・・」
ルカード「はい」
ヴィエリゼ「えっ?」
ルカード「ほら、あーん」
ヴィエリゼ「『勇者にあーんで食べさせてもらいたい』なんてリストに書いてないよ?」
ルカード「いいから」
ヴィエリゼ「あ、あーん・・・」
  おずおずと口を開くと、そこへ甘酸っぱい果物が放り込まれる。
ヴィエリゼ「おいしい!」
ローレット「あああああエリゼェエエ そんな無防備な顔見せちゃダメェエエ」
キオル「・・・・・・」
ローレット「どーしたの?」
キオル「あれ、食べたことねーなと思って」
ローレット「こっちでは身近な果物なんじゃないの?」
キオル「らしいな」
キオル「ちょっと買ってくる」
ローレット「えっ、ちょ・・・ 今出てったらバレ──」
ローレット「エリゼがいない!?」

〇ヨーロッパの街並み
ルカード「調理用の食材も買ったし・・・」
ルカード「他に行きたいところは?」
ヴィエリゼ「冒険者ギルド!」
ルカード「それはちょっと・・・」
ヴィエリゼ「やっぱりダメかぁ」
ルカード「ダメって言うか、きみにとってはあまり 居心地のいい場所ではないだろうから」
ヴィエリゼ「・・・ギルドでは、魔族の捕獲や売買は禁止されているんだよね?」
ルカード「ギルドでは──というより、 国の法律で明確に禁止されてるよ」
ルカード「だから、人間がこれをきちんと守っていれば・・・」
ルカード「そして、魔族が人間界を襲うことがなければ、敵対関係にはならなかったと思う」
ルカード「──きみが魔王だったら、 和平交渉ができそうなのになぁ」
ヴィエリゼ「・・・っ」
ルカード「とはいえ、長年の確執がそんなに簡単に解消されるとは思ってないけど」
ルカード「今は、地道に密猟者や密売人を捕まえて、法の周知や情報収集をするのがいいかなって思ってるんだ」
ヴィエリゼ「ルカード・・・」
ヴィエリゼ「あのっ・・・あのね──」
  その時、ぽつん、と冷たい雫が私の鼻先に落ちてきた。
ヴィエリゼ「わっ、雨・・・?」
ルカード「チャンスだよ、ヴィエリゼ!」
ヴィエリゼ「えっ?」
ルカード「『勇者と相合い傘』!」
  ルカードが、自分を指差しておどけて見せる。
ヴィエリゼ「あははっ。 じゃあ、傘を買わないと」
ルカード「ひとまずこっちに」
ルカード「そこで待ってて。すぐ戻るから!」
ヴィエリゼ「あっ・・・」
  私を建物の軒下に押し込んで、ルカードは雨の中を駆けだしていった。

〇ヨーロッパの街並み
ヴィエリゼ「和平交渉、か」
ヴィエリゼ「ルカードを介してなら、もしかして・・・」
  そのためには、私が現魔王だと彼に伝えなければ。
ヴィエリゼ「・・・・・・」
  このままではいられないことも、隠し通すことなんてできないことも分かってる。
  それでも、真実を告げるのが怖い。
ヴィエリゼ「私、魔王失格だ・・・」
ルカード「お待たせ!」
ヴィエリゼ「わあっ!?」
ヴィエリゼ「いいい今の聞いて・・・!?」
ルカード「シンプルな傘にしちゃったけど、 もっと可愛いやつの方がよかった?」
ヴィエリゼ「う、ううん・・・これでいい」
ルカード「これで相合い傘ミッションもクリア!」
ルカード「他には何があったっけ?」
ヴィエリゼ「あ、えっと・・・」
ヴィエリゼ(よかった、聞かれてなかったみたい)
ヴィエリゼ(このデートが終わったら、 きちんと話をしよう)
  それまでに、魔王としての覚悟を決めよう。
ルカード「ヴィエリゼ?」
ヴィエリゼ「・・・あのね」
ヴィエリゼ「名前、エリゼって呼んで欲しいな」
ルカード「・・・エリゼ?」
ヴィエリゼ「ちょっと恥ずかしいけど嬉しい」
ヴィエリゼ「これで『勇者に愛称で呼ばれたい』もクリアしたよ」
ルカード「そんなのまであったんだ」
ルカード「・・・さて、これからどうしようか?」
ヴィエリゼ「せっかくだから、 相合い傘で少し歩きたいな」
ルカード「お嬢様の仰せのままに」

〇中東の街
ヴィエリゼ「お土産たくさん買っちゃった」
ルカード(いつの間にこんなところに・・・)
ルカード(あまり治安が良さそうには見えないな)
ルカード「エリゼ。雨も強くなってきたし、 大通りに出てどこかお店に入らない?」
ヴィエリゼ「うん、そうしよ──」
ローレット「いたーっ!!」
ヴィエリゼ「えっ?」
ヴィエリゼ「ローレット!?」
ヴィエリゼ「キオルも・・・」
キオル「見つかっちゃったか〜」
ヴィエリゼ「もしかして、デート?」
「違う!!」
ルカード「今頃出てくるなんて、どうしたんだ?」
キオル「やっぱバレてたか」
キオル「そろそろタイムリミットだと思ってね」
キオル「それに、この辺りは例の集会場の近くだ。 離れた方がいい──」
???「──おや、キオルくんではありませんか」
キオル「三人とも隠れろ」
ウォルテラ子爵「奇遇ですね。もしや、お父上の代わりに参加なさるのですか?」
キオル「ご無沙汰しております、ウォルテラ卿」
キオル「参加、とは何のことでしょう?」
ウォルテラ子爵「失礼、ご存知ありませんでしたか」
ウォルテラ子爵「今宵のオークションです」
ウォルテラ子爵「なんでも、希少な魔獣が出品されるとか」
キオル「オークション、ですか・・・」
ウォルテラ子爵「ルズベリー伯にも 招待状は届いているはずですよ」
キオル「あいにくギルドの依頼で忙しく、 屋敷に戻っていないもので」
ウォルテラ子爵「ははっ」
ウォルテラ子爵「冒険者ごっこもほどほどになさらないと、 弟君に爵位を取られてしまいますよ」
キオル「爵位に興味はありません」
ウォルテラ子爵「そんなつれないことを仰らず。 私は、あなたを推薦するつもりですよ」
キオル「・・・ありがとうございます」
ウォルテラ子爵「よろしかったら、こちらを」
ウォルテラ子爵「このカードがあれば、招待状がなくても オークションに参加できますよ」
キオル「・・・・・・」
キオル「ありがたく頂戴します」
ウォルテラ子爵「それでは、また後ほど」
キオル「・・・・・・・・・」
キオル「うるっせーなクソもやし野郎!! ごっこじゃねーんだよ舐めんじゃねえ!!」
ルカード「キオルしーっ! 聞こえるぞ!」
キオル「うるせえ! しーっ、じゃねーよ気色悪い!!」
キオル「コレために我慢したんだからな。 感謝しろよ」
ルカード「闇オークションか・・・」
キオル「しかも貴族のサロンのな」
ヴィエリゼ「・・・闇オークション?」
ルカード「エリゼ・・・」
ローレット「ちょっと! 何であんたがエリゼ呼びしてんのよ!!」
キオル「うるせー。 ・・・お前ら、今日はもう帰れ」
ヴィエリゼ「オークションに参加するのね?」
ルカード「何か分かったら、 必ずきみにも報告するから──」
ヴィエリゼ「私も連れて行って」
「えっ!?」
ヴィエリゼ「希少な魔獣が出品されると言っていたわ。 叶うなら、私はその子を助けたい」
キオル「競り落とすつもりか? まさか強奪するなんて言わないよな?」
ヴィエリゼ「騒ぎにならないよう 助け出せるのが一番だけど・・・」
ヴィエリゼ「とにかく今は、その子の無事を確認したいの」
キオル「・・・どうする、ルカード」
ルカード「分かった」
ルカード「俺と一緒に行こう、エリゼ」
ルカード「キオル、いいか?」
キオル「はいはい、どーぞ」
キオル「俺はそこの水属性女と近くで待機してるよ」
ローレット「あんたいい加減に名前覚えなさいよ」
キオル「そうと決まれば着替えだな」
ルカード「着替え?」
キオル「そんな庶民丸出しの格好で 貴族の催しに入れるかっての」
「庶民丸出し・・・」
キオル「服、買いに行くぞ!」

次のエピソード:P10・闇オークション

コメント

  • 三組(?)カップル成立の予感…💕
    エリゼの願いごとも一つずつ叶ってく…✨
    不吉なのはこれがエンディングノート…死すべきさだめの魔王の思い残しを勇者が潰していってるという解釈も😨
    ハッピーエンドを期待しますが果たして…!

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